第七十話 現実世界の異変
うちの父が帰ってきた。
この人は俺と同じタイプ……いわゆるコミュ障なんだが、よくぞ一つの会社にこの年まで勤め上げたと思う。
挙句に結婚して子供作って(子供の俺もコミュ障だったけどな)マンションまで買ったのだ。
勝ち組であると言えよう。
五ヶ月前まで、俺はこの人を舐めていたが、今は普通に尊敬している。
コミュ障でも戦いようがあったのだ。ちなみに仕事は電気工事の会社で働いている。どうやって同僚とコミュニケーションを取っているんだろうか。
「七郎、お前」
「アラブなんで奥さんが複数いてもおかしくない」
「そうか」
よし、片付いた。
元から、頭の中でぐるぐる考える人で、口から出てくる言葉が少ない。
彼なりに考えて納得したんだろう。
夕食時で、早速アイナからビールをお酌されてデレデレしているが。
うーん、しみじみ思うが、血だなー。
俺とそっくりだよあのだらしない顔。
「お義父様、もっと召し上がってください」
「あ、はい」
あまり酒に強くないのだが、何やら気分がいいらしい。
父も母もニコニコして俺を見てくる。
なんだなんだ、この空気は。
テンマもニヤニヤして俺の背中を叩く。
ガーデンでそれなりに鍛えて、筋肉もついてきたと思うが、叩かれるとやっぱり痛い。テンマはジャスティーンよりは手加減が上手いと思うんだが。
「仕事はどうなんだ」
「まあ……大変な事も多いけど、仲間もできたし……なんとかやってる」
仕事なんてものじゃないし、大変どころじゃないけどな。
俺はなんでガーデンで、あんなに必死に動いていたんだろうな。
たった五ヶ月間だというのに、恐ろしく濃厚な時間だった。
今のこの、実家で食卓を囲んでいる風景が夢なんじゃないかとも思えてくる。
そんな俺の気持ちを察してか、スマホもずっと黙りっぱなしだ。
一応充電はしたんだが、俺の力による充電以外が出来なくなっていた。
充電用端子の部分が変形してしまっているのだ。
そんな風に飯を食いながらスマホの事を考えていると、いつの間にか親父がハーレム状態じゃないか!!
クリスが料理を切り分けて差し出し、アイナがお酌をし、ニナが肩を叩いている。
セレーネは母と一緒にバラエティを見ながら、意見交換をしているな。
うむ、いつも変わらない子、おじさん好きだぞ。
ちょっとセレーネの好感度が俺の中で上がる辺り、俺もずれてるかもしれない。
俺がギギギ、と親父のハーレム状態を悲しむ顔をしたので、アイナがすぐに戻ってきた。
「ごめんねセブン様。お酌を忘れてました」
ビールを注いでくれる。
俺はビールの美味さってのがさっぱり分からんのだが、なんか女の子にビールを注いでもらうとか、今考えると初体験でちょっとドキドキ。
「ささ、ぐぐーっと」
「お、おう!」
ぐいーっと飲むと、アイナが拍手した。
おっ、なんだか気分がいいぞ!!
アイナはテンマにもお酌をする。
「わはは! 嬉しいのう。封印されている間は一人じゃったし、飲み食いする楽しみが無くてなあ。こんな綺麗どころに酌をしてもらえるなら、蘇ったかいがあったというもんじゃ!」
言いながら、ぐいーっとコップを傾けた。
一息である。
「かあ――っ! よく冷えとるのう! それに、薄めだが酒気が強くてガツンと来る! こりゃ飲み易い! 未来の日本はこんなビールが出ておるんじゃなあ!」
一時期日本のビール市場を席巻したビールである。
うちの父親はビール派なので、平日は発泡酒か第三のビール、休日や目出度い時はビールと決めている。その中でも、爽快さ重視らしく、ラガー系よりもこういうドラーイって感じのを好むわけだ。
俺には良く分からんが。
「七郎、あんた、明日はみんなを連れて観光にでもいったら? しばらくこっちにいられるんでしょ?」
「ああ、うん。いつまでいられるかは分からないけど」
母の提案に頷いた。
いきなり戻るかもしれないし、このまま戻らないかもしれないしな。
だが、不思議と、俺の中ではこの時間は長く続かないだろうという確信があった。
スマホは、ガーデンへ来た時に変異したままだったし、嫁達は元々向こうの世界の人間だ。
変わらず両親を連絡を取ることは出来ると思うが、こうやって帰郷するのは難しくなっていくかもしれない。
「せめて子供は見せたいなあ」
ぽつっと呟くと、父と母とアイナとセレーネの目がきらーんと光った。
クリスとニナはまだそこまで日本語が分からないらしい。
しかし、セレーネまでそう言う反応をするのか……!!
「七郎。母さん、男がいい、女がいいなんていわないわ。でも、これだけは言っておくわね。生まれたら、抱っこさせてね……!!」
「俺もだ」
すげえ、こんな目をぎらつかせた両親初めて見る!!
