47. オペレーション・バスフィッシング
ここは人間界と異界の境界にあるバーミューダ海域。アメリカ艦を主力とする異界艦隊は演習と称する特別軍事作戦?を行う。
「それでは演習を始めるヨ!名付けてオペレーション・バスフィッシング!」
アメリカ戦艦アイオワの陽気な声が艦橋に響く。これからわたしは異界艦隊アメリカ艦の演習を観閲するのだが、彼女の陽気な声はわたしのイメージする軍人のものではない。
いや、それにもまして「オペレーション・バスフィッシング」とは何だ?いくらアメリカではブラックバス釣りがポピュラーなスポーツとはいえ……
わたしは発言した。
「アイオワ、作戦の内容と……その作戦名の由来を教えて欲しい」
「Oh!アドミラル、これからちゃんと話すからネ!」
すると艦橋にスクリーンが出現する。その中に現れた顔はアイオワの姉妹艦であるヴィスコンシン。自称電子戦の達人だ。
「アイオワ、組織の通信やメールを解析したワ。アイツラの潜水艦、後1日でこの海域に侵入するワヨ」
「オーケー!腕が鳴るネ!」
組織とか潜水艦とかわたしはいよいよわからなくなってきた。
わたしだけではない。演習を観閲しているイギリス戦艦マレーヤ、日本戦艦霧島、イギリス空母ヴィクトリアスも怪訝な表情をしている。
アイオワはそんなわたしたちの表情を見て口を開いた。
「アドミラルは今、ワタシたちのホームランド・USAで何が問題になっているか知ってるカナ?」
「えーと……中間選挙?」
「Oh!それも大事ダケドネ!結果はほとんど決まってルカラネ!あのプレジデントに対抗できるショウ・マンは誰も……アウチ!話がズレたネ!」
アイオワはそういうとホワイトボードにマジックで文字を書き出した。わたしは順番に読み上げる
「F・e・n ・t……フェンタニル?」
アイオワは頷くと
「イエス。もともと医療用鎮痛剤として使われていた合成オピオイドだけどネ。モルヒネの50~100倍の効力を持つので悪いヤツらが麻薬として密売するようになったネ。今、我がUSAはこの大量破壊兵器による攻撃を受けてるネ!」
麻薬が大量破壊兵器……国内の不満を外敵にそらすための政治家のレトリックかも知れないが、阿片戦争を初めとする麻薬の歴史をひもとけば大げさとは言えないだろう。
イギリス戦艦マレーヤが挙手して質問する。
「それが、我々異界艦隊とどう関わってくるのだ?」
「OH!マレーヤもネットニュースぐらい見るネ!最近は麻薬密売組織も力をつけてキテネ。なんと潜水艇を使ってフェンタニルを運んでキテルネ!そしてついに潜水艦まで使うようになったネ」
アイオワはそこで一呼吸置くと
「今度の演習の目的はそれを食い止めるコト!」
すかさず日本戦艦・霧島が手を上げる。
「何をするのかはわかったけど、目的が麻薬組織の潜水艦の発見と撃沈だとすると……これは演習ではなくて実戦じゃない?」
アイオワは「良い質問ネ」とうなずくと真剣な顔になって
「ワタシたちは異界艦隊。人間との交戦が存在の目的ではないわ。今回は麻薬組織の潜水艦を拿捕してUSAの沿岸警備隊に引き渡すこと!」
そう言ってアイオワはホワイトボードをバン!と叩くと
「バスフィッシングの基本はキャッチ&リリース!参加するウォーシップにはこれを徹底してから演習を始めるヨ!」
かくしてミーティングが終わったかのように見えたが……
そこで霧島が一言。
「フェンタニルのスペリングってそれでよかったのかしら?」
アイオワがホワイトボードに書いたものを見ると
Fentanil
……スマホで検索すると正しいスペルはFentanylだ。
「オーマイガッ!政治家がやらかしたpotatoe(potato)やcovfefe(coverage)を笑えないネ!」
アイオワが頭を抱えて絶叫したところで会議はお開きとなった。
