第102話 アンケート
修学旅行から帰って来て『修学旅行ロス』に陥っていた一華とシン。連休明けの月曜日、ようやくいつもの高校生活が戻ってきた。
放課後、生徒会室に集合した生徒会メンバー11人。今日から本格的に体育祭に向けて進めて行くことになる。
「これ、みんなから修学旅行のお土産、どうぞ。」
一華が代表して、1年生メンバーの前に、テーマパークで購入したお土産の箱を差し出した。
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
1年生メンバー達はパッと表情を輝かせ、お菓子を手にした。食べながら、宗一郎が聞いてきた。
「修学旅行どうでした? 体育祭の話し合いって出来たんですか?」
「ぜーんぜん、そんな時間なんて取れなかったのよ。」
理那が答える。
「最初は六人で集まったんだけど、他の生徒がなだれ込んできて、トランプ大会になっちゃって……。2日目は卓球対決、3日目はエアホッケー対決になっちゃって……。」
「結局、体育祭の『た』の字も話さなかったよね。」
「その結果はどうなったんですか?」
「三日間とも、すべて、シン君の圧勝!」
「会長が負ける事は無いんですか?」
「無かったわね。」
「……あるぞ。」
浩輔がここぞとばかりに口を開いた。
シンは浩輔を睨むが、怯むことなく続ける。
「妹、一華だ!」
(あーぁ、いっちゃった……)
「一華先輩は、種目じゃないですよ!?」
「一華とエアホッケーした時は、完敗だった。1点も取れなかったんだから。」
「それは、手加減してあげたんじゃ無いですか???」
「手加減するどころか、手加減することも出来ず、力が入らない感じだったんだから。」
「そうなんですかー。一華先輩が弱点ですか。」
宗一郎は弱点を知って、頭を働かせる。
「お、お前ら、そこまでにしろ。俺の事はもういいだろ。」
「いや、会長、弱点を把握していなければ、体育祭のアンケートが作成できません。」
「アンケート?」
「えぇ、弱点を突けば、会長の負けは見えてきます。みすみす、負ける種目を用意しますか?」
「一華とさえ、対決しなければ大丈夫と思うが……???」
「そこですよ。一華先輩との対決ができるような種目を用意すれば、会長は負けます。」
「えーっ、そんな対決に私、参加しないよ。シンが負けるところ見たくないし。」
「アンケートですよ。多数決で決まれば、やりますよね。なので、事前に選択肢を与えてはいかがでしょう?」
「選択肢か? 具体的には考えてるのか?」
「いえ、今からです。一華先輩が弱点という事がわりましたので、それを踏まえて考えます。」
「承知した。」
真凛が手を挙げた。
「あの、……カップルで途中、プリンスとプリンセスの服を着て、お姫様抱っこしてゴールするって言うのはどうでしょう?」
「真凛は恥ずかしくないのか?」
「恥ずかしいけど普段、こんなことってすることないですし……憧れます。」
一華とシンは、顔を見合わせて、お姫様抱っこして来たすべてを思い出していた。
「シンと一華は、お姫様抱っこ何回もしてたぞ。」
またまた、浩輔が暴露する。
「あ、あれは、一華が負傷した時と仮装で階段が上がれなかったからで……。」
「その前に借りもの競争でお姫様抱っこされたよ。」
「い、一華まで……、あれは、一緒に走るよりお姫様抱っこして走った方が速いと思ったからで……お陰で1位だっただろ。」
「***(浩輔君に暴露される前に言った方がいいと思って。)***」
「仮装って、何に仮装したんですか?」
「プリンスとプリンセス!これこれ!」
理那がハロウィンで仮装した時の画像を1年メンバーに見せる。
「一華先輩、かわいいー。」
真凛の目がハートマークになってしまった。
「せんぱーい、実際にした所、見せてください。描きたいです。」
沙羅はあくまで、漫画の参考として二人に強請る。
「しない!」
シンの顔は真っ赤っかになって、耳まで赤く染まっている。
「浩輔、お前が理那をお姫様抱っこしろ!」
