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48. 駆逐艦たちの小さなリムパック

ジャーヴィス(イギリス駆逐艦):1939年就役ー1954年解体。

オースバーン(アメリカ→西ドイツ駆逐艦):1942年就役ー1968年解体。


霞(日本駆逐艦):1939年就役ー1945年戦没。

雪風(日本→中華民国駆逐艦):1940年就役ー1970年解体

ありあけ(アメリカ駆逐艦ヘイウッド→日本海自護衛艦ありあけ):1944年就役ー1976年解体。



ダダダダ……海原にエンジン音が響く。


わたしは戦艦アイオワに搭載された艦長用モーターボートに乗っている。わたしの隣で運転するのは人間体のアイオワ。


後ろにはイギリス艦マレーヤと日本艦霧島の人間体が控えている。二人とも波のしぶきに目を細めている。


「Hi! アドミラル!おニューのThe captain's gigはどうカナ?」


あちらでは艦長搭乗のボートをキャプテン・ギグというらしい。


「ああ……手漕ぎのカッターに比べるとパワーを感じるよ。この……キャプテン・ギグだっけ?」


わたしがそう言うとマレーヤが訂正するように


「このAdmiral's Barge!……カッターと比べるとエンジン音はうるさいがスピードはなかなかじゃないか」


同じ英語でもアメリカとイギリスでは海事用語は微妙に違うのだっけか。慣習的なものは理屈とは異なるから覚えるのが難しい。


「マレーヤ、あなたはいい加減にカッターから内火艇に変えたら?やっぱりアメリカ製は速度が違うわね」


霧島はそう言った後で懐中時計を開くと


「……でも揚降にかかった時間は、わたし霧島のほうが0.5秒早かった」


それぐらいどうでもいいじゃないか……と思うのは素人の浅はかさ。海軍はいつも訓練で一分一秒を競っているのだ。


もっとも現在の彼女たちは人の手を借りずとも自力で動ける。人間体のテレパシーで船具を操作しているのだ。そのため船内作業については一零秒の単位で競っている。



「HAHAHA...みんな厳しいネ」


アイオワは苦笑してモーターボートのスピードを上げる。


新品のモーターボートの性能をテストしたいのか、それとも自分の操縦テクニックを見せたいのか、全速力で急カーブを繰り返す。


わたしは必死で手すりに掴まって海に落ちないようにする。いくらライフジャケットをつけているからと言っても、海に落ちたらそのまま置いてかれそうだ。


もちろん戦艦の化身たるマレーヤと霧島は微動だにしない。


マレーヤは手帳を開くと

「そろそろジャーヴィスのアンカー・ポイントだな」


霧島は手をかざすと

「肉眼でも目視できるわ。ほら、霞や雪風、ありあけ、オースバーンの各艦も集まっているわ」


「OK! みんなサボらずにちゃんとセミナーをやっているようネ!デストロイヤーズ!」


アイオワはそう言うとモーターボートのスイッチをカチカチといじって発光信号を送る。


暫時、イギリス駆逐艦ジャーヴィスの舷側からもライトが輝く。ボートの揚収準備完了という内容だ。


わたしたちの乗ったモーターボートはジャーヴィスに接舷する。デリックがボートを揚収する。


霧島は懐中時計を開くと


「ふうん……アイオワの発光信号から1分と7.5秒で完了。まあまあということにしておいてあげるわ」


「なかなか厳しいね、霧島」

と、わたし。


「もちろん、戦艦ですもの」

と、霧島。


ボートから駆逐艦ジャーヴィスの甲板に出る。


「バウ!」


そこには白毛の犬が一匹、わたしたちを出迎えるようにお座りをしていた。


「ええと……この犬は確かこの前ジャーヴィスと会った時に……」


記憶をたどるわたしにマレーヤが


「アドミラル、駆逐艦ジャーヴィスのマスコット犬の生まれ変わり、スノーボールだ。……よしよし、お前と会うのも久しぶりだな」(第11話)


