第107話 ウォーターパーク2【後編】
ウォータースライダーを滑り落ちて来た男子組六人。
女子組のいる席に戻ってきたと思ったら、シンが言い放った。
「体育祭のプログラムで変更したい箇所が出来た。本当なら生徒会室で話すべきだが、少しここで話し合う。今からランチミーティングだ。昼ご飯を買いに行く。」
「ラジャー!」
1年メンバーも初めて揃って全員が発した。
カレーや焼きそばを買って、席に戻ると、ランチミーティングが始まった。
「食べながら、聞いてくれ。」
シンの一声で、全員が温かいままの食事にありつけた。
「ペア競技の件だが、宗一郎から提案があった。まずはミッション競技の内、一部を口頭によるミッション競技とし、お姫様抱っこをミッションとする案だ。」
「次に、パン食い競争をペア競技とし、お姫様抱っこした女子がパンにかぶりつく。5分制限として1レース追加する案だ。女子を落としたら失格とする。」
「それから、クラス枠、学年枠の件だが、クラスの5プラス学年1の計6組を学年選抜とする。クラスには固執しない。」
「ルール説明資料の変更が発生することと、始業式の終了前に、俺から全校生徒に向けて説明する。以上だ。意見はないか?」
「ミッション競技とパン食い競争の両方採用ですか?」
「どちらも可能だが、お姫様抱っこだらけになるのはどうかと思うが……。」
「ミッション競技のミッションのお題は残りますか?」
「1レース1組ぐらいは残してもいいとは思っている。」
「いつまでに、ルール説明資料の変更をするのでしょうか?」
「全校生徒に説明する際に、今言った事は説明する。その後、変更に取り掛かり、出来次第配布する。」
「これで、悩みの種は解消したか?」
「どうやって学年選抜を決めるの?」
「各学年に仕切り役を設ける。」
「1年は宗一郎が出来るか?」
「わかりました。」
「2年は浩輔」
「ラジャー!」
「3年をどうするかだな。」
「前生徒会長にお願いしてみれば?」
一華が提案する。
「前生徒会長って何組だ? ……っ、名前何だっけ?」
「えー、名前知らないのー?」
「……覚えてない。」
「仕方ねぇなー。俺がお願いしてやるよ。貸し1な。」
浩輔がここぞとばかりに名乗りを挙げた。シンとしては借りを作ろうが助かった。3年の教室には出来る限り行きたくないからだ。
「悪いな。頼むぞ。それでは決を採る。」
「口頭によるミッション競技とする案に賛成は小さく挙手。」
……しーん。
シンは全員を見渡し確認する。誰も手を挙げない。
「では、ミッション競技は変更なし、パン食い競争はペア競技に変更に賛成は小さく挙手。」
「はい」
全員が小さく挙手をした。
「決まりだな。」
ランチミーティングも終わり、午後からもうひと泳ぎする前に、みんなでトイレに行くことにした。
女子組、男子組にわかれて入って行く。大勢の人が利用するため邪魔にならないよう、済ませたら近い所で待ち合わせすることにした。なぜか、女子だけが外で待っている。……と、声を掛けられた。
「彼女たち、暇でしょ? 俺達と一緒に泳がない!?」
ナンパ目的でやってきた大学生だろうか……。
「暇じゃないです。人を待ってるんです。」
一華が毅然と言い切った。
「うそ言っちゃダメだよ。いいじゃーん、俺達と行こうよー。」と一華の腕をつかんできた。
「離して!」
一華が抵抗した瞬間。
「俺の女に手を出すな!」
シンが一華の傍に駆け寄ってきた。男が声を掛けた事を感知した瞬間、トイレの順番待ちの列から、駆け寄ってきていた。
一華を右手で抱き寄せ、左手で一華の腕を掴んでいた男の腕を掴んだ。男子学生は一華から手を離し、「いててて、離せ……」と顔を歪ませた。
シンの眼光は鋭く光り、魔界の戦士そのものだ。骨のきしむ音が聞こえそうなほどの物凄い握力。このままでは息の根を止めかねない。