バラされたことに怒ったシンは、矛先を原因である浩輔に向けた。
「なっ、俺は……その……ここではなぁ?」
口籠る浩輔は理那の方を向いて、同意を求めたが、理那は真っ赤になって俯いていた。
「浩輔、シンを揶揄うのはもうやめろ。結局、自分に返ってくるじゃないか!」
直哉が仲裁に入り、進行していく。
「シンとの対決なら、100m走、学年対抗リレーか。」
「スウェーデンリレー」
「ぐるぐるバット競争」
「パン食い競争」
「借りもの競争」
「あー、そういえば、借りもの競争では、シンはものを『者』と解釈して一華とゴールしたな。」
直哉に注意されたばかりだが、浩輔は、懲りずにまた暴露する。
「『物』なのか『人』なのか決めておいた方が良いぞ。」
「それのお陰で俺たちが優勝したんだろ。今頃、暴露してどうする。」
「何が書かれていたんですか?」
「好きなもの」
「妹だからって認められたぞ。」
「でも、まぁ、ちょっと強引だったかも……。」
一華も当時を思い出しながら口にした。
「三輪車競争とかどうです?」
「背が高いと不利だな。女子ならいいんじゃないか?」
「あと、後ろ向きに走るとか……。」
「なら、太鼓の合図で方向転換する徒競走とか、どうです?」
「ゴール間近で太鼓が鳴れば、ビリになるから、結構面白いですよ。」
「足が遅くても1位になれる可能性が高くなるという事か。」
「男女混合二人三脚」
「追加予算は、プリンスとプリンセスの衣装代と、パン、三輪車か。」
「こんなもんか? 一華と対決するような種目はないな!?」
「団体種目がないか。」
「去年は、騎馬戦、かけっこ玉入れ。」
「三輪車を学年対抗リレー風にすれば団体戦と言えるな。3台で済むし。」
「男女混合二人三脚も、学年対抗リレー風にすれば団体戦にできるよ。」
体育祭種目アンケート
(個人競技)
①お姫様抱っこ競争
②100m走(予選・決勝)
③ぐるぐるバット競争
④パン食い競争
⑤借りもの競争
⑥後ろ向き競争
⑦太鼓の合図で方向転換徒競走
(団体競技)
①学年対抗リレー
②学年対抗スウェーデンリレー
③騎馬戦
④かけっこ玉入れ
⑤男女混合二人三脚学年対抗リレー
⑥三輪車学年対抗リレー
シンは真由がまとめた種目を見ながら
「こんなもんか?」
「アンケートの選択肢としては十分じゃない?」
「これに追加させる感じか?」
「参加するかは別として、参加したい又は見たい競技に〇印を付けさせる。他に希望があれば自由欄に具体的な競技内容を記入させれば全て出てくるだろ。」
「その結果を集計して最終的にプログラムを決定だな。」
「生徒会は競技に参加できるんですか?」
「順番に参加する。各クラスから採点や放送、競技準備などの係を担ってもらうから、生徒会としては当日は安全管理や各プログラムの補佐ぐらいで、事前準備が主だ。
「お前たちも好きなものに参加しろよ。当日は俺たちとは敵だからな。」
「沙羅には、体育祭のポスターをお願いするが、いいか?」
「はい。任せてください。」
◇◆◇
数日後、体育祭の種目アンケート結果が返却されてきた。
生徒会メンバー全員で、手分けをして選択肢の数を集計していく。集計した数は理那がパソコンに入力して総計を出す。
アンケート結果には自由欄以外にも、追記がされていた。
「これ、どうしますか?」
宗一郎から1枚のアンケートがシンに手渡される。
順次、集計が済んだアンケートのうち、追記されているものが、シンの目の前に小高く積まれていく。1枚1枚手にするシン。
ほとんどのアンケートには自由欄ではなく、選択肢の横に追記されていた。
騎馬戦〈生徒会長が参加する事〉
100m走の決勝〈生徒会長と対決したい〉
ぐるぐるバット競争〈生徒会長参加して〉
パン食い競争〈生徒会長のパンを咥える姿を見たい〉
後ろ向き競争〈生徒会長も参加〉
太鼓の合図で方向転換徒競走〈生徒会長、絶対参加〉
学年対抗リレー〈アンカーは絶対生徒会長〉
学年対抗スウェーデンリレー〈アンカーを生徒会長にして〉
かけっこ玉入れ〈3年が入れるカゴを生徒会長に背負わせて〉
