第101話 修学旅行【最終日】
修学旅行最終日。朝食会場に集まった一華とシン。既にテーブルに着いている浩輔と理那、直哉と真由。いつも通り、浩輔と理那の前に座る一華とシン。
浩輔が昨夜の事を蒸し返した。
「シン、昨日はどうしたんだ? 降参するほど、一華は強くなかったぞ。」
「あぁ、傍目からはそう見えただろうな。」
「シンはね。私には力が出せないんだって。」
一華が代わりに答える。
「あぁ? どういうことだ?」
「お兄ちゃんは妹には弱いって事!」
「ふっ、そう言う事か。シンの弱点は一華か!」
「だからね。シンを負かすことが出来るのは私だけなの。」
「良い事聞いた。」
「お前、一華を利用するなんて考えるなよ。」
「わかってるよ。悪い事には利用しない。」
「一華。浩輔ともう話すな。」
シンは不機嫌そうに言い放った。冷徹じゃないシン。一華は怒っていないと感じ取った。
「だって、浩輔君。」
「生徒会で一緒なのに話すなはないだろ。」
浩輔がシンに反論する。
「やり過ごせる。話す必要はない。」
「また、二人とも、じゃれ合って。浩輔もシン君をいじらないの。」
理那が呆れ顔で仲裁に入って何とか話は終わらせることが出来た。
朝食を済ませた一行は、最後のホテルを後にした。
最終目的地である高校に向けて高速道路を走っているバスは途中、最終研修先の神社へと到着した。
祀られているのは学問の神様らしく、受験勉強を頑張るのは自分でも、神頼みするなんて魔界では考えられないことだ。
神頼みで合格できるなら、勉強なんて必要ないだろとシンは思っている。
初詣に行った神社とは違い、境内がとても広く、ガイドに案内されて参拝していく。
「***(シン、ここは、この国最強のパワースポットなんだよ!)***」
「***(パワースポット?)***」
「***(うん、特別なエネルギーが溢れていて、訪れるだけで癒され、活力、運気向上、開運などのご利益が期待できる場所のこと。)***」
「***(訪れるだけでいいのか?)***」
「***(もちろん、ルールを守った上でだけどね。)***」
「***(ルールとは、今案内されているようなことか?)***」
「***(うん、後は中央を通らないとか、騒がないとか、まぁ、ざっくり言えば、人の迷惑にならないようなことかな。)***」
「***(願い事も、神様に日頃のお礼を伝えてから、個人的な心願成就を願うの。みんなは、まだ早いけど受験合格でも願うのかな。)***」
「***(俺たちの願い事は……)***」
「***(私の願い事は『卒業』かな!?)***」
「***(俺の未来は決まっている。願って何とかなるようなものは無いな!)***」
「***(未来は決まっていても成就するかわかんないよ!)***」
「***(……成就しない未来があるのか?)***」
「***(魔界の事は良く知らないけど、……人間はいつまでも健康で居られるとは限らない。)***」
「***(……病気か!?)***」
「***(……他にも事故や災害などに合うかも!? だから、健康を願ったりする。)***」
「***(俺の願いは……健康にするか!?)***」
感謝の気持ちを伝えた後、一華は「卒業」を、シンは「一華と二人の健康」を祈願した。
参拝を済ませた一行は、昼食で『醤油だれに漬け込んだ赤身の刺身が酢飯の上にのっているお寿司』を堪能した後、バス乗り場まで各々が自由に戻って行く。
その道すがら、一華が目聡く見つける。
「日本初の餅アイスだって。これ食べたい!」
「さっき、お昼食べたばかりだろう。」
「スイーツは別腹だってー。」
「「そうそう」」
理那たちも賛同してくれる。
「もう帰ったら食べられないよ。大丈夫、大丈夫。何食べようかなぁ」
「この真ん中のにする。シンはどれにする?」
一華は一番高いものをチョイスした。
「抹茶とほうじ茶だな。」
