46. 現代テクノロジーと異界艦隊
人間界と異界の境界に基地を作っているアメリカ艦。彼女たちを訪問した、アドミラルたるわたしが率いるイギリス艦・日本艦の異界艦隊は現代テクノロジーを用いた新兵器のレクチャーを受けることになった、
前回からの続き
「現在は世界史規模でパワーバランスの大変動が起きている。その中でアメリカは本当に大丈夫なんだろうね?アイオワ」
「........メイビー......」
重苦しい空気が流れる。
「あ、そうそう提督。中国艦の逸仙にお土産を買っていきたいけど何だったら喜んでくれると思う?」
わざとなのか素なのかわからない霧島のボケが炸裂した。
「霧島.....今の文脈で日本艦のキミがそんな事を言うのかい?」
霧島は片手をふって答えた。「もちろん冗談よ。アイオワのメイビーの後にみんなが黙っちゃったから場の空気を変えたかっただけ」
アイオワはパッと明るくなって
「アメリカと日本の安全保障条約は太平洋のキー!アメリカと日本はズッ友ネ!」
すると霧島は天井を仰いで一言だけ呟いた
「メイビー......」
「オーノー!ジョークはアジア版NATOだけにしてほしいネ!」
そこへイギリス戦艦マレーヤが一喝
「いつまで下らない政治コントをやっているんだ!早く本題に戻るぞ!!」
そこへよせば良いのにわたしが口を出す。
「いや、最近のSNSでは中華に対する敗北宣言のような日本語投稿が出てくるようになった。今は自国への不平不満のダシで持ち上げているようなものだがこの先はどうなるのか……」
そこまで話したところでイギリス空母ヴィクトリアスが怖い顔でわたしを睨んでいるのに気づいた。
慌てて口を閉じるや間髪入れずにアメリカ軽巡ナッシュビルが機器をいじって空中に会議のパワーポイントを映し出す。
これで話は本題に入る。やれやれ。
ナッシュビル
ナッシュビルが機器を操作して次々と室内にスクリーンを映し出す。
「オーケー。青のスクリーンがイギリス・日本艦が持って来てくれたギフト、赤のスクリーンが我々アメリカ艦からのプレゼントよ」
有能なビジネスウーマ……じゃなかったパーソン然としたナッシュビル。どことなく某FBI捜査官を連想させる風貌だ。
しかし双方が持参する戦略物資をギフトやプレゼントと言い換えるとは上手い。アメリカ人は単純直截な言い方を好むとは昭和のデマだったようだ。
そしてマレーヤが説明する。
「こちらが輸送船団を組んで運んだのはナフサと精製済みのレアアース。みな異界鉱山から掘り出したものだ」
霧島が補足する。
「ナフサを運んだ輸送船は一隻が怪獣の襲撃で沈んだけどね、後は無事よ」(第38話参照)
アイオワは親指を立ててそれに応じた。
「グレート!ナフサの価格もまだまだ落ち着かないからネ!困ってるジャパンの会社に高く売り付けてやれるネ!」
……わたしはこれでも現代日本人なので複雑な表情になる。
そんなわたしに気づいたアイオワは、わたしの肩をポンポンと叩き
「ドーント・マインド!安心するネ、アドミラル!どうせ政府からマネーが出るからネ、一般ピープルが暮らしに困ることはナッシング!」
……まだ納得できないところは多々あるが、とりあえず先を促す。
「ワタシたちアメリカ艦からのプレゼントは軍隊から横流しされた最新兵器!ミサイル、ドローン、そしてAI意思決定支援システムの三点セット!」
アイオワの声に合わせるように、ナッシュビルが目録を空中に映し出す。
