第五十九話 危険だけど安全な船旅
2015/11/29 16:30 オロバス表記をフォルネウスに変更しました。
お魚はフォルネウスの方でしたよ!
勇者が三人いると、流石に安心である。
俺達は帝国を経由して港町に到達し、船を確保した。イリアーノを含む、北部諸国と貿易をする船である。
ラシムはディアスポラへ戻ってもらい、今後の資産運用を腰を落ち着けてやってもらうよう要請した。
今度帰ってくる頃には、あいつ子供でもこさえてるかもしれん。
ジュナに非常にデレデレしていた。
旅の途中、戦争の臭いをかぎつけてやって来た、ディアスポラとは別の国の傭兵達とかち合った。
「おうおう、こんなご時勢にぞろぞろと女連れで旅行とは、いいご身分だな」
ちょうど、ジャスティーンが用を足しに行っている時である。
エドガーと俺が女の子たちと談笑していたら、絡まれたのである。
俺は「ヒェッ」って感じでいつもどおりびびったが、今はエドガーがいる。
どうも、エドガーは、普段は猫背で体格も大きくは無いし、ぼさぼさした髪で目が隠れているから、強そうには見えない。ジャスティーンのように、始終呼吸するように覇気を撒き散らしてもいないので、普通の兄ちゃんに見えるのだ。
だから、絡んだ傭兵達はその素行は褒められたものじゃないが、運が悪かったのだけは確かだった。
「ちょうど俺達は男所帯でよ、お前らが連れてる女達をもらってやるよ!」
「なんだとー! あたい達はお前らなんかのところに行かないぞ!」
「あ、ガキはいらん」
「むきー!!」
久々にむきー!! を見た。
だが、このニナをぞんざいにする行為に、エドガーが何故か切れたようだった。
ニナはエドガーを兄貴みたいに慕ってたからな。
「あのさ、身の程知らずな若造が粋がってるくらいなら、おいらは別に怒りはしないんだよね。おいらにだってそう言う時期はあったし。だけど、大人になろうとしてる子をバカにするのは良くないんじゃないかな。……無駄だと思うけど、謝ってくれないかな?」
音を立てずに立ち上がり、エドガーは傭兵のリーダーを下から睨み付けた。
リーダー格はジャスティーンに迫るくらいのでかさだ。エドガーとは頭一つ違う。
「何だと? 誰に向かって物を言っているちびが! 俺はドマストン候国にその人ありと謳われた剣聖レバルノンの弟子の直系の弟子だぞ!!」
「他人の権勢を誇るのはどうかと思うな」
「この野郎!!」
額に青筋を浮かべた傭兵リーダー、思い切り戦闘体勢に入った。
鞘に入ったままの剣を抜いている。
「おおー! 兄貴やっちまえ!!」
「チビはぶっ殺して、女どもは俺達のもんだ!」
うちの嫁達が怯えた顔をする。大丈夫、大丈夫。俺は彼女達に触れて宥める。
ニナはぎゅっと拳を握って、祈るような目でエドガーを見ている。
これがこの世界の現実だな。特に帝国近辺は、力で相手から奪う事が正当化されている。多少の法はあっても、郊外なら無法になるのは当然だろう。
「おいらは警告したからな?」
そう言って、何も持たず、肩をすくめるエドガー。
何の構えも取らない。
一見すると、圧倒的体格で武器まで構えた大男と、無手でぼんやりした小兵。
勝負にならないように見える。
だがまあ、考えて欲しい。エドガーが使用する長弓や複合弓。あんな化け物じみたでかさで、鋼のように硬く張られた弦を楽々引く男が、非力な訳があるか? 俺は一回弓を引かせてもらったから分かる。あれは人間に引けるもんじゃない。
ってことは。
「死ねやあっ!!」
力任せに、エドガーの脳天を砕こうと振り下ろされた剣。
ニナが小さく悲鳴をあげた。
だが、そいつはエドガーが無造作に繰り出した裏拳で、鞘の腹を弾かれて吹き飛んだ。
金属製の鞘が中ほどを大きく凹ませる。あれでは中の剣も無事ではあるまい。
とりあえず、俺はこの光景を撮影。
「あ、え?」
剣を弾き飛ばされて痺れている手と、エドガーを見比べて間抜け面を晒すリーダー。
「そんじゃあ、遊んでやるよ」
エドガーがニヤリと笑った。
強烈なアッパーカットを受けて、傭兵リーダーが空に舞ったのは次の瞬間であった。
敵国の傭兵団の一つが全員戦闘不能で壊滅したわけだから、今後の戦争でディアスポラは楽になることだろう。
しかし、エドガーは出鱈目も強さだ。素手でプロの戦争集団を子ども扱いする。
しかも彼の本分は弓である。
まあ、色々な悪魔と不本意にも戦ってきた俺からすると、どれだけ戦争のプロを称する傭兵達でも、悪魔の強さには遥かに及ばない。そんな悪魔をタイマンで叩き潰せる勇者が相手だったのだ。この結果も仕方あるまい。
エドガーが、鼻をぐすぐす言わせてるニナの頭をぽんぽん、と叩いていた。
お、ニナが笑った。いい兄貴しているな、エドガーは。
そして、一連の光景をニヤニヤしながら眺めていた人の悪いお姉さんがいる。
「見ものだったわねえ」
マリーは本当にいい性格をしていると思う。
「マリーも助けてくれてよかったんじゃないか」
「いらないわよ、明らかにやり過ぎになるじゃない」
それはそうだが。
マリーはぶっ倒れた傭兵達を治す気も無いらしい。
「おお、なんだ!! 喧嘩でもあったのか!!」
今頃になってジャスティーンが戻ってきた。
倒れている傭兵達が、彼を見て驚愕に顔を歪めた。
絶槍武侠ジャスティーンと言うと、武に身をおく連中の間では、ちょっとした伝説なのだそうだ。
奴らもジャスティーンの事を見たことがあったのかもしれない。
こいつがいれば喧嘩にならなかっただろうになあ。
「すまんすまん!! でかい方が出てな! こいつが思いのほか固い!!」
「うわー! 直後の手で俺に触るなよう!」
肩をばしばし叩くな! 手を洗ってくれえ!!
