40. タンバレイン島の休息(R15描写あり)
爾等も妻をあつかうこと弱き器の如くせよ...「ペテロ第一の手紙」より。(再掲)
我が異界艦隊の輸送船団は、アメリカ艦とランデヴーするために、異界と人間界の境界に向かっている。
その途上で怪鳥、怪獣と戦ったため、本日はこのタンバレイン島で休息の時を過ごすことになった。
船団の旗艦マレーヤは怪鳥との戦闘で艦橋が破壊されたので、わたしは戦艦霧島の艦橋で朝食を取ることになった。空母ヴィクトリアスや軽巡シェフィールド、駆逐艦たちは島に上陸して自由時間を過ごしている。
霧島手製の朝食は麦割り飯に具沢山の味噌汁、汁の中に乾麺が入っているのはカロリー計算をしてくれたのだろう。ここ最近は怪獣との戦闘が続いたので簡単な食事しかとっていなかった。
朝食は一日の元気のもと。たっぷりと食べた後にご飯茶碗へお茶を注ぎ、残っている飯粒を漬物でこそいですする。
「ご馳走さま。霧島の料理は絶品だね」
「お粗末さまでした。榛名より下手かも知れないけどね」
双子の姉妹艦榛名と比べて自分の腕を謙遜する霧島。
「いやいや。ボクは榛名のところで何度か朝食を食べたことがあるけど、いずれアヤメかカキツバタと言ったところだよ」
霧島はあら嫌だといって食器を片付けにかかる。まんざらでもなさそうな様子で鼻歌を唄い出した。この様子なら......
わたしは後ろから霧島に近づいてそっと抱き締める。
「……まだ朝が早いのよ」
わたしは霧島の言葉には答えずに無言で力を加えた。
「……もう!まあいいわ。そろそろ主砲の公試をしなければと思っていたところだし」
霧島は着物の襟もとを自分から緩めた。彼女とはインスラの戦いを共にして既に信頼関係ができているのだ。
わたしはそして着物の間に手を差し込んで、彼女の主砲コントローラーを手のひらに包んだ。餅のように吸い付いてくるような感触をしばし楽しむ。
「はぁふ……あああああ……」
霧島は喘ぎ声を出し始めた。
そして霧島の主砲コントローラーをやさしく撫でまわす。円を描くように、そして左右に動かすように。
艦橋から外を見ると戦艦霧島の砲塔がゆっくりと回転している。
「て……ていとく……ていとく……ふあぉあん」
霧島は歓びの声を上げる。艦の動きと人間体の神経がリンクし始めているのだ。
「霧島、砲口の掃除もしなくてはならないな」
「ああん……してぇ....」
わたしは霧島の正面に向き直ると彼女の砲口に唇をつける。
「あんんっ!」
彼女はビクンと身体を震わせた。
さらにわたしは自分の舌を使って霧島の砲口をちろちろと刺激する。もう片方の砲口を指をつかってクリックリッといじる。
「あふぁん...ふぁあぁん...あっ...あぁあっつ」
霧島は甘さに満ちた声を出す。声だけでは無くてわたしの頭を抱きしめると自分の身体にギュッと押し当ててきた。
霧島の暖かさを感じてわたしの心にも火がついた。もはや相手を悦ばすテクニックなどと考える余裕もなく、情熱と欲望の赴くままに霧島の砲口を吸い続ける。
霧島も言葉にならない声をあげる。両足を開いてグッとわたしの身体を挟み込んできた。
「て......ていとく.....砲の給弾は完了しているわぁ........早く発射してぇ......てぇとくぅ.....てぇとくぅ....」
「きりしまぁ!きりしまぁ!」
わたしは叫ぶように彼女の名前を呼ぶ。そして彼女のコネクタに自分の霊具を差し込む。
わたしが霧島の中に入った瞬間、彼女は歓喜の叫び声をあげた。わたしの頭も真っ白になった瞬間、霧島の主砲四十五口径三十六センチ砲が火を噴いた!
公試が終わった気だるげさに任せて霧島に身体を預けるわたし。霧島はわたしの身体を受け止めると頭を愛おし気に撫でてくれた。
わたしは少し後ろめたい気分がしたのでつい彼女に尋ねてしまった。
「.......早かったかな?」
「ふふふ…...しょうがない人ね、何べん言えばわかってもらえるのかしら?わたしたちは人間の女性と違うのよ」
霧島はわたしの頭を撫でてくれた。そのまま髪の毛をくしゃくしゃにすると最後に一言....
「ねえ?わたしって榛名よりよかった?」ジトッとした目でわたしを睨んでいる。
双子の姉妹艦の微妙な関係にわたしが答えられずにいると霧島は髪の毛を握った手に力を入れて
「言いなさい!」
口調こそ冗談めかしているが内心は本気だ。わたしはごまかずように
「もう一度主砲の発射公試をしよう、霧島」
彼女の砲口に唇をあてるとそのまま強い力で吸った。霧島はふたたび悦びの声をあげた。
「ああああぁぁぁぁ...ていとくぅ!ていとくぅ!榛名より強い力でわたしの舵を操ってェ!」
.........事が終わった後で霧島はポツリと言った。
「........榛名とは同年同月同日に竣工したいきさつに色々とあってね。かけがえの無い戦友であり、そして...永遠のライバルなの」
霧島は自嘲するような表情を浮かべている。わたしは彼女の肩に手を回すと優しく自分に抱き寄せた。
霧島は着物の襟もとを自分から緩めた。
「霧島、砲口の掃除もしなくてはならないな」「ああん……してぇ....」
「榛名より強い力でわたしの舵を操ってェ!」
服を直した後でわたしは霧島にこれからの予定を伝えた。
「今日は港内の各所を非公式に視察してみることにするよ」
「上陸してもあまり遠くに行っちゃダメよ」
霧島はまるで母親のようなことを行った後に真面目な顔になり
「今日は休日、でもあなたは提督。各艦と交流してあの娘たちを知ることを忘れないでね」
「わかったよ。できるだけ彼女たちのことを知る努力をしよう」
わたしは戦艦のタラップを降りて見送る霧島に手を振った。さて、どこへ行こう?旧日本海軍では水兵が上陸した時にくつろぐための下宿があったというが、そんな場所はこの島には無いのかな?......そんなことを考えていると……
ブッブー!ブッブー!