それを見ていた霧島が
「あら、トマホーク・ミサイルもあるのね。これで我が異界艦隊もトマホーククラブの仲間入りね」
マレーヤも満足そうに
「AIが搭載されたCICキットか。わたしもこの内容で異存は無い」
アイオワはポンと両手を打ち合わせると
「これでビッグ・ディール成立ネ!アドミラル、証人としてサインするネ!」
かくしてわたし、アイオワ、マレーヤが議定書にサインする。
全ての手続きが終わった後でアイオワは言った。
「ただ武器を渡してもミーニングレス!習熟するための演習をこれからやるカラネ!まずは駆逐艦たちのエキジビションマッチ!」
アイオワ
アメリカ艦基地の港に米・英・日の駆逐艦が集結している(国名はアルファベット順)。
船にはハープーンミサイルが搭載され演習の開始を待っている。
埠頭に整列して点呼を終えた駆逐艦の人間体にナッシュビルがポケットWiFiを配っている。
「イイ?戦艦アイオワには意思決定支援のための生成AIが搭載されているワ。演習中は常時これを作動させてアクセスするコト!」
ちなみに戦艦マレーヤ、戦艦霧島、空母ヴィクトリアスは現在、ドックでCICの搬入とAIのインストールが行われている。三隻の人間体だけがアイオワに乗り込んで演習を統監する。
駆逐艦たちはすぐにポケットWiFiの電源を入れて作動を確認する。
霞が手を上げて質問する。
「このポケットWiFiの耐久性を教えてください。前の戦争の時に使った電探はすぐに壊れて使い物になりませんでした。この機械だって武人の蛮用に耐えられるかしら?」
……そうだ。第二次大戦中に日本海軍はレーダーを導入したのだが、内部の真空管が故障する事故が続出したのだっけ。
腐っても列強の一角だけあってレーダーの技術そのものは開発されていた。
だが、研究室と戦場で荒っぽく使われるのとではあまりにも条件が違いすぎたのだ。
ナッシュビルは表情を変えることなく
「テクノロジーの歴史はイノベーションの歴史なのヨ、霞」
そう言って霞のポケットWiFiを取り上げると地面に叩きつけた。
それから自分の愛銃コルトガバメントの引き金を引くや、ありったけの銃弾を命中させてから霞に返した。
「……異常ありません」
そう呟いた霞にうなずくナッシュビル。
「これは我々アメリカ艦が開発した特別アイテム。海水に六ヶ月以上漬かっても大丈夫ダカラ」
ナッシュビルは念押しした後にアイオワを見る。
アイオワはナッシュビルの視線を受けてアメリカ艦の合い言葉を唱える。
「Victory Belles!More than meets the eye!(私たちは軍艦乙女!たおやかな見かけに騙されないで!)」
演習開始だ!駆逐艦たちの人間体はそれぞれ自分の艦に搭乗するや、エンジンを作動させた。
わたしはアイオワ、マレーヤ、霧島、ヴィクトリアスとともに戦艦アイオワの艦橋でそれを見守る。
アメリカ駆逐艦・チャールズ・オースバーン(リトルビーバーズ戦隊指揮艦)
日本駆逐艦・霞(ちょっと髪が伸びた)
その時、突然それは起こった。アメリカの駆逐艦……リトルビーバーズを中心とする戦隊が集団で霞の進路妨害を始めたのだ。
「この前のお返しよ!イエロージャップ!」(44話参照)
通信からリトルビーバーズの戦隊指揮艦であるチャールズ・オースバーンの声が響きわたる。
ここは人間界とは違う。しかし、イエロージャップはポリティカル・コレクトネス的に不味い!
