第108話 夏祭り2
シンと二人暮らしを始めて2度目の夏、2回目の夏祭り。
昨年着た浴衣を、今年は一華の衣装チェンジの魔力で変えることにした。
目を閉じ、自身のイメージを具現化させると、一華の周りがキラキラと光りだした。強い光を放った後、そこには、鮮やかな大輪のローズダリアが描かれた浴衣を着た一華の姿があった。
落ち着きがあり可愛いと同時に涼し気な配色の浴衣だ。帯は兵児帯で幾重にも重ね、背中で大きなダリアが咲いたようなガーリースタイルだ。後ろ姿も抜かりがない。
「一華、もう服を買う必要が無いな!」
一華は頬を膨らませる。
「それとは別でしょ!ここは可愛いでしょ!」
「うん、可愛い!を通り越しての意見だ。」
「だったら、シンも必要ないね。私がリンクコーデしてあげる……。」
「毎回、リンクコーデは必要ないだろ。魔界の服をチェンジされては威厳がなくなる……。」
「じゃ、私も可愛い服、買うの止めない。」
「わかった……、ここぞという時だけ衣装チェンジの魔力使用を認めよう!」
シンもまた、一華の浴衣と同じダリアの葉のような深い青緑色の浴衣へと姿を変えた。
「あと、シンがヘアメイクして!」
「俺はヘアメイクなんて出来ないぞ。」
「私が画像見せるから、魔力でやって。せっかく衣装チェンジできたのにヘアメイクできないもん。」
「髪型は別に構わないが、メイクする必要ないだろ。そのままの方がいいぞ。」
「バッチリメイクじゃないの。ゆるふわって感じで、こんな感じ。」
一華はヘアメイクの画像をシンに見せる。
「かわいいが……こんな感じか!?」
一瞬にして一華にヘアメイクを施した。
一華は鏡を見て、
「かわいいー。アクセサリーを追加して、これで完璧!」
「これで、着付けもヘアメイクも必要なくなっちゃった。」
「……いい。すっごく可愛い。いや……綺麗だ!」
シンは一華の全身をみて、顔を染めてまじまじと見つめている。
シンの状態に突っ込むことなく、サンが話しかけて来た。
「にゃにゃんにゃ……(一華、今日はおでかけにゃ?)」
「うん、花火見てからだから遅くなるけど、お留守番しててね。シン、行こう!」
「あ、あぁ」
シンは我に返り、一華と一緒に出掛けて行った。
◇◆◇
待ち合わせ場所には、既に生徒会メンバー9人が待っていた。
「お待たせ!」
「きゃー! 一華先輩、今日も可愛い♡」
真凛の反応は推しに対する反応だ。抑えきれない。
「はいはい、落ち着こうね。真凛。」
沙羅が冷静に落ち着かせる。
「今日のシンはなんだか、かわいいな。」
浩輔がシンの姿を見て揶揄う。
「可愛いとは何だ!」
「いや、去年の浴衣は、強そうで隙がない感じだったが、今日は、なんというか……一華に染められたというか……、花嫁のようだな。」
「は、花嫁……俺は男だぞ……。」
「ふふっ、会長、花嫁のウェディングドレスとかの白色って、『あなた色に染まります』という意味があって、今の会長は、一華先輩の色に染まった感じという意味だと思いますよ。」
絶句するシンに、沙羅が冷静に追い打ちをかける。
「おぅ、それ、その意味だ!」
「そ、そんなんじゃないから! 私が好きな浴衣をチョイスしてリンクコーデしただけだよ。染まってないから。」
一華が慌てて否定する。
「さっさと行くぞ。」
シンは顔を染めて、お祭り会場へとみんなを促した。
真凛が一華の傍に寄ってきた。
「一華先輩って、センスいいですよね。どうやって見つけるんですか?」
「一目惚れしてるだけだよ。」
「一目惚れ……ですか? 服に?」
「何でもね。一目惚れしたものは大事にするし。気分も上がるでしょ。」
「はい。」
「それにしても、一華、急にお姉さんぽくなったね。去年の浴衣も可愛かったけど。何かあった?」
理那も一華の傍に寄って来て、顔をじっと見つめて口を開く。
「えっ? 何もないよ。」
「ほんと? 恋してる……わけないよねぇ、でも、なんか、綺麗になった!」
「(……確かに、初めて会った時から可愛いいが、それに輪をかけて、綺麗になった……。)」
シンは理那の言葉を反芻し、一華を見つめて納得した。
「そ、それは理那の方だよ。あ、そうだ。浴衣のデザインも違うし、今日はメイクしてるからだよ。」