後ろからクラクションの音がする。人間界でも無いのに何事だと思って振り向く。
わたしの目に入ったのはアストンマーティン DB5のコンバーチブル、そしてそれを運転するヴィクトリアスだった。
ブロンドの髪をしたお嬢さま学校の生徒会長、若々しい顔とは対照的なハスキーボイス。オープンカーなので彼女の顔も声もハッキリとしている。
「グッドモーニング、アドミラル。港内の基地を視察なさるのなら、わたくしがお供しますわ」
ちょうどよい。一人で歩いても迷子になるかも知れない。彼女に案内してもらおう。
「グッモーニング、ヴィクトリアス。それじゃあよろしく頼むよ」
「『グッド』モーニング。さあ、わたくしの横に座ってくださいな」
わたしが運転席の隣に座るとヴィクトリアスは素早く発車させた。
車は埠頭から倉庫が集まっている区画に入っていく。
「どこに行かれます?」
「ああ、霧島にも言われたけど、今日は各艦となるべくコミュニケーションを取ろうと考えているんだ。みんなどこにいるのだろうか」
後ろへ通りすぎていく倉庫群をぼんやり眺めながら呟くわたし。
するとヴィクトリアスは
「なるほど……ではあそこへご案内しましょうか。今の時間ならみんながハングアウトしているはず.......」
と言った後で、いきなりわたしに顔を近づけると
「本気で艦とコミュニケーションを取るおつもりならよそ見をしない!ちゃんとわたくしを見て!」
叱責するようなヴィクトリアス。わたしはつい押されてしまって
「あ……ああ……わかったよ」
彼女の瞳を見て答えると、海風が吹いてブロンドの髪がわたしの顔にかかった。
車は倉庫を抜けてそのまま港の奥へ入って行った。
アストンマーティンが港を抜けると景色は一転して農村になった。と言っても畦道と田んぼではない。
丘陵地帯に広がる牧草地、点在する木々の群れ、羊が隣の区画に入らないための壁、まさに囲い込み以後のイギリスの農村だ。
「この一帯はタンバレイン島の中でもわたくしたちの力が強く及んでいる地域なのです。それで我がイギリス人の心の故郷、カントリーを魔法で再現したのですわ」
「そう言えば、英文学の中でも田園詩は有名なジャンルだね。ワーズワースだったかな。彼の信望者に倣って君たちイギリス艦はナショナル・トラストでも作るつもりかい?」
「ウォースパイトはそのつもりですわ……でも、さすがによくご存じですわね。大学では英文学でも専攻されたのですか?」
「いや、わたしはPh. Dでも歴史学、それも東洋史だ。今のは雑読で仕入れた知識だよ」
「そう言えばアドミラルの本棚は様々なジャンルがごちゃごちゃですわね。グラスゴーのクローゼットみたい。知識が幅広くても体系だっていなければ無秩序と変わりませんわよ」
「アーノルドだっけ?『教養と無秩序』」
これでチェック・メイトかと思ったのはわたしの浅はかさだった。
ヴィクトリアスは運転しながら空を仰ぐと
「わかってて実行できないのがまさに机上の学問ですわね。祖国に害を及ぼさない分、ケンブリッジ・ファイヴよりマシですけど……もっとも……」
ヴィクトリアスはわたしを見つめると悪戯っぽく笑いながらとどめを差した。
「あなたさまのような呑気な方を、あのKGBが情報提供者にスカウトするなんてあり得ませんわね。わたくしたちのミスター・チップス、愛すべきチッピングさん?」
ついにわたしは有名な小説の主人公であるとぼけた老教師にされてしまった。
「このっ!」
言葉で負けたお返しにヴィクトリアスの身体を軽く叩こうとする。
「運転中に危ないですわね!」
ヴィクトリアスは自分の胸に当たりそうになったギリギリの距離でピシャリと叩くと
「そろそろ目的地ですわよ。みんな今の時間ならあそこのインに集まっているはず……」
前方には石造りの家々が見えてきた。いかにもミス・マープルが住んでいそうな小さな村だ。
車が村に入ると一人の女性の後ろ姿が見えた。
若い頃のオリビア・ハッセーを思わせる艶やかな黒髪。駆逐艦ジャヴェリンだ。
彼女のすぐ後ろに近づくとヴィクトリアスはクラクションを鳴らした。
ジャヴェリンは花籠を手に提げて歩いていたが、音に気づいて振り返った。
「あ、ヴィクトリアスさん。これは!アドミラル!」
すかさず敬礼するジャヴェリン。わたしも答礼すると
「まあまあ楽にして。ヴィクトリアスからみんなここのインに集まっていると聞いたけど」
「イエス・サー。今、みんなで家の中を磨いていたところです。この島には長い間来ていなかったからかなり埃がたまっていたけど、予定より早く掃除が終わりました。霞や雪風も手伝ってくれたので」
「それで、きみが持っている花籠は?」
「土手でスイートアリスを摘んでいたんです。部屋の中に飾ろうと」
小さく可愛らしい花の集まり。おかしいといえばおかしいが、わたしはこの異界艦隊の駆逐艦の船隊を連想した。
ヴィクトリアスは車をガレージに入れに行くと言った。それから鴨撃ちに出かけるそうだ。
「夕食は楽しみにしていてくださいな」
わたしは彼女の車を降りてジャヴェリンに着いていく。
「可愛らしい花だね。なんだか甘い匂いが漂ってくるよ」
「このタンバレイン島の海岸地帯に自生する品種独特の香りなんです」
ジャヴェリンはそう言うと籠から一輪の花を取り出すとわたしに差し出してくれた。
わたしは受け取るとその花をジャヴェリンの頭に差した。艶のある黒髪によく映える。
ジャヴェリンは顔を真っ赤にするとそのまま下を向いてしまった。却って悪いことをしたかな。
「あ……あそこです……アドミラル」
ジャヴェリンが下を向いたままでおずおずと指さした建物を見る。
