第七十七話 シュヴェルト城下町探訪~酒場でご飯~
はい、というわけで、第一王女オードリーが、王位はいらん宣言を王様に向かってしたところ、大変な騒ぎになっているわけですね。
どうも城内は、オードリー派とアレクサ派になって争っていたらしく、その内部の権力争いが表面化して非常に危険な状況になっていた。
……なので、俺達はオードリーの手を借りて、さっさとお城から逃げ出したわけである。
「少し町で遊んでらっしゃいな。そのうちにお城の騒動も収まるでしょう」
気楽に言ってのける鋼鉄王女。
あなたあれでしょう。腕っ節で収めるつもりでしょう。
明らかに禍根を残しますよね?
立つ鳥だとしてもあとを濁しまくりますよね?
……なんて思ったが、小心な俺である。
嫁達+1を連れて、まったり城下町へと繰り出した。
そういえば、勇者達はあらかたツブヤキッターに登録してあるが、彼らは無事だろうか。
殺しても死なないから大丈夫だろうな、なんて思いはするが、特に男衆は俺の友人でもある。あの男臭さが恋しくなる時もあるのだ。
だって、今女所帯だし。
あ、マリーさんは新しい恋を見つけたりしながらよろしくやっていると思います!
「セブン様あ、何を物思いにふけっていらっしゃるんですかぁ?」
俺を覗き込んできたのはクリスであった。
彼女は多分、この中で一番俺に敬意を以って接してくれている。
何をボーっとしてるんですか、なんて、アイナみたいなことは言わないのだ。
「いや、ジャスティーンにエドガーにテンマ、元気かなーって」
「きっとご無事ですよ。お三方も、セブン様に会いたいと思っているはずですよぉ」
ほんわかした微笑みに心底癒されて、俺は堪らず天下の往来でクリスを抱きしめた。
「クリスは俺の心のオアシスだよ……!」
「ふわっ、あ、ありがとうございますぅ」
彼女も抱き返してくるが、他の女性達の視線が痛い。
特に、最近構ってやってないニナが飛び跳ねて抗議してくる。
「旦那ずるいぞー!! 最近アイナとセレーネばっかりかと思ったら、新しい女連れてきて抱きついて! しかもそしたら今度はクリスかよー!! あーたーいーもーぎゅってされたーいー!!」
「わ、わかった、夜にな」
「わはー! やりい!」
予約が入ってしまった。
心なしか、ニナが抱っこしているゴーラムも嬉しそうにわきわき動いている。
お前、ニナ大好きだもんな。
城下町を練り歩く俺達は、今現在貧相な男一人に、年若い乙女が四人、妙齢で長身の女性が一人。華やかだが実に無用心である。
だが、この街、妙に治安はいいようだ。
それもそのはず、シュヴェルトには兵役がある。
全ての男たちは兵士を経験し、退役した後も全員が訓練を欠かさない。
国民皆兵の国なのである。
女達も望めば若いうちは兵役を経験できる。
そして、敬虔な暁の星教徒でもあるから、明けの明星の下で犯罪は犯さないのだ。
だが、この中に、オードリーの母親を暗殺した者が潜んでいるという。
いや、オードリーを何度も暗殺しようとしたアレクサも大概なんだが。
「それじゃあセブン様ぁ、ご飯をどこで食べるか決めましょぉ!」
「あたい、ガッツリ系がいいなあ!」
「ああーっ! 七郎さんが取られたー!」
「アイナさん落ち着いて。正妻たるもの、どんと構えているべきですよ」
「で、ですけどー!」
俺はクリスとニナに両脇をガッチリ固められ、連行される体である。
その斜め後ろをゆっくり歩いていたアリスがため息をついた。
「明らかにこの中だと、私がアウトサイダーよね。もう、本当ならさっさと基地に帰りたいんだけど……。もう一週間近く基地を空けてるから、仕事が溜まっていると思うのよね……」
「だ、だけど、お、俺が帰れたのも五ヶ月ぶりだった、し」
「ごっ、五ヶ月!? そんな! 私くびになっちゃうわよ!!」
露骨にアリスは狼狽した。
「日本で欠勤で解雇されて、しかも軍部の情報に触れてる人間よ!? どんな目に合うか分かったものじゃないわ……! ジーザス……!! 私の人生終わった……!!」
アリスが天を仰いではらはらと涙を流す。
今回は、スマホの暴走でこの世界に帰ってきたが、実際どんな機能が働いて帰ってこれかが不明だしな。
スマホの電源カバーを開けた男がどこかに引きずり込まれるのを見てから、俺は進んでスマホを解体しようなんて考えなくなっていた。
そんな俺の意思を汲み取って、アイナが告げる。
「大丈夫ですよアリシアさん。このセブン様だって今まで生きてこられたんです。それに、セブン様に私達四人は救われたんですよ! 万事セブン様に任せておけばいいんです! 第五婦人ですね!!」
違うアイナ、そうじゃない。
そんな欲望丸出しなのは俺の意思じゃないぞ!?