「そう? ふーん……。」
一華は誤魔化そうとするが、理那は納得していなかった。
「(……やっぱり、プールの時、バレてたのかな?)」
「ね、それより、かき氷食べるでしょ。」
一華は、これ以上話続けていたら、バレそうと思い、祭りを楽しむことにシフトした。
「シンは今年もブルーハワイ?」
「あぁ、今年も舌は真っ青だ。」
「じゃぁ、私はアップデートしてミルクマンゴーにする。」
男子組はブルーハワイ、女子組はマンゴー、イチゴ、レモンとそれぞれ好きなものを選んだ。
一華はミルクマンゴーを、シンはブルーハワイを手にする。
「うーん、美味しい! ミルクマンゴーで正解。練乳で更に美味しくなってる。」
「ん」
一華は練乳がたっぷりかかったかき氷を掬って、シンの口元に持って行く。シンも躊躇せず口にした。
「美味いな。練乳というのは優しい味がする!」
「一華せんぱ~い。どういう事ですかぁ。」
「なにが?」
「『あーん』ですよ。私にも『あーん』してください。」
「はいはい、『あーん』」
ミルクマンゴーのかき氷を掬って、真凛の口元に持って行った。
「じょ、冗談ですよ。ごめんなさい。できません。会長と間接キスになっちゃいます。」
一華はそのまま、自分の口元に持って行き食べる。
「真凛、この二人にいちいち反応していたら身が持たないぞ。『あーん』なんて日常茶飯事だ。」
呆れ顔の浩輔。
「兄妹でもするんですねー。私も、小さい頃から、海斗と違うもの食べた時はしますよ。さすがに、他の人とはできませんけど。」
「真凛……、お前達とシン達とは違う……。」
「と、とりあえず、また、射的でもするか?」
シンは二人のやり取りを止め、射的を誘うことにした。
「お、そうだな。今年こそ、一発で決めてやる。」
浩輔を先頭にかき氷を食べながら、射的の屋台へ移動していく。
射的の屋台に到着した。浩輔は早速狙いを定める。昨年、シンに教えてもらった通りに、小さいぬいぐるみを狙っていく。が、一発では落ちなかった。
「浩輔、どうした、銃身がぶれてるぞ。」
「……っ、筋肉痛なんだよ……。」
浩輔はプールでのお姫様抱っこが続けられなかったことで、シンに鍛錬を課せられていたが、自己流で行っていたようで、筋肉痛になっていた。
「毎日、同じ部位を鍛えてるんじゃないのか? 痛みがある時は休ませ、他の部位を鍛えろ。急激な負荷を避け、少しずつ強度を上げれば、慣れて痛みは出にくい。」
「……、もっと早く知りたかった……。」
「一華、どれが欲しい。」
「ピンクのイルカのぬいぐるみ」
シンは、一華が欲しがったピンクのイルカに狙いを定めた後、「パン」と乾いた音と共にぬいぐるみを打ち落とした。
「やったー!」
おじさんから受け取ったシンは一華にぬいぐるみを渡した。
今度こそと浩輔は、ぶれないように両手で構えて、出来る限り身を乗り出して打った。「パン」と乾いた音と共に棚からペンギンのぬいぐるみが落ちた。
「やったー!」
理那が喜ぶ。おじさんから受け取った浩輔はぬいぐるみを理那に渡す。
直哉は浩輔のミスを見て、銃身がぶれないよう両手で構えて、身を乗り出して打った。
「パン」と乾いた音と共に棚から青いイルカのぬいぐるみが落ちた。
おじさんから受け取った直哉は真由にぬいぐるみを渡す。
「お前らもやってみるか?」
シンは1年メンバーに声を掛けた。
宗一郎、海斗、湊は、シンを見習い、銃を片手で構え、身を乗り出して小さめの物を狙って打つ。
「パン」「パン」「パン」乾いた音と共に棚から小さいぬいぐるみが3個落ちた。
「「やったー!」」
真凛と沙羅が歓声を上げる。おじさんがぬいぐるみを3人に手渡した。
海斗は真凛にピンクのイルカのぬいぐるみを渡す。
「やったー! 一華先輩とお揃いー! 海斗ナーイス!」
「「あげる!」」
宗一郎と湊は、打ち落としたカメと犬のぬいぐるみを沙羅に差し出した。
沙羅は二人からぬいぐるみを受け取る。
「あ、ありがとう。」
プールで何かあったのか、急接近した3人の小さな恋の始まり……を見てしまった4組のカップル。
冷やかすことなく見守ることにした。
「たこ焼き買って、早めに行くか!?」
浩輔が早めに高台へ行くことを提案してきた。