それはインと言っても馬車を入れるガレージはなくて、二階建ての民家だった。B&B……イギリスによくある朝食付き宿屋になりそうな感じだった。
「これはマレーヤさんが魔法で作ったお家なんです。二階正面からは一階部分の屋根ごしに海が見えるんです。朝の景色がとてもきれいなのでみんなが取り合いになるんですよ」
ジャヴェリンに案内されて大広間に入ると駆逐艦たちは思い思いにくつろいでいた。
ジャーヴィスと霞は壁に向かってダーツ遊びをしている。真ん中に当てる回数を競って火花を散らしているが、どちらも歴戦の駆逐艦なのでなかなか決着がつかないようだ。
そのすぐ側では、ズールーがシャドウボクシングをしている。左フックにアッパーカット。海軍がボクシング?と思ったが、いつか読んだ『死闘の駆逐艦』ではドイツのUボート内部への突入を想定して格闘戦のトレーニングをしていた。
ズールーとは対照的に雪風はちょこんと腰掛けて静かに繕い物をしている。靴下のかかとを塗っているようだ。そういえば昔は裁縫が女性の基礎教養だった。
そして部屋のいちばん良いソファーを陣取ったジェーナスは大の字になって気持ちよさそうな寝息を立てている。
わたしの姿を見るとみな、一斉に立ち上がりかけたが
「そのまま、そのままにしていていいよ」
わたしは声をかける。それでもシーンとした空気が漂っているなか……
「むにゃ……むにゃ……夕食はヴィクトリアスさんが取ってきた鴨の炙り肉……」
ジェーナスだ。まだソファーで夢うつつの境地をさまよっているようだ。
シュッ!シュッ!
すかさずジャーヴィスがジェーナスにダーツを投げた。それも連投して二本も。
ジェーナスはパチリと眼を開くとダーツを掴む。
「ふあっ?!ふあああっ!」
掴んだ後で意識が戻ったのか、悲鳴をあげてダーツを落とした。
わたしは寛いでいるのを邪魔したら悪いと思い
「わたしは二階に上がるよ。ジャヴェリンから聞いた海の美しい景色をみてくるよ」
「二階には軽巡のシェフィールドさんがいますから!」
ジャヴェリンの声を背中にわたしは階段を上がった。
ジェーナス「むにゃ……むにゃ……夕食はヴィクトリアスさんが取ってきた鴨の炙り肉……」
ジャーヴィス「まったく!だらしないわね!スカートの中が見えてるじゃない」
霞「放っておきなさいよ。どうせわたしたちしかいないんだし」
雪風「んー...ひょっとしたら司令がここに来るかもしれないよ」
ズールー「アドミラルなら今ごろ霧島さんとホーマガンディー(houghmagandie)の真っ最中じゃねえか?」
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シェフィールド
階段を登って踊り場から二階に上がる。二部屋あるベッドルームの一室がシェフィールドの居室らしい。
みんなが取り合う眺めの良い部屋の一つを下士官格のシェフィールドが占拠しているようだ。さすが階級社会イギリス?いやどこの国も軍隊はそうか。
わたしがそんな事を考えながらドアをノックする。
「カムイン!(入れ!)」
シェフィールドの鋭い声が聞こえる。わたしを駆逐艦の誰かだと思ったらしい。
「失礼するよ、シェフィールド」
「これは!マイロード!」
立ち上がって敬礼するシェフィールド。黒髪のショートヘア、メイド姿をした歴戦の勇士、先の大戦で戦闘勲章12個を授与された武勲艦……
「いや、上陸したみんなが何をやっているか知りたくてね。お邪魔だったかな」
「滅相もありません。さあ、お好きなところにお掛けになってください」
部屋の中は整然とまとまっている。部屋の目立たぬ位置に片付けられたトランク。わたしが学会出席や調査旅行でホテルに泊まるとスーツケースが店を開いたままになるのとはえらい違いだ。
わたしが来客用の椅子に座ると、シェフィールドは紅茶を淹れてくれた。
「今はわたしの飲むお茶しかなくて……申し訳ございません」
シェフィールドの淹れてくれたお茶はストレート……いやブラックティーと言ったほうが彼女らしい。それに甘味の少ないビスケットをつけてくれた。
わたしはビスケットをかじりながらシェフィールドに話しかける。
「この部屋から見る海の景色は素晴らしいんだってね」
シェフィールドは表情を崩さないまま冷静に答える。
「イエス・マイロード。二階のベッドルームだと気象状況を観察できます。駆逐艦たちがこの部屋に泊まりたがっているのは知っていますが、わたしが一室をリザーブしているのはそのためです」
わたしは窓から外を見る。初夏の季節を表すかのように、パステルで描いたような海原が広がっている。海鳥が空を横切る。
シェフィールドも海原に視線を向ける。こんなに美しい景色でも彼女の表情と口調は変わらない。
「最上たちから聞きましたが、日本の言葉では観天望気というそうですね。この分だと明日は快晴になるでしょう」
……最上……日本海軍の巡洋艦の名前がわたしの耳に引っ掛かった。
「きみは最上たちとも交流があるのかい?」
「イエス・マイロード。われわれは同世代の条約型巡洋艦ですので……それに……」
「それに?」
シェフィールドはティーカップの紅茶に視線を落とすと
「ポストウォーでは日本が再び我が同盟国……自由主義陣営の最前線となりました。ひょっとしたらエリザベス二世陛下戴冠の観閲式に派遣された彼女たちに会えたのかも……と想像する時があるのです」
そうか、シェフィールドは戦後も現役だった。しかし彼女の想像……願いの通りになったかはわからない。
戦前、日米の海軍は互いを仮想敵として建艦競争を行っていた。戦後の日本が旧海軍の戦力を残したままでアメリカ主導の安全保障体制に加わることが許されるだろうか?