マレーヤはその頭と首筋を撫でる。



スノーボールは騎士が主に跪くようにわたしたちの靴を舐めると、デリックを操作する機器にトコトコと走りよる。


そして驚くなかれ、何とレバーを口で咥えて操作し始めた。デリックはモーターボートから離れると艦の所定の位置に戻った。


「ちょっと!……さっきの揚収作業ってこの犬がやったの!?」


霧島が驚きの声を上げる。


「ああ、その通りだ。ついでに言えば揚収準備完了の発光信号もな。今頃、ジャーヴィスは英米日の合同セミナーで忙しい。テレパスで艦をコントロールする余裕は無いはずだ」


マレーヤが霧島に解説する。


「WAO!賢いんダネ!スノーボール!」


アイオワが誉めると、スノーボールは誇らしげにもう一度「バウ!」と鳴いた。


「さあ、スノーボール。お前の主のところへ案内してもらおうか」


何事もなかったかのようにマレーヤが声をかけた。


挿絵(By みてみん)

マレーヤとスノーボール



わたしたちはスノーボールの案内に従って駆逐艦ジャーヴィスの艦内に入る。


先日、AIによる意思決定システムを導入して行われたオペレーション・バスフィッシング。


作戦は成功したもののいくつかの課題が残った。


それは、異なる国籍と複雑な背景を持つ艦を抽出して戦隊を組み、それをAIで統制できるかどうか試してみようと言うものだ。


抽出されたのはイギリス駆逐艦ジャーヴィス、日本駆逐艦霞。


日本の駆逐艦でありながら、戦後は中華民国艦であった雪風。


アメリカ駆逐艦でありながらWW2後は西ドイツ艦という経歴を持つチャールズ・オースバーン、


同じくアメリカ駆逐艦にして日本海自の護衛艦という艦歴を持つヘイウッド=ありあけ。



しかし、AIを用いた最新のオペレーションシステムに対する理解が進んでいないこともあって、統制と連携は良い成績を出していない。


それで合同セミナーが行われているわけだ。


会場にジャーヴィスが選ばれたのは、彼女は最初からフロティラ・リーダーとして設計されたため、他の艦よりも司令部機能が充実しているのが理由だ。


さて、ジャーヴィスのワード・ルーム(士官室)に近づくにつれて喧騒の声が大きくなってきた。



「OH!ディスカッションが白熱しているネ!It was worth bringing these treats……差し入れを持ってきた甲斐があったネ」


「異界艦隊でもリムパック演習をやるネ!」とばかりに合同セミナーを提案したアイオワは満足そうだ。両腕に抱えたハンバーガーやドーナツ、マフィンの袋を持ち直した。


「要らぬことをするな」とばかりに消極的だったマレーヤと霧島は顔を見合わせる。


さて、ワード・ルームの扉を開けると……



「何でわたしが食事当番までやらなければならないのよ!会場を貸しただけで十分でしょ!オースバーン!」


「ここはデストロイヤー・ジャーヴィスのワード・ルームでしょ?アナタの艦なのだからワタシたちはゲスト。日本の言葉でいえばお客様は神様デス。ミー・オースバーンにかしずく執事をさっさと出しナサイ!」