そんなこんなで港町。
そして船の上である。
海上独特の揺れに、アイナとニナとセレーネが早速ダウンした。
クリスはケロッとした顔をして、三人の世話をしている。
「クリスは酔いに強いのな」
「馬に乗ったりして、揺れには慣れてますし……。私ってぇ、こういうのは大丈夫なんですよねぇ」
酒にも酔わないしなあ。
俺は、アプリにあった『鍛えよう! 三半器官!』とか言う訳のわからん奴を偶然インストールしていたので助かった。何故俺はこんなものを入れていたんだろう。無料だったからか。あの酔い止め訓練、プラシーボ効果のような気もするな……。
勇者どもは基本気楽なもので、ジャスティーンは見張り台まで登って行って、風を受けて楽しんでいる。
マリーは船員たちにモテモテで、酒や食べ物を奢ってもらいつつ、各種コミュニケーションに興じているようだ。船の中は女性が少ないからな。
エドガーは風が当たるところで寝ているニナと、何か話をしているようだ。
ディアスポラで一緒に行動したせいか、エドガーとニナは仲がいいな。
エドガーに聞いてみたら、娘みたいな感覚なのだとか。だよな! ニナは娘にしたい感じだよな!!
「ううっ、セブン様……アイナはもう駄目です……」
「そうかー。俺がいるからなー。ゆっくり船の揺れに慣れようなー」
「ううう、死んでしまいそうです……!」
「はあ、はあ、こ、これが船酔い……。うぷっ、や、やはり文献と実地は違いますね……」
セレーネはもう、尊敬するレベルだ。
俺が酔ってる子達にばかり構うので、ちょっとクリスがむくれた。
人間関係を気にする俺は、慰労の意味も込めて、クリスをぎゅっと抱きしめて髪を撫でてやった。
「あ~、それで癒されましたぁ……! もう少し頑張れますぅ!」
「夜のほうでも慰労する所存ですので」
「私ぃ、超がんばりますぅ!!」
嫁の頑張りには応えねばならない!
そんなこんなで、平和に旅は進んだ。
……進んだ。
「うあああああ、海の悪魔だあああ!! クラーケンが出たぞおおお!!」
「人間達よ、今日よりこの海は、悪魔フォルネウスのものとなったのだ。アリトン様の命を受け、人心を乱すため、しばらくは船を沈めさせてもらうぞ!」
「ほ、本物の悪魔まで!」
「もうだめだあ」
「おしまいだあ」
「女なんか船に乗せるから海の女神が怒ったんだ!」
「女を海に放り込め!」
「お前が海に放り込まれるといいよ」
「あ――――ッ」
余計な事を言ったやつがエドガーに海に放り出された。
俺はスマホを使って、勇者を招集する。
『悪魔なう』
『今行くぞ!!!!』
『え、ほんと!? ちょっと待ってて、服着るから』
マリーさん!!!!
マストの上で昼寝をしていたジャスティーンが飛び降りてくる。
服が乱れたマリーと船長が上がってくる。マリーさん!!!!
「それじゃあ、ちゃちゃっとやっちゃいましょうか」
「まあ、いいんだけどね。みんな自由だなあ」
「俺としては歯応えがあって欲しいぞ!!」
「……な、何故その船に勇者が三人も乗っているのだ!?」
哀れフォルネウス。
海に生まれた光の波紋が、クラーケンとフォルネウスを空中に打ち上げ、船上から放たれた無数の矢がクラーケンとフォルネウスをずたずたにし、飛び上がって来た大男が槍からビームを出しながら薙ぎ払った。
終わりである。
おいジャスティーン!! 最後何をやったんだお前! お前技名とか叫ばないで吼えるだけだから何やってるか分かんないんだけど、いっつもとんでもない技つかってるよな!?
……船旅は平穏であった。
「セブン様!! 港が見えましたよ!」
ようやく船に慣れ始めたアイナが、俺にすがりつきながら指差す。
彼女は今回の船酔いで、また猛烈に体力を落としてしまったので危なっかしい。
その横で、航海記めいたものを一心不乱に書きなぐるセレーネ。
ニナはエドガーに肩車してもらいながら、
「海の向こうの国だー!! 楽しみー!!」
と叫んでいる。
クリスはクリスで、もう片側からアイナを支えつつ……、
「ご飯が美味しいんでしょうかぁ……」
うむ。
あれがイタリアだとすれば、美味しいはずだ。
待ちきれないジャスティーンが、水上を走りながら先行してしまったが、俺達の船旅は終わろうとしている。
この国で何が待ち受けているのか。




