第七十八話 シュヴェルト城下町探訪~訓練施設~
「よう、兄ちゃん。綺麗どころをたくさん連れてるようだが……ちょっと俺達にも分けちゃくれねえか?」
「ダメです、私達は全員七郎さ……セブン様の妻なので」
いったー!
いきなりアイナがいったー!!
引きとかそう言うのを全部ぶっちぎって、真っ向から切り落としに行ったね今。
そういう正直なところ、おじさん好きだなあ。
ガラの悪そうな傭兵達、これでムッとするかと思われたが、途端にシュンとなった。
「なんだよ複数の奥さんがいるって。反則じゃねえか。こちとら聖王国との戦争が無くなって食いっぱぐれちまったんだよ。収入のあてが無きゃ、結婚なんて夢のまた夢だしなあ……」
「おや? シュヴェルトの傭兵達はあの遠征作戦に参加していなかったと聞いたのですが」
情報と違いますね、と眉根を寄せるセレーネ。
「国家単位じゃそうだな。あくまでシュヴェルトは中立よ。だが、この鎧を脱いで、一傭兵として稼ぐために参加するのは大目に見られているって訳さ」
「俺達の仕事も、北部諸国連合が出来上がってからは減ってきてなあ」
北部諸国連合が出来たのはせいぜい十年前。
それまでは、戦争が絶えない土地だったらしい。
だが、それがアリトンの一声でまとまったのだという。間違いなく、十字軍遠征を行うために一つにまとめたのだろうな。まとめ役のアリトンが滅びたから、俺の良そうだと遠からず瓦解するんじゃないかな。
するとすぐに戦争に満ちた世の中だ。
たくさん人が死ぬかもしれないが、まあ多分俺のせいじゃない。
「それは大丈夫ですよ!! セブン様がアリトンを滅ぼしたので、諸国連合は壊れます!!」
アイナさん!!!!
そんな俺の深層意識を読み取って、こんな時ばかり正確なニュアンスで分かりやすく解説しないで!!
ふう、うちの正妻は諸刃の剣だぜ。
「ほ、本当か!!」
「それじゃあんたが、暁の星教団が指名手配している万魔の賢者セブン!!」
「うおー! それだけ凄い人なら、複数の奥さんがいても仕方ないぜー」
ちょっと待て!?
指名手配って何さ!?
っていうかあっさり信じてお前らチョロインかよ!
そんな俺の思いをアイナが代弁すると、彼らは髭面をにっこり微笑ませた。(チョロインは訳して無い)
「そりゃもう、教皇の後ろ盾だった黒貴族様を滅ぼしちまったんだから、稀代の大悪党だわな! 俺達としちゃ、あの偉そうで強大な黒貴族を滅ぼすなんて、スカッとする所業なんだけどよ!」
「お、おおおお、俺じゃねえし滅ぼしたのは」
「またまた! 勇者達を次々復活させ、ついにはあの勇者テンマを蘇らせて指揮下に置いているって噂だぜ! 一声掛ければ世界から勇者が集まり、その戦力はたった数人で北部諸国連合を凌駕するとか!」
「もう歩く災厄だよな! 枷の外れた黒貴族……いや、黒貴族にも勝っちまったんだろ? じゃあ、伝承に謳われる放浪の魔王ベリアルと同じレベルだな!!」
こ れ は ひ ど い !
「そうだ! 俺達を雇ってもらえばいいんじゃね!?」
「だな! 俺達、いい護衛になるぜ!!」
ヌウー。
こいつら、見た目はいかついが明らかに悪い奴らじゃ無い感じだし、それも、悪くはないかな……。
最近女所帯で肩身が狭いし……。
「残念ですが、これからセブン様の六番目の奥様になるのはこの国の第一王女オードリー様なので、手助けは無用なのです!」
アイナさん!!!!
王女様を第六婦人って! っていうかまだ決まって無いし! 彼女は恋に恋するとか、そもそも恋愛感情を理解できる生命体か否かも不明だし!
「なん……だと……!?」
「鉄腕王女のオードリー殿下が一緒に……!?」
「飛竜をも、相手のステージである空で殴り殺すオードリー殿下が……!?」
「ヒドラと戦った時、相手の再生する魔力が尽きるまで36時間の間首を切り続けて切り落とした首で小山を作って近隣の村の食糧難を救ったオードリー殿下が……!?」
最後の逸話なんだよ!!
生ける伝説かよあの子!!
「いやまあ、オードリー殿下は六歳の頃から現役だからなー」
「うんうん。俺達の憧れだよな。たった七歳の頃に、オードリー殿下の武勇を恐れて、誰もシュヴェルトに攻め入らなくなったんだよな」
「八歳でアリトンの手勢を一人で退けたよな! あれはかっこよかった!」
「そのオードリー殿下が一緒で、しかも結婚するんなら俺達の出る幕はねえな」
「賢者様お幸せにな。オードリー殿下を大事にしてやってくれ」
「まあ、あの御仁なら大事にしなくても谷底に落としてもケロッとして帰ってくるだろうけどな!」
何故か、傭兵達と嫁達がみんなでわっはっはと笑った。
アリスもすっかりアルコールが回って、愉快になって笑っている。
アカン。
「そんじゃあよう、そのオードリー殿下の未来のご主人が、こんなところで何をやってるんだ?」
「セブン様はお城から追い出されまして。国王陛下がオードリー殿下を連れ出すのを認めてくださらないのです」
「あー」
「国防の要だもんなあ」
えっ!?
