表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/49

第49話 テオドラの手


夜中。なんだか喉が渇いて目が覚めた。

見上げる空はまだ満天の星空が続いていた。

少しだけ水を飲んで、なんとなく焚き火に薪をくべた。

パチパチと燃える音が強くなる。


あれ?なんだ?違和感がある。

ぼんやりした頭が少しずつ動き始める。


「シモンがいない?」

そう。

交代で見張りをしようといっていたシモンがいない。

トイレだろうか?

焚き火を中心に車座で寝ているメンバーを起こさないよう、ゆっくり立ち上がる。

結界は広さを犠牲にして、認識阻害や気配断絶などが濃密になっており外敵からの襲撃に備えていた。

結界と言っても出入り自由なので、結界の外に出ると遠くでくぐもったような女の人の声が聞こえてきた。


なんだ?

声のする方へ向かっていくと、あぁ。ヤってるんですね。


てか、誰が?


全裸のシモンと、シモンに馬乗りになった全裸の女性がいた。


うわー。と思うもつかの間、女性の真っ白な背中から黒い羽根が生え、体中に紋様が浮かびだした。

女性の恍惚とした表情で焦点の合わない目が僕を見た。


「坊やも混ざりたいの?」

女性の言葉と共に、甘いムスクのような香りが鼻孔をくすぐる。

なんだこの匂い…

痴態を繰り広げるシモンと女性を見ていると頭がぼんやりしてきた。

このまま僕もこの流れに乗るしかない!


「、、、ダメだ。戻れ、、、」

シモンのイケメンな声が聞こえ、ハッと意識が覚醒する。


「シュン。ここはダメだ。結界に戻れ」

格好いいことを言ってはいるんだけど、おっぱいをわしづかみしている。


「シュン。俺は大丈夫だから先に戻ってろ」

「あ、うん、じゃあ戻っておくね?」

クラクラする頭をかかえ、焚き火のあるテオドラの結界まで戻った。

なんなんだ、一体。


「シュン。すまない。今戻った」

明け方と言っても太陽が昇り始める前に、シモンが戻ってきた。


「あの・・・。すみません、昨日は・・・」


「いや、いいんだ。アレは仕方ない事故だと思ってる」


「それはまぁ。。大丈夫なんですか?あの人?っていうか、亜人族?」


「ああ、そうだな。亜人族というよりも魔族か。節操がないだけで悪い奴らじゃないんだよ」

シモンは、僕の隣にドカッと座る。


「魔族ですか?」


「ああ、魔族だな」


「そうですか、魔族ですか・・・」

太陽が昇り、朝日が降り注ぎはじめ、シモンが髪をかき上げるとキラキラとした長めの金髪が輝いていた。

格好いいというか、芸術品を見ているような気持ちになる。

これがおなじ人類なのだろうか?


とび色の髪をつまんでみる。

髪を伸ばそうかな?


「どうした?」


「いや、僕も格好良くなれば人族だけじゃなくてもモテるのかなぁって思って」


「何を言ってんだ、シモン。君にはテオドラがいるだろう?」


「テオドラ?」


「なんだ、鈍感なんだな君は」


「いやいや、テオドラからは子供扱いされてますし。違うでしょ」


「そうか?まぁ、それでもいいが、後悔しないようにな?」

シモンは僕の頭をポンポンとして、超絶美形の笑顔になる。

前世で、高校生のときにみたクラスのイケメンが可愛い系の女子の頭ポンポンして、一斉にキャーって黄色い歓声があがったときのことを思いだした。


羨ましい。

僕もポンポンしてキャーって言われる側になりたかった。


「あの。なんかいつもと雰囲気が違いません?」

というか小さな違和感を確認してみた。


「そうか、、、雰囲気か。いい女とヤれたら誰だって気分がいいだろ?」

ここ数日の間で思ったんだけど、シモンは普段から妹想いで、それに誰にでも優しい。

ただ寡黙なもんだから紳士みたいな人物像を作っていたのかも知れない。


「そっか。僕もいい女とヤれるように精進します!先生って呼ばせてください!」


「先生はやめてくれ」

シモンはいつもと変わらない優しい顔で笑っていた。


焚き火の後始末を終え、白馬のスーに野営の荷物を運んでもらうべく鞍に結び付けていた。


「、、、。シュン、すまない。焚き火の後始末で念のために水をお願いできるか?」


「え?あ、川で汲んできますけど、かわりに荷物お願いできます?」


「、、、ああ。やっておく」

バケツなんて嵩張るものは持ってきていないので革袋を持って、小さなせせらぎまで向かう。

めちゃくちゃ天気もいいし、のどかだし、花も咲いてるしで、最高の気持ちだった。

川ともいえない位のせせらぎで、革袋の口を水につけ、水を汲む。

水は冷たく、かなり透明度が高い。


調子にのってあまりに水を汲むと重くなるうえに、足元が濡れそうになるのでほどほどにして、「よっと」って気合を入れて持ち上げて振り返ると、テオドラが立っていた。


「うわ!びっくりした!」

思わず、手に持っていた革袋を落としてしまった。

そして僕の声の大きさに驚いたテオドラも、小動物みたいにビクッとなっていた。


「どうしたの?テオドラも水汲み?」


「ううん。シュンくんが一人で離れて行ったから心配で」


「いやいや、大丈夫だよ。水汲みだし、みんなとも近い場所だし」


「そう?ねぇ、シュンくん・・・」


「ん?どした?」

僕は落とした革袋を掴み上げる。

革袋から漏れ出た水が小さな水たまりを作って、口がドロドロになってる。


「シュンくん。ラサの村に帰らない?」


「うん、帰らないよ。帰ったところで、殴られて、やりたくもない鍛冶をやらされて、一生を終えるんでしょ?絶対嫌かな?」

せせらぎの流水で、口が泥っぽくなった革袋を濯いで、新しい水を入れる。


「それに一応、魔王復活も阻止してねって女神カテリア様に言われてるし。僕はこのまま旅を続ける。それだけ?」

テオドラの方を見ると、うつむいて手をもじもじさせている。

なんだよ、シュンとしての僕よりも年上なのに。

なんでそんなに子供っぽい感じなわけ?