しかしわたしは代わりにこう答えた。
「ああ、もし朝鮮戦争の勃発がもう少し早かったら旧日本海軍の艦艇も廃棄されることなく君たちの友軍となったかも知れないね」
その時にはじめてシェフィールドは表情を崩してニッコリと笑った。
いっこくものがふと見せる笑顔は愛想笑いよりも貴重なものに思える……ある作家の一文をわたしは思い出した。
ドキドキドキ……
しかしシェフィールドは頑固親父ではなくて凛々しい女性だ。その笑顔を見てわたしは激しい動悸を感じた。
ドキ!ドキ!ドキ!
ん?おかしいぞ?動悸がますます激しくなるじゃないか。
シェフィールドもわたしの異常に気づいたようで「失礼します、マイロード」と断るとわたしの額に手を当て、手首を握って脈を測る。
次いでわたしの襟元を見るとシュッと指で一撫でする。彼女の指についていたのは黄色の花粉。
「……!マイロード!この花粉はどこで?」
「あ……ああ……さっきジャヴェリンからもらった花かな?土手で摘んできたスイートアリスとか……」
「なるほど、それでわかりました。この島のスイートアリスは我々には何の作用も及ぼさないのですが、人間に対しては微量でも体内のケラ・シール(cealla-sìl)を暴走させてしまうのです」
ケラ・シール……わたしにはよくわからないがどうやら魔法の言葉のようだ。
シェフィールドは恐縮したように頭を下げる。
「申し訳ありません。駆逐艦たちに通達していなかったわたしのミスです」
彼女の顔は青ざめていた。責任感が強いのだ。
ハッ!!ハッ!!ハッ!!
やがてケラ・シールの暴走は心臓だけではなくて精神にも及んできた。わたしは自制心で必死に押さえながら
「わ……わかった……では薬をくれ……わたしは暴走を押さえられそうにない……」
シェフィールドは沈痛な表情になった。
「ケラ・シールの暴走を中和する薬は現在では開発されていません」
「な……なんだって!ハッハッ……このままだとわたしはキミを……」
その時、シェフィールドはくるりと後ろを向いた。え!?ついに処置無しなのか?
しかしシェフィールドはわたしを見捨てたのでは無かった。
「治療法がただ一つだけあります。わたしの中にマイロードのケラ・シールを放出してください!」
そういうとシェフィールドは後ろ向きのまま艦尾のカバーをめくりあげた。カバーの中は……何もつけていてなかった。
艦隊随伴や極東配備をも考慮して設計された魅力的なラインの艦尾、ステンレスの船体が妖しく輝く。わたしは吸い込まれるように見入ってしまった。
そしてシェフィールドはあまりにも過激な治療法を言い出した。
「さあ、わたしのコネクターにマイロードの霊具を挿入してください!」
「し……しかし……きみはそんなことをされていいのか!主人とメイドだからというのはフィクションの妄想だ。もっと自分を大切に!」
「ご主人様の健康管理もメイドの務めです。さあ早く!」
その時、ケラ・シールの暴走が限界を越えた。わたしは声を上げながら自らの霊具をシェフィールドのコネクタに挿入した。
ズン!......ズッ......ズッ.......ズズッ.......
