44. アメリカ艦とのランデブー(アメリカの現実?)
アメリカ海軍駆逐艦チャールズ・オースバーン (DD-570)
........1960年から67年にかけて西ドイツ海軍でZ6(Zerstörer 6 = 第6号駆逐艦)として就役。
アメリカ海軍駆逐艦ヘイウッド・L・エドワーズ (DD-663)
........1953年から74年にかけて日本海上自衛隊で護衛艦ありあけとして就役。
※両艦とも第二次大戦の活躍で多くの勲章を授かった武勲艦である。
「アイオワ、わたしはもう一度キミやアメリカ人の底抜けの明るさと理想主義に賭けて見たくなったよ」
「I'm over the moon! 嬉しいネ!アドミラル、ワタシたちのことをわかってくれたノネ!」
アイオワは喜びで満ちたような陽気な声を出す。声だけではなくてわたしの頭に両手を回すと自分の豊かな胸に抱えこんだ。
外の暑さに比べると店の中はクーラーが効いていてひんやりしている。それだけにアイオワの身体の暖かさが心地よい。
ああ……久しぶりに安らいだ気分だ。このまま彼女に身も心も任せていられたら……
♬Are you sleeping, Are you sleeping, Brother John? Brother John? Morning bells are ringing, Morning bells are ringing. Ding, ding, dong. Ding, iding, dong.♬
どこからともなくアメリカのカトゥーンで流された子守唄が聞こえてきた。わたしが子どもの頃に親しんだ唄だ。次第にわたしの意識が遠くなって行った時、誰かがわたしの肩を後ろからチョンチョンとつついた。
「ちょっとちょっと提督、連日の酷暑で疲れているのはわかるけどね、こっちの世界に戻って来てちょうだい。あちらが大変なことになってるわよ」
……わたしを引き戻したのは霧島だった。わたしはアイオワから身体を離す。アイオワは残念だけどしょうがないかという表情になった。
大変なことになっているとは何だろう。そう言えばさっき誰かがドライブインの中に入って来たような(前回参照)
わたしが店を見渡そうとすると
「ちょっと!そこはわれわれリトル・ビーバーズの座る場所よ!ジャップはどきなさい!」
突然甲高い声が店の中に響きわたる。自分のことを言われたのかと思わず席を立とうとする。マレーヤと霧島とアイオワの三人がわたしを押さえる。
アドミラルがそんな卑屈な態度ではいけないのだが、小市民の育ちがついあらわれる。
「そうか。あれが有名なリトル・ビーバーズか。」
「知っているの?マレーヤ?」
マレーヤと霧島が言葉を交わす。
するとアイオワが誇らしげに
「イエス。あれがワタシたちアメリカ海軍(USN)でトップガンの第23駆逐戦隊。太平洋で活躍した通称リトル・ビーバーズ、覚えておいてあげてネ」
「思い出したわ。あの娘たちが大波たちがやられた……でもジャップなんてたいがいな言い種ね」
霧島のとがめるような視線と言葉にアイオワは平然として
「口が荒いけど彼女たちはプロの軍人だからネ。アドミラルや霧島の命令にはきちんと従うから安心シテ。ホラ、真ん中にいるのがリーダーのチャールズ・オースバーン 」
アイオワが目で示した方向を見ると、駆逐艦の一団が固まっている。その中心にいるのはブロンドの髪がライオンのたてがみのようになった少女。あれがチャールズ・オースバーンか。
オースバーンが腕組みをして睨んでいるのは、ヘイウッドと一緒にハンバーガーやポテトをつまんでいる霞や雪風たち日本の駆逐艦だった。
「ちょっと、ジャップがミー・オースバーンの席に座っているなんてどういうこと?答えなさい!ヘイウッド!」
再びオースバーンのジャップ呼びを聞いて顔をしかめる霧島。
マレーヤはハンバーガーのソースやチーズで汚れた手をナプキンで拭きながら
「アドミラル、これからは理想ばかりではない現実のアメリカを見ることができるぞ」
チャールズ・オースバーン
オースバーンはブロンドの髪を誇らしげにかきあげて霞たちを見下ろす。
血の気の多い霞が顔色を変えて立ち上がろうとするとヘイウッド(ありあけ)が手を振って彼女を押さえる。そしてオズバーンたちに向かって