「だったら会費を取るわよ?今、あなたが飲んでるミネラルウォーター、相場の八割増しね!」


「ホワット?廃棄処分ギリギリのウォーターが!?」


「"Overpaid, oversexed, and over here" マネーだけ払ってさっさと出てけ!ヤンクス!」


「言ったワネ!腐ったライム汁でも飲んでろ!ライミー!」


イギリス艦ジャーヴィスとアメリカ艦オースバーンがとてもくだらないケンカをしていた。


他の駆逐艦は二人を止めるどころか……


霞とヘイウッド(ありあけ)は我関せずとばかりに向かい合って座って将棋を打っている。


「王手ヨ、霞」


「あーっ!待った!待った!クーッ……ありあけ、あんたの棋風って振り飛車の手ばかり使って邪道だわ!」


「フフフ……防大出と対局した海兵出が同じようなことを言ってたワ。でも霞、これが大野九段が広めた戦後の将棋ヨ」


「大野九段って……大野源一四段のこと!?ウソ!あたしたちの時代は居飛車党だったのに!」


「今だけは待ったにしてあげるカラじっくり考えナサイ。でも何回やり直しても結果は同じだと思うケドナ」


盤面に向かって腕を組んで長考しだした霞。


周りが駆逐艦仲間ばかりだと思っているのか、行儀悪くスカート姿で足を立てて座っている。


「ちょっと、ちょっと霞。これはどういうことなのか説明しなさい」


霞の肩を後ろからポンポンと叩く霧島。ヘイウッド(ありあけ)は入室してきた戦艦たちに気付き、立ち上がって敬礼する。


しかし将棋に夢中の霞は気づかない。あろうことか霧島の手を背中越しにはらって


「誰だか知らないけどあたしは手が離せないの!もうすぐ雪風が倉庫から戻ってくるからアイツに聞いて!」


駆逐艦が戦艦に言うべからざるセリフ。気をつけの姿勢で立っていたヘイウッドも、ミネラルウォーターの木箱を抱えて戻ってきた雪風も目を見開いて顔面蒼白になった。


ジャーヴィス

挿絵(By みてみん)

↓

挿絵(By みてみん)



チャールズ・オースバーン

挿絵(By みてみん)

↓

挿絵(By みてみん)


霞

挿絵(By みてみん)

↓

挿絵(By みてみん)




「東郷平八郎元帥なら英米でも有名だからみんな知っているわね?その元帥がある軍艦を視察した時の話よ」


霧島の厳しい声が室内に響く。


「そのフネの水兵は、甲板掃除をしていたので元帥に敬礼を行わなかったわ。あろうことか『邪魔だからどいてください』と言ったそうよ」


各国の駆逐艦たちは一列に並んで霧島のお説教を聞いている。


「その時の元帥は叱りつけることはせずに、『ハイハイ、ごめんなさいよ』と謝って素直に道を開けたそうよ。元帥の器の大きさがわかるわね」


わたしもしかめ面を装って聞いているが、東郷平八郎なんか持ち出して話をどこに持って行くのだろうか。


「でも!元帥が水兵を赦したのは!水兵が軍務、それもつらい甲板掃除を行っている最中だったから!今のように軍務を忘れての欠礼は見逃すことはできない!……わたしの言っていること、わかった?」


各国の駆逐艦たちは下を向いて神妙に謹聴している。国同士で仲が悪くてもこういう時は連帯責任が身に付いているようだ。


「わかってくれたようね。それでは始めるわ。誰か精神注入棒を持って来なさい」


するとジャーヴィスが怪訝な顔をして

「セイシンチュウニュウボウ……マム!それは何でしょうか?」


「あら?イギリス艦の備品には精神注入棒って無いの?ほら、バットよ、バット」


「クリケットのバットならありますけど。スノーボール、持ってきて」


ジャーヴィスの愛犬、スノーボールがトコトコと部屋を出て倉庫に取りに行った。


マレーヤとアイオワは霧島とジャーヴィスのやり取りを聞いて不審げな顔になり


「バットなんて一体何に使うんだ、霧島?」


「マレーヤのいう通りネ。ちゃんと説明するネ」


マレーヤとアイオワが代わる代わる霧島に聞く。スノーボールがクリケット・バットを咥えて戻ってくる。


霧島はスノーボールからクリケット・バットを受け取ると、握り具合とバランスを確かめる。


「何って言うまでも無いでしょ?これで気合を入れるのよ。わたしたちの精神棒とは形が違うから力加減が難しいわね」


霧島は何回もバットの素振りをする。ヒュウヒュウと風切り音が鳴る。


「さ、みんな一列に並んでお尻を出しなさい。逃げようとしないように。動くとこちらの手元が狂うから却って危険よ。では最初は霞から。両足を広げて歯を食いしばりなさい」


ここに至って、わたしと英米艦は、ようやく何が行われようとしているのか気づいた。


マレーヤとアイオワは口々に叫んだ


「おい!まさか体罰じゃないだろうな!?」


「ホワット!?ヘージングHazing!ノォー!」


そして二人は霧島にしがみついてやめさせようとする。


「やめろ!霧島!ロイヤルネイビーではもう体罰はやっていない!」


「やめるネ!霧島!USネイビーでは下士官の体罰を放置したら士官も一緒に軍法会議ネ!」


「わたしたちの駆逐艦に体罰をやったら許さんぞ!」「そうね、許さないネ!」


「ちょっと!二人とも何するのよ!不正を見ても殴れないような上官なんて無いわよ!」


揉み合う戦艦組三人。


マレーヤが霧島を説得しようとする。

「いいか、霧島、確かに我々ロイヤルネイビーでも昔は鞭打ちの体罰を行っていた。しかしそれは人さらいのように水兵を集めていた時代の話だ!人権の観点からわたしたちの時代ではもう許されなくなったんだ!」