わたしの霊具による挿入が何度も繰り返される。
ユサ……ユサ……ユサ……ギシ……ギシ……ギシ……
二人の身体が密着したまま激しく揺れる。わたしは何度もシェフィールドの名前を呼んだが、彼女は一言も声をあげなかった。
そしてわたしはついに限界を迎えた。唸り声をあげながら全てのケラ・シールを放出すると……シェフィールドもビクンビクンと痙攣した。
治療が成功したわたしはシェフィールドのベッドに横になる。
彼女はベッドサイドに腰掛けると冷やしたタオルをわたしの額に当ててくれた。
「シェフィールド……世話をかけたね」
彼女は無表情な顔でわたしを見下ろすと冷静に言った。
「いいえ、お気遣いは無用です」
だが、その後に何故か躊躇いの表情を見せた。そして、わたしの耳元に顔を近づけるとか細い声で
「あの……わたし、いかがでしたか?いつも同型艦のグラスゴーに無表情とか声に感情がないとか言われるもので……」
シェフィールド本人も気にしていたなんて...わたしはついクスっと笑うと彼女の顔に手を当てて
「でもそんなシェフィーが素敵だよ」
自分を愛称で呼ばれた彼女は同じくクスリと笑うと
「今度はわたしの艦に乗艦してください。二人で夜明けのLet it beを聞きましょう。朝霧の中を航行している時によく聞くんです……わたしの現役時代の最後の思い出とともにあるビートルズ……」
優しさをほのかに感じさせる声でシェフィールドはささやいた。
艦隊随伴や極東配備をも考慮して設計された魅力的なラインの艦尾、ステンレスの船体が妖しく輝く。わたしは吸い込まれるように見入ってしまった。
シェフィールドは一言も声を上げなかった。そしてわたしが全てのケラ・シールを出して放心した声をあげると………彼女もビクンビクンと痙攣した。
「朝霧の中を航行している時によく聞くんです……わたしの現役時代の最後の思い出とともにあるビートルズ……」
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シェフィールドと別れて一階に降りると……そこはさっきとは様変わりしていた。
広間には大量の鴨が並べられていた。
「ジャヴェリン!これから解体作業をするからシェフィールドさんに指揮をとってもらわなきゃ!」
「ラブリー、ジャーヴィス。二階からシェフィールドさんを呼んでくる」
階段の入り口でわたしとジャヴェリンは鉢合わせすることになった。
「これはサー!失礼しました!」
「あれは何だい?」
「ヴィクトリアスさんが鴨撃ちから帰ってきたんです」
「なるほど、大猟のようだね。それで彼女……ヴィクトリアスはどこに?」
「村の裏手にある湖にいると思います」
ではヴィクトリアスに会いに行って鴨猟の武勇伝でも聞かせてもらうとするか。
ジャヴェリンが「あ、今は……」と何か言いかけたがそれに構わずに外に出た。
村の裏にある丘を登りきると眼下に湖が広がった。
坂道を下っていく。水面がキラキラと波立っている。遠い昔に聞いた千住明作曲のスコア「湖面にうつる地平線をさざ波が」の優しいメロディーが蘇った。
さて、ヴィクトリアスはどこに……
パシャっ……パシャっ……
牝鹿が水浴びしているような音が聞こえてきた。そちらの方向を見ると……
わたしの視界にブロンドの髪が踊る。黄金色の隙間から白がかった肌色の背中が見える。
「あら、アドミラルですのね」
水浴びをしていたのはヴィクトリアスだった。彼女は一糸まとわぬ姿にも関わらず、その身体を堂々とわたしに向けてきた。
ヴィクトリアスはそのままの姿で正面を向いて湖から上がってきた。
いかにも航空機を格納するのにふさわしい、空母らしい素晴らしいプロポーションだ。
それでもじっと見つめるのはレディに対して失礼だろうと考えて視線をそらす。
「あらあら、アドミラルが動揺するなんてみっともないですわ。わたくしはあなたの指揮するウォーシップ、遠慮なさることはなくてよ」
ヴィクトリアスは誤解を呼ぶようなセリフを言うとブロンドの髪を指でかきあげ
「ただし、わたくしの気分のよい時に限っては……ですけど」
わたしは思わず口に出した。
「ああ、やっぱり」
「当たり前ですわ」と言うとヴィクトリアスはわたしの隣に座った。わたしも腰をおろす。
「それで、今は気分がよいんだ」
「ええ、鴨撃ちは大猟でしたもの。この島で昨日は仕事ができましたし、今日はレジャーもハイスコア。気分がスッと晴れました」
ヴィクトリアスは話しながら身体をわたしに寄せてくる。わたしは彼女の腰にそっと手を伸ばす。今度は叩かれなかった。
そのまま彼女の腰に手を伸ばして自分の方に引き寄せる。
「前にも言ったがわたしはキミがお嬢さま学校の生徒会長だと思っていた。しかしお嬢さまにしては積極的すぎる……」
「あら、女学校の学寮の実態を知ったら殿方は腰を抜かしますわよ。生徒は教師の真似をするものですから。寮監だった修道女の真似をね」
ヴィクトリアスは教会史の暗部に触れることをサラッと言った。そしてわたしの上着のボタンを次々と外していく。
「ですからあなたさまも自分の生徒のことをよく知らなければね。わたくしたちのチッピング先生?」
女学校の老教師と教え子である生徒会長のラブアフェアを思い浮かべながら、わたしは彼女の頭を引き寄せた。
しばらく唇を重ね合わせているとすっかり良いムードになった。唇を離すと甘い糸がツーッとこぼれ落ちた。ヴィクトリアスの芳しい吐息がかかる。
そしてわたしは彼女の4.5インチ砲QF Mark IIIに手をまわした。砲全体を両手のひらで包み、砲口を指の腹で撫でる。
今朝、霧島にこれをやったら、彼女はとても歓んでくれた。
ところが……ヴィクトリアスはとたんに冷たい目になって上からわたしを睨んだ。
「……何をやっていらっしゃいますの?わたくしたちは人間の女性とは異なりますの。乳ガン検診なんて必要ありませんわ」
「い……いや……今朝は……」
辛うじて霧島という言葉は飲み込むことができた。
ヴィクトリアスはしょうがない人と言わんばかりにため息をつくと
「艦種によって大切な場所は異なりますの。さあ、わたくしが興醒めする前にご自分で見つけて!」
既に彼女はかなり興醒めしている……これはまずい!