「それでは演習はじめ!今回は軍事用AIシステムの運用テストも一緒にやるからネ!」
アイオワが全艦隊に号令をかける。異界艦隊の実効支配海域に侵入した潜水艇を捕捉するため、あらかじめ定められたグリッドに向かって各戦隊が散らばっていく。
マレーヤは腕組みしながら
「今回はアメリカ艦隊に我らがロイヤルネイビーの駆逐艦、日本の駆逐艦が加わるという混成部隊だ。AIを使ってどれだけ統制できるか、問題点を洗い出させてもらうぞ」
マレーヤが海上に視線を送った先にはアメリカ駆逐艦オースバーンと日本駆逐艦霞、イギリス駆逐艦ジャーヴィスとアメリカ駆逐艦ヘイウッドが並走している。国籍の異なる四隻を抽出して試験的に戦隊を組ませたのだ。
あくまで慎重居士のマレーヤに対してアイオワは楽観的だ。
「問題ナッシ~~ング。ワールドウォーを経験したベテランにAIシステムが加われば……日本のことわざでいう鬼のパンツNE!。強いゾ~強いゾ~履こう履こう鬼のパンツ」
アイオワは鬼に金棒のことわざを何かの歌謡曲と勘違いしたのか、フニクラ・フニクラのメロディで歌い出した。霧島は呆れ果ててもう訂正することはしなかった。
わたしはゴホンと咳払いをして
「アイオワ、異界艦隊アメリカ艦が他国艦に先んじて導入した軍事用AIシステムの概要を教えて欲しい」
「オーケー!ワタシたちアメリカ艦が使っているAIシステムは二つに分けられるね!ゴッサムシティ-とデルタフォース!」
……何だか洋画に出てくるような言葉だな。わたしがそんなことを考えているとアイオワは得意気に
「ゴッサムシティ-は分析システム。メトロポリスのようなネットの海に潜んだデータを見つけ出し、黄金比に統合された一枚の絵を描き出すネ!」
アイオワがパチンと指を鳴らすと、戦艦アイオワに搭載されたシステム・ゴッサムシティ-が動きだす。
そしてわたしの目の前に現れたのは一枚の図。大小の曲線が広がったり屈折したりと複雑な動きを示している。それは刻一刻と変化している
「これはワタシたちが今いるバミューダ海域の音線経路ネ。海水温・塩濃度・水圧を類推計算してソナーの届く範囲を出しているネ。ミクロン秒単位の変化も見逃さないから、音波が届かないシャドーゾーンの発生する場所もすぐわかるネ。これで敵潜の位置も突き止められるWA!」
ほおお……ソナーと聞いてマレーヤや霧島、ヴィクトリアスも感心した表情をしている。
「それで、システム・デルタフォースとは?」
わたしがアイオワに聞くと彼女は
「デルタ・フォースは戦場情報統合プラットホーム。これまでだと情報はボトムアップで上がってきたから、部署によって見ている戦場が違ったネ。でもこのシステムを使えば上から下まで同じ戦場データを共有できるネ。つまり一人一人が水兵でもあり提督でもあるというコト!」
……つまり、ゴッサムシティ-による戦略的な分析、そしてデルタフォースが収集した戦術データ、インフォメーションとインテリジェンスの統合と共有が瞬時に行われるというわけだ。理想論では。
わたしは感に堪えないのを押さえきれずにアイオワに話した。
「驚いたよ。これはまさに戦場の民主化だね」
「オフコース!デモクラシーはアメリカの理想ネ!」
誇らしげに頷くアイオワ。しかし彼女は何かに気づいたようで
「こらーっ!デストロイヤー・サッチャー!脳波のシータ波が強くなってるネ!居眠りするとまたスペンスと衝突するネ!」
現在は戦艦アイオワから遥か離れた海域で、フェンタニル密輸潜を捜索しているアメリカ駆逐艦サッチャー。
「ハッ!どうしてわかったの!?……そ、ソーリーマム。昨日は夜遅くまでシュミレーションを……」
「ドントライ!嘘はダメNE!ユーがファイナルファンタジーを徹夜でプレイしてたのはわかってるネ!現場の状況はみんなデルタ・フォースで共有できるんダカラネ!」
