第五十八話 無駄に集ってくる勇者達
俺がこの世界に来てから四ヶ月目。
家族会議があった。
テーマは、産むべきか、産まざるべきか。
「私はぁ、産みたいですぅ!」
「私は今のところ産む気は無いです」
「あたいはね、あたいはねー!」
「私は子供が出来てしまうと、セブン様のお仕事の差し支えになるかなと思うんですよね」
子供を作るかと言う話であった。
この借家に落ち着いて三ヶ月近くが経過したわけで、落ち着いたから子供でもと言う話だった。
だが、金はあれども俺は無役だし、それに帝国が教育にいい環境かと言うとそうでもない気がするんだよな。
それに、俺はどうも、この世界がこのままのんびり進んでいく気がしない。
俺が、黒貴族どもにきな臭い話を聞かされまくったせいだ。
絶対連中は俺を巻き込んでくるし、そういうのから逃げるには身軽なほうがいい。
クリスは一人、断固産みたい派である。
彼女は、妻となることと、母となることに情熱を燃やしている。
俺としてはそれについては全く文句は無いし、むしろ歓迎なんだけど……。
「子供が出来てしまったら、聖王国に帰ってもらわないといけなくなるわね」
とのマリーのお言葉だ。
というのも、彼女は治癒の魔術の応用で、人間の生理現象のコントロールも可能なのだ。
彼女の力を使って、今のところは妊娠する可能性を排除してもらっている。
だが、逆に、確実に子供を授かる事ができるようにするのも可能なのだ。
ある程度、肉体年齢の制限がつくということではあったが。
「むむむぅ……」
クリスは唸りながら黙り込んでしまった。
「俺がここに腰を落ち着けるって判断すればいいんじゃ……」
「それは危険な選択ね、セブン殿。これまでのあなたの話を聞くと、今は落ち着いていい時ではないと私は断言できるわ」
マリーは厳しい口調である。
「数百年ぶりに現れた聖王女と、歴史の表舞台に稀にしか現れない黒貴族が、こぞってあなたに注目している。この事の意味がお分かりかしら」
「分かりません!」
俺はマリー相手には割りと喋れるようになってきた。
三ヶ月も一緒暮らしたからな!
あっ、夜のほうも何度かお世話になりました! 大変良かったです!
「本来、異界からの召喚を行うのは悪魔、それも黒貴族レベルの上位悪魔の業よ。だけど、それは歴史を振り返っても決して珍しい事じゃない。だから、召喚される事には注目しないのが普通。だけど、あなたは召喚され、注目を受けているわ」
マリーは俺達を見回した。
「誰がセブンを召喚したの? 聞いた話じゃ、ペイモンが召喚したという話もあったみたいだけど、ジャスティーンを解放して、一体どの黒貴族が得をするというの? 聖王女と並び、数少ない自分たちを殺す事が出来る異能者、それが勇者よ?」
俺は勇者を突然変異的なものだと考えてきたんだが、百年以上この世界を旅するマリーによると、それは違うという事だった。
俺がグレートホーリーの図書館で資料を見て感じた印象そのままだ。悪魔が人間をブリードしている。
その結果、掛け合わされた理想的な血と血の間に生まれるのが勇者なのだということだ。
条件は非常に難しく、さらには人間と言う種そのものを強化しなければ発生できないということで、その数は歴史上でも六人のみと、実に少ない。
ただ、ガーデンが誕生して千年余り経つらしいが、そろそろブリードの成果が出るだろうとマリーは考えていた。
現に、最初の勇者カイルから数百年が経過しないと、二人目の勇者は現れなかった。
この勇者は魔術師だそうだ。名を、ニックス。現代に至るまで、最強の魔術師であり、やはり黒貴族によって封印されている。
そして三人目勇者が、さらに数百年経過したエドガー。エドガーから百年近く後に生まれたのがマリー。現状最新なのが、二十六歳のジャスティーン。一人だけ変わり者がいて、マリーがかつて黒貴族と戦った時、その黒貴族、アリトンが召喚した異世界の人間がいたそうだ。そいつはアリトンをいきなり裏切ってマリーと共同戦線を張り、見事に撃退したとか。
風の噂では、どこかでまたアリトンと戦い、今度は封印されてしまったとか。
素手で戦う勇者で、彼が五人目としてカウントされている。名は、テンマ・トーゴー。日本人かよ。
とまあ、勇者が出現する間隔が狭まっているのだ。
「私の睨むところでは、最後にもう一人が誕生するわ。いえ、おそらく生れ落ちてはいると思う。だけど、芽が出ないままに世界のどこかで生きているはず。私はその勇者を探しているわ」
勇者の封印を解く力を持つらしい、俺は、マリーにとってもっとも重要な人間だということだった。
本来であれば、封印の解除は、それを施した悪魔にしか出来ない。
「わ、分かりました……! それじゃあ、子供はもう少し先にしますぅ……!」
クリス、苦渋の決断であった。
偉い。
今夜はねぎらってあげよう。
しかし、気になるのは……悪魔どもはどうして、わざわざ自分を倒す能力がある勇者を生み出し、しかも封印して保全するような事をするんだろう。
そう、保全だ。
ベルゼブブも言っていた。
あいつらは何かに備えている。
そのための戦力が勇者なのだ。
その、何かというのがもうすぐ起こるとか……?
