第106話 ウォーターパーク2【前編】
眩しい太陽が照りつける夏休み。生徒会メンバー全員でやってきたウォーターパーク。家族連れやカップルで溢れかえっている。男子組、女子組に別れて更衣室に入って行った。
着替え終わった一華達はビーチサンダルに履き替えようとしていた時。
「きゃー!」
女子更衣室では大きな声が響き渡った。悲鳴ではなく歓声だったのだが、更衣室内の女子の目が自分達に向かってきた。
「真凛ちゃん、落ち着いて。もう少し声抑えて……他の人に迷惑だよ。」
一華は苦笑し、真凛を落ち着かせようと宥める。
「だって、だって、一華先輩かわいい。すごーく似合ってますー! それに、理那先輩も大人っぽいし、真由先輩だってお洒落ですよー! 目の保養ですよー!」
「はいはい。もっと落ち着こうね。」
理那も落ち着かせようと声を掛ける。
沙羅は真凛が歓声を上げたことで、逆に冷静だった。心の中では漫画のイメージを膨らませていた。
「真凛、準備しないと置いてかれるよ。」
「あぁ、そうだ。ちょっと待って。」
一方、シン達男子組では、既に更衣を済ませて外で待っていた。その時、真凛の声が外まで漏れ聞こえてきた。
「なんか、あったのか?」
「真凛ちゃん?」
「さすが、海斗だな。声でわかるのか!」
「はい。もちろんです!」
「でも、悲鳴じゃなかったですよね。」
「あぁ、歓声のような声だったな。アイドルでもいたのか?」
シンは一華にテレパシーを飛ばしていた。
「***(一華、何があった?)***」
「***(シン、真凛ちゃんが私たちの水着を見て、声をあげたの。もしかして外まで聞こえた?)***」
「***(あぁ、歓声のような声だったから心配はしなかったが……。)***」
「***(もうすぐ、出られるから、待ってて!)***」
更衣室から出て来た女子組は男子組と合流した。シン、浩輔、直哉は一華、理那、真由の水着姿を見て、フリーズしている。
一緒に買いに行ったが、試着した姿は見せてもらえてなかった。初めて見る水着姿に言葉を失い見つめていた。
「どう?」
一華はシンが何も言ってくれないからと、自分から聞いてみた。
「……かわいい。本当に似合ってる!」
顔を赤らめ、絞り出すようなシンの声に、一華は頬を赤く染める。
「ですよね。一華先輩、かわいいですー!」
真凛はここでも抑えられなかった。
「浩輔、どう?」
「……いい、すっごくいい。俺が選んだのより、すっごく似合ってる。」
「ふふ、良かった。一華が選んでくれたのにして正解だったね。」
「直哉は、どう?」
「うん、いい。落ち着いた色合いでかわいい。似合ってる。」
「ありがと。一華が直哉の好みで選んでくれたの。」
「えー! お二人のも一華先輩が選んだんですか?」
「う、うん、まぁ。試着候補を挙げただけだけど。」
「私も選んで欲しかったですー。」
「ははは、機会があったらね。」
「はい。絶対ですよ。」
「もう、行くぞ。ここにいたら邪魔だ。」
シンが促す。浮き輪をレンタルして、予約席に向かった。
「そういえば、よく見ると、三組ともリンクコーデですね。」
後ろから付いて行っていた沙羅が冷静に口にした。
「えっ? えっ? 一華先輩と会長は水色で……、理那先輩と浩輔先輩はボタニカルで、真由先輩と直哉先輩はオレンジ色……ほんとだ。リンクしてる。」
真凛が1組ずつ見ながら、リンク内容を口にしていた。
「これも一華が薦めてくれたの。」
「そうそう。」
「いいなぁ……。」
真凛は海斗の方に顔を向けたが、海斗はどう答えていいのかわからず口籠った。
「一華、まずは、流れるプール入るか?」
「うん。ウォータースライダーは?」
「後で行くさ。」
一華は浮き輪を持って、シンと一緒に流れるプールに入って行く。他のメンバーも浮き輪を持ってついて入った。
今年もぷかぷかと流されていく一華。去年、シンと一緒に来た時にはたった二人だったのが、11人で来ることになるとは考えもしない。
「***(一華は、人を良く見てるな。)***」
「***(ん? そう?)***」
「***(あぁ、水着選ぶのだって、浩輔と理那も満足してたし、直哉の好みを取り入れて真由にも冒険させても嫌がらないし。その人を知らなければ薦められないだろ。)***」
「***(たまたまだよ。きっと、二人だからだよ。私にそんな力なんてないよ。)***」
「***(いや、あるな。しかも、調整役ができる。もう、浩輔もビキニを薦めることはないだろ。)***」
「***(それに関してはホッとした。でも、あれから1年経ったんだよ。まさか、こんな大勢でまたここに来ることになるなんて思ってもみなかった。)***」
「***(そうだな。)***」
「ねぇ、思いついちゃった。ペアのミッションで大きな浮き輪に二人で入ってゴールするの。」