「彼女たち日本の駆逐艦はわたしたちのスペシャルゲスト。そして今日のランチタイムはドライブインのダイニングは貸し切り。通達が出ていたデショ?」
「チャーリー、確かに司令部から通達が来ていたわ。別の場所にイキマショウ」
オースバーンの横からブロンド髪の少女がささやく。
ヘイウッド(ありあけ)は機を逃さずに
「ダイソンの言う通りヨ。それともう一つ、日本は人間界でも我がアメリカ海軍の最重要な同盟国ヨ。彼女たち日本艦をジャップと呼ぶのはガイドラインで禁止!忘れたの?!チャールズ・オースバーン!」
するとオースバーンはヘイウッド(ありあけ)をギロッと睨んで
「わかったわ!ジャップとは呼ばないでおいてあげる!でもあんたもすっかり黄色くなったわね!ブロンド髪じゃないから仕方ないか、このウィーブweeb(日本かぶれ)!それともハーフジャパニーズと言われたほうが嬉しい?ヘイウッド・L・エドワーズ!」
ブラウンの髪をしたヘイウッドは一瞬、怒りで顔を青黒くしたがすぐに冷たいまでの白色の肌に戻ると
「ワタシがハーフジャパニーズならアナタはどうなのカシラ?ワタシたちフレッチャー級の多くは戦後に同盟国に貸与された。ワタシは日本、アナタは西ドイツ」
わたしはバッグからタブレットを出して資料を確認する。フレッチャー級駆逐艦でリトル・ビーバーズに所属した艦だけでも、オースバーンとダイソンとクラクストンは西ドイツ、オーリックはギリシャ、コンバースはスペインか。完成度の高い駆逐艦と言われただけあって戦後も活躍しているのだなあ。
そしてヘイウッドに視線を戻すと彼女の肌の色はますます冷たくなっている。
「そして、こちらに生まれ変わった時のアナタ、すっかりゲルマノファイル(ドイツかぶれ)になってたワネ。みんなに柏葉付騎士鉄十字章を見せびらかしていたジャナイ。西ドイツ艦時代のアナタの艦長オットー・フォン・ビューロー・キャプテンが戦時中にヒトラーからもらったってイワクつきのアレ」
それを聞いたイギリスの駆逐艦たちは呆れた顔をした。そして彼女たちを代表してジャーヴィスが一言。
「それはあまりにも恥ずかしい。タイガー戦車をティーガー(Tiger)と訂正して回るよりも重症ね」
あわててジャベリンがジャーヴィスを肘でつつく。
「(みんながそう思っていても言ってはいけないことがあるの!)」
ウッという顔をしたオースバーン に向かってヘイウッドは畳み掛けるように
「マ、ただのドイツ軍狂Wehrabooならゴアイキョウ。でもね、アナタ、『わたしのブロンド髪は白色アリアン人の証拠』と自慢して回ったジャナイ。すぐに部隊から厳重に隔離されて徹底した思想調査を受けたのを忘れたノ?」
マレーヤはギョッとした顔をしてアイオワにささやく。
「わたしはさっきアメリカの現実といったがここまでとは思わなかった。白人至上主義がナチズムと結びついたら笑いごとではすまんぞ。貴艦たちは大丈夫か?」
霧島もアイオワに
「ウチの国もドイツかぶれ、ファッショかぶれは他所様のことは言えないけどね。井上成美大将曰く、オッチョコチョイの上にもう一つチョイがつくってね。でもオタクの教養教育はちゃんとやってるんでしょうね」
アイオワもさすがに声を潜めて
「オースバーン の場合は夢見る年頃の女の子が口が滑ったダケ。ANP系の政治団体とつながりが無いことはハッキリしているわ。教育のほうは……ファシズムとソーシャリズムは自由主義の敵だというフリードマン経済学のサマリーをちゃんと教えているから問題ナッシング」
わたしもつい生かじりの知識を口に出してアイオワに尋ねた。
「日本人であるわたしにとってはだ。新自由主義の源流の一つとなったフリードマン経済学も極端に思えるのだが……本当に大丈夫なんだろうね?」
するとアイオワは「問題ナッシング!」と言った後でわたしたち三人から目を反らして小声で
「……メイビー……」
それを耳さとく聞き付けた霧島。
「あっ!あなた今メイビーって言ったわよね!そう言ったわよね!」
耳をほじって聞こえないフリをするアイオワ。
すると隣の席にいたニュージャージー、ミズーリ、ウィスコンシンが近づいてきて