「情報の共有ってイウケド……司令部の握ってる情報は権限が無いとか言って絶対に触らせてくれないんダカラ……」
「シャーラップ!今のユーのコンディションをシステム・ゴッサムシティに分析させたネ。データベースを横断検索して出てきた解答は……疲れた時にはベンゼドリンの大量注入!AIのソースは黄金時代のハリウッドNE!」
「ヒッ!もう目が覚めマシタ!アイム・アウェイキング!」
わたしは小声で呟いた。
「これでは恐怖政治だよ」
霧島はわたしを肱でつつくと
「提督、言葉を選んで!....でもベンゼドリンって私たちが使っていたヒロポンのようなものなんでしょ?麻薬を取りしまる側が使っていいのかしら」
マレーヤは
「だが、アドミラルの言う通りまさしくビッグブラザーだ。AIこそデモクラシーと最も相性が悪いテクノロジーなのかも知れないな」
ヴィクトリアスは
「先の大戦の後はラッセル卿が言ったように核の恐怖。ウクライナ戦争が終結した後はAI.....一体人類はどこへ向かいますの?」
するとアイオワがこちらに来て
「Nobody knows the future!未来の事は誰にもわからないネ!わかってるのはワタシとアドミラルの愛が真実ということだけネ!」
そういってアイオワはわたしを抱きしめた。もちろんその会話はデルタフォースには共有させなかった。
サッチャー「Call of Dutyはクリアしたから次はFinal Fantasyネ。人間の姿に生まれ変わったんだから楽しまナキャ」
アイオワ「コラーっ!AIを使えばみんなバレるんだからネ!」
サッチャー「ヒッ!もう目が覚めマシタ!」
オペレーション・バスフィッシングは今のところ順調に進んでいる。
アメリカ空母サラトガとイギリス空母ヴィクトリアスが警戒機を飛ばして、艦艇のソナーが届かない海域を探索する。
そのヴィクトリアスはオブザーバーとして戦艦アイオワの艦橋にわたしたちといる。
彼女はゴーグルを顔につけている。
「映画みたいで面白いですわね。このFPVを使えば艦橋にいながら航空機を操縦しているようですわ」
ヴィクトリアス
FPV...First Person View。一人称視点のAI。ドローンに搭載されたカメラの映像を専用ゴーグルやモニターでリアルタイムに映し出し、自分が空を飛んでいるような没入感を得られる。
本来ならドローン用のデバイスだが、ヴィクトリアスは自艦が搭載している複葉機ソードフィッシュに取り付けたのだ。もちろんアイオワが手に入れた米軍の横流し品である。
「あっ!また海上に潜望鏡発見ですわ!」
ヴィクトリアスの意識はリアルタイムで近海の駆逐艦に伝達され、彼女たちはすぐに向かう。
指示された場所に到着してから「さあ敵はどこにいるの?」と探す必要もなく、ヴィクトリアスの視線をトレースして即座に目標を捕捉する。情報共有システム・デルタフォースの能力だ。
目標の潜水艇に対潜ミサイルを発射して浮上を促す。
浮上した潜水艇の乗組員は第二次大戦時の艦艇を見て狐につままれた顔をしていたが、魔法で記憶を消した上でアメリカの沿岸警備隊の哨戒海域近くまで曳航してリリースする。
「現在のところ、順調なようだな」
と、マレーヤ。
「AIの出した進路予測は百発百中とは言えないけど、9割ぐらいは的中しているわね」
と、霧島。
「ワタシの艦に搭載されているシステム・ゴッサムシティと各艦に搭載されているデルタフォースとのデータリンクも問題ナッシングNE!NTCDLシステムを導入して良かったネ!」
と、アイオワは天空を見上げて満足げだ。
わたしはアイオワに尋ねた。
「NTCDLシステムって衛星通信を使ったデータリンクだっけ?」
「イエス!リアルタイムのマルチチャネル通信システム!USA海軍が現在使っている最新式ネ!」