「一華達は、チョコバナナはいいのか?」
シンが昨年食べたチョコバナナが食べたいのではないかと聞いてきた。
「私はゆっくり、たこ焼きが食べたい。あと、ラムネも買いたい。」
一華が言うと、理那たちも賛成してきた。
たこ焼きの屋台まで来るとシンが注文した。
「青のり抜き2個ください。」
昨年のことを覚えていて青のり抜きを注文する。浩輔達も続く。
(青のり抜き??? 先輩達って迷わず買ってるけど……俺も……)
1年メンバーは疑問を思うも口にせず、一緒の青のり抜きを注文した。
ラムネも購入すると、浩輔を先頭に早めに高台へ移動していく。
まだ、花火の開始まで時間があることもあり、高台には誰一人いなかった。浩輔と理那、直哉と真由、海斗と真凛は前のベンチに座って行く。一華とシンは、後ろに誰もいない場所のベンチに座る。
宗一郎と湊は、沙羅を真ん中にして3人で座った。
シンはラムネのフィルムを外して聞いてきた。
「これはどうやって開けるんだ?」
「ビー玉で塞がってるから、付属のこれを手のひらで押してビー玉を中に落とすの。その時、炭酸が飛び出すから、そのまま押さえ続けてね。ミニタオルを当てると痛くないよ。」
シンは動物園で買ったカワウソのミニタオルを取り出し、付属の玉押しに当てて下に向けて強く押し込んだ。
「そうそう。私のもお願い。」
「承知した。」
シンは同じように一華のラムネのビー玉を押し込んだ。
「面白い開け方だな。」
「ね。飲み終わるとビー玉を取り出したくなるんだよね。」
シンはたこ焼きを「ハフハフ」しながら食べ終わると聞いてきた。
「このキャップを回せば取り出せるのか!?」
「回らないキャップもあるけど、このラムネはそうだね。」
一華もたこ焼きを「ハフハフ」しながら食べ終わると答える。
「ビー玉を取り出して何するんだ?」
「指で弾いて当てたり、普通にビー玉だけで売ってるから、綺麗な色のを集めたり、大きなビー玉もあるんだよ。でも、なんで欲しかったのかは覚えてないなぁ。」
「そうなのか? これはどうする? 必要か?」
「サンちゃんが誤飲すると危ないから、いらないかな? シンは持って帰りたい?」
「最後というわけではないし、サンが誤飲してはいけない。いらないな。」
「パン、パン、パン」と花火を告げる音が響く。いよいよ花火大会の幕開けだ。夜空には月が昇り、星が瞬いていた。もう、月を気にせず、思いっきり夜空を見上げることが出来る一華。
「なんか、久しぶりに夜空を見た気がする。」
「そうか、そうだな。あれから、見上げられなかったな。」
シンは一華に対して昨年ほどの強力な結界ではなく、二人を囲むように結界を張った。その時。
「ヒューー、ドカーン……パラパラパラ」「シューー、バーン……チリチリチリ」
大輪の花火が夜空に鮮やかに華開いた。
1年振りの花火が放った爆音がシンの体中に響く。心地よい音、一瞬で消えゆく儚さと、鮮やかな輝き、何回見ても感動を覚える。
夜空に咲いた大輪の花火は一華の顔を照らし出し、瞳は輝きを増し幻想的だ。思わず任務を忘れそうになる……。
昨年と同じ場所、同じ音だが、今年は一段と綺麗になった一華に胸が高鳴るシン。
シンの心臓の鼓動が激しく脈打ち始めた。シンは一華に気付かれないよう平静を装いながら花火を見続ける。
一華も同じだった。シンの顔を見上げると、光が反射して幻想的で一層魅力的に見え、心臓の鼓動が激しく脈打ち始めた。シンに気付かれないよう平静を装いながら花火を見上げる。
「ヒューー、ドカーン、シューー、バーン、ヒューー、ドカーン……パラパラパラ、チリチリチリ」
立て続けに大輪の花火や、数多の花火が「ドン、ドン、ドン」打ちあがって終了した。
シンも一華も顔は花火を見上げていたが、意識は鳴り響く鼓動に向いていた。
花火が打ち終わった後、夜空に静寂が戻っても、二人とも立ち上がれなかった。
浩輔達が近づいてきて「帰ろう」と声を掛けたところでようやく、花火が終わったことを知った一華とシン。
シンは立ち上がり、「一華、帰ろう」と一華に手を差し出した。一華はシンの手を取り、立ち上がり、帰路についた。
「カラン」「コロン」と二人の下駄の音だけが二人の耳には響いていた。




