剣呑と再会
生存報告。ピク◯ブにいました。
時系列的には、峡谷で翼竜と戦った後。クレアがマホミルと別れて帰路につく頃だった。
クレアが近道に人気のない暗い路地裏を通っていたとき、ふと誰かに呼び止められたのがわかった。
「ねぇ、そこのお嬢さん。ちょっといいかしら」
マホミルの声ではなかった。声からして、若い女性のものだ。声の調子はとても落ち着いているのに、謎の緊迫感というか…油断ならない雰囲気を、クレアは感じた。クレアは警戒しつつも、声のした方向にくるりと振り返る。
そこにいたのは、巫女装束を着た女性だった。創作とかでよく見る、いわゆる巫女服ってやつだ。それでも説明が足りないというのなら、説明しよう。白い小袖に緋袴を用いており、髪と瞳の色は黒だ。その長い黒髪を後ろの生え際から下で一つに束ねて、ヘアカフスのようなものでまとめていた。
「だれですか?」
警戒を含む声だった。
「貴女って…その……魔術師の弟子よね?」
その言葉が、一瞬、周囲の空気をピリつかせた。
顔こそは笑顔だったものの、なんというか、全体的に怒りを纏っている気がした。
「なぜわかったんだ?」というのと同時に「なぜマホミルのことを模索するんだ?」ということが、頭に浮かんだ。言っておくがこの人物との面識は全くない。勿論、マホミルと師弟関係にあるのも誰にも言った覚えもない。特別に隠しているという訳ではないが、マホミルは他人に色々と知られるのが、あまり好きではないし、特別 魔法を使っているところを人に見られた覚えもない。それもクレアがマホミルに弟子入りしたのは比較的最近だから、誰も知りようがない。
誰にも他言した覚えのないことを知っているということは、自分達が知らないうちに、どこかで見られていたということになる。一体どこの情報網なんだ。
クレアはますます警戒を強めた。相手の目的がまだはっきりとわかっていないため、出来るだけ表情には出さないようにした。
クレアは返答した。
「……そうですけど…なんで?」
「あのね、貴女の師匠と知り合いでね。急にいなくなっちゃったから、探してるのよ」
たぶん嘘だと思う。
マホミルは商人という職業柄、表向きには明るい性格を装っているが、素の性格はそれとは全くの別物だ。
小言多いし、お説教長いし、冷たいし、性格悪いし、すぐ怒るし、思いやりの欠片もないし、普通に性格クズだし…って悪いところしかないじゃないか。
…否、それが言いたいのではなく、マホミルは進んで人間関係を作ろうとしないということだ。
話しかけられれば対応するが、逆にそれ以外は、必要な場合を除いて自分から人に話かることは、滅多にない。ゆえに人間関係も浅く広くって感じで、孤立しているわけではないものの、基本的に一人で過ごすことが多い。特に、クレアが弟子入りする前はそうだった。
もっとも、クレアともただの利用関係で、善意や同情から弟子にしたのではないのだろう。
誰とでも仲良くはなれるが、親しくはならない。マホミルの人間関係は、そのような傾向が見られる。
つまりは、本人には悪いが、マホミルに知り合いなんているわけがないのだ。
つまり、この巫女は、クレアからマホミルについて聞き出すために、嘘をついているということになる。
日頃からマホミルの嘘を聞き慣れているクレアによって、素人の嘘などすぐに見分けられたのだった。
その巫女は口を開いた。
「師匠が今どこにいるか知ってる?」
「……えっと…その、…」
しかしクレアは、嘘を見破ることができたとしても、嘘をつくのが得意というわけではなかった。マホミルは良くも悪くも口がうまいから、こんな状況も抜け出すことができるんだろうけど、生憎、クレアにはそのような技能は持ち合わせていなかった。
……どうしよう、と頭の隅で焦り出していた時、背後からまた違う人の声が聞こえた。
「よー、クレア!数日ぶりだなぁ」
子供の声だった。その声自体に聞き覚えはなかったものの、どこかで聞いたことあるような、そんな親近感を覚えた。クレアは後ろを振り返る。そこには、多分130cmぐらい、クレアより少し小さいぐらいの背丈の子供がいた。黒い癖の強いはね髪に、ルビーの瞳をしていた。服は紫黒の小袖に鈍色の袴を用いており、これまた和風の格好であった。
「なぁ、いっしょに行こーぜ!」
「…う、うん」
その子供はクレアの腕を引っ張って、路地裏からクレアを引き出した。巫女は遠くで小さく舌打ちをした。
比較的大きな通りに出た。自然な形で巫女から逃れることができた。もうすでに空は夕暮れ色に染まっていた。さっきと違ってここは人の目があるから、ここまで来ればあの巫女も大ごとは起こせまい。
……助かった。
クレアは安堵のため息をついた。何はともあれ、結局なにも起こらずに済んだから良かったのである。
クレアはその子供に感謝を伝えた。
「…あの、ありがとう」
「ん?どーってことないぜ」
やはりこの人物、覚えがある。見覚えではなく、‘覚え’である。その子供の纏う雰囲気には、全ての行動が自分が楽しいか楽しくないかによって委ねられているかのような、そんな気配には、覚えがあった。
「もしかして……イアデル?」
「おっ、当たりー。よくわかったなー」
おまけ
クレア「お医者さんごっこしよー!!」
イアデル「いいぜー!!」
クレア「…ここの設備じゃ、これが限界だ。あとは‘ちゃんとしたお医者さん’に診てもらうんだな」
イアデル「わー!! なんらかの理由で医療界から追放された闇医者の設定だー!!」




