とある虐殺の天使の忘れ物
ペンを走らせて数時間、ようやく紙の上に一つの図案が完成した。この作業だけは、やはり紙上で行うのが最も効率が良い。
「……ふぅ、新しい術式の完成ね。理論は完璧なはずだから、後はコレを刻むだけ」
一見すると魔術語を使った只のシンプルな図案のようなものを書き上げ、マホミルは短く伸びをする。そして、近くにおいてあった長剣に手を伸ばし、何か瓶詰めにされた薬品を一滴、その刀身に垂らした。この間隠しダンジョンで見つけた片手剣である。マホミル達が見つけた時には、とうに腐食した状態であったが、その液体をひと度かけると、みるみるうちに新品と見違えるほど綺麗な状態に戻った。それは、先程ほど作った物の存在がループする魔法薬であった。
「今回は上手くいきますように……」
机にコトリと白銀の剣を置き、祈るように呟いてから目を閉じて詠唱を開始する。この種の合金であれば、比較的高度な術式にも、理論上 耐えられるはず。詠唱に呼応して紙上の魔術式が輝きを放ち、ほどけるように浮かび上がるとスルスルと吸い込まれるように刀身に消えていった。詠唱を続け、全ての魔術式が紙の上から消えた所でようやく詠唱を終える。
「……定着、問題なし」
魔力の流れを確認し、再度 剣を手に取って確認する。
「魔術式の異常なし」
マホミルはフゥと安堵の溜め息をつく。
「特に問題なさそうね。私って天才かも!」
一つ作り上げてしまえば、あとから魔法生成で量産がきく。
これで新商品の開発のほうは問題なさそうだ。
ふと、マホミルは手袋越しに濡れた感触を覚えた。
「あー手に魔法薬ついちゃってる…」
思い当たる節が、一つだけあった。
さっき作った存在がループする魔法薬。
剣に使ったときか、はたまた作ってる最中についたのか。いずれにせよ、このぐらいの量であれば人体に害はないので大丈夫だろう。
マホミルはその場に誰もいないことをよく確認してから、手袋を外した。そして、風の魔術で水分を飛ばした。
マホミルはふと両手の手のひらに目をやる。手のひら全体に広い傷跡があった。
やっぱり消えてない、か。
数年前 転んだ時についたものである。時間経過では直らず、色々な魔法薬や回復魔術をそれなりに試してみたのものの、消えなかったのだから。今さら直る訳がないのである。
「ししょー、ただいま〜」
不意に玄関の扉が開く音がして、マホミルは猫のようにびくりと跳ね上がった。そして、急いで手袋をした。
「お、おかえりなさい……いつの間に出かけてたの?」
「うん、ちょっと遊びいってた」
バレている様子はなかった。マホミルは心の中でほっとのため息をついた。
「あっ、そうだ、剣!あれ、完全したの?」
「あ……ええ、机の上に置いてあるわよ」
クレアは机の上に置いてある、新たに魔術式が刻まれた長剣を、まじまじと見つめた。
「へー」
クレアはしばらくそれを興味深そうにじっと見つめていたが、なにかを思考し再び口を開いた。
「ねぇ、名前とかつけてあげないの?」
物に、よりにもよって剣に、名前をつけるなんて考えもしなかった。
物を人のように受け取るその主観性はクレアぽいなぁと思った。
「えー、正直いらなくない?」
「必要だもん!」
マホミルは心底面倒くさそうにしながら答えると、クレアは可愛らしい膨れ顔を浮かべて反論した。
「ほら、名前!名前!」
「え〜〜〜」
確かに、クレアの言うことにはいちりあるかもしれない。売り出すにあたって商品名はあったほうがいい。
マホミルは仕方ないなぁと思いつつも、「ん〜」と考える。しかし元々名前をつけるつもりなんて全くなかったから、全く考えていなかったのである。候補もなかなか定まらないまま、時間だけが過ぎる。
そろそろ行き詰まってきたその時、脳裏をよぎったのは、先程の手のひらに残る傷跡だった。
傷跡、罪の証、束縛、復讐……
頭に浮かんでくるワードを色々と巡らせて、たどり着いたのは一つの言葉だった。
「アンタレス……天蝎宮の紅夢 魔剣アンタレス」
クレアはじっと黙り込んで何かを考える素振りを見せるが、やがて開き直って口を開いた。
「ししょーって中二病だったんだね」
「は?」
おまけ
エラー2「なんでラスボスっていうのはは全てを無に還したがるんだろう?」
エラー0「さぁ?何故だろうな」