大事な第一王女だからじゃなくてそっち!?
なるほど……だから、アレクサがハミルとくっつくと分かっても、オードリー連れ出しに反対したんだな。
国王は、北部諸国連合が持たないことを分かっているんだろう。
何せ、俺がセブンだと知っているわけだからな。傭兵達が知っているレベルの有名な情報だ。
あれだけ上の立場の人間なら、アリトンが倒れた事でどうなってしまうのかなんて、しっかり考えてあるのだろう。
「それじゃあ暇つぶしによ、うちの訓練所でも見に来ないか?」
「俺達としても、オードリー殿下がいてもまだ仕官の道は諦めちゃいないんでさ、ポイント稼ぎさな!」
なんと気持ちのいい奴らだろう。
俺としては彼らを是非雇いたい。
こういう下心を剥きだしの奴らは大好きだ。
かくして俺達は傭兵達に案内され、訓練所を見に行く事になった。
アリスは酔っ払ってふらふらだったので、傭兵の一人がおんぶしてくれる事になった。
こいつらは、すっかり出来上がったアリスによって、アルファ、ブラボー、チャーリーと名付けられた。
ひでえネーミングだな!?
だが、アルファはご機嫌でアリスを負ぶっている。
「ああー、女っていい匂いがするなあ」
「おいアルファ、俺にもおんぶさせろ!」
「いやいやブラボー、次は俺が」
実に微笑ましい。
男臭いというのは良いものだなあ。
今となってはラシムのムキムキが懐かしい。
別にそっち方面の趣味は無いんだが。
さて、到着した訓練所というのはだ。
その名前からは想像もできない規模の建物……いや、場所だった。
聞けば、徴兵された全ての国民はこの施設で訓練を受け、一人前の兵士になるのだと言う。
この国の国民の数がどれほどいるのかは知らないが、そんな大人数を受け入れる施設ならば納得だ。
具体的には、ルキフルス全体よりも大きな施設なのだ。
つまり、東京ディスティニーランドとディスティニーシーを併せて、周囲のホテルやらを全部入れると同じくらいの大きさになる……それだけの規模だ。
年端も行かない子供達が、古びた太い丸太に向けて切りかかる。
手にしているのはこれまた古いショートソードである。刃もつぶれてすっかりなまくらになっているが、そのお陰で丸太をぶん殴るだけの訓練になり、丸太は切り裂かれずに長持ちするわけである。
「むー、腰が入ってませんねぇ」
おっ、へっぴり腰に定評があるクリスさんじゃないっスか!
「セブン様ぁ! 私、訓練ではちょっとしたものなんですよぉ!」
「実戦じゃなきゃ強いのか……」
なるほどお座敷剣法である。
子供たちに場所を譲ってもらい、クリスはショートソードを貸してもらった。
丸太を前にした瞬間、クリスからオーラが立ち上るのを感じた。
「いぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
普段の気弱なクリスからは想像もできない裂帛の気合が迸り、大地を駆けた彼女のなまくらソードは、太い丸太の半ばに深々と食い込む。それだけではない。土台をしっかり埋めてある丸太が、クリスの突進の勢いに負け、大きく傾いで止まったのだ。
「おお! 大したもんだぜ!!」
ABCの三人は大喜びで、やんややんやと盛り上がる。
俺も魂消た。
すげえじゃん!
なんでそれが実戦では全く活かせないの!
「緊張でだめになってしまって……これでも、セブン様のお陰で随分良くなったんですけどぉ」
「クリスさん凄い!」
「以前よりも腕を上げていますよね?」
「クリス強いんじゃん!!」
嫁達がきゃっきゃうふふ、と盛り上がる。
「よ、よし、現役の軍人として負けてはいられんな。わ、私も」
へろへろと立ち上がったアリス。
だが、まだ酒が抜けていなくてぽてっと倒れた。
ダメな軍人である。
あのリンゴ酒、結構アルコール度数が高いみたいだ。
その後、ニナ、アイナ、セレーネの順で挑戦し、ニナは力こそ強くないものの、突きの鋭さをみんなに褒められ、アイナはとりあえず素振りからだね、と言う話になり、セレーネは剣を持つと周りが怪我をするよね、という結論になった。
クリスはすっかり、訓練所の年若い少年少女たちに気に入られ、剣の振り方なんかを教えている。
うん、訓練風景を撮影してから画像検索したけど、それって聖王国騎士団の総合戦闘術だよな。国家機密だよなこれ。アイオンが使ってたやつだろ? まずくね?
……まあいいか。
俺はいつもどおり、考えるのをやめた。
しかし、しばらくはこの施設で体を鍛えながら、城のほうに動きが出るのを待ってもいいかもしれないな。
町で情報収集する手もある。
俺はABCを振り返ると、彼らは並んでサムズアップした。
よし、お前ら採用。