「何なんだ? ほぼ参加じゃないか!?」
「対決出来る種目はわかるが、この、かけっこ玉入れのカゴ役はただ、女子が追いかけたいだけじゃないか?」
「だよな。」
「でも、シンがカゴ役で逃げ切れば、1、2年のどちらかが勝てるからいいんじゃない? ただし、お触り禁止にすればだけど。」
「お触り禁止って……、もしかして、それが目的という事か???」
「たぶん……。」
「堂々と追いかけて、触れるし、もしかしたら抱きつくかもな……。」
浩輔が決定打を放つ。
シンは頭を抱えてしまった。
「でも、シンなら逃げ切れるでしょ。お触りしたら、失格、うーん、1回につきマイナス100点でも言えば、男子から釘刺されるから、バスケの時みたいに守るんじゃない?」
一華が回避策を提案する。
「あと、自由欄にも①の変則バージョンが書かれています。」
真凛がアンケートを見せて来た。
「プリンス役は、覆面をかぶって段ボールに隠されているプリンセスを助けてお姫様抱っこしてゴールする。その時のプリンセス役の学年に点が入る。生徒会長絶対参加。」
「点数が最後までどの学年に入るのかわからないのは面白いが、カップルであっても、他の人とゴールするのか……。おまけに絶対参加って……。」
「上手くいけば、シンにお姫様抱っこしてもらえると考えたんだろうな。ワンチャン狙い、良く考えたな。」
直哉が意図を口にした。感心している。
これにもまた、シンは頭を抱えている。
「俺は一華以外、お姫様抱っこしないぞ。」
「でも、こっちの方が面白そうじゃないか?」
「お前、理那が他の男にお姫様抱っこされても、いいのか? 逆か、お前は理那以外をお姫様抱っこできるのか?」
「俺はどっちも嫌だから、参加しないし、参加させない。」
「なら、なんで肯定する。」
「別に、シンは全ての競技に参加しないだろ。だったら、他の生徒だと面白くないか!?」
「先輩、こっちの自由欄には『生徒会長、全種目参加せよ』って書いてます。」
「明らかに、3年男子だな。」
「全種目参加したら、一華を護衛できないじゃないか!」
「護衛って、必要なんですか?」
「ん? あぁ、一華は去年の体育祭の時に、わざと体当たりを受けて負傷した。」
「えーっ、そんなことがあったなんて許せない。私たちで守ります!」
「お前たちは、体育祭では敵だろ。何かあって、疑われるのはお前たちだぞ。」
「真凛ちゃん、ありがと。私も気を付けるから。」
「一華は、個人は借りもの競争で、団体は男女混合二人三脚学年対抗リレーで俺と出る。後は本部のテントで見るだけにしろ。」
「……わかった。」
一華は、また怪我をして、シンの魔力を暴走させてはいけないと、シンの顔を見つめながら仕方なく従うことにした。
「借り物競争でアレンジするのはどうですか?『ミッション競争』にするんです。」
海斗がアレンジを提案してきた。
「ミッション競争?」
「はい。シングル、女子ペア、男子ペア、男女混合ペアにわけて、メモに書かれたミッションをしながらゴールを目指します。その中に、男女混合ペアか、男子ペアの中にお姫様抱っこ入れても面白いと思いますし。」
宗一郎が予算も考慮して続きを引き取った。
「プリンスとプリンセスの服は各1着で済みますし、普通に借り物競争でもいいと思います。」
「自分達でミッション考えるの、面白そうです。それが良いです。」
キラキラした笑顔で真凛が賛成する。自分が提案したお姫様抱っこが残ったうえ、他にもミッションが考えられることにワクワクしていた。
「なら、一華は俺と男女混合ペアで参加だ!」
「でもみんな参加したいんじゃない? ねぇ?」
一華は理那と真由の方を向いて確認した。
頷く理那と真由。
「シンは全速力でトラック何周走れる?」
「ん? 何周でも走れると思うが?」
「お前、体力までも怪物並みだな。」
浩輔が突っ込む。すかさず、直哉も続く。
「〇ルトラマンでさえ3分しかもたないぞ。」
「〇ルトラマン?」
「恐竜より大きな怪獣と闘うヒーローなんだけど、3分間しか戦えないの。」