「うーん....現在の戦争は宇宙・地上海上・海底を統合した三次元戦争なんだね」
感嘆したわたしを見て得意満面なアイオワ。すると霧島が
「これもアメリカ海軍からの横流し品?」
「ワタシは二人のプレジデントが乗ったバトルシップだからネ!それにダミー財団を通じてBAEシステム社の大株主になっているから問題ナッシング!」
わたしはアイオワに再び尋ねた。
「キミがいくら歴史的な戦艦だからといって、よくアメリカ軍の横流し品をこんなに入手できたものだね」
するとアイオワは声を潜めて
「アドミラルだけに話すけどネ、今のプレジデントが海軍に"You're fired!"『お前はクビだ!』をやりすぎてネ。おまけに今度のイランとの戦争は同盟国にそそのかされたって反感持ってる幹部がたくさんいてネ。もし海軍を辞めた時はワタシたちの財団で面倒見るヨって言ったら帳簿をチョチョッと細工してくれたネ。モアオーバー!衛星通信の帯域幅を増やす出血大サービスもしてくれたネ」
「うーん……わたしは今まで史料を読むだけで論文を書いてきたけど、今、初めて歴史の裏側を見た気分だよ」
するとオースバーンから通信が入った。
「アイオワさん!たった今、ECVを回収したワ!潜水艦に装備された使い捨ての通信ブイ!大物がいるワヨ!」
「ホワット?ECVと言えばウルトラエレクトロニクス社製の軍用品ネ!ノーウェイ!信じられないネ!」
「イリジウム衛星携帯電話が仕込んであったワ。イッツ・フォア・リアル!アイオワさん、潜水艦だったら潜水艇より深く潜るから厄介ヨ!」
「ブルシット!麻薬組織に横流しするなんてUSA軍人の名誉と誇りはどこに行ったネ!サノバビッチ!!」
アイオワの淑女らしからぬ英語を聞いて、コーヒーを飲んでいたイギリス艦マレーヤとヴィクトリアスは驚きのあまり二人そろって激しくむせた。
アイオワは二人に構わず全艦に激を飛ばした。
「みんな!ワタシたちアメリカ艦の誇りにかけて麻薬潜水艦を捕まえるネ!捕まえた艦には賞金を一千万ドル!」
通信の向こうから歓声のような鬨の声が一斉に聞こえた。「Hooyah!Hooyah!」
アメリカ駆逐艦オースバーン「フォローミー!賞金一千万ドルはミー・オースバーンのモノよ!」
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日本駆逐艦・霞「ええと、シールドAI V-BAT(艦載ドローン)の使い方は....まずこの端末を使って”あくせく”するのね?」
イギリス駆逐艦ジャーヴィス「ちょっと!中枢にアクセスしたけどモニターは真っ白のままよ!この UAV!」
アメリカ駆逐艦ヘイウッド「オースバーン!作戦前に哨戒コースをインストールするのはあなたの仕事デショ!マッタク...西ドイツ艦時代にドイツ人の緻密なところを習わなかったのカシラ....」
アイオワの艦橋が光で満ち始めた。麻薬を運んでいる潜水艦を追跡するために、システム・ゴッサムシティが全力で稼働しているのだ。
艦橋のモニターには何百という光のラインが映し出される。潜水艦の予測航路である。
パトロール中の航空機や艦艇からの情報を総合した上でのインテリジェンスである。まだ潜水艦は発見されていないが、空振りも集計すれば重要な情報となる。
そして艦橋の温度は次第に上がって行く。霧島は懐から扇子を取り出すとパタパタとあおぎ始める。
「急に暑くなったけど、どうしたの? 前の戦争で赤道を越えた時はこんなに蒸さなかったわね」
霧島はわたしにも風を送りながらアイオワに尋ねる。
「OH!ソーリー!ワタシの艦に積み込んでいるAIサーバーが全力で働いてくれているところネ!今、ボイラー水を回して冷却するからネ」
わたしは思わずアイオワに聞いた。
「キミたちは艦内にデータセンターを置いているのかい?」
