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異世界コミュ障戦記~スマホでググって大賢者~  作者: あけちともあき
第九章 北の傭兵王国シュヴェルト編
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第七十六話 狩りに行きませんこと、お姉さま?

 オードリーの妹であるアレクサの提案とは、狩りであった。

 王侯貴族が趣味でやるような狐狩りを俺は想像したのだが、違った。


「セブン様、シュヴェルトの狩りは、肉や素材となりうる動物や魔物を狩りますのよ!」


 ガチのやつだこれ。

 面子は、俺達とオードリー、アレクサ、そしてオードリーの許婚である伯爵のハミル。その他、ハミルの私兵がついてくる。

 んんー!?

 この状況、陰謀の香りしかしないんですけどぉ!?


「ご安心めされよ賢者様。馬はハミル伯爵の兵が手綱を握ってくれましょう」


 アレクサの笑顔が怖い。

 そうじゃなくてだな……。


「狩り、か。面白そうね、私もやってみようかしら」


 アリスが乗り気だった。

 ということで、俺はアリスの馬に乗せてもらい、彼女の腰に掴まるというなんとも情け無いスタイルで行くことになった。

 っていうか、なんで行くって決まってるんだよ!?


「それはもう、わたくしのフラストレーションが溜まっているからですわね。アレクサなりに気を遣ってくれたのでしょう。よく出来た妹ですわ」


 アレクサは、オードリーがむしゃくしゃすると、決まって狩りに誘ってくれたり、隣の国の街に誘ったりと色々世話を焼いてくれたらしい。

 狩りでは本来いないはずの飛竜に襲われたり、肝試しで入った古びた砦が盗賊たちの巣窟で囲まれたり、街では危うく騙されて人買いに売られそうになったりと、実にエキサイティングな暇つぶしを提供してくれると、オードリーはご機嫌である。

 それ絶対命狙われてるよね?

 オードリーは正妻の子で、アレクサは妾腹の子。

 歳は近くても、王位継承権はオードリーが上である。さらに、オードリーの母親は若い頃に、サソリに刺されて死んだとか。こんな寒冷地で珍しいと、オードリーは語ったものである。

 それは暗殺なんじゃないかなー。

 だが、今こうしてオードリーが元気な理由は分かる。

 恐らく、彼女を暗殺する事は不可能なのだ。

 俺が知っている勇者達を思い返しても、一人残らず、殺しても死ななそうな連中ばかりである。

 アレクサはむきになって、例え悪魔の手でも簡単には殺せない化け物を暗殺しようとしているわけか。

 まあ、俺の予想なんだけど。

 そして、あまりにも頑丈過ぎるがために、オードリーは人を疑う必要が無い。

 どれだけ陥れられて罠にはめられて、本来であれば命の危険があるような状況に突き落とされても、口笛を吹きながら(吹くかどうかは分からないが)楽々帰ってくるのである。

 なるほど、鋼鉄王女。

 実にぴったりな名称だ。

 肉体ばかりではなく、ハートも神経も鋼鉄なのだ。


 そっと、何回アレクサに誘われて遊びに行ったか聞いてみた。


「そうですわね……二十回から先は数えてませんわね」


 つまり、二十回以上オードリー暗殺計画は失敗していると。

 アレクサも不屈の精神である。鋼鉄の精神と呼んで差し障り無かろう。


「よく神経が持ちますね……やっぱり勇者の方々って精神的にも構造が違うんでしょうか」

「だけど、それじゃあアレクサさんも勇者の精神を持っているってことに」


 セレーネとアイナがぺちゃくちゃやっている。

 彼女達、運動音痴組はハミル伯爵の兵士達と一緒に後方から追いかける事になる。

 馬に荷馬車をくっつけたような代物である。

 兵士たちは、女の子が多いのが嬉しいのか、積極的にアイナ達に話しかけている。

 一番人気はクリスだった。

 女性的な魅力があるもんなあ。

 そして、おじさん兵士達からおやつをもらったりしているニナである。

 なんか娘みたいに思うよな! 分かる、分かるわ!