わたしは艦尾を擦るも反応はかんばしくない。
苦し紛れに格納庫……人間では腹部にあたるところに手をやるとビクッと反応があった。
ん?……わたしはもう一度ゆっくりと撫でた。するとビクッビクッと反応が続いた。その後で甘い吐息が漏れた。
そうか、霧島たち戦艦にとって一番重要な装備は主砲だ。しかしヴィクトリアスたち空母にとって一番大事な場所は航空機を収納する格納庫だったのだ!
わたしはヴィクトリアスの背中に回ると後ろから手を回して腹部……いや格納庫を愛撫する。
格納庫を愛撫しながら息をブロンドの髪に吹きかける。
「ダ…..だめ……いけませんわ……マイアドミラル……はぁふ...」
「お嬢さまの弱点を見つけたぞ、ヴィクトリアス」
ついにヴィクトリアスは歓びの声をあげ始めた。
わたしは後ろから手を回してゆっくりと円を回すように愛撫する。時折、弱い力で優しく押す。そう、夫が自分の子を身籠った妻を愛するように。
「ここにキミの自慢の航空機が収納されているんだね、ヴィクトリアス」
「はぁふ……マイアドミラル……わたくし……わたくし……Hmm.Hahh..」
わたしは体の位置を変えると今度は前から彼女の格納庫に顔を当てた。ゆっくりと頬擦りを繰り返す。
そのうちにふと思い付いたことを試してみた。エレベーター口……人間で言えばヘソにあたる部分を舌でチロチロと刺激したのだ。
その瞬間、ヴィクトリアスは言葉にならない矯声をあげると後ろにのけぞった。
彼女の意識は朦朧としているようだが、それでも強い力でわたしの頭を自分の腹部に押し当ている。
わたしはそのまま彼女のエレベーター口を舌でチロチロと愛撫する。そして口づけを何度も繰り返す。
「ダメ...ダメ...マイアドミラル...いえもっと...もっと...No!No!Not...More! More! Ahhhhhhhh!」
彼女のコネクタからボイラー水がプシァァと溢れてきた。
わたしはすかさず霊具を彼女のコネクタに挿入する。ヴィクトリアスは激しく身体をくねらせながら私を迎え入れた。彼女のボイラーの熱気がわたしを燃え上がらせた。わたしは彼女の名前を何度も呼びながら激しく責めさいなんだ。
「ヴィクトリアス!ヴィクトリアス!」
「Oh God!I'm cominggggg!」
わたしに責めさいなまれ続けたヴィクトリアスは、再び感極まった声をあげるとそのまま意識を失った。わたしは彼女を抱き寄せるとそのブロンドの髪に自分の顔を埋めた。彼女の余熱を感じながらわたしも眠りに落ちて行った。
眠りについていたわたしはヴィクトリアスに起こされた。
彼女は既に衣服をピシッと身に付けていた。
「そろそろ鴨の解体作業が終わった頃ですわ。インに戻らないと」
宿に戻ると建物の前にダットサン17型セダンが停まっていた。以前にこの異界へ来る時に乗った榛名の乗用車と同じだった(ep.3)。そうか、あの車は霧島だ。乗用車も榛名とお揃いなのだ。
霧島はわたしたちを見ると近寄ってきた。わたしは霧島に聞いた。
「マレーヤの具合はどうだい?」
「一日中休んでいたらかなり良くなったわ。船団の補給作業も完了したし、明日の朝には予定通り出港できるわね」
「それは何よりだ」
「それをあなたに伝えにきたの。あ、雪風から聞いたけど夕食は鴨料理のようね」
「さては、それが目当てかな」
霧島はいやあねとわたしを軽く叩く。
庭を見るとグリルがしつらえてあり、シェフィールドの指揮で駆逐艦たちが食卓の用意をしていた。
自分の獲物の調理準備が順調に進んでいるのを見てヴィクトリアスは満足気だ。
「この島の鴨は味が良さそうですから楽しみですわ」
ヴィクトリアスはブロンドの髪をかきあげて後ろで結うとエプロンをつけた。
「焼き加減が重要なのですわ。こればかりは人に任せることができませんわね」
ヴィクトリアスは肉に塩をふっただけでそのまま焼き始める。
焼いているうちに馥郁たる香りが漂ってきた。駆逐艦たちは涎を垂らしそうな顔をして見ている。ジェーナスの顔を見たら本当に垂らしている。
「フフフ……アドミラル?血抜きをしないまま焼いているのがわかりまして?血液は生命の象徴、わたしたち西洋艦にはたまらない香りですわ」
そして焼き上がった鴨肉を食べ始める。血のソースは初めて食べる。レバーとも違ったコクがある。
霧島も口に入れながら堪能している。
「やっぱり鴨に血のソースは合うわね。この鴨にワサビ醤油をつけるなんて魯山人みたいな無粋はしないわ」
「あら、試してみてもいいかも知れませんわね。わたしたちグレートブリテンは世界のグルメに貪欲ですもの。鴨には血のソースが決まりなんだ!と偏狭にして料理しか拠り所のないフランス人みたいなことは言いませんわ」
「ダンケルクの目の前でやったら宣戦布告になるわね。今のあなたの言葉もね.......あ、そうそう、港で養生しているマレーヤにも持って行ってあげなきゃ」
「それではあそこに残っている分をパテにしたらいいかも知れませんわね」
「お任せください、マム」
霧島、ヴィクトリアス、シェフィールドは残った肉の割り振りを相談しはじめた。マレーヤに持っていくだけではなくて船団の補給物資に積み込む事務的な打ち合わせだ。
彼女たちの話を聞きながらふと余所見をすると、ジェーナスがグリルで鴨肉を焼いているのが見えた。どうも他の部位とは違うようだ。
「何を焼いているんだい?ジェーナス?」
「あ?アドミラル。シェフィールドさんからは捨てろって言われたところなんだけどさ、鴨はここが美味しいんだよ」
焼き上がった肉を見ると螺旋状のものだ。
ジェーナスはそれの表面を美味しそうにねぶると口にいれた。陶然とした表情で頬張っている。
「ねぇねぇ、アドミラルも食べてご覧よ」
ジェーナスの勧めに従って口に放り込むと急に胸の動悸が激しくなった。
ドキ!ドキ!ドキ!