「大きな浮き輪って言っても横にはなれないぞ。向き合うか背を向けるかのどちらかだ。」
「だからいいんじゃない。仲が良ければ向き合うし、これから始まる仲なら背を向けるかもしれないし。二人が接近できるなんてお姫様抱っこ並みじゃない?」
「お、俺もしたい……。」
シンは顔を赤らめながらも参加したい事を伝える。
「私たちは参加しないんでしょ。シングルの場合は、浮き輪を何回かくぐった後でゴールさせれば使えるし。」
「そんな大きな浮き輪ってあるのか?」
「トラックのタイヤ並みなの見たことあるけど……ネットで探せばあるんじゃない?」
「一華って、急に思いつくな?」
「アイデアってそういうもんでしょ。」
「ん? そうか?」
「うん。リラックスしている時に頭に浮かぶの。でも、リラックスしてる時って、お風呂の時とかトイレの時だから、メモできない。出た時は忘れちゃうことが多いんだけどね。今はシンに伝えられたから良かった。」
「ペアとシングルのミッションに追加だな。」
「去年は、ペアの競技なんか無かったのに、どうしてみんなペアに参加したいんだろ?」
「それは、お前たちのせいだろ。」
後ろからついてきていた浩輔が話に割り込んできた。
「俺たちのせい?」
「あぁ、付き合っていてもお姫様抱っこなんてする機会ないぞ。借りもの競争だって、仮装だって、する必要はなかったはずだ。」
「うん、まぁ……。」
「だから、ペアではお姫様抱っこさせなければならない。」
「それは、お姫様抱っこのミッションを増やせって事?」
「まぁ、そうなるな。」
「でも、全員にさせたらミッション競技とは言えないよ!?」
「俺達にそのミッションを引かせてくれるだけでいい。」
「お前、ズルするのか?」
「ズルでもいい。させてくれ。」
「でも、どうやって……。」
「目印付けるとか……、何番目に置くとか……。俺達だけがわかるように。」
「俺達が準備するのは、レースごとに指定する所までだ。置き場所なんて準備係に指示は出来ないぞ。目印付ければ逆に他の参加者にバレたらどうする。先に取られるぞ。」
「……。」
「とりあえず、この件は保留だ。いいな。」
「……あぁ。」
流れるプールもいつの間にか2周していたようだ。みんなは一度席に戻ることにした。
「すごいね。話し込んでるうちに2周してたなんて。」
「生徒会の事が頭から離れないとは……侵されたな。」
「ははは、脳内をスッキリさせるために、ウォータースライダー行って来たら。」
「あぁ、そうだな。浩輔行くぞ。」
「あぁ。」
「ほら、男子全員、行って来な。」
理那が男子全員を追いやった。男子がいなくなり女子だけになった。
「別行動しちゃっていいんですか?」
真凛がカップルなのに別行動することが不思議でなかった。
「いいの、いいの。女子だけじゃないと話せない事あるでしょ。」
「恋バナとか?」
沙羅が普通だと言わんばかりに口にする。
「まぁ、そうね。」
「さっきの続きなんですけど、私もお姫様抱っこされたいです。」
「海斗君と?」
「はい。」
「真凛ちゃんって、海斗君の事、やっぱ好きなんだ。」
「っう、はい。」
「ようやく素直になったね。クラス別だけど二人ともミッション競技参加するの?」
「そのつもりなんですけど、どうすれば別クラスでもペア競技に参加できますか?」
「実行委員会の時は、クラス枠1組、学年枠1組って言ってたもんね。」
「学年で集まって決めるんじゃないの?」と沙羅。
「でも、いっぱいいたら、参加できないかも……。」
「私も別クラスだから、どうしようかと考えてた……。」
真由も同じく悩んでいた。
「シンがどういうつもりで言ったかはわからないけど、クラス枠、学年枠としたのは1学年6組にすれば1レース追加できると計算しただけのような……、あの時、考慮する余地は残していたように感じたから、心配はいらないと思うけど……。」
「私が言ってもって思うかもしれないけど、今から悩んでも解決策は無いよね。参加できてもお姫様抱っこが引けるとは限らないし。」
理那が慰めるように言う。
「そうですよね……。」
肩を落とす真凛。楽しいプールの日だったのに、頭の中は体育祭のことでいっぱいだ。
一華は話題を変えることにした。
「ところで、理那、もしかして浩輔君と毎日会ってる?」
「えっ、うん。毎日、勉強と称して会ってるよ。」
「今から、受験勉強してるの?」
「私は急に志望決めたから、付いていけなくなると迷惑かけると思って、浩輔に教えてもらってる。」
「愛だねぇ。」
「ふふっ、真由もそうだよね。」
「うん、同じ大学だと、かなり難しくて。シン君ほどじゃないけど直哉って文系もできるから、教えてもらってる。」
「すごいなぁ。体育祭と文化祭さえ終われば、生徒会も忙しくないから、勉強に向かう時間も取れるようになると思うけど。もう既に始めてるんだ。」