「まだ根に持ってんの!?しつこいわねあんた!」
霞が叫ぶ。続いてオースバーンが言い返す。
「ミー・オースバーンはしつこいのが信条ヨ!」
「霞ちゃん!」
「ヤメナサイ!」
日本駆逐艦雪風やアメリカ駆逐艦ヘイウッドが叫ぶ。
ヘイウッドはアメリカ艦だが戦後に海自に貸与された経歴を持つので日本艦である霞を助けようとする。
しかし二隻ともリトルビーバーズに阻まれて近づけない。
霞はリトルビーバーズの進路妨害を実戦慣れした操艦術でかわしていたが、実戦慣れなら相手だって勝るとも劣らない。次第に不利になっていく。
リトルビーバーズの中の一隻が叫ぶ。
「チャーリーが西ドイツ艦時代に覚えてワタシたちに仕込んだウルフパック戦術!逃げようとしたってMUDA MUDA MUDA!」
すかさず怒鳴るオースバーン。
「Rudeltaktik (集団戦術)!早く正しい名前を覚えなさい!」
……何故、アメリカの駆逐艦がドイツの潜水艦ユーボートの戦法を?そういえば、チャールズ・オースバーンは戦後に西ドイツに貸与され、そこで彼女の指揮を取ったビューロー・カピテーン(キャプテン)は有名なユーボート乗りだった(44話参照)。
て、こんなことを考えてる場合じゃない。戦艦アイオワの艦橋から見ていたわたしは我に返って演習を統監している主力艦たちに怒鳴る。
「早く止めないと!」
霧島は平然と答えた。
「駆逐艦同士の揉め事はあの娘たちの間で処理するのが、この異界艦隊の不文律よ、提督」
マレーヤも
「ここで助けても霞が甘く見られるだけだ。却って彼女のためにならないだろう」
アイオワは
「問題ナッシ~~ング。ワタシたちのトップガン・リトルビーバーズと恐るべき強敵だった日本のデストロイヤー。最悪の結果にはなるはずがないネ。これはメイビーではないカラネ!」
「しかし……!」と言いかけたら通信からオースバーンの怒鳴り声が聞こえた。
「雪風!あんたのことはベンソンから頼まれてるからネ!手出ししなければ許してヤルワ!」
ハッとする雪風
「ベンソン?……ハッ!洛陽啊!中国海軍での戦友の気持ちはありがたいよ!でも霞ちゃんを放ってはおけない!」
雪風は無理に包囲陣の中に割って入ろうとする。その時、霞が叫んだ。
「雪風!これはあたしに売られたケンカ!あたし一人でカタを付ける!」
「だめヨ!霞!リトルビーバーズを甘く見ナイデ!」
とヘイウッドの焦った声。
「手こずらせたケドもうすぐオワリ!最悪の結果になる前に機関を停止して白旗をあげなさい、イエロージャップ!」
「誰が!」
霞は吠えたが、オースバーンの言った通り、リトルビーバーズのRudeltaktik (集団戦術)は成功しつつある。
その時……イギリス駆逐艦の戦隊からスピーカーで
「生成AIを使いなさい!……これは独り言だからイギリスが中立を破ったのではないですよね!マレーヤさん!」
それはジャーヴィスだった。
しかし頑固な霞は言うことを聞かない。
「せいぜいええ愛なんて胡散臭いものに頼れるか!」
雪風が半分涙声で
「お願いだから生成AIを使って霞ちゃん!」
坊ノ岬沖海戦の戦友の懇願を受けて霞は渋々ながら生成AIにプロンプトを入力する。
するとアイオワの司令室に搭載されている意思決定支援システムが情報の収集と分析を行い、生成AIが回答を出す。
……ようこそ霞さん。リトルビーバーズはドイツ海軍の集団戦術を用いていますが、それはアメリカ海軍のウルフパックに比べると各艦の連係に欠点があります。今から対策をお伝えします……
生成AIはリトルビーバーズの連係の隙を次々と指示する。それは廬山昇龍波が放たれる一瞬の隙よりもさらに一瞬だったが、霞は包囲網から脱出した。
歯噛みするオースバーン。
「シット!ビューロー・カピテーンの名誉を傷つけるわけにはいかない!生成AI!あのイエロージャップを叩きのめす戦法を教えるノヨ!!」
わたしは思った。AIは感情に左右されないから残酷なまでに効果的な殲滅作戦を……
やがてAIの解答が提示された。
……今のあなたのプロンプトにはポリティカル・コレクトネスに反するワードが含まれています。あなたの質問には解答できません……