 まあ、俺の嫁達に手を出さなければ、お喋りなどのコミュニケーションは多めに見ようではないか……。


「七郎、もっと深く抱きつかないと落ちるわよ」

「えっ、い、いいんですか」

「いいも何も、ここだと私、あなたのおまけみたいなものなんだから、主賓である七郎が怪我をしてしまったら元も子もないじゃない」

「仰るとおりです」


 俺はギュッとアリスの腰を抱きしめた。

 よく鍛えられ、引き締まったウエストである。アラサーでありながらこれだけの肉体を維持するには、日々想像を絶する努力が行われているのであろう。

 そういえば、毎朝彼女はクリスやオードリーと中庭に出かけている。

 朝連か。

 クリスもああ見えて、毎日基礎的な運動を欠かさない。

 我が嫁達で一番の身体能力は、日々弛まぬ訓練から来ているのだ。


 こうして俺達は、シュヴェルト王国の森深くまで分け入った。

 野鳥などをハミル伯爵が見事な腕前で射止める。

 動く標的に当てるなんて、大したものじゃないか。でも矢が当たっても爆散しないなーと思う辺り、俺もエドガーに毒されてきている。


「流石です、ハミル様」


 アレクサが恋する乙女の顔で彼を褒め称えた。

 ハミル伯爵はオードリーの許婚である。この二人、朝からほとんど会話をしていない。

 仲が悪いというのではなく、元からそういう話をする関係では無いような、そんな雰囲気だ。

 オードリーは神経も鋼鉄だから、細かい事は気にしなくても問題ないのだろう。

 恐らくはハミル伯爵も、最初はオードリーのご機嫌を取ろうとしたが、我が道を行くばかりのオードリーに思いは伝わらず……心が弱った時にアレクサが支え……なんて展開だったりしてな。


 ハミルはアレクサに微笑みながら手を振る。

 アレクサはアイナ達と共に、後方の馬車にいるが、彼女の馬車だけは高そうな装飾が施されている。

 うちの嫁達なんて荷馬車なのにな。


「じゃあ、次は私ね。弓なんて大学で使って以来ね……!」


 アリスは十年近いブランクがあるとのことで、それも前の経験は趣味でやっていたアーチェリーくらい。

 だがなかなかどうして、堂に入った構えである。

 射た矢は獲物に当たりこそしないが、まっすぐに飛んで木に突き刺さった。


「あら、惜しいところでしたわね! では、次はわたくしですわ」


 小柄ながら、大きな馬を悠然と乗りこなすオードリー。

 実に王者然としていて格好いい。

 確かに彼女は、風格から言えば王の器かもしれない。


「どーれ」


 一見すると金髪の小柄な美少女が、馬にぶら下げられた大きなトマホークを取り外す。

 えっ、それで狩るの!?

 お姫様だけ一人、蛮族みたいなんだけど!


「胴に当てると穴が空いてしまいますものね。これはあくまで、衝撃波を当てて動物を気絶させる道具なのですわ」


 使い方違うよね?


「ほおら居ましたわ!! 鳥ですわよ! えーいっ!!」


 人型の鳥ってのがいるなら鳥なんだろうなあ。

 でも、後光が差してて彫刻みたいな肌色で羽が生えてるから、あれは天使だろうなあ。

 オードリーは目測を誤ったらしい。


「あっ」


 と彼女が声をあげ、しまった、という顔をした。

 狙いは過たず、天使は突然上空目掛けて飛来してきたトマホークにぶち当たり、インパクトの瞬間に爆裂した。

 光に帰っていく。

 これはひどい。


「またやってしまいましたわ」

「あれって、浅草に現れた天使よね……。驚いたわ。横須賀では一体倒すのに、一個中隊が出動したのよ」

「勇者って言うのはああいうでたらめな連中なんだ」

「とても信じられないけど、目の前でやられたら、信じるしかないわよね……」


 アリスが衝撃を受けている。

 俺だって最初は衝撃だったんだ。

 いや、衝撃どころではなかったな。ただただ漏らした。それだけだ。


 ハミルとアレクサは単純に感心しているようだ。

 この世界の人間は天使の存在を知らない。だから、人型の変わった鳥くらいにしか思っていないのは無理も無いのだ。

 まあ、アレクサの感心は呆れ半分であろう。

 さて、いつになったらアレクサが仕掛けてくるのか……。


 既に場所は森の奥。

 これ以上先に行けば、帰りは夜半になってしまうだろう。

 獲物だってそれなりに獲れている。

 アリスは結局惜しいところで矢が当たらず、非常に悔しがっていたが。野生動物とは甘いものではないのである。

 え、俺?