あれ?おかしいぞ。まるでさっきみたいじゃないか。
異変に気付いた駆逐艦たちが集まってくる。
「 ジェーナス、何をアドミラルに出したの?」
訝しげな表情で訪ねるジャヴェリン。
「ほぇ?これだけど……」
螺旋状の焼き肉をみんなに見せるジェーナス。
「ストゥーピッド!アドミラルの口に入らないように必ず捨てろ!ってシェフィールドさんにきつく言われたのを忘れたの!」
カンカンに怒りはじめたジャーヴィス。
「異界の鴨のブービー(Boaby)を人間が食べると体内のケラ・シールが暴走するってさっき教えられたばかりだろ!」
わたしにはわからない単語を言うズールー。スコットランド訛りだろうか。
駆逐艦たちが揉めていると、事態を理解したシェフィールドがものすごく怖い顔で睨んでいる。
ハッ!ハッ!ハッ!
胸を押さえてうずくまるわたし。ケラ・シールが暴走しはじめたのだ。
「マイ・ロード!」
シェフィールドがわたしに駆け寄る。わたしは大丈夫だとばかりに顔を上げる。
……すると、駆逐艦たちは一人残らずこの場から消えていた。
さすがみんな要領がいい。軍隊の下っ端は連帯責任が基本だ。ぐずぐずしていてはバカを見る。
ヴィクトリアスが「本当にあの子たちは!」と呟いた後で続けて
「ここは早くアドミラルのケラ・シールを止めないと!霧島、戦艦のあなたが指揮を!」
霧島は指を顎にあててしばし考えたがすぐに結論を出した。
「提督のケラ・シールを吸収するしかないわね。明日の出港に間に合うためには急ぐ必要があるわ。まずわたしがやる」
霧島は衣服を脱いで自分の船体を露出させる。そして仰向けに寝転がるとその船体にわたしを埋めた。そしてコネクタにわたしを導く。
霧島の暖かいボイラー熱を感じてわたしはたまらずにケラ・シールを放出した。それでも暴走が止まる気配はない。
「ヴィクトリアス、シェフィールド、あなたたちの船体も提督に密着させてケラ・シールの放出を刺激するの。三方から包囲攻撃よ!本時より作戦発動!かかれ!」
「わかりましたわ!」
「イエス!マム!」
二人が船体を露出すると同時に霧島の作戦は開始された。シェフィールドがナイフでわたしの衣服を切り裂いてケラ・シールが放出されるようにした。
わたしが霧島の船体に正面から身体を埋める。わたしの背中にヴィクトリアスが密着して上下に動く。シェフィールドは横側からわたしの腕を抱いて指を自分のコネクタに導く。そして何度も自分たちの唇でわたしの肌を吸う。
三人は身体の位置を次々と変えながらこれを繰り返す。まるで講談にでてきた車懸かりの陣形のようだ。わたしは感帯を刺激され、次々と三人の中にケラ・シールを放出していく。
傍らから見たらさぞや異様な景色だろう。月明かりの下で白く輝く塊が蠢いている、激しい息が漏れる、言葉にならない声が響く。だがこれも作戦なのだ。
かくして夜半に至るまでわたしのケラ・シールの放出が続けられた。
「ようやく終わったようね。今からなら余裕を持って艦に戻れるわ」
霧島は気だるげな声で作戦終了を宣言した。ヴィクトリアスやシェフィールドは無言でぐったりしている。無理もない、歴戦の艦でさえ消耗する激しい作戦だったのだ。
もちろんわたしだってすぐに動けそうにない。
「もう少しここで仮眠をとらないか、霧島?」
「そうね、提督。わたしもそのほうが助かる...ふぁん」
霧島は可愛いアクビをして同意した。
かくしてみな泥のように眠りこみ……
……チュンチュン……小鳥のさえずりでわたしは眼を覚ました。
わたしの両腕には霧島とヴィクトリアス、下腹部にはシェフィールドがもたれ掛かるように眠っていた。
「ン……ンン……」
次に目を覚ましたのは霧島だった。うつ伏せの姿勢のまま、衣服と一緒に置いてある懐中時計を引き寄せる。
そしてまぶたをこすりながら起き上がり、時計の蓋をパカッとあけると……突然大声で叫んだ。
「出港時刻に遅れてる!後発航期罪!」
その声にヴィクトリアスもシェフィールドもガバッと跳ね起き、急いで衣服を身につける。
慌てて霧島はダットサン、ヴィクトリアスはアストンマーティン、シェフィールドはブラフ・シューペリアSS100のオートバイ、それぞれの愛車に飛び乗り、スピード違反もなんのその、エンジンがやけつくほどに飛ばすと、あっという間に港につく。
……港の埠頭にはマレーヤが仁王立ちで待ち構えていた。怖い顔でわたしたちを睨んでいる。
港に停泊している駆逐艦たちを見ると煙突から魔法の蒸気を出していつでも抜錨できるようになっている。やっぱり要領がいいなあ。
「アドミラル、余所見をするな!予定が遅れているのがわからないのか!」
当然ではあるがついにマレーヤの雷が落ちた。かくしてマレーヤに日本海軍の五分前精神を説かれながら全艦抜錨の合図を下したのである。さて次の目的地は?