一華が、シンの顔を見つめながら説明する。
「俺、もう一つ、生徒会長の弱点わかりました。」
湊が口を開いた。
「何だ?」
浩輔が前のめりになった。
「俺たちが小さい頃から見て来たアニメとか戦隊ものとかのレトロな情報が抜けています。それをクイズ形式にすれば、一華先輩がいなければ答えられません。」
(やばっ)
一華はシンの弱点になるとは思っていなかった。
「***(シン、ごめん。これからはテレパシーで説明することにするね。)***」
「***(別に、これぐらい大丈夫だ! 設定的に問題はない! むしろ、知っている方がおかしい。後で脳内データベースをアップデートしておくから心配するな!)***」
一華はシンの返答に安堵した。
「確かに。競技の中にクイズを採用すれば、シンに勝てるな!」
「浩輔ダメだよ! シン君を負かせたら、2年が負けるんだからね!」
体育祭まで対決されてはと理那が諭す。
「あっ、そうか!?」
ことごとくシンに負けて来た浩輔は、学年対抗ということが頭からすっぽりと抜けていた。
「クイズ形式を採用するなら、生徒会長である俺が問題と解答は、事前に確認するから意味ないぞ。」
「だったら、生徒会長が読み上げて、3年生と対決してはどうですか?」
宗一郎が提案する。
「俺が問題を読み上げるだけだと、対決にはならないだろ。」
「問題を作った生徒会長、回答する3年生という図式です。」
「なるほど。3年からすれば逆の図式にしたいだろうけど100m走の途中にクイズを入れれば、面白いかもな。3年が間違って帰って行く姿が浮かんでくるぜ。」
浩輔は意地悪そうな表情をしている。
「途中ではなく、ゴール地点にいる会長がスタートする前に問題を読み上げ、100m走ってゴールした順番で解答権を得られるようにすれば良くないですか? 走ることで問題も忘れて答えを忘れることもありますよ。」
「……宗一郎、お前も相当なワルよのう。」
シンは、真面目な顔をして台詞を口にした。みんなぽかんとした表情でシンの顔を見ている。
「あははは、それ、時代劇の台詞……。」
一華は腹を抱えて笑い出す。みんなも噴き出してしまった。
「……っ、会長が、そんな台詞言うと思ってませんでしたよ……。あははは」
「私が時代劇のDVDいっぱい見せたから……修学旅行だって映画村にも言ったし……、シン、もしかして、いつか言おうと狙ってた?」
「宗一郎の顔見てたら、つい……口に出てしまった。」
「っふ、笑えるんだけど……。」
笑いが止まらなくなり、一時、中断してしまっていたが、シンが真顔になり続けていく。
「例年の100m走は省くのか?」
シンは一華の方を向いて確認する。
「そのことなんだけど、予選無くして、シンとの対決方式にするの。」
「俺との対決は決勝だろ?」
「決勝だと人数少ないから。5人とシンで100m走った後、シンだけスタート位置に戻って来て、次の5人と100m走を5回とか繰り返したら? 1位通過10点×周回数の配点にする。2位以下はビリと一緒で0点。」
「通常の100m走とは区別して、リベンジ走とでもするか?」
浩輔が乗ってきた。
「やればやるほど、2年の点が増えるという事か!?」
「うん。人数が多くなれば点差が開くから人選もするだろうし。」
「女子の100m走もなくなるの?」
理那が聞いてきた。
「女子は例年通りでいいんじゃない?」
「ねぇ、種目が多くなりすぎて、省かないと時間が足りなくなりそうだよ。」
真由がアンケートを反映させた競技種目リストを見せて来た。
「リレーが多すぎるな。団体①の学年対抗リレーは止めて、今年はスウェーデンリレーで対決するか。⑥の三輪車学年対抗リレーはミッション競争に振り替えよう。」
「個人⑥の後ろ向き競争もミッション競争に振り替えてもいいかも。」
「明日以降、これでタイムスケジュール作成に取り掛かる。今日はここまで。」
体育祭のプログラムとなる競技が出揃った。
明日以降、具体的な競技内容を詰めて行くこととして、生徒会メンバーは帰路についた。




