お出かけ
旅行行ってたりして遅れました(汗)
——数日前
北からの渇いた風が、色づいた木の葉を揺らす。
冬が近づいてきた。窓穴から侵入した、朝の肌をさくようなひんやりとした空気が、毛布からはみ出た魔導書を持つ手を舐めた。マホミルはぶるりと震えてから、手を毛布の中に引っ込めて、布団の中で猫のように丸くなった。まだ魔導書を読んでいたかったが、指は冷え、集中力はかき消された。
…それに、そろそろあの子が起きてくる時間帯だ。
そう思った矢先に「ししょー!」という元気のよい声が聞こえる。クレアが部屋に駆け込んでくる前に、マホミルは起き上がった。
「おはよー、ししょー」
「おはよ。今日も無駄に元気ね」
「ふふふ、そーでしょー!」
「今のは皮肉よ」
窓から見える空は、まだ暗かった。クレアの朝が早いのは比較的いつものことだったが、日の出がどんどん遅くなっている。
「今日は随分と冷えてるわね…」
こんな寒い日は温かい朝食に限る。裸足のままキッチンに向かい、冷蔵庫を漁る。食材はまだ豊富にあるが、調味料の類いがもうほとんど残ってなかった。自分で準備することも不可能ではないが、こういうのは商人から買うのが一番手っ取り早い。もうじき冬がやってくるし、少しは買いだめしておいてもいいか。
「街に行くわよ」
「街?! わたしも行く!!」
「行ってどうするのよ。アンタは留守番してなさい」
「え〜! ししょーばっかりずるい!! わたしだって行きたいもん!」
可愛らしい膨れ顔を浮かべたと思ったら、「行きたい行きたい行きたい!!」と地団駄を踏んで暴れ出したクレア。子供特有の甲高い声が耳に触り、ズキズキと頭に響く。本当に勘弁してくれ、と思った。
「…わかった、わかったのね。連れてってやるから、大声出すのやめなさい」
「やった!ありがとう、ししょー」
そう言って、クレアはマホミルの肩あたりに抱きついた。無駄に距離が近いと思った。
「言っとくけど、余計なものは買わないわよ」
「わかった、わかってるて〜」
本当に分かったのか、判断が難しいところだ。
それに、私はこのような流れを以前経験したことがある。
以前に妹は「ハイハーイ。ゴメンナサーイ」って言って、全く反省の素振りを見せようとせず、いつもそうやって約束破られてた。
クレアの性格を考えると、かなり振り回されることになるかもしれない…
なった。
時は先程まで遡る。
亡霊少女とその弟子は街へと向かっていた。
ここら一帯で一番大きな街だった。ここ数日はクレアの魔法の稽古つきっきりで、街で買い物するのは少し久しぶりだった。
肉や野菜が売られた屋台がたくさん並び、商人達が呼び込みの声を張り上げている。クレアはあまりの人の多さと騒がしさに、少し気後れした。
そこらの屋台に目もくれず、やや大股ですたすたと歩くマホミルに合わせて、クレアは少し急ぎめで歩いた。クレアは急ぎつつも、道端に並ぶ露店に目をやった。キラキラしたアクセサリー、可愛い雑貨、高そうなガラスペン…見ているだけでも、それなりに楽しかった。
突然、クレアが叫んだ。
「ししょー! あれなに!?」
「おい、ちょっと……待ちなさい!! いきなり走りだすんじゃないわよ!」
いつの間にかクレアに袖を引っ張られて、マホミルはひきずられるようにして走っていく。
——まずい追いつけない。
クレアはこちらの様子を気にする様子もない。このままでは、はぐれてしまうのも時間の問題だった。そもそも、非力な魔術師が力で敵うわけがないのだ。どんなに魔術師として強くても、身体能力に至ってはボロ雑巾。それが現実だった。
——そして、
気づいた時には、クレアの姿がどこにもなかった。
おまけ:左目
マホミル:クレアが「左目が痛い痛い」って騒いでて不快だったから目薬をさしてやった。
「パチパチしなさいよ」と言ったところ、クレアは目を瞑ったまま、手をパチパチしていた。