わたしの貧困なイメージでは、データセンターといえば黒色の筐体がズラリと並んでいる密室だ。
「イエス!シークレットのためにはシステムはローカルで完結させる必要性があるからネ!昔、水兵たちが寝ていた部屋に詰め込めるだけ詰め込んでいるネ!」
「でも艦のスペースで大量に詰め込めるのかな?民間の一工場のサーバールームと同じくらいじゃないのかい?」
アイオワはチッチッと指を振り
「ビビディ・バビディ・ブー!魔法でマイクロ化してスペースを稼いでいるからネ!処理能力はチャイナ・テレコムの内モンゴル情報パークにも負けないネ!」
アイオワはスーツのポケットから何かを取り出してわたしたちに見せる。それは手のひらに載るサイズまで圧縮されたマイクロデータセンターだった。
霧島はそれをまじまじと見た後で
「昔、宇垣参謀長は『大型艦変じて石油タンクとなる……』と言ったそうだけど、我らが異界艦隊では戦艦変じてデータ処理システムね」
「今は石油の一滴はCPU一基だカラネ!OH!目標の航路が80パーセント特定できたネ!航空機と艦隊を向かわせるヨ!」
そして予測された海域に全艦隊が集結する。アイオワが号令をかける。
「いつものワタシたちのやり方で行くヨ!爆雷、ヘッジホッグ、MK54短魚雷、スティングレイ短魚雷、MU90インパクト短魚雷、Tp45短魚雷、RUM-139 VLA対潜ミサイル、ミラス対潜ミサイルをありったけ投下して炙り出すネ!」
「「「Hooyah!Hooyah!USA!USA!」」」
アメリカ艦たちは歓声を上げながら打ち上げ花火を発射するように海中に投下する。
爆発の巻き添えを食って気絶した魚たちが海面にプカプカ浮かんでくる。
「ドンドン撃つネ!」
連呼するアイオワ。今ごろ海中はミキサーで撹拌したみたいになっているはずだが、それでも潜水艦は浮かんでこない。
「おかしいネー。この海域に潜んでいるのは確かナンダケド……」
首をかしげるアイオワ。するとマレーヤが
「だから言わぬことではない。海中の潜水艦にしてみたら、海上の我々の動きは音響で手に取るようにわかる。とっくの昔に逃げられたのではないのか?」
アイオワは
「逃げられないように四方八方から包囲したんダケドネ。それにサラトガの航空機を海域の周囲に飛ばしているけど、潜水艦の航跡はキャッチしていない……」
アイオワがそう言った瞬間、爆音が響いて戦艦アイオワが揺れた。
わたしはバランスを崩して倒れたがヴィクトリアスが後ろから受け止めくれた。
「シット!魚雷を撃ってきたネ!」
そう言うと、アイオワはヒップを押さえながらよろめいた。すると人間体に続いて艦も傾く。わたしはデスクをつかむ。
戦艦アイオワの艦橋にいた霧島があわてて駆け寄る。
「アイオワ、あなた被雷したのだから早くダメコンしないと駄目よ!浸水するわよ!」
霧島はアイオワのスカートを脱がす。
そして懐から塗り薬の入ったチューブを取り出すと、剥き出しになったアイオワのお尻に刷り込み始めた。
霧島はそこで気づいたようで
「提督は見ないで!」
わたしはあわてて目を反らす。霧島が人間体に塗った塗り薬と感応して、戦艦アイオワの被雷孔が自動修復され、ポンプが海水を排出する。
アイオワの艦橋にスクリーンが出現して、軽巡ナッシュビルの顔が映し出される。
「アイオワさん、ソナーで潜水艦の位置を確認したワ。爆発音のノイズがひどかったけど、AIですぐにクリーンにできたワ……バット……」
ナッシュビルのデータをもとに潜水艦の位置をスクリーンに映し出すと……
「ホワット!?これは通常の潜水艦が潜る深度を越えているネ!」
ナッシュビルが答える。
「これは高張力鋼NS-110を使っているワネ。麻薬組織メ、有り余るマネーを使って美術品だけじゃなくて軍の機密兵器まで手に入れたヨウネ」