そうか、彼らにとっては孫なのである。
子供と孫では感覚も違うだろうし、特別なのでは無いだろうか。
そこまで期待されては仕方ない。
何? 今後の悪魔の動きや、世界の変動? 天使が出てくる?
そんなこと知るか!
俺は子供を作るぞ!
「よし、分かった。これから俺は子作りをする!!」
俺は宣言した。
多分、酔いが回っていて気が大きくなっているのだろうが、そんな細かいことはいいんだよ!
俺は決めた。決めたったら決めたのだ。
「セブン様ぁ!」
クリスが嬉しそうに飛びついてきた。
「よっしゃ! あたいは男の子がいいな!」
ニナが親父の肩を揉む力をぐーっと強める。
「英才教育せねば、です……!」
セレーネがメガネを光らせる。
「そ、それじゃあ今夜からでも……!」
アイナの提案に俺は乗る事にした。
「済まんな、テンマ」
「気にするな。ガーデンじゃ野宿が当たり前じゃったからのう。こんな柔らかいソファで眠れるだけでも天国じゃぞ!」
リビングでタオルケットを受け取って、テンマは鷹揚に笑った。
嫁達は順番で風呂に入っている。
俺は自分の精力に自信が無かったので、とりあえず例のアプリと、一本だけ残しておいた絶倫の湯を携えて、震えて待っている。
部屋のベッドの上で正座する俺。
ノックが響いた。
一人目の挑戦者である。
入りたまえ!
「たのもー! 旦那、本気で行くぜ!」
ニナとの手合わせを皮切りに、連戦が始まった。
ニナとの戦いは体力勝負に持ち込まれると分が悪い。相手にははちきれんばかりの若さがあるのだ。
ということで、徐々にものにしてきた四十八手アプリ(なんと、テクニックデータが随時更新されているのだ)の教えを活かし、技で彼女を翻弄した。
「負けた……! だ、旦那すごかった……」
勝利である。
次なる相手、入りたまえ!
「お、お願いしますぅ」
ぬうー!!
嫁達の中では控えめなくせに、夜のベッドではもっとも苛烈な挑戦者、クリス!
彼女との戦いは総力戦である。
元から自力がある上に、なかなか快楽に貪欲なので、なんでもいけてしまう彼女。こちらのペースを維持する事を考えれば負ける……! 早くも絶倫の湯を戦いの最中に飲み干す事になり、スパートをかけて撃退した。
「あうぅ……もう立てませぇん……幸せ……」
ちなみに部屋の余計な荷物は全て廊下に出してあり、床は客用の布団がぎっしり敷き詰められている。
戦いに敗れた二人は、そこに転がっている。
二回戦目は無しと言い聞かせているので、大丈夫だろう。
さあ、次なる挑戦者、入りたまえ!
「ふふふ、私の計算では、セブン様はかなりの体力を消耗しているはず」
嫁達きっての頭脳派、セレーネである。
ああ、これは休み時間だな。体力回復しよう。
ということで、絶倫の湯パワーのアイドリングモードでも軽く撃退できるセレーネである。君はもっと体を鍛えたほうがいい……。
「ううっ、わ、私の理論が……! こんな、腰が、抜けて……!」
最終手合わせであった。
満を持して登場するのはアイナ。
戦闘力的にはセレーネと変わらないのだが、最近俺と一緒に体を鍛えている。
少しパワーアップしていると考えるのが妥当だろう。
何より、彼女には俺自身がちょっと思い入れが深いので、冷静に戦う事が出来そうに無い。
「セブン様、いい子を作りましょうね!」
うわあ、そんな聖女のような笑顔で俺をみるなあ!
理性が、理性があああ。
結局、体力配分を考えずにアイナと手合わせしてしまい。俺は轟沈した。
アイナもぐったりしているので、おおむねダブルノックアウトであろう。
翌日、痛む腰にシップ薬などアイナに貼ってもらいながら、朝食である。
「旦那くちゃーい」
「だまらっしゃいニナ! 元はと言えば君達がハッスルするから!」
「昨日のセブン様凄かったですぅ……」
「徐々にセブン様は私の計算を超えていきますね……!」
テレビでは朝の番組が流れている。
父はそれなりに朝が早いので、既に出勤した後だ。
アイナに行ってらっしゃいと言われて、物凄く嬉しそうだった。
「昨夜は励んだようじゃのう」
目玉焼きを一口で食べながら、テンマが俺を小突いてくる。
「ああ、お陰で腰が……」
「そこはもう、鍛錬あるのみじゃな。奥方が四人いるなら、筋力アップは避けて通れんぞ。わしが教えようか」
「おお、頼む!」
談笑する俺達。
そこで、テレビ番組がアナウンスを流し続けている。
くだらないゴシップだ。
『世界各地で、天使を見たという目撃情報が相次いでいますね。鳥を見間違えたと言う話もありますけれど……ここ東京S区でも……』
天使か。
なんか嫌な予感がするな。




