カルメ焼き
しばらく歩くと少し開けた場所に出た。大きな通りだった。
どこからか甘ったるい匂いが流れこんでくる。そこには小さな屋台があり、砂糖菓子が売られていた。キャラメルを思わせる茶色の、中央がこんもりとドーム状に膨らんだ円形の菓子だった。
クレアはそれを物欲しそうに見つめていた。
「あっ! いた!」
やっと見つけた。まさかこんな所にいたとは。
「ねえ ししょー! これおいしそうだよー」
………それとは別に言うことがあると思うのだが。発見して第一声がそれか? 全く呆れる。
まあ、注意したところで到底直らないので、何か言うわけではないのだが。
しばらく沈黙が続く。誰かが意図的に抜け出そうとしないと、延々と続くタイプの沈黙だ。
先に口を開いたのはマホミルだった。
「買わないからね」
「わかってるよ」
買わないとわかっていても、クレアは物欲しそうにじっと見つめていると、それを見かねた女性の店主が「まぁ」と、高い声を出した。
「随分と可愛らしいお客さんだこと。一個味見してみる?」
「え、いいの!?」
「もちろん。はい、どうぞ」
店主は砂糖菓子を一つ、クレアの手にのせる。するとクレアは目を輝かせ、半分ほど齧った。
「おいしい! 甘くて、サクサクで……こんなのはじめて食べた」
うっとりとするクレアの横で、マホミルは苦々しいものを感じた。非常に……嫌な予感がする。あと数秒もすれば、「買って」と菓子をねだってくるだろう。そうなったとしても、財布の紐を緩めるつもりはない。断じて買うつもりはないのだ。余計なものは買わないと、あれほど言いつけておいたのに。
頑とした態度をとるマホミル、クレアはふと「ねぇ」と声をかけた。
「残りはししょーにあげる」
予想外だった。一人で食べ尽くすこともなく、菓子をねだるわけでもなく、まさか分けてくるとは。
「それは貴女がもらったものよ」
「でもおいしいよ?」
純粋な目で見つめられ、マホミルは困惑した。
断るのが申し訳なく思えてきた。マホミルはおずおずと砂糖菓子を受け取った。
その砂糖菓子は、外側はカリカリとしていて硬そうに見えたが、その見た目に反し非常に軽く、表面は少しザラついていたり、気泡の跡が見えたりする。断面は無数の気泡が開いていて、まるでスポンジやパンの内部を想像させる。
マホミルは砂糖菓子を口の中に放り込んだ。その瞬間、濃厚な甘さと香ばしさが口いっぱいに広がった。サクサクした軽いに、独特の焦がし砂糖の風味がクセになる。わずかに独特の渋みや「シュワッ」とするような感覚、微量な塩気が、どこか懐かしい味を連想させる。サクサクと砕ける軽い食感とともに、口の中で溶けていく過程で甘みが一気に引き立つ。思わず表情が緩みそうなのを必死に抑えて、冷静さを保った。かなり美味い。
「まぁ…悪くないわね」
「でしょ!」
クレアが嬉しそうに言った。
マホミルは居心地の悪さを感じた。このまま店から立ち去ろうとするのも気が引けた。マホミルは店主の方を向いて言った。
「……二つ、ください」
「あいよ」
クレアはなおニコニコしながらこちらを見ている。
上手くはめられた気がするが、決して方針を変えるつもりはない。お菓子は嗜好品としての価値がある。これは必要な出費だ…と、自分に言い聞かせた。
おまけ:令和のヲタク
クレア:無駄遣いをしない為には買う前に「本当にこれは必要か? これがなければ死んでしまうのか?」と自問自答すればいいそうで、今日も私は 「死にまーす!」 と叫びながらレジに走りまた部屋は散らかり本の地層が出来上がる。
……あ、ちなみに近くのコミケ会場に行って、はぐれちゃった帰りにカルメ焼き屋さんによってたのは、ししょーには内緒で……