「理那先輩と真由先輩はどこの大学志望してるんですか?」
「私は医療系で、真由は国立の文系」
「理那は看護師か薬剤師、どちら目指すか決めたの?」
「まだ。とりあえず、2年の成績の結果を見てからかな。」
「そうなんだ。もしかしてプールに来れるのも今年最後かな?」
「3年になれば、成績によっては遊ぶ暇ないかも。だから、少しでも今勉強頑張っておこうと思って。」
「3年になると遊べなくなるんですか?」
「うーん、前の生徒会長が、3年になれば受験に全振りするって言ってたから、たぶんそうだと思うけど、その割にはバスケと体育祭にはムキになってるよね。」
「3年生って会長を目の敵にしてますよね。何がそんなにさせるんですか?」
「1年の時は、普通にバスケと体育祭に参加してただけだけど、圧勝したから? 生徒会長に推薦されたからかなぁ?」
「えっ? 立候補したわけじゃないんですか?」
「そう、前生徒会長がわざわざ1年の教室まで来て口説いたのよ。最初は断ってたんだけど……立候補を受けたら、他の人が辞退して無選挙当選したってわけ。」
理那が説明する。
「シンにしては目の敵にされる理由がわからないのよね。でも煽られるとそれ以上に煽るという負のスパイラルが発生しちゃうんだから……まぁ、勝つ自信があるからなんだけど。」
「生徒会長って、外から遠巻きに見てる時のイメージと違って、一緒に行動を共にすると、天然というか、かわいい所ありますよね。」
「一華と一緒にいるからじゃない?」
「どうだろう……。まぁ、最初の頃と比べて、この国になじんできたというか、高校生らしくなってきたというか、表情も柔らかくなってきたとは思う。」
「最初は一華を守ることが最優先で眼力鋭くて、人を寄せ付けないオーラがあったし。」
「それでも、声を掛けて来たのは浩輔君と直哉君で、変わったのはここからかな!?」
一華は人差し指を下に向けて示した。
「ここですか?」
「うん、去年の夏休みにシンと二人で来てたところに、ばったり理那、真由、浩輔君、直哉君の4人に会ったんだよね。それから友達になって、今では浩輔君と言い合うのが楽しいって言うくらいだから。」
一方、男子組の六人は、ウォータースライダーの順番待ちをしていた。
「なぁ、やっぱり何とかしてくれ。」
浩輔がシンに懇願してきた。
「まだ、諦めてないのか? さっき保留にしただろ。」
宗一郎が提案してきた。
「会長、ミッションを引くのではなく、一部のレースだけ、スタート地点で会長がミッションを指示するとかどうです? そうすれば、みんなの希望が叶います。」
「3レースしかないぞ。」
「6組ではなく、9組にするとか。」
「スピードがバラバラなら問題ないが、同じようなスピードだった場合、ぶつかって転倒するリスクがある。」
「パン食い競争をお姫様抱っこでやるとか、どうです?」
「今から、ルール説明資料の変更が発生するぞ。」
「それぐらいは簡単です。」
「女子がパンにかぶりつくのか?」
「その方が高さがありますし、でも、結構な時間を男子は耐えることになりますが。」
「女子を落とした時点で失格にするか。」
「それでも、ペア数は増えませんが、一か八かのミッションよりかは確実です。」
「となると、そっちに流れるな。また、レースを増やせと言ってこないか!?」
「時間制限を設けます。5分制限にして1レース増やしましょう。」
「クラス枠1組、学年枠1組で募るか。」
「その事なんですけど、カップルのクラスが別れている場合はどうなりますか?」
「別にクラスから出せと言ってるわけじゃなく、クラスの5プラス学年1の計6組の計算だったんだが……。」
「そうでしたか……、その事がクラスの悩みとなっていました。」
「学年ごとに募集して、その中から出場ペアを決めることはできるか?」
「また、実行委員会は開催されますか?」
「前回同様の委員会は開催の予定はない。担当係の決定後に開催予定だが。」
「一度、会長から説明できる場があればいいんですが……。」
「始業式の最後に挟むか。その時しかないな。」
「それで決まりか?」
浩輔が二人のやりとりを黙って聞いていたが口を挟んだ。
「宗一郎の案で対応可能だな。浩輔はどうだ。パン食いか口頭ミッションか!?」
「確実なパン食いに出れればいい。」
「理那がパンにかぶりつくんだぞ。いいのか!?」
「一度聞いてみるが、OKもらう。」
「そうか、頑張れ。」
長い間、話し合っていたようで、自分たちの順番がやってきた。シンは滑り落ちて行った。「うぉ~」と声をあげたと思ったら、あっという間にプールに出て来た。
浩輔や直哉も順番に滑り落ちて来た。全員が滑ってきたところで、一度席に戻ることにした。