アイオワはため息をついて
「何でもマネー、マネー……今のUSAのヤングメンがソーシャリズムにひかれるのもワカルネ」
すると霧島が一言。
「アメリカ軍幹部をお金で釣って最新兵器を横流しさせたあなたがそれを言う?」
アイオワはしみじみとした様子で
「社会はアンフェアだネ……」
マレーヤが叫んだ。
「コントはやめるんだ!また攻撃が来るぞ!」
わたしは艦橋の窓から外を見る。すると
海中から空中にミサイルが飛び出し、軌道を変えてアイオワに向かってくる。
「アドミラル、あれはハープーンですわ!」
ヴィクトリアスが叫ぶ。
ヴィクトリアスの声に呼応するかのように、アイオワの隣を航行していた軽巡洋艦アトランタが対空砲火を放つ。
「Hurrah! Hurrah! For Southern rights, hurrah! Hurrah for the Bonnie Blue Flag That bears a single star!」
通信の向こうでアトランタが雄叫びをあげる。
普通なら第二次大戦時の防空巡洋艦アトランタが21世紀の潜水艦の対艦攻撃を退けられるはずもない。
しかし、神話の力にAIの解析力が加わった我らが異界艦隊。アトランタは全てのハープーンミサイルを撃墜した。
アトランタ「ウェルカム、ハープーンミサイル!サザン・ホスピタリティでおもてなししてあげるワ!」
だが、ホッとする間もなく敵潜水艦はさらに魚雷を発射する。それはアイオワのスクリューを正確に狙ってきた。
アイオワは高機動で魚雷をかわそうとする。だが、
「正確に追尾してくるネ!ホーミング魚雷ネ!シット!ワタシはアナルセックスの趣味はナイネ!」
付近の駆逐艦がデコイを発射したが敵魚雷は引っ掛からない。
アイオワはそれを見て覚悟を決めたかのように
「アドミラルが乗っている時にこれはやりたくなかったケド……最後の手段ネ……」
わたしはアイオワに言った。
「わたしはアドミラルとして旗艦であるキミと運命をともにする覚悟はできているが……最後の手段とは何だ?」
「聞かないデ!見ないデ!アドミラル!」
その瞬間、戦艦アイオワのスクリュー口から大音響とともに大量のバブルが放出され、それは魚雷の索敵機能を狂わせた。ホーミング魚雷は失速してアイオワの遥か手前で爆発した。
アイオワは恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆ってしゃがみこんだまま動かない。
しかし、敵潜水艦は持っている魚雷を使い尽くしたらしい。深海に潜って逃走し始める。
マレーヤはしゃがみこんだままのアイオワを揺さぶって
「敵潜水艦が逃走するぞ。放っておいていいのか?」
アイオワはキッと顔を上げると
「アドミラルの前で恥ずかしい真似をさせたのは許さないネ!全艦短魚雷発射!」
しかし放たれた魚雷は敵潜の手前で水圧のために圧壊する。
「ワタシの恥ずかしい姿を見たままで無事に帰れると思うナ!」
アイオワは夜叉のような顔で叫ぶと懐からステッキを取り出す。
「ビビディ・バビディ・ブー!バトルシップ・アイオワ!サブマリンモード!」
ステッキをフェアリー・ゴッドマザーのように振った瞬間、戦艦アイオワの周りには魔法の結界が出現し、海水をかき分けて潜水しはじめた。
「アイオワさんに続くのヨ!」
オースバーンが叫ぶと他の艦も次々と潜り始めた。アイオワが作った魔法の結界に守られて深海に到達する。
かくして、上下左右をウォーシップに囲まれた敵潜水艦は何度か舵を切ろうとしたが、やがて諦めたように浮上した。敵潜水艦を囲みながらアイオワたちも浮上する。
海上に上がるや戦艦アイオワは敵潜をデリックで吊り上げて逃げられなくする。
「敵潜の艦長を尋問してくるネ」
戦艦アイオワの一室で敵潜の艦長を尋問するアイオワ。わたしたちはモニターで見守っている。