「シン、やめて! 骨が砕けちゃう!」
一華が必死にシンを止める。シンは我に返り、手を離した。一華が止めなければ、男の腕は粉砕していただろう。
「人の女に手を出すとは、寂しい男だな。」
シンが一華を抱き締めながら言い放った。足を止め遠巻きに見ていた人たちが「クスクス」と冷笑を浴びせる。
男子学生たちは周囲の視線に耐え切れず、その場を逃げるように去って行った。
「一華、大丈夫か?」
「うん、でも、ちょっと腕痛い。」
一華の腕には、指の跡が赤く残っていた。
「くそっ」
シンの顔が悔しさと怒りで歪んでいる。
「すまない。俺が目を離したばかりに……、一人じゃないからと油断してた。」
一華はシンの顔に手をやり慰める。最早、兄妹とは見えない。
「シンのせいじゃないから。すぐ治るよ、きっと。帰ったらサンちゃんに治してもらうから大丈夫!」
浩輔達もトイレから出て来た。
「何があったんだ?」
「一華が、ナンパ野郎に腕掴まれて、離そうとしたんだけど力が強くて……、シン君が助けに入ってくれた。」
理那も浩輔に説明するのが精いっぱいで泣き出しそうだ。
全員がトイレを済ませて、有料席に戻ってきた。
「……一華、痛そう。」
理那が顔を歪ませながら、一華の赤くなった腕を見て言う。
「こんなの、すぐ治るよ。大丈夫。ごめんね。私が油断してたから。」
「一華のせいじゃない。あのくそナンパ野郎許せない。」
理那の口から出るとは思えない言葉が発せられるほど怒りの感情が頂点に達している。
「理那、もう大丈夫だから。もう忘れて泳ごう。ね。」
「……うん」
シンが怒りの感情を鎮めるためか、言い放った。
「浩輔、直哉、流れるプールでお姫様抱っこして1周してみろ。出場するなら失格は許さないからな。お前らが出来ないなら、俺と一華で全種目出るぞ。」
「そ、そんなことさせるか! 理那、行くぞ。」
煽られた浩輔は理那の手を取り、流れるプールに向かっていく。直哉も真由の手を取って、浩輔達の後を追った。
「お前たちはどうするんだ?」
シンは1年メンバーに向けて言った。
海斗も真凛の手を取り、流れるプールに向かった。
残された湊と宗一郎は沙羅を誘っていいのかわからず、顔を見合わせていた。
沙羅の中に疑念が再燃していたが、一華とシンに気を遣って、「行こう」と二人の手を取り流れるプールに向かって行った。
二人きりになった一華とシン。
「さっき、俺の女って言った?」
「言った。」
「妹だよ。」
「あの場では『俺の女』の方が最適解だ! 妹と言えば付け込まれる。」
「ただ、妹って言うの忘れてたんじゃないの?」
「……。」
「ふふっ、やっぱ忘れてたんだ。」
「あの状況で設定は忘れるだろ。」
「だね。でも、みんなに聞かれたよ。疑われたんじゃない? 特に沙羅ちゃんに!」
「疑われたら、さっきの『俺の女』設定説明するさ。」
「また、漫画にするんだろうね。」
「それは許すか。」
「うん。シン、私たちもプール行こう。」
「あぁ、お姫様抱っこで何周もしてやるさ。ここにいる全員に、暇してないと見せつけてやる。それに、浩輔達に見本を見せないとな。」
一華は浮き輪を持たず、シンの手を取り流れるプールに向かって行った。
シンの冷徹なほどの失格宣告は、浩輔と直哉に夏休み中の鍛錬を課せさせることになった。
◇◆◇
帰宅した一華とシン。一華はサンの前に腕を出して見せた。
「サンちゃーん、ここ治して。」
「にゃにゃんにゃ……(どうしたにゃ。赤くにゃってるにゃ。)」
「ナンパ野郎に腕掴まれたら痣になっちゃって……。」
「にゃにゃにゃん……(だれにゃ。俺がメッタメタにしてやるにゃ。)」
「大丈夫、シンがやってくれたから。」
サンは肉球をかざして「にゃん」と一言鳴くと、みるみる赤みも痛みも痕かたなく消え去った。