反論する霧島。

「あなたにも一理あることはわかるわ。でもね、双方納得した上での体罰なら教育効果はあるのよ!物分かりのよい上官ばかりじゃあ舐められて強い軍隊にならないわ!わたしたちは戦場にいるのよ!」


さらに霧島を説得しようとするアイオワ

「兵を壊しても強い軍隊は作れないネ!ワタシたちアメリカが戦後に日本海軍を調査したケド教育効果があると信じていたのは殴ったほうダケネ!殴られたほうは軽くて外傷、悪くすれば死亡事故ネ!ユーたちが船外作業中の事故だと記録を書き換えていたことはバレてるんだからネ!」


並んでいる駆逐艦は戦艦たちの争いに困惑している。そして気の抜けた空気が漂いはじめる。老練なマレーヤはすぐにそれを感じ取り


「HO!気を付け!今の欠礼は記録に残して勤務評定の参考資料とする!」


すると最初の殴られ役だった霞は小声で

「ゲッ...正式な処分になっちゃうんだ。殴られて終わりのほうがあと腐れなかったのに。要領よく呼吸を合わせてお尻を引けば傷は残らないのよね」


霧島は霞の小声を聞きつけたのか聞きつけてないのかわからないが

「失敗をその場で終わらせるための知恵なのにね。報告が司令部に上がったら管理不行き届きでわたしが比叡姉さまに叱られる....」


いかん、これでは教育ではなくて惰性と隠蔽のための儀式になっているではないか。わたしはついに叫んだ

「アドミラルの権限で以後の体罰は禁止だ!!」


挿絵(By みてみん)

霧島

「マレーヤやアイオワの言う事にも一理あるわ。だからやってみようじゃない。砲弾の中で日本の艦が強いか、英米の艦が強いか。あの上官はいい人だ、だからまさかこの弾の雨のなかをつっぱしれなどとは言わないだろう...と兵が舐めてかかったらどうなるかしら?」


マレーヤ

「だからそういう問題ではないと何度言えば....」




___________________________________


マレーヤが腕組みをしておもむろに口を開く。


「それで、どうしてこういうことになったんだ?」


駆逐艦たちは着席したまま黙っている。


ジャーヴィスとオースバーンが「お前が説明しろ」とばかりに視線を交わす。しかし、二人とも絶対に自分から口を開かない。



ようやく雪風が説明を始めた。


「最初はきちんとセミナーをやっていたんです。だけど、AIを使った領域横断作戦とかいう最新の戦法をいきなり勉強しても難しいので、ありあけちゃんの発案でイージスシステムをおさらいしていたら……霞ちゃんが……」


「霞がどうかしたの?」

と、霧島。


霞は目をむいて雪風を睨んだが、雪風は構わずに


「霞ちゃんが……『あたしたちはズムウォルトとかいうナメクジみたいなフネになるの?』……って」


ズムウォルトは21世紀の駆逐艦、レーダー反射面を極限まで少なくしてステルス性を高めた船型だ。


単純な平面で構成された壁面をマスメディアの一部は「SFに出てくるような未来感あふれる船影」と形容したが、第二次大戦時の駆逐艦・霞にはナメクジにしか見えなかったようだ。


その霞は恨めしげに「雪風、後で覚えてるのよ」


雪風は意に介さずに「報告はちゃんとしないとダメだよ。霞ちゃん」


霧島が「それで?」と先を促す。雪風が答える


「それで、みんなが白けた雰囲気になってお腹も空いてきたから、誰が食事当番をするかで話し合ったらご覧の通りになりました」


雪風の話はまだ途中だったが、わたしは口を出した。


「なるほど、みんながシラケた雰囲気にね・・・・そうなのかい?ジャーヴィスにオースバーン」


ジャーヴィスは口を開くと

「霞のナメクジにはお腹が痛くなるほど笑わせてもらったわ。でも今の駆逐艦ってハリネズミみたいにミサイルを積み込んでるのね。ミサイルのバリエーションも多いし。でもカードゲームだと思えばパイを切るより簡単だわ」