「別に意地悪で言ってるわけじゃないんだけど、テオドラって睡眠障害持ってるから療養した方がいいと思う。でも僕は付いていけない。あの村には僕は帰りたくないからね」

怒っているわけじゃないんだけど、テオドラは怒られているみたいに、小さな体をもっと小さくさせていた。


「テオドラはいいじゃん。王国お抱えの特級魔法使いなんでしょ?僕みたいな何もない奴と違ってさ。期待されて期待に応えられて。僕ん家と違って、優しいお母さんもいる」

矢野峻やのしゅんとしての気持ちが止まらず、僕の言葉は続く。


「僕は優しかった両親にはもう二度と会えない。いるのは人面獣心の父親役に、見て見ぬふりする母親役だよ。自由もない、希望もない。そんな家によく帰ろうって言えるよね。テオドラって意外に性格悪い?」


「もしもっていうか、今の仲間がみんないなくなっても僕は旅を続ける。誰がなんと言おうと世界を見て回る。僕が作り上げた世界はどこまでも美しくて、間違っていなかったって証明しなきゃいけないんだよ」


「だって、僕にはそれしかなかったんだから」

あぁ。ミレイユと一緒に村を出たときの解放感とは違って、なんだってこんな嫌な気持ちになるんだ。

別にテオドラが悪いわけじゃない。

僕の、こちらの世界の父親と母親が特殊なだけだったんだ。

頭では理解できているのに、言葉は次々と溢れて、一番近いテオドラにすべてぶつけてしまう。


「僕は一人でも生きていける。ずっとそうだった。これからも。僕にはここがあるから」


「いいんだ。野垂れ死んだって。怖いけど。自由の代償だよ。僕が自由である証拠なんだ」


「シュン・ボネアルは死んだんだ。ここにいるのは、君の知ってる僕じゃない。一人なんだ。もうずっと、独りぼっちなんだ。いいんだよ、それで。あぁ。それでいいんだよ。お願いだから、放っておいて、そっとしてくれ」


矢野峻やのしゅん、前世の僕の両親は、こちらの世界の両親とは違う。

僕がやりたいことを怒らず応援してくれた。

だから僕はゲームを作り上げることができた。


でもこちらの世界の両親は違う。

僕を型にハメて、僕から奪っていく。

もっと両親に恩返しをすればよかった。

ゲームの更新に追われて顔も見せず、連絡もせず好きなことだけやって生きてきた。

僕は転生して喜んだけど、両親はどう思ったんだろうか。

泣いただろうか。

悲しかっただろうか。


だけど、こちらの両親は違う。

アレは人じゃない。


獣だ。


僕は奴隷になりたくなかった。


「ごめんね・・・」

そっと、僕はテオドラに抱きしめられ、ふわりと花の香りがした。

テオドラは、いつの間にか僕よりも小さくなっていた。

いや、違う。


僕の背が伸びたのだ。

それでもテオドラは僕を抱きしめ、頭を撫でている。

さっきまで膨れ上がっていた怒りや悲しみ、後悔などが少しずつ氷のように溶けていくようだった。


頭が冷静になってくると、実は恥ずかしい状態だということを感じ始めた。

年上ながら僕よりも背が低くて、どちらかといえば凹凸のない体型。

それでも抱きしめられていれば、体は密着するし女性らしい柔らかさを感じる。

そして体温。


「あの・・・ごめん、テオドラ。もう大丈夫だから」

僕が声をかけても、「いいんだよ」っていいながら抱きしめる力は緩まないし、頭を撫でている。


「本当、ごめん。八つ当たりしちゃった」


「うん。わかってる」

抱きしめられていて、耳元でテオドラの声が聞こえる。

そのまま抱きしめられたまま、時間が過ぎていく。

テオドラの息遣いや体温で恥ずかしさがどんどん強くなっていく。


「テオドラ!ごめん!本当に!」

僕は両手でテオドラをはがすようにして、顔を見るといつもの優しい顔。

だけどテオドラの体温が感じられなくなり急速に孤独感が募ってきた。


「テオドラ、ごめんね」


「よしよし。シュンくんはえらいね。ごめんねが言えるんだから」

真正面から僕の頭をなでて笑ってる。


「いや、本当にごめん。あと、、、そろそろみんなのところに戻ろうよ」


「そうだね。シュンくん、おいで。一緒に行こう?」

テオドラの手が僕の手を掴む。

白くて、細くて小さな手なんだけど、温かくて安心する。


「テオドラ・・・・」


「なに?シュンくん」


「、、、ありがとうね」


「どういたしまして」

僕はテオドラに手を引かれながらみんなの元に戻っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