「駆逐艦同士の喧嘩だからあの娘たちに任せていたけどそろそろ止めたほうが良いワネ」
するとドタンバタンガラガラ……という派手な音がした。怒り狂ったオースバーンがヘイウッドに襲いかかったのだった。
「ロンギヌスの槍を受けろ!ヴリルパワーを食らえ!このハーフジャパニーズ!」
「ロンギヌスの槍にヴリルパワー?ドイツかぶれもいいけどファンタジーとリアルの区別をつけなさい!あなたがドイツ艦だった時のビューロー艦長まで誤解されるワヨ!あなたの大切な人なんデショ?ズェアシュトーラァー・ゼクス(Zerstörer 6)!」
オースバーンは顔を真っ赤にするや、ヘイウッドの髪を掴むと。
「ミー・オースバーンのドイツ艦時代の名前はツェアシュテーラー・ゼクスだ!もしカピテーンの悪口を言いふらしたら許さない!」
オースバーンはヘイウッドの髪の毛を引っ張りまわす。
「それにヤクザはマフィアとは違う正義のヒーローだと勘違いしていたあんたに言われたくない! ケン・タカクラやコウジ・ツルタみたいなヤクザなんてムービーだけだろ!何さ、あんた艦内にあの二人のピンナップをベタベタ張り付けて!」
ヘイウッドは両手をオースバーンの口元に突っ込んでガタガタと揺さぶる
「高倉健は帝国海軍軍人のジュニア、鶴田浩二は帝国海軍の航空隊、二人とも海自のファミリーでワタシにとってもブラザーみたいな人タチ!胡散臭いオカルトと一緒にしたらタダじゃおかないワ!」
「二人ともヤメテ!」とダイソンが止めたが彼女の言うことなど二人は聞こうとしない。
わたしは思った。うーん……もはやアメリカの現実というより恥ずかしいプライベートの暴露合戦になってきたなあ。しかし彼女たちは他国・異文化に免疫がなさすぎるのではないか。
そう言えば一時期のアメリカの中国研究も士大夫や郷紳を西欧の市民社会と対比させる動きが見られたっけ。中国が民主化するであろうという予測のもとにその起源を歴史的に明らかにしようとしたのだと思われるが......現在の中国情勢から考えるとあまりにも理想主義的であった
とはいえ、この二人にとっては貸与された異国での艦歴はかけがえの無い歴史だろう。苦楽を共にしたドイツ人や日本人乗組員との思い出が背景にあることを考えると何とも切ないなあ....
そこまで考えるとわたしは頭を振った。
いかん、いかん。そろそろ二人を止めないと……わたしが座席から腰を浮かせると……
ビジョビジョ……
誰かが二人の頭に冷水をかけた。よく見るとそれは霞だった。
「ヴリルパワーとか高倉健とかよくわからないけどさ。喧嘩を売るんならあたしが相手するわよ。ありあけ、ここは先任のあたしに譲りなさい」
チャールズ・オースバーン
ヘイウッド・L・エドワーズ
ビジョビジョビジョ……キャットファイトに熱中していたオースバーンとヘイウッドに霞がピッチャーの冷水をかけた。
「ナニヲスルノ!霞!」
ずぶ濡れになったヘイウッドが霞を睨む。
霞は腕組みをしてヘイウッドを見下ろす。
「精神注入棒でお尻をぶたれるよりマシでしょ?」
……ま、あたしたち駆逐艦ではあまりやらなかったけどね、と霞。
一方、オースバーンは怒りで青白い肌の顔を鮮やかに紅潮させている。
「よくもミー・オースバーンの自慢のブロンドを……このイエロー!」
「チャーリー!差別発言はコードにひっかかるワヨ!」
たしなめたダイソンにオースバーンは言い返した。
「あたしは臆病者と言ったの!それにイエローをイエローといって何が悪い!」
臆病者と言われた霞。思わず平手で叩こうとして雪風に腕を押さえられた。
わたしは思った。いかん、これはアドミラルが介入しないと。しかしここはアメリカ艦の基地だ。どうやって?……そうだ、この航海に出る前、マレーヤは言っていたな。
……ヴィクトリアスは誰よりもアメリカ艦に詳しいんだ……(ep.36参照)
そうだ、イギリス空母ヴィクトリアスは第二次世界大戦中の一時期にアメリカ軍へ貸し出され、ロビンというコードネームももらっていたはずだ。そして戦後も長く就役していた。アメリカの事なら彼女に聞くのが一番だ。
わたしはヴィクトリアスを探した。いたいた、太平洋で共同作戦を行った古い戦友のアメリカ空母サラトガと一緒の席にいる。わたしは彼女たちの席に近づいていくと