するとオースバーンは


「Huh? なにスノッブ気取ってるのよ、イギリス艦!アドミラル、聞いテ聞いテ。このイギリス艦はネ、アーレイバーク多目的駆逐艦の資料を見てネ、『21世紀になってもわたしたち駆逐艦はこき使われるのね』って泣き言いってたノヨ。HAHAHAHA!」


「アドミラルの前で大きい声を出すのは止めなさい、ヤンク。だけどあなたがサンプソン三次元レーダーのスライドを見た時の言葉『こんなネギ坊主をつけたら艦のスタイルが崩れるから絶対イヤ!』は霞のナメクジを越えた金メダル級だったわアハハハ!」


「ミー・オースバーンをジャップよりバカにしたワネ!ライミー!」


「褒めたのがわからないのかしら?ピロック?」


「ちょっと!黙って聞いてればナメクジには笑っただのジャップよりバカにされただの……あんたたち何かあたしに言いたいことでもあるの!?この鬼畜米英ども!」


バンバン!


アイオワが黒板を強い力で叩くと三人は黙った。ヘイウッド(ありあけ)は「ハァ」とため息をつきながらスノーボールの頭を撫でている。雪風は困った表情でわたしを見た。


わたしはアイオワを見ると

「最初期のリムパックやNATO合同演習もこうだったのではないかと思うと興趣尽きることはないが....やはり根底には21世紀の軍事技術に対する拒否感があるようだね」


アイオワはお手上げのように両手を広げながら肩をすくめた。


それだけではない。駆逐艦では旧連合国艦と旧枢軸国艦の対立だけではなく、旧連合国たる英米艦の中でも微妙な対立がある。しかも幹部たる日英米の戦艦の中でも統率をめぐって価値観が対立しているではないか。


....これは複雑だな...そう考えたわたしはある提案をした。


「少し、場所を変えようか」


挿絵(By みてみん)

ネギ坊主

https://commons.wikimedia.org/wiki/File%3AHMS_Daring_SAMPSON_is_a_multi-function_AESA_radar.jpg


挿絵(By みてみん)

ナメクジ

https://wallpapercrafter.com/1438753-warships-uss-zumwalt-ddg-1000-guided-missile-destroyer.html


アイオワ

「HAHAHA.....ステルス性を高めた波浪貫通タンブルホーム船型をナメクジ呼ばわりされたら、テストベッドを務めたシー・シャドウが泣いちゃうネ」


霧島

「そういえば日本の雑誌の「異形の軍艦列伝」で伊勢や日向が一緒にされたのであの娘たち怒っていたわ」


マレーヤ

「アドミラルが持っていた『世界の艦船』2016年8月号か。当然のごとくネルソンたちも入れられていたが本人には見せられないな」


アイオワ

「建造計画は空中に浮いてるケド、ステルス船型以外にも多くの新機軸を入れたUSAのフロンティアスピリットが形になった艦なんだからネ!」


ジャーヴィス

「時代が変われば少しは楽になるかと思ったら、ミサイルを100本近く積まされて、空母のガードからミサイル防衛、対潜水艦まで全部一隻でやれって!? 結局21世紀になっても駆逐艦の扱いって変わってないじゃないの!」



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挿絵(By みてみん)