 ハハハ、俺が弓矢なんか使えるわけないじゃないか。

 一度打たせてもらったが、ひゅっと目の前の地面に突き刺さったので、こいつはダメだとすぐに判断してもらえたらしい。


「セブン様は頭脳派なんです!」

「そうですね! 体なんか動かさなくても、頭脳が働いているだけで充分ですよね!」


 アイナとセレーネからの微妙な励ましを受けることになったが、まあ嫁達の気遣いはありがたく受け取っておこう。


「七郎、気をつけて。兵士達が動きを変えているわ。この布陣は……」


 アリスが囁いた。さすが軍人である。兵士達の細かい動きの変化に気付いたのか。


「多分、彼らはあなたの恋人達を人質にしてくるわ。元から選択肢は無かったとは言え……やはり不味い状況ね」


 アリスは既に、懐に呑んでいる拳銃に手を掛けている。

 俺達の服装は、既にこの国らしい、麻と毛皮の衣装になっていたが、アリスは着物の裏側にホルスターを取り付けていたらしい。

 俺が抱きしめるアリスの体に緊張が漲る。


「いや、いつまでハグしてるのよ。動けないでしょ」

「あ、すみません」


 俺が手を離したときだった。


「お姉さま!」


 アレクサの鋭い声が響いた。

 対するオードリーは、なんとものどかな雰囲気で振り返る。


「なんですの、アレクサ? そろそろ戻りますの?」

「ええ。狩りも潮時ですしね……。それよりも、お姉さま? この国を出て行くというお話は本当なのですか?」


 オードリーが目を細めた。

 む、警戒心をあらわに?


「ええ、そうですのよ! わたくし、遂に運命の人と出会いましたの! わたくしを世界に連れ出してくれる方ですわ!!」


 あ、笑っただけだった。

 このオードリーの空気の読めなさは凄い。

 張り詰めた一帯の空気を全く鑑みないのだ。

 この姉を相手に、ひたすら挑み続けてきたアレクサ。さぞかし精神をすり減らした事であろう。

 道理で、オードリーと一ヶ月違いと言うほぼ同い年ながら、アレクサは少々大人びて見えた。


「そう、そうですか……」


 アレクサはゆっくりと前に進み出た。

 彼女に従うように、ハミル伯爵の私兵が両脇に展開する。

 アリスがごくりと唾を飲んだ。


 ゆっくり、ハミル伯爵も前に出て……。

 二人はしっかりと手を取り合った。


「お姉さま!! お伝えしたい事があります!」

「なんですの!」

「私……アレクサは、ハミル伯爵をお慕い申し上げております!!」

「私も、アレクサ殿を愛しく思っております……!」

「私達の仲を……お認めください!」


 ばーん!!

 と言う宣言だった。

 えっ、そう言う方向の話?

 アレクサ、どうやら謁見の間でのやり取りをしっかり把握していたらしい。

 今まであの手この手を使って亡き者にしようとした姉が、自分から居なくなってしまうのだ。

 自分がやって来た苦労はなんだったのかと、ちょっと空しくなりそうな展開だが、そこは鋼鉄の精神を持つアレクサだった。

 だったら、ハミル伯爵と堂々と婚約できるではないかとポジティブに考えたのだ!


「おめでとうアレクサ、ハミル伯爵。わたくしは二人を祝福しますわ!!」


 おお、と兵士達がどよめいた。

 多分この兵士達は、怒り狂ったオードリーからアレクサとハミル伯爵を守るため、自ら肉の壁になりに出てきたのだろう。

 悲壮な覚悟だったが、オードリーはまあそもそも、そこまで人間臭い生き物では無い気がする。

 天然ちゃんなのだろう。


 姉の許しをもらった妹、婚約者から許された伯爵は、晴れてこの場で見つめあい、


「ハミル!」

「アレクサ!」


 と抱き合ったわけである。

 ……待てよ。ハミルは俺より年下だが、明らかに見た目はアラサーで、その伯爵と並ぶといい感じにバランスよく見えるアレクサって幾つよ。


「お、オードリー殿下」

「オードリーと呼び捨てになさい!」

「アッハイ。オードリー、ご、ご年齢は幾つですか」

「わたくし? わたくしは二十歳ですわ!!」


 びっくり。

 せいぜいハイティーンかと思っていたが全然大人だった。

 そうか、苦労と言うものを知らないから外見が年を取らない……のか?


 熱く抱擁し合うアレクサとハミルを見て、俺は二人の境遇に同情した。

 オードリーは家を継ぐつもりがそもそも無かったようで、のらりくらりと、ハミルとの結婚を先延ばしにしていたのである。

 元から両想いだったらしいアレクサとハミルにとって、諦めのつかない地獄の時間が、なんと七年続いたという。

 そりゃ、何度もこの姉を亡き者にしようとするよな。

 ちなみに、サソリの件はアレクサは関係ないそうな。

 どうもオードリーの命を狙う者が、城下にいるらしく、母親はその犠牲になったのだ。

 オードリーは、その犯人を捜してもいるらしい。


 ……というのは、アレクサからの受け売りであった。

 さて、後は王様の説得だろうか。

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