「シスターサラ、あの第832飛行隊の新米少尉、覚えてらっしゃる?」
「覚えているわ、ロビン。わたしの艦でもフィアンセの写真を見せびらかしていた子ね。戦後すぐ結婚したのでしょう?」
「ええ。でも……後に離婚したそうですわ」
「まあ。人も艦も運命はわからないものね」
「そういえば、あの子、フィアンセよりお母様への手紙のほうが多かったそうですわよ」
.......一瞬、これだから女の会話というものは社会性がない....と昭和の男性みたいな考えが頭をよぎってしまった。いかんいかん。
「ヴィクトリアス、アメリカの駆逐艦たちがトラブルを起こしてしまった。キミの助けが必要だ」
ヴィクトリアスはすました顔でカップの冷めたコーヒーに口をつけると
「ジャップとかイエローとか言う声がこちらに聞こえてきましたけどあれがいつものアメリカですわ。イエローの次はレッドとか言い出しますわよ、あの娘たち」
第二次世界大戦中はアメリカ軍と共同作戦を行い、戦後の歴史まで知っているだけあって平然たるものだ。サラトガは複雑な顔をしているが。
「いや、そんなすましていないで知恵を貸してくれ。わたしは本で読んだだけだが、あの赤狩りまで行ったら洒落にならんよ」
ヴィクトリアスとサラトガ
すると霞がオースバーンに食ってかかる声が聞こえる。
「あたしたちをイエローと呼んだわね!どうせろくでもない言葉なんでしょ!取り消しなさい!」
「霞ちゃん、押さえて押さえて」
と、雪風。
「チャーリー、イエローはコードにひっかかるから取り消しテ」
と、オースバーンをたしなめるダイソン。
オースバーンは西ドイツ時代まで航を共にした戦友に言われて不承不承の表情で
「わかったワヨ!イエローは取り消す」
「綸言汗の如しって我が国では言うけどね」
と、霞。さすが乗組員が戦前教育を受けた世代なので、外見は少女でも古風な格言がさらっとでてくる。
オースバーンは意味がわからなくても挑発されたと受け取ったようで
「このオースバーンが譲歩したというのに逆らうというの!イエローがダメならあんたたち日本艦はレッドよ、レッド!」
ヴィクトリアスの言った通りついにレッドが出てきた。
霞は今度は勘づいたようで
「レッド?……アカ?……!……ちょっとどうしてあたしたちが主義者なのよ!あいつら海軍に入り込んで陸奥さんに爆弾仕掛けたのよ!」
そう言えば三笠や陸奥をはじめとする日本海軍艦艇の爆発事故は潜入した社会主義者の仕業という噂が戦後まで絶えなかった。
オースバーンはフンと鼻を鳴らすと
「あんたたち日本はファシストなんでしょ。ナチスは社会主義政党、ヒトラーの政策は左派、あいつらと結んだあんたたち日本もレッドよ!レッド!」
自分たちの母国……戦前の日本を社会主義国家呼ばわりされた霧島。
彼女は呆れた表情になって
「わたしたちって日本人民共和国だったかしら?結構な教養教育ですこと」
わたしは対策本部を作るつもりで、ヴィクトリアスとサラトガを連れて自分の席に戻ってきた。そして直接オースバーンに言ったら火に油を注ぎそうなので、保護者役のアイオワに問いただしてみる。
「確かにナチスの初期では社会主義者が入党していたが、ヒトラーが政権を取る前に排斥されたはずだ。そして失業者対策のための公共事業ならアメリカだってやっている。ましてドイツと同盟したというだけで日本が社会主義国だというのも外交と内政を混同した論理の飛躍だろう」
するとアイオワは目を泳がせながら
「Oh……でも中国との戦争が始まると日本は経済活動を国家がコントロールしようとしたカラ……これはフリードマン経済学ではソーシャリズムではなくてもそれに近イ……」
マレーヤは腰に両手を当てると
「国家が生産や物流を統制するのが総力戦だ。それを言い出したらあの世界大戦を戦った国家全てが社会主義国になってしまうぞ」
わたしもそれが気になったのでアイオワに聞いてみる。
「国家による経済活動への介入をだ、そもそもフリードマンはそんな単純に分類しているのかい?」
アイオワはわたしたちから目を反らすと
「……メイビー……」
すると霧島は
