第48話 食事の準備
「なんていうか、安心感がすごい」
僕の心からの本音だ。
両手剣の聖戦士シモン。
どうやったら振り回せるの?ってくらいの質量を感じる巨大な両手剣は、風を斬る音は短くそれでいて重く感じる。
地面に突き刺さると、非常に硬質で鈍い音を立てる。
粗野に見えないのは、シモンの動きにある。
くるくるとダンスを踊るように両手剣を振り回し、次々と魔物の命を奪っていく。
それでいて両手剣には血の脂もついておらずいつもピカピカなのだ。
戦姫巫女ナーシャ。
兄のシモンと同じく巨大なハルバードを持っているものの、杖っぽい使い方で、かなり強固な結界が作れる。
シモンとナーシャがパーティメンバーに加わったことで奇襲役から回復役に回ったミレイユ。
元々の回復役のテオドラ。
3人がナーシャの作った結界内で援護を行ってくれるという状況になった。
「へー。テオドラちゃんって特級魔法使いなんだ!どんな魔法が使えるの?」
白馬のスーには、テオドラが座りその肩にはミレイユ、後ろにナーシャが座ってゆられている。
テオドラの背は低い。後ろに座っているナーシャの顎の下に頭が収まるくらいだ。
国境の街エマを出て、僕たちはひたすら西へと向かっていた。
僕はスーの手綱を持っており、隣にはシモンが歩いている。
目に見える景色は牧歌的だった。
暖かい日差し。
抜けていく風は街道沿いに咲いている花や草、木々を揺らしていく。
ナーシャの明るい性格は、ミレイユに近いものがある。
テオドラはどちらかと言えば、引っ込み思案で表情をあまり出さない。
「うーん。治癒?あとは、状態異常耐性とか、解除とかかなぁ」
「へー。攻撃よりも回復系?」
「かな?でも魔法よりもお料理とお掃除の方が得意だよ」
「そうよ!テオドラの料理を食べたら食堂の定食なんて食べられなくなるんだから」
チラリと横目で見るとミレイユがふんぞり返って偉そうに語っている。
君は僕と同じで食べる専門だろ?それは違うよね?
「えー。いいなぁ。ナーシャ、まだ食べてないし。ねぇねぇ。お外でもお料理ってできる?」
「んー。豪華にはできないけど。できる・・・かな?」
「やった!お兄ちゃん!シュンちゃん!今日、テオドラちゃんのご飯食べよ!」
すっげぇ嬉しそうで、拒否できない感じがプンプンする。
チラリとシモンを見ると目が合った。
「、、、いいのか?」
「僕はどっちでも。テオドラさえよければ」
「うん。じゃあ作ろうかな。シュンくん大きくならなきゃだもんね」
にこやかなテオドラの顔。
「やった!お兄ちゃん!シュンちゃんありがとう!ね!テオドラちゃん!今日、何にする?ナーシャはお肉食べたい!お肉!」
「え?肉?アタシも肉!柔らかくて甘いやつ!」
「え?ミレイユって肉食べるの?妖精なのに?」
「何よ!アタシが肉食べちゃダメって言ってんの?よし買ったわそのケンカ。くらいなさい!【紫電の槍】」
「ちょっと待って!そんないきなり切れるような・・・・」
パンと乾いた弾ける音がしたが、いつものようにビリッとくる感じはなかった。
「あれ?おかしいな?【紫電の槍】」
同じくパンと乾いた音だけが響いた。
「ごめん、ミレイユ。私が魔法無効化の防御結界開いてるんだ」
「そ?じゃ、外して?アタシは、シュンに一発入れなきゃ気が済まないの!」
「だからってダメだよ。無効化は解けないよ」
「いい?よく聞いて、テオドラ。シュンとアタシは妖精のプライドをかけた戦いになったの」
「そうよ!ミレイユちゃんのいう通りよ!乙女心をわかってないもん!テオドラちゃんはシュンちゃんを丸裸にするの!」
なんだコレは。面倒くせぇぞ。
とりあえず謝ってこの面倒くさい状況を回避しなきゃ。
「すんません!ミレイユさん!妖精王閣下!自分が悪かったッス!純粋な質問で聞いただけッス!すんませんッス!」
「・・・。シュン。今、アタシの怒りは有頂天になったわ」
「だからそれ、使い方違うって。ちょっと待って、痛い!ちょっと!痛い!髪を引っ張らないで!痛い!」
ミレイユは僕の髪をグイグイと引っ張る。
マジで痛くて涙が出てきた。
「ミレイユ、シュンくん泣いちゃうから。ね?許してあげて?」
「んー。じゃあ、アタシのお肉少し多めにしなさいよ。それなら許すわ。アタシは心が広いし」
「いいよ、ミレイユはお肉多めね」
「じゃあ、シュン。アタシはアンタの無礼を許すわ」
「…。ありがとう」
腑に落ちないというのはこういうことだと思う。
頭皮がジンジン痛むのでさすりながら、隣を見ると、耽美な彫刻のような笑顔をたたえるシモン。
「、、、、女三人寄ればなんとやら、、、だな」
なぜか、僕の頭をポンポンしてきた。
なんだ、この兄貴属性の高いイケメンは…。
そして夕方。
野宿ということになった。
準備もそこそこに、よだれが溢れてきそうないい匂いが広がってきた。
野兎の肉にたっぷりとすりこんだ香辛料だ。
滴る油で焚き火の炎も爆ぜる。
火にくべた鍋の水は沸騰していて、投げ込まれているパスタのようなものがくるくるとかき混ぜられている。
小柄なテオドラは忙しなく動いているけど、無駄がないように見える。
「何か手伝おうか?」
矢野峻の頃はキャンプはおろか料理だって世界が違った。
それでも何もせずに某妖精のように待っているのはよくないと感じた。
「ううん。大丈夫だよ。シュンくんは座って待ってて?」
エプロンを付けたテオドラはミルクベースのスープの味見をしつつ、ハーブやら塩っぽい粉を足している。
「うーん。何か手伝いたいんだけどね?」
「そう?じゃあ、スプーンの準備だけお願いできる?」
「いいよ!やるやる!それくらいできるよ!」
僕はテオドラから袋を受け取ると、中から木でできたスプーンを5本を取り出した。
取り出して、地面に置くのはちょっとないよな・・・
宵の口の太陽が沈んでいく紫色の空。
爆ぜる焚き火の炎に照らされたテオドラは、銀髪がなんだか赤くオレンジ色っぽく輝いていた。
ナーシャに話しかけられ屈託なく笑う姿は素敵だった。
「あのさ。テオドラって、なんか、いいお嫁さんになれそうだね」
「「「え?」」」
テオドラ、ミレイユ、ナーシャの三人が僕を見る。
「え?なに?ごく普通のありふれた料理上手な人に対する感想じゃない?何か僕は間違えた?」
テオドラ、ミレイユ、ナーシャは一様に僕を小バカにしたような目つきになり「これだから」と悪態をつかれることになった。
なんだよ、一体。