……港の埠頭にはマレーヤが仁王立ちで待ち構えていた。怖い顔でわたしたちを睨んでいる。
後書き
霞
「あ、雪風。何を読んでるの」
雪風
「大井篤『海上護衛戦』だよ、霞ちゃん」
霞
「あー……その本ね。あたしもちょっと読んだけど、この人って帝国海軍の海上護衛の事実上の責任者だったんでしょ?なのに他人事のような書き方でなんだかなーだったわね」
雪風
「んー……できるだけ公平な本にするためにあえて他人事のように書いたみたいだよ、霞ちゃん」
霞
「なんだか逃げてるみたいだけどまあいいわ。あたしが腹が立つのは……ここのところ!『戦闘艦は唯我独尊でジャングルに君臨するライオン、戦力を持たない輸送船の護衛なんて頭に無いのだ』って何よ!輸送船団を守って沈んだ若竹ちゃんや皐月ちゃんたちが浮かばれないじゃない!」
雪風
「落ち着いて霞ちゃん、雪風だってその気持ちは痛い程わかるよ。でも、令和の今ではこの本って色々と言われているみたいだね。自分をかばっているとか都合の悪いところは書いていないとかって。それで、この間、提督に見せたんだ」
霞
「へー。それで何て言ったのよ?アイツ」
雪風
「んー……『当事者しかわからないあの時代の限界、著書に出された統計の評価、優秀な官僚らしく感情で書いているように見えて隙の無い文章。部分的に突っ込むことはできるけど、全体の内容を検証するのは難しいぞ』……だって」
霞
「ふーん……さすが理屈っぽいわね。腐って枝から落ちても博士さまは博士さまか。……ていうかアンタ良く覚えていたわね、そんな長いセリフ」
雪風
「んー。二人でいた時に話していたからね」
霞
「あーそうだったんだ。……て、せっかく二人でいる時にそんな色気の無いことを話してんの?」
雪風
「んー……そんな難しい話だけじゃないよ。雪風のお尻に手を回して来て『雪風のウンをボクもつけないといけないな』ってキングストン弁さわられちゃった」
霞
「あっきれた! 下ネタにオヤジギャグ。あたしたちだから良いけど人間の軍隊だったらセクハラで即辞任ね。でも最近あたしたちに馴れすぎてない?アイツ」
雪風
「アハハハ……」
マレーヤ
「ん?霞に雪風、何を話しているんだ?」
霞
「マレーヤさん!(敬礼)。もう艦橋の修理は終わったんですか?」
マレーヤ
「ああ、明日の朝には出港できる。心配をかけたな」
雪風
「この本のことを二人で話していたんです」
マレーヤ
「海上護衛戦……ああ、あの有名な著作か。どれどれ」
霞
「イギリス艦はどうですか、その本」
マレーヤ
「ふむ……『軍令部員だってでたらめではない一流の人物だった。しかし船舶被害の見積りは第一次大戦の数字で終わってしまった』……か。そしてアメリカによる無制限潜水艦戦で被害が極大化した話になるのだな」
雪風
「アメリカの潜水艦には苦しめられました……」
マレーヤ
「いや、ここの記述は我々にも耳が痛い。キャプテン・オオイは海上護衛がロイヤルネイビーの根本戦略と書いてくれてはいるが、実際はUボートを甘く見て多くの船を沈められたからな。これはアメリカ海軍も同じだ」
霞
「ふーん……どこも大変だったんですね」
雪風
「そうだね。連合艦隊だけじゃなくて赤レンガの人たちもだね」
霞
「そうかもね……あ、本が輝きはじめた!」
雪風
「裏表紙に炙り出しのような文字がでてきたよ!」
霞
「ええと……
『旧海軍軍人の自己弁護とは何だ。暗号漏れを知らぬふりした著作とは何だ。海軍省からは何より石油を持ってこいと言われ、日鉄社長の豊田もと大将からはオイ参謀、鉄鉱石を頼むぞと言われ、それなのに軍令部はフネを回そうとしない。そんな苦労をしてから知ったふうなことを言え、馬鹿野郎』
……この馬鹿野郎って大井大佐が連合艦隊の司令部に怒鳴ったやつだよね?天一号作戦のすぐ前だよ。雪風、あんたも覚えてるでしょ?」
雪風「うん、艦長たちの間でも噂になってたね。でも、今度は今の人たちに怒ってるみたいだね」
マレーヤ
「この新版の序文には反論や批判を受けることで後世史家の判断資料となれば……と書かれているが、やはり本人にしかわからないものを抱えていたのだなあ」
霞
「ねえ……雪風?この本を艦内神社にお供えしてあげようよ」
雪風
「うん!」
マレーヤ
「わたしも艦内教会のミサで日本海軍の護衛総隊に祈りを捧げるとするか。同じ時代を生きた報われぬ戦友たちのために」