「あっ!あなたまたメイビーって言ったわよね!そう言ったわよね!」
霧島がアイオワを問い詰めていると霞の声が響き渡った。
「あたしたちがドイツの同盟国だったからアカ?それじゃあ、あんたは何よ。本家本元の(西)ドイツ艦じゃない!さしずめヒットラーの尻尾ってところね!」
霞に痛いところをつかれたオースバーンは逆上して
「それを言うなああああ!国防軍はナチスじゃないいい!カピテーンたちはナチスじゃないいい!」
わたしは思った。あーあ。もう無茶苦茶で何がなんだかわからない。でも頭の中で考えるだけではダメだ。とりあえず言葉に出してみる。
「……状況を整理してみよう。このケンカは自分たちの定席に他人が座っている。そこをどけ、いやどかないという極めて低レベルな感情から始まった。人間の争いというものはおしなべてそういうものかも知れない」
アドミラルであるわたしが話し出したので、日英米の戦艦や空母といった主力艦たちは形だけでも神妙に聞いてくれている。しかし中にはオースバーンや霞のほうにチラチラと視線を走らせるものもいる。だが、まずこの問題の背景や構造を押さえなければなるまい。
「しかしその背景にはオースバーンやヘイウッドが第二次大戦後にかっての敵国に貸与されそこで艦歴を終えたという数奇な運命がある。巨大化したアメリカによる戦後秩序を、二人は自分自身の艦歴として背負うことになったんだ。
ここで注目するべきことがある。イギリスがエリザベス一世の時代から400年かけて海上覇権を築き上げたのに比べると、アメリカは第二次世界大戦後の短期間で世界の警察という役割を担うようになった。それはアメリカの戦後を代表する歴史家モリソンによれば日本とドイツが起こした戦争によってアメリカに強要されたものだった。
もちろん社会主義国家との冷戦、石油資源の確保という要素を考えればモリソンの史観は彼らの主観だろう。しかし、アメリカ人の予想を越えるほど急激だった世界覇権の確立が生まれ変わったあの二人のアイディンティティに影響を...」
わたしが気づいたら主力艦たちはみなやきもきしている。マレーヤとアメリカ戦艦ニュージャージーは盛んにアイコンタクトを取っている。ヴィクトリアスは「早く終わらせろ」とばかりにわたしを睨んでいる。そして霧島が
「ちょっとちょっと、提督。歴史学の講義も結構だけどさらに大変な事になってるわよ」
ついにオースバーンが霞に殴りかかった。霞は不意をつかれたが身体を入れて腰を跳ね上げ、柔道の背負い技でオースバーンを投げ飛ばす。オースバーンは起き上がるやアメフトのホークタックルを霞にかける。ヘイウッドがオースバーンの後ろから腕で抱えこんで止めようとする。
「ヘイウッド!この"Turncoat" (ターンコウト)、裏切者!」
オースバーンが大声で穏やかならざる言葉を叫んだために、ドライブインの駐車場でランチをとっていたアメリカの駆逐艦たちが中に走り込んでくる。
「「「わたしたちの勇者チャーリーに何するのよ!」」」
彼女たちが霞につかみかかるや押さえ役だった雪風がついに乱闘に加わる。「ありあけちゃんは霞ちゃんを介抱して!」「こうなったらワタシもハラをキメタワ!」「あたしだってまだ闘えるわよ!」
ドライブインの中は大乱闘になった。イギリス軽巡シェフィールドがきつく指示したのでイギリスの駆逐艦たちは観客に徹して声援を送っている。わたしは止めようとしたが目の前にアメリカの駆逐艦が一人、霞の植芝流柔術で投げ飛ばされてきた。霧島がとっさにわたしの身体を引っ張ったので正面衝突せずにすんだ。わたしはたまらずに叫んだ。
「アイオワ!」
アイオワは「OK!」というや太もものガンホルスターから拳銃を抜き放つ。やたら銃身が長い。
「やっとワタシのスミス&ウェッソンM29・.44マグナム・ブラックモデルの出番ネ」
たちまち轟音が何発も響く。ドライブインの天井と床に次々と穴が開き、窓ガラスが粉々になる。
硝煙が漂う中、アイオワは銃をホルスターにしまって
「アドミラル、最初からこうすれば良かったネ」
乱闘していた駆逐艦は静まり返って動きを止めた。
ドライブインの店長役のアメリカ重巡サンフランシスコがマグナム弾で破壊された店内を呆然と眺めている。