「セブンさん、来客だぞ」
ラシムが買い物から帰ってきていたようだ。
有翼の兎とのつなぎをしに行くついでに、帝国の商店街で買い物を頼んでいたのだ。
ラシムとジュナが、両手いっぱいに荷物を持っている。
だが、荷物の重さにもかかわらず、ラシムはこの部屋に飛び込むようにやって来たのだ。
「何故ここに来たのか、俺にはよく分からん……!」
ジュナがラシムの影からちょこんと現れた。
彼女は荷物を置き、客人たちを案内しているようだ。
部屋に続く扉をくぐって現れたのは……懐かしい顔だった。
「やあ、セブン。手紙を受け取ってすぐに会いに来ようと思ったんだけど……おいらもなかなか忙しくてね」
「エドガー!!」
俺は椅子から飛び上がった。
この三ヶ月間で俺の身体能力もちょっと鍛えられているのだ。
びっくりして椅子から飛び上がるときも、今までより高度が高いぞ!
俺は目を丸くする嫁達の間を駆け抜けて、やって来た親友に抱きついた。
「おおお!! 会いたかったー!!」
「ハハハ、セブンは大げさだなあ。だけど、おいらも嬉しいよ」
エドガーは俺の背中を優しくポンポンと叩く。
「情熱的な再会だな!! よし、俺の胸にも飛び込んで来い!!」
でかい声がした。
目を向けると、げぇっ、ジャスティーン!!
「じゃじゃ、ジャスティーン!?」
「なんだ、エドガーとは随分扱いが違うな」
ジャスティーンが不服そうな顔をした。
そして、マリーと気軽な様子で挨拶する。顔見知りらしい。
いや、だが、それよりも、
「おお、お、俺を聖、王国に連れ戻しに!?」
「いや、聖王女様はその辺は任せたと言っていたからな! 俺個人としては面白そうなのでここにやってきた! 聖王国は暇でな!!」
あっちも今は平和らしい。
「いや、まあ平和でもないんだよ。実は、ガルム帝国に隣接する小国郡が、ディアスポラと戦争をしそうな気配なんだ」
「なんですと」
俺は飛び上がって驚いた。
「おおっ、セブン身が軽くなったな!! そのうち手合わせしようか!!」
やめてください、死んでしまいます。
「そうねえ、元からきな臭くはあったけど……誰かさんが豊富な資金を使って開いた交易路によって、元々持っていた旧い街道の利権を失った国が幾つかあるのよ。彼らは、諸悪の根源はディアスポラだと思っているみたいだけど」
じーっとマリーが俺を見る。
俺はラシムを見た、
ラシムは口笛を吹きながらそっぽを向いた。
「お、俺の金か」
「そうだねえ。これはめんどくさくなりそうな予感だよ。セブン、ここにいたら、戦争の当事者として巻き込まれるかもしれないよ?」
「そ、それはいやだ!」
「セブン様は私が守ります!」
無根拠にアイナが宣言し、嫁達が同意した。ゴーラムも『ま”』とか言ってるが、あれは意味も無く鳴いてるんだろうな。
「どうすれば……」
「海の向こうに逃げればいいんじゃない?」
あっさりと、マリーが提案した。
「テンマも渡っていった海が、この近くにあるわ。港町は帝国の支配下だから、私からディアナに頼んでもいいけれど」
「海の向こうと言うと、海洋王国イリアーナですか!」
来たッ! 解説お姉さん! セレーネは本当に物知りじゃのう。
「古代に存在した都市国家郡をまとめて、かつては聖王国とガルム帝国を除くガーデン全土を支配したという、歴史ある王国ですよ。今は衰退し、イリアーナ半島のみを支配する小さな国になっていますが」
ついに俺達、海を渡っちゃう。
地形的には地中海だね。ガルムはこの間、グググールアースで照会したら、エジプトあたりだったし。
ラスベリアがトルコ、イスラエルが聖王国、アラブがディアスポラ辺りなので、聖王国を掠めて北上することになる。
「じゃあ、二人とも来てくれたのは、俺達と一緒に?」
「ああ、そう言うことだね。おいらの勘だと、海の向こうででかい事が起こりそうだ。っていうかセブン、あんたが行くところにでかい事件が起こる」
「そうだな!! 俺も体が鈍っていかん!! オリエンスにもまだリベンジを果たしておらんしな!!」
「話が早いわね。どうする、賢者様?」
三人の勇者が、四人の嫁たちが、ラシム夫妻が、彼らの瞳が俺に注目する。
俺は視線恐怖症だったが、この視線は悪くない。
だって、俺に期待しているのだ。
「よし分かった。海を渡ろう! 次は、イリアーナだ!」