雪風






駆逐艦ジャーヴィスのワードルームから甲板に場所を変えたものの、どう決着をつけたものか……


わたしが困っていると、ありあけ(ヘイウッド)が耳元に口を寄せて囁く。


「大丈夫ヨ、司令官。ワタシに任せて」


アメリカから創設間もない海上自衛隊に貸与された、青い眼の護衛艦。ここは彼女に頼ってみるか……


「わかった。一つ、やってみてくれ」


わたしは精一杯の威厳を装って彼女に命令した。


さて、お腹が空いているとイライラも押さえられなくなる。アイオワの提案でパワーランチ、差し入れを食べながらミーティングを続けることになった。



甲板にパイプ椅子と机を並べ、みながドーナツやマフィンを食べているなか、司会のありあけ(ヘイウッド)は開口一番。


「いきなりイージスシステムから始めたのはワタシの失敗だったワ」


その場の皆を見渡して


「アナタたちの頭ではもっと昔のミサイル艦から始めたほうが良さそうネ、では霞」


「何よ」霞はムッとした顔をする。ありあけはそれに構わずに


「第一問!連合艦隊もし海上自衛隊と戦わばどちらが勝つか!代表選手は一万トン級重巡の鳥海サンと3000トン級護衛艦のたかつきチャン!」


鳥海vsたかつきだって?突然昭和のミリタリーマニアが喜びそうなことを言いだすありあけ。


「ワタシの現役時代にマスコミで騒がれていた話ヨ。"それは私です!"さっさと答えナサイ!」


昭和30~40年代の人気クイズ番組の定番セリフまで持ち出して得意そうだ。しかし、霞は即答した。


「そんなの護衛艦に決まってるでしょ。あたしたちの時代だって駆逐艦や潜水艦の魚雷で重巡や戦艦がドカチンと沈められてたのよ。新型の駆逐艦だったら瞬殺に決まってるじゃない」


机に突っ伏すありあけ

「さ……さすがアメリカのライバルだった帝国海軍の駆逐艦……こちらの思う答えは出してくれないワネ……」


「エー!」わざとらしい声が響く。雪風だった。


「エー!ユキカゼハ、鳥海サンの圧勝ダトオモッテイタヨ」


ありあけはホッとした顔になって

「どうしてそう思うノ?雪風?」


「だって鳥海さんの主砲は8インチ、たかつきちゃんの主砲はたった5インチだよ。これでは撃ち合っても勝負にナラナイヨネー」


「雪風、あんた、何で海自の護衛艦の主砲の要目まで知ってんのよ?」


霞の疑惑の声がする。何の事はない。雪風もありあけと同じく70年代まで健在だった艦だ。彼女は中華民国艦として米軍との軍事交流を経験し、戦後の軍事技術の発展を実体験として持っている。ありあけの言いたいことだって承知だろう。


ありあけはすっとぼけて話を続ける


「今、雪風は良いことを言ったワ。確かにたかつきの主砲は5インチ砲二門。だけどここに技術革新があるノ!」


ありあけは机をバン!と叩くと


「たかつきちゃんの主砲の最大射程は2万3000メートル!そして自動砲弾運搬装置で毎分35発!わずか二門の砲で毎分70発ヨ!そしてこれにレーダー管制が加わるワ!!手数と命中率で上部構造物を破壊された鳥海さんの敗北ヨ!」


みな多少は息を呑まれたようだ。しかしさすがは実戦経験豊富な駆逐艦たち。


すかさずジャーヴィスが

「だけど、重巡ではなくて戦艦が相手だとどうなるのよ」


そしてオースバーンが

「そうヨ。それにミサイル艦はどうなったのヨ。ミー・オースバーンは68年に眠りについたケド、その時は水上艦のミサイルは防空で、遠距離攻撃は空母と艦載機の仕事だったワ」


ありあけはうなずくと

「アナタたちの質問には二つ一緒に答えるワ。それがヨジボウ!昭和47年に発表された自衛隊の第4次防衛力整備計画!」


すかさず雪風が大声で

「ヨジボウ!それは何なの!?説明して!ありあけちゃん!」


霞やジャーヴィス、オースバーンが疑惑の目で雪風を見る。"お前知っててわざと大げさに言ってるんじゃないか?" 


雪風はハッ!とした顔になって


「本当に知らないよ!雪風が台湾で聞いたのは民国56年に発表された三次防まで!それからすぐに眠りについたんだから!」


わたしは「わかった、わかった」と雪風に目で返事をする。そして彼女に代わって


「それで第四次防衛計画が海自護衛艦と旧軍の戦艦との要目の比較、及びミサイル艦の導入とどう関わると教えてくれ、ありあけ」


ありあけは頷くと

「司令官はミスター・中曽根康弘を知っている?」


…...知らいでか。「戦後日本の総理大臣の中でも重要人物じゃないか。国鉄民営化や日米同盟の強化という政治的遺産を残した。そして....わたしが通っていた小学校でのあだ名はバーコード頭」


......中曽根康弘の総理在任はわたしの小学校時代と重なるが、小学生にもあだ名をつけられるほど有名だったということだ。


ありあけは飲んでいたコーヒーを吹き出しかけると


「....最後だけは余計ダワ。四次防は防衛庁長官時代のミスター・中曽根が頑張ってくれてネ。カレは自主防衛路線...自衛隊の戦力を出来る限り強化しようとしたノネ。その一つが対艦ミサイル搭載護衛艦の開発ヨ。有名なあまつかぜは対空ミサイルだけだったカラ」