マレーヤとヴィクトリアスが頭を振りながら声をそろえて言った
「「This is America」」
アイオワ
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久しぶりの帝国海軍第一水雷戦隊(ep.31登場)
阿武隈
潮
曙
後書き
戦艦・金剛
「やれやれ。8月15日の法要も無事終わったのう」
戦艦・比叡
「金剛姉さまは法事の施主に加えてお斎のご挨拶もなさってお疲れでございました」
金剛
「なに、お主や榛名が手伝ってくれたからの。しかし、いつまでもわしが般若心経を素人読経していては亡くなったものたちに相すまぬ。ここにある仕出しも艦の厨房で作ったものじゃが、いずれは一流料亭の本格的な料理を出したいのう」
比叡
「ですが、人間界からお坊様や料理人を呼んでも口止めが難しゅうございますわね……ささ、どうぞ」
金剛
「おっ、すまぬの。供養の後じゃから今日は喉を湿らす程度で……」
軽巡洋艦・阿武隈
「金剛さ~ん。ご苦労様でした」
金剛
「おーっ!一水戦の面々か。お主たちも哨戒から帰ってきてすぐの法要でご苦労じゃった。ささ、阿武隈も一献」
比叡
「ささ、潮も曙も遠慮しなくていいのよ」
駆逐艦・潮
「ありがとうございます」
駆逐艦・曙
「恐れいります」
金剛
「そう言えばわしや比叡は戦争が終わる前に沈んだが……潮や曙はあの昭和20年8月15日まで生きておったのじゃな」
潮
「はい。わたしは曙たちと別れた後に編成された第七駆逐隊の戦友たち……霞や響とも離ればなれになり……たった一人であの玉音放送を聞きました」
曙
「わたしは木曾さんや秋霜と一緒にフィリピンのマニラ沖に着低したままでした。民間の漁船を多く見るようになったので、戦争が終わったことはわかりましたが、日本は一体どうなってしまったのか心配で心配で……」
潮
「曙……」
曙
「そして、昭和30年に播磨造船の技師たちがわたしを解体に来たのでやっと安心して眠りにつくことができました。我が祖国は健在なのだと……何と長かった10年!」
阿武隈
「……わたしと別れてからあんたたちも色々あったのね。まー、わたしみたいにレイテの戦いで沈んだほうが後腐れがなかったかもわからないね-。ところで金剛さん」
金剛
「ん?何じゃ?」
阿武隈
「哨戒から帰ってくる時にイギリス艦の泊地の側を通りましたが、とっても賑やかでしたよ。何かあったんですか?」
金剛
「ウ……ム……連中にとっては今日は戦勝記念日の祭りなのじゃ」
阿武隈・潮・曙
「「「…………」」」
金剛
「まあ、人にも艦にも国にもそれぞれの歴史ありじゃ。わしらはわしらの8月15日を過ごせばよい」
比叡
「イギリス艦からは立派な花輪と香典を頂きましたわ」
金剛
「そうじゃった、そうじゃった。やはり、あやつらは抜け目がないわい」
比叡
「それで先方へお礼に伺ったところ、戦勝記念パーティーにイタリア艦が来ていましたわ」
金剛
「ん?イタリアは我が国と同盟を組んでいた枢軸側ではなかったのか」
比叡
「それがムッソリーニが倒された後のバドリオ政権がドイツに宣戦布告したから連合国の一員だと……」
金剛
「やはり、あやつらはちゃっかりしておるの」
比叡
「でもバーラムの『待遇に差をつけるのは当然でしょ』の一言でアップルサイダーしか飲ませてもらってませんでしたわ」
金剛
「ハハハ、いい気味じゃ」
イタリア戦艦・ジュリオチェザーレ
「おっ、やってるな」
金剛
「何じゃ。おぬしらは戦勝国じゃろ」
ジュリオチェザーレ
「知っているなら話は早い。あちらではアルコールを一滴も飲ませてもらえなかったので駆逐艦たちが殺気だっているんだ。何とか頼むよ」
金剛
「フーム……ようし、それならパルマの生ハムを肴として供出してくれるのなら手をうとう」
ジュリオチェザーレ
「感謝する!やはり持つべきものは頼りになる同盟国だ!」
金剛
「今度やる時はイタリア抜きで……というのは冗談じゃが、向こうと違ってこちらは慰霊の後じゃからの。くれぐれも静かに飲むのじゃぞ」
阿武隈
「あんなこと言ってるけど最後は金剛さんの『これは平宗盛にて候~♪』をみんなで聞かされることに……」