イエロージャップがポリコレにひっかかったのだ。意外な展開にブラックジョークを感じたのか、ヴィクトリアスはプッと笑いかけた。慌てて口元を手で押さえる。
「ガッデム!AIなんて大事な時には役に立たない!」
オースバーンはそう吐き捨てるや、かぶっていたセーラーハットを自分の艦の床に叩きつける。
アイオワは肩をすくめて苦笑する。
マレーヤはそんなアイオワに向かって
「いや、少し予定が狂ってしまったが、AIの使用を考える上でなかなか興味深かった。さあ、演習を続けよう」(続く)
アメリカ駆逐艦ベンソン(1954年より中華民国に貸与されて艦名は洛陽。人間体は華人系)
後書き
日本駆逐艦・雪風
「危なかったね、霞ちゃん」
日本駆逐艦・霞
「フン……ま、『せいぜいええ愛』とやらもちょっとは役に立つじゃない」
アメリカ駆逐艦ヘイウッド(海自護衛艦・ありあけ)
「ちょっとどころじゃないワ。今までのC.I.Cはネ、1. スタッフによる情報収集と分析→2. 集約→3.艦長への上申→4.判断というプロセスだったデショ?でもAIを導入すれば1から3までが圧縮されて決断のスピードが上がるのヨ」
霞
「何言ってんの。あたしたち帝国海軍の駆逐艦では情報の集約も決断も全て艦長一人が瞬時にやっていたのよ。経験と勘でね。それを今さらAIが?……そうか!時代がようやくあたしたちに追い付いたのね!」
ヘイウッド(ありあけ)
「……霞、C.I.Cが導入される前はアメリカもイギリスもそうだったノヨ」
雪風
「ん-……でも霞ちゃん、あの戦争では一人であれもこれも押し付けられて、艦長さんたちかなり参ってたじゃない。途中で病気になる人も多かったし」
ヘイウッド(ありあけ)
「戦後にワタシに乗り込んだ帝国海軍の生き残りが言っていたワ。『難しい操艦はみんな艦長にやってもらった』『フネを自分の手足のように操ってこそ部下はついてくる』……日本の駆逐艦の艦長は部下からの信頼を得るために無理をしていたヨウネ。その苦労が名艦長を育てたのかも知れないケド、誰もが名艦長になれるワケジャナイ……」
霞
「…………」
アメリカ戦艦・アイオワ
「ヘイ!デストロイヤーズ!AIのメリットは個艦の指揮だけじゃないネ!AIが使えるのは戦略レベルのキャンペーン。広大なフィールドに散らばる攻撃目標の優先順位をライトニングスピードで弾き出すことができるんダカラネ!」
雪風
「それはすごいですね。ミッドウェーの戦いにAIがあったら目標を絞ることができたかな……」
アイオワ
「オフコース!これからはワタシたちの経験した戦争はまるで石器時代の戦争になっていくネ!時代はまさにAIファースト!」
霞
「................」
ドカーン!
雪風
「ケホッケホッ……敵襲!?」
霞
「カーッ……ペッ!索敵班はどこを見ていたのよ!」
ヘイウッド
「ゴホッゴホッ……ダイジョウブ、これは味方の誤射。次弾は来ないワ」
アイオワ
「コラーッ!フラッグシップのワタシに向かってハープーン・ミサイルをぶちこむなんてドコのバカNE!場合によっては軍事裁判にかけてやるネ! 」
オースバーン
「ミー・オースバーンは悪くないワ。AIが出した座標に従っただけヨ。もし裁判になったら上官命令による免責を主張するワ。ミー・オースバーンの反対を無視してAIを導入したのはアイオワさんデショ?」
アイオワ
「AIの出した目標は必ず自分の目で確認するコト!これは何度も言ってるネ!これからは誤射をAIのせいにしても免責されないんだからネ!」
雪風
「ん-……新しい技術が作られてもいろんな問題が出てくるね。昔、帝国海軍が航空機を使った時よりややこしそうだよ……どうしたの?霞ちゃん?急に笑いだして」
霞
「フフフ……そうよ、そうだわ。最後に頼れるのは自分の目よ。だから帝国海軍は目視力を鍛えたのよ。戦争に負けたとはいえ、あたしたちのやり方は間違っていなかった!」
ヘイウッド
「……ナンダカ妙な自信がついてしまったようで困ったワ……最後の判断と責任は人間という事ナンダケド....」