アイオワは二言、三言、言葉を交わすと艦長の頬を張った。
無言で艦橋に戻ってきたアイオワ。わたしの前で重々しく口を開いた。
「やはり……USAのサブマリナ-だったわ」
わたしはアイオワの顔を黙って見つめる。
「何故、麻薬組織の潜水艦の艦長になったのかって聞いたらね、何て言ったと思う?アドミラル」
わたしは答えた。
「大金を差し出されたから?」
アイオワは頭を振る。
「違うわ……彼はこう言ったのよ……実戦を経験したかった。訓練を繰り返しただけで軍から捨てられたのは自分のプライドが許さなかった。麻薬組織の傭兵になっても後悔はしていない……って」
アイオワは深くため息をついた。
「みんな英雄にはなれないことを受け入れて祖国を守っているのにね。わたしだって最後は国防予算の削減で……」
わたしは両手をアイオワの肩に置いた。アイオワはしがみつくように自分の顔をわたしの胸に預けてくる。わたしは強く彼女を抱き締めた。
アイオワはか細い声で
「少し力を使いすぎたようだわ……このまま動けないかも知れない」
マレーヤは
「わかった。基地のヴィスコンシンに連絡して、ドックに入っているわたしと霧島の艦を呼び寄せる。二隻で貴艦を曳航しよう」
「そうしてもらえるとありがたいわ……」
「だが、アイオワ型の排水量は大きいからな。わたしたち二隻にとっては少し重すぎるかも知れないな」
そう言うと、マレーヤはニヤリと笑った。
わたしはアイオワを抱いたままマレーヤに笑い返した。そして
「作戦終了だね。全艦抜錨!!」
後書き
霧島
「どうしたの?アイオワ。ふさぎこんでいるなんてあなたらしくないわね」
マレーヤ
「あの潜水艦の艦長のことをまだ考えているのか?」
アイオワ
「イエス。あれから魔法でワタシたちの記憶を消して、沿岸警備隊のパトロールコースにリリースして……後は法廷と陪審員が公平な裁きをつけてくれるネ。バット……」
マレーヤ
「だが、あの男の気持ちもわからなくもない。海軍という巨大な組織の中ではわたしたちウォーシップも人間もしょせん部品の一つに過ぎない。わたしだって二度目の大戦の勝利を目前にして退役という甚だ不本意な艦歴で終わったからな」
霧島
「そう言えばね、アイオワ、あなたは生まれていないけどね、あの軍縮条約でも多くの仲間たちが不本意な艦歴を強いられたわ。艦歴半ばで研究射撃の標的となった先輩、生まれずに終わった後輩……」
マレーヤ
「まったく、我らが前世は虚しさとの戦いだったな」
アイオワ
「彼は自分との戦いに負ケタ……そう言い切ればクリアなんだケドネ」
霧島
「でもあなたは割りきれないのね?」
アイオワ
「オフコース……USAのマリナーはワタシのファミリーだからネ」
マレーヤ
「そうだな。わたしも現在のロイヤルネイビーには色々と言いたいことがあるが、それは自分の古巣だからこそだ」
霧島
「わたしも今の海自にはね、あそこまでよくこそ建て直したと思う一方、あそこまで同盟国に頼っていて一朝事ある時には大丈夫かしら?という気持ちが半ばね」
アイオワ
「Screw it !ええい!クサクサしているのがバカらしくなってきたネ!彼が罪を償う時にもう一度会いに行って見るネ!」
マレーヤ
「そうだ!それでこそキミらしいぞ!This is America!」
霧島
「でもいいのかしら?問題の解決を途中で放り出したみたいだけど……」
マレーヤ
「なあに。こういう問題は我らがアドミラルに考えてもらおう」
霧島
「そうね、考えても前に進まない問題をグズグズと考えるのは文科の大学出が得意だものね」
霧島
「ところでアイオワ。賞金の一千万ドルは誰にあげるの?」
アイオワ
「今回はみんなで捕まえたからネ。これからマイアミビーチに行ってパーっと使うネ!」