「なかなか戦艦にはたどりつかないわね」霞が軽くアクビをする。雪風が軽く睨む。


ありあけは「もうすぐヨ、霞」と言ってから

「この四次防で計画された艦対艦ミサイルはね、計画では射程距離60キロメートル!」


すると霞が驚愕の表情を浮かべる。ありあけはやっとわかったかという顔をして


「そう、世界最強の戦艦の一つ、大和級の46センチ主砲の41キロメートルを上回る長射程ヨ。これは何を意味するカシラ、霞」


「えーと、アウトレンジができるから艦隊決戦の時には絶対的に有利だわ」


ありあけは頭を振る

「ダメダメ、艦隊決戦主義を捨てて海上防衛を面でとらえるノヨ。機動力のある護衛艦が長射程兵器を装備するということはネ、南鳥島から尖閣列島まで東京を中心とした半径千キロの圏を海自独力で防衛できるという事ヨ。そして、日本のシーレーンであるマラッカ海洋近海、果てはインド洋までも制圧できることになる!...まあ、今、わたしが言ったことは可能性の話で、オイルショックのために対艦ミサイル搭載艦の開発は中止になっちゃったケドネ」


わたしはありあけの言葉を受けて

「キミの話は1970年代だ。2026年から見れば半世紀過去の事だから現在の軍事情勢とは異なる。だが、キミの話の教訓は最新の軍事技術を導入すれば取り得る戦略的選択肢も増えるということだね。現在のウクライナも衛星通信システムとドローンを用いることでロシア国内の奥深くまでの空襲が可能になっている。これは戦前のウクライナの軍事ドクトリンには無かったことだろう」


パチパチパチ....いきなり拍手の音がする。それは後ろで黙って聞いていたアイオワだった。


「さすがはワタシたちのアドミラル!百点満点の答えネ!さ、みんなサッサと軍事AIのテクノロジーを覚えるネ!」


ところがありあけや雪風を除いた駆逐艦たちは相変わらずシラケた雰囲気だ。「でもねー」という顔付きをしている。


霞がポツリと「何だか学校の講義みたいだったわ。わたしたちの世界じゃないみたい」


…...確かにそうだ。わたしだってもっともらしい結論を出してアイオワが大げさに褒めてくれたが、頭の中で適当に作文しただけだ。


ふとありあけを見ると、彼女は机に突っ伏している。


「みんな、ワタシの言いたい事はココからヨ。第一次防衛計画から第四次防衛計画まで海上自衛隊は発展したワ。だけどネ、新しい新顔の護衛艦が次々と竣工してわたしはどうなったと思ウ?第1護衛隊から第2練習隊、実用実験隊とどんどん第一線から外され、姉妹艦のリチャード...ゆうぐれと一緒に仲良く都落ち....そして兵装だって"たかつき”が最新のMk 42 5インチ砲や71式ボフォース・ロケット・ランチャーをつけていたのに!わたしはずっと旧式のMk 12 5インチ砲やMk.108対潜ロケット発射機のママ....」


すると雪風もポツリと

「雪風も中華民国艦だった最後の頃はね、人民解放軍に対艦ミサイル艇が配備されるようになってね。駆逐艦エイラートを撃沈したコマール型ミサイル艇ではもう雪風じゃあ相手にならないだろうと言われて....淋しかったな」


みんなシーンとした雰囲気になった。長い長い間、ずっと黙っていた。


やがてありあけは机から顔をあげると


「でもネ、実用実験隊に配属された時は傷ついた心が救われたワ。T‐101ソナーの実用試験、最新のテクノロジーに関わることができて、まだまだ第一線部隊のみんなとつながっていると思えたモノ。わたしが眠りについた後でT‐101ソナーは制式化されて、ヘリコプター護衛艦しらねにも装備されたって知った時は嬉しかったワ」


やがてありあけはみんなを見てニッコリと笑い


「だからネ、新しい装備を任された時はネ、自分は旧式だからと研修を面倒くさがってはダメ。生きがいを得るチャンスを掴むノヨ」


みんなの顔がパッと変わった。ジャーヴィスが


「じゃあ、これからAIのセミナーを続けましょう」


スノーボールが鳴き声をあげる。しっぽを高く立ててトコトコと船室への入り口に向かう。


かくして、スノーボールに先導されてみんなはワードルームに戻って行った(この章終わり)