シンも結局、食べることにした。一華は、2つ注文する。支払いはシンが済ませた。
理那と真由だけでなく、浩輔、直哉も注文していく。
全員が餅アイスを受け取るとバスに一直線だ。ゆっくりとバスの中で味わうため急いでバスに戻って行った。
高校に向けてバスは発車した。各々がおしゃべりに花が咲き、バスの中は騒がしい。
一華は座席の背もたれで見えないと思い、自分の餅アイスを掬うと、シンの口元に持って行く。
シンは当然のようにかぶりつく。
シンと一華は小声で「それも美味いな。」「でしょ。」お互いのアイスを食べさせ合う。
一華はいつも通りのやりとりができることに(やっぱり、こういうのが良いな)と感じていた。
◇◆◇
バスは高速道路を下りて、高校が近づいてきた。バスの中では長時間の乗車に疲れて寝ている生徒もいたが、いよいよ、高校が見えると、みるみる元気になって行く。
既に車で迎えに来ている親たちの姿が見える。バスが到着して下りると、生徒たちは親に迎えられ帰って行く。
一華はそんな状況を横目で見ながら、シンと二人、サンを迎えに行くためペットショップへと向かった。
ペットショップが空いている時間に帰ってこられて良かった。
ペットショップに入ると、店員さんがケージからサンを出してきた。
「サンちゃん、ただいまー。」
「にゃんにゃ……(まったにゃ)」
一華に抱かれたサンは寂しさのあまり、久しぶりの一華に全力で抱きついている。
「寂しかったかな?」
「にゃん……(寂しかったにゃ)」
「帰ろっか。店員さんにバイバイして。」
一華はサンの前足を手に取って、バイバイすると、キャリーバックにサンを入れる。
その間にシンがチェックアウトの清算をする。
シンが二人分の旅行かばんを両肩に下げているため、キャリーバックは一華が背負った。
ペットショップを出ると、マンションまでもう一息だ。
一華だけでなく、シンも疲れていた。
マンションに帰り着いた一華とシン、そしてサンは久しぶりの自宅にホッとする。
一華はサンをキャリーバックから出して、ご飯と水の用意をする。
自分たちの洗濯物を出して片づけないといけないが、時間的にお腹が空いた。
だが、何も買ってきていない。仕方なく、非常食のカップラーメンを食べることにした。修学旅行で食べた料理との落差が一気に現実に引き戻された気分で、なんともわびしく感じた。
「一華、修学旅行は夢のようだったな。」
「そうだね。自宅に戻ったら一気に夢から覚めた感じがする。夢だったのかな?」
一華とシンは、修学旅行ロスに陥っていた。
なんとか、気を奮い立たせ、旅行かばんの中身を出して片づけることにした。
順番に入浴をゆっくりと済ませると、ようやくホッとできた感じがした。
シンは早速、ノンアルコール〇ールを飲んでいる。
「久しぶりだね。旅行中、飲めなかったから美味しい?」
「やっぱ、風呂上りにはこれだな!」
「お土産のこれ、食べる?」
映画村で買って来たショコラ味のお菓子を差し出した。
「食べていいのか?」
「うん、二人で食べるために買って来たから。」
「サンちゃんにはこれ、お土産だよ。」
一華はサメのぬいぐるみをサンに向けて差し出した。
「にゃんにゃ……(にゃんにゃ、これ)」
「サメのぬいぐるみだよ。魚だから狩猟本能掻き立てられるでしょ。」
サンはぬいぐるみに向けて、前足でちょんちょんと猫パンチしている。
動かないと判断したサンは、思いっきり、サメに向かって飛び掛かった。プロレス技でも掛けているのか、初めて見る荒技だ。
「やっぱり、狩猟本能が目覚めたか。」
シンはノンアルコール〇ール片手に、サメ相手に格闘するサンを満足げに眺めていた。
今日はサンの狩猟本能が覚醒したことで、遅くまで付き合わされた一華とシン。流石に疲れがたまっていて眠い。二人は久々に魔界製のベッドに潜り込み、疲労回復することを願いながら眠りに着いた。




