黒翼の死霊術師
??「旅人が此の世に生まれ落ちてから百話…えぇ、実にめでたい事です。今まで数多くの役者が登場し、舞台が開演しました。
歴史の闇に葬り去られ、「没」となった私を除いてですが。
此れからどの様な物語が繰り広げられるのかは……司会者である私のみぞ知る事です」
クレアは家を出ると、いつもとは違う方角に進んだ。
少しでもマホミルの助けになれたらと思い、「わたしには何ができるだろうか」と自分なりに必死に考えた。
その時この間読んだ薬学の本の内容が、脳裏をよぎった。魔法薬学の本だった。修行の一環として、魔導書の類を何度か読まされたことがある。確か、その中の一つだった。この地方に、風邪に効く薬草が生えているらしい。そして、特に山間部に自生しているという。流石に具体的な効き目や、詳しい加工方法は分からなかったが、やはり、ないよりはマシなはずだ。
ちょうど、比較的近くに、そこそこ大きな山がある。朝から向かえば、日没までには戻ってこれるはずだ。
だから、今日は魔法の練習を休んで、薬草を探しに行くことにした。
「あまり、遠くに行ってはダメよ」というマホミルの言いつけを破ることになるが、薬草を採ってくれば、きっと不問にしてくれるはずだ。
クレアは森の奥深くまで進んだ。山の頂上を目指してひたすら歩く。
登山口までは、結構あっさり来られた。
山道を上る。足場が非常に不安定な上り坂で、流石に体力が削られてくのを感じた。大粒の汗が、頬を伝い、顎から滴り落ちた。登ってくにつれ、徐々に体が重くなってくのを感じた。
休憩を間に挟みながら、坂を登り続けていくと、山の中腹付近、少し開けた所に出た。この辺りで昼食を取ることにした。マホミルにはお昼は外で食べると事前に伝えてあった。風邪がうつらないようにとのことで、別に怪しまれることはなかった。手ごろな岩に腰かけ、お弁当の中身を開いた。クレアはサンドイッチを齧りながら、辺りを見渡した。そこまで高い山でもないし、まだ中腹部分だけれど、景色はきれいだった。冬の空はどこまでも澄んでいて、枯茶色の木の葉を風が揺らしていた。
「あ……」
ふと足元を見ると、山の斜面に、探していた薬草が生えているのを見つけた。鈍い青紫色をした、星型の花だった。
運が良い。こんなに早く見つかるなんて。
クレアは荷物を置いて、足元に十分気をつけながら、ゆっくりと斜面を下る。ぱらぱらと足下から砂利が転がり落ちるたび、緊張感が高まった。そっと右足を前に出し、そっと左足を前に出す。これを何度か繰り返しているうちに、クレアは薬草の近くにまでたどり着く。しかし、そこから先が急斜面になっており、あともう少しのところで、これ以上近づけない。クレアは落ちないように細心の注意をはらいつつも、必死に薬草に手を伸ばす。しかしそれを嘲笑うかのように、薬草の細い茎は風に揺れ、あと数ミリで手が届くというところで、クレアの手から逃れた。それでもクレアは必死に手を伸ばし、身を捩り出した。
——手が届いた。
するっ、という音がした。落ち葉を踏みつけていた。そう理解した時には足場が崩壊し、クレアはバランスを崩して、崖下 真っ逆さまに落ちていった。
クレアは思わず目を瞑った。次にあるであろう衝撃に、身を硬直させた。
けれどいつまで経っても衝撃は来ない。逆に次に聞こえたのは左耳元、「バサッ」という傘を開いた時にするような、大きな音だった。顔に微やかな風が吹き、次いで深い呼吸音が聞こえた。クレアは恐る恐る瞳を開ける。
そこにいたのは、やるせない顔をしたマホミルがいた。
「……ししょー?」
「はぁ〜」
マホミルは「めんどくさい」とでも言うかわりに、一つ大きなため息をついた。クレアは、自分が抱え上げられていることに気づいた。
そして、黒鉄の翼が、クレアの視界の大半を覆い尽くしていた。
おまけ
クレア「牛は赤い色に反応するわけじゃないんだって。どういう勘違いで牛=赤ってなったんだろう??」
マホミル「牛は目の前でヒラヒラするものにイラついてるだけなんだってね。例えば、イアデルが目の前で急に高速で反復横跳びでもしたら、殴りたくなるでしょう?」
クレア「そうだね」
イアデル「」