挿絵(By みてみん)

ありあけ

後書き


霧島

「部下への鉄拳制裁を止めさせようとするマレーヤやアイオワにも一理あるわ。だからやってみようじゃない。砲弾の中で日本の艦が強いか、英米の艦が強いか。あの上官はいい人だ、だからまさかこの弾の雨のなかをつっぱしれなどとは言わないだろう...と兵が舐めてかかったらどうなるかしら?」



ジャーヴィス

「マレーヤさんがいい人?」


オースバーン

「アイオワさんがいいヒト?」


霧島

「あら?あなたたちのところでは統率はどういうふうにしてるのよ?」


ジャーヴィス

「マレーヤさんはその場では注意するだけですけど、後から減給処分です。それも忘れた頃に」


オースバーン

「アイオワさんだったら軍事法廷ヨ。もちろん駆逐艦仲間が弁護人になるケド、戦艦だけに搭載された重課金AIで有罪立証を行うから絶対に勝てないワ」


霞

「ゲッ・・・・!長々とお説教食らった後で処分を受けるの?そっちのほうがずっと陰湿じゃない」


霧島

「ね?殴るほうも殴られたほうもあと腐れがないほうがいいでしょう?それに殴る方だってあまり締め過ぎないよう、これでも気を配っているんだから」



マレーヤ

「だからそういう問題ではないと何度繰り返したらわかってくれるんだ……」


霧島

「もちろん、新米士官がやってしまうように兵下士官を安易に殴るのは論外よ。だからこそ上官は『この人になら殴られるのも理由がある』そう部下が納得するぐらいに自己を修養しなければならないのよ」



霞

「あたしも雑木林の駆逐艦の子たちを仕方なく殴る時があるけど、殴った方の拳だって痛いのよ。握ったゲンコツが涙で濡れる時だってあるわ」


アイオワ

「OH……これは重症ネ。困ったネ」


雪風

「あのー」


マレーヤ

「ん?何だ雪風」


雪風

「んー……戦後、雪風が特別輸送艦を勤めた時に、機雷敷設艇だった巨済ちゃんと話したことがあるんですが」


霧島

「特別輸送艦って復員輸送任務に従事した?」


雪風

「はい。復員船ってもう海軍じゃないから、乗組員は簡単に退艦できるんです。他の仕事が見つかったとか、田舎に残した親が心配だとかで一航海が終わると櫛の歯が欠けるように……」


霞

「何よそれ?規律も何もあったもんじゃないわね」


雪風

「それでね、霞ちゃん。その時の巨済ちゃんの艦長がこう言っていたそうだよ『自分の意に合わないからと言って簡単に殴るような艦長では絶対に通用しない。上下に暖かい血の通った信頼関係があってこそ困難な任務が可能になる』ってね。海兵68期のまだ若い艦長さんだったけど」


マレーヤ

「ほらみろ、我々老兵が若者に教えられたじゃないか霧島」


アイオワ

「OH!そのヤングネイビーが後の海自を背負って立つようになるんだネ!どこの国も若い力が育ってるんだネ!」


霧島

「……」


比叡

「ここにいたのね、霧島」


霧島

「(一礼)どうなさったのですか、比叡姉様」


比叡

「あなたに対する霞の欠礼についての報告を受けたけど、最近は駆逐艦たちの欠礼が増えているようね。締め付けすぎる必要はないけど規律の弛緩が常態化したら統率の危機よ。しっかり見ていてね」


霧島

「……!姉様のお心を煩わせるなんて、面目次第もありませんわ。これから善処させて頂きます」


比叡

「期待しているわ(ニコッ)…………それでは両足を開いて歯を食いしばりなさい!!」


ジャーヴィス

「うわー。グーパンチが顔面に入ったじゃない」


霞

「比叡さんって、あたしたち駆逐艦にはめったに手を上げないけど、妹艦の榛名さんと霧島さんにはやたら厳しいのよ」


アイオワ

「お説教からシームレスだったので止められなかったネ」


マレーヤ

「まったくだ。まるでセレモニーを見るようだったな。……これは根の深い問題だぞ」


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