アリスもその言葉を聞いて、俺に胡乱な目を向けた。
「……確かに、この世界で生きていくにはあなたに従うしかないかもしれないわね……。ええー……。私の七年ぶりのステディが、日本人のサラリーマン……? この人生は想像できなかったわね……」
検討し始めてる!?
元軍人だけあってリアリストなんだろうか。
「まっ、まだ元じゃないわ!!」
むきになってアリスが否定してきた。
「それにいい加減、友達も片付いてきて私だって焦ってるんだから! いいわね七郎! もしも私が決意を決めたら、きちんとジョブを探すのよ!! ノージョブはダメよ! そうしないと家族を作ったり出来ないんだからね!」
堅実な理論である。
俺達はそんな話しをしながら、手近なパブに入った。
この国、飯屋が無い。
酒場しかない。
流石は傭兵の国だ。
パブで、とにかく量が多いつまみを頼み、会話再開。
古びていい色合いに変化した木製の壁に、メニューが書かれた木の板が打ち付けてある。
あちこちには、店主が狩をした成果か、剥製になった動物の首や角が飾ってある。
昼間から飲んだくれている男達も多く、綺麗どころばかりの俺達の来店で、彼らは快哉を上げた。
「とにかくね! 先立つものはマネーなのよ!! マネー!!」
黄金色に透き通った、氷入りのリンゴ酒を飲みながらアリスがヒートしている。
「私の家はね、父が軍で働いているの。母は医者をやっているわ。エリートなのよ! それなりの教育を受けてきたの。そんな私が、貧乏な家庭で子供に教育も受けさせてやれないなんて考えられない!」
「お言葉ですがアリシアさん!」
発酵乳を水で割った奴……ヨーグルトドリンクを手にして、アイナがアリスに食って掛かった。
「セブン様はお金持ちなんですよ!」
「えっ、嘘!」
一瞬で否定したなアリス!
「本当です! ラスベリアのカジノで大勝して、今だと、シュヴェルト王国の半分くらいを全部金貨で買えるくらいのお金持ちなんですよ!」
魔法のカードもあるから、この店の支払いも楽だしな。
アリスは信じられないものを見るような目を俺に向けた。
よほど意外だったんだろう。
腹が立つ反応だが、気持ちは実に良く分かる。
俺も、俺自身が大金持ちになっている事実を良く忘れる程度には現実味が無い。
料理が運ばれてきた。
ハッシュドポテトの親玉、レシュティは必ず出てくるのな……。
その他、ドライビーフやプロシュートと言った乾燥肉の料理がたくさん。
冷涼な気候で空気も乾いているから、干物が美味くなりそうな土地だ。
実際、肉料理はいい味が出ていて美味かった。
付け合せのチーズも種類が多くて、一端手をつけると止められなくなる。
香り、歯ごたえ、下の上でとろける食感。
チーズフォンデュもいいが、ナチュラルチーズをこうして味わうのもまた良いものだ。
野菜分が少ないのは、根菜や玉ねぎをピクルスにしたものが出てきたので、これで補うのか。
酸味が利いていていいアクセントである。
「レシュティってうめー!」
ニナはすっかり、ハッシュドポテトの親玉を気に入ったようだ。
外はサクサクカリカリ。内側はふんわりして、まだ粒が残ったジャガイモの食感を楽しめる。
これに塩を振ったり、酢をかけたり、辛子をかけたりして食べる。
素朴な美味さだ。
「本当。私、ご飯食べている時があ、一番幸せですう……」
ふんわり蕩けきった顔をしたクリスは、切り取ったレシュティの上にプロシュートを載せて食べていた。
それも美味そうだなー。
俺が口を開けて見ていると、彼女はそれに気付いたようで赤面した。
「もっ、もちろん、一番は本当はセブン様ですからぁ」
「気を遣わなくて良いよ!」
「……というわけでえ、アリシアさんが意地を張る理由は何も無いわけなんですよ!!」
「何だかそう言う気になってきたわね……」
ドライビーフを齧りながら、うちの嫁とアリスの話し合いが妙な方向に動いている。
思い立ったら一直線なアイナである。
異世界転移に巻き込まれて、いきなり孤立無援のアリスを気にしてのお誘いなのだろう。
俺の意思はどこに行くのかね!!!
「まあまあセブン様。このリンゴ酒、甘くて美味しいですよ。今は難しい事を考えずに、このお酒の生まれに思いを馳せませんか」
セレーネが俺にお酌してくれた。
俺達は数が多いので、リンゴ酒を小さな甕で頼んでいた。
アルコール度数がさほど多くないのか、注いでもらったリンゴ酒がなかなかいける。
ぐいぐいいける。
「そうだなあ。今までも成り行き任せだったもんな! これからもなんとかなるなる!」
「そうですよ。そんなセブン様をサポートするのが私達妻の役目なんですから」
二人でわははははは、と笑った。
ふっと、そんな俺達に影が差す。
「よう、兄ちゃん。綺麗どころをたくさん連れてるようだが……ちょっと俺達にも分けちゃくれねえか?」
なんか、お約束なのが来た。




