第四十三話 インタビュー・ウィズ・オリエンス
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「黒貴族などと持て囃されてはおるが、これが存外暇でなあ」
俺は、黒貴族オリエンスがぶっこんで来るぶっちゃけトークにドン引きだった。
この悪魔、世界でも八人しかいない、最上位の悪魔である黒貴族である。東の魔王とまで呼ばれる大物なのだが、異常にフランクだった。
そういえば、こいつは異世界関連のことをちょっと知っていた気がする。
俺にラスベリアに来いと言ったのもこいつだったし、どうも異世界関連らしいダンタリオンの後見人もこいつだった。オリエンスは有言実行、きちんと俺を出迎えたと言うわけだ。
「そ、そう、ですか」
俺は言葉がつっかえて上手く出てこないので、アイナの腕をつついた。
通訳依頼である。
ところが彼女は、うちの嫁は、黒貴族を前にして真っ青になって、味も分からない高級肉をちびちび口にするばかりで何も言わない。
「アイナ、頼む。通訳して」
俺が肩を揺さぶったところで、ようやく我に返ったようだ。
「す、すみませんセブン様! 恐怖のあまり我を忘れていました」
「漏らしてない?」
「怖すぎると下のほうも強張るんですね……無事です」
俺達流の会話をしたら緊張もほぐれたようだ。
以下、アイナに俺の言葉を通訳してもらいながらの会話だ。
「黒貴族というのは、ガーデンを八つの地域に分けて管理しておる。我輩達の上には、さらに四柱の魔王が存在するが、まあ今となっては連中が生きているのかも曖昧な存在だな。ルシフェル、サタン、ベリアル、レヴィアタン。このうち、ルシフェルとサタンは同一の存在ではないかなどと言われておる。我輩も千年以上前のことで、こいつらの事はよく覚えておらん。別人だった気がするのだがな。それから、ベリアルだけは普通にいる。恐らく世界のどこかを放浪しているであろうな。レヴィアタンという奴は、魔王と言うには少々異形だな。ガーデンの地の底でシステムを司っておる。メタトロンにサンダルフォンと相対する存在だ」
「正直、話されてる内容が濃厚過ぎてついていけないんですが」
「おお、済まん済まん。なかなか他人と話す機会も無くてな。ついつい思い出話に花が咲いてしまったのである」
とりあえず、オリエンスが奢ってくれた飯は美味かった。
単純に、牛の肉の一番いいところを切り取り、肉汁を逃がさないように焼いた奴である。
塩コショウ、ハーブを使って食う。
ライスがあったので喜んで頼んだら、タイ米みたいなのが来た。鶏がらのスープに浸かっている。
ちょっと芯が残っているが、まあ久々の米である。
肉と一緒に貪った。
「ダンタリオンは、セブン同様に異世界から我輩が呼び寄せた魔術師だ。奴はこの世界にやって来た瞬間より、並外れた洗脳の魔術を身につけていてな。小国の王となっておった所を、我輩自ら赴いて捻じ伏せて灰化にしたのよ。わっはっは」
うわー。
「我ら黒貴族は、ゲートの魔術を有しておる。これは本来は時空を超える魔術よ。永い時を経て魔力を溜め込めば、異世界からお主やダンタリオンのような異能者を呼び寄せる事が可能になる。ベルゼブブも二百年ほど前に、一度に三十名ばかりも年若い男女を召喚した事があるらしいな。己を殺せば元の世界に戻してやる、などというゲームをしておった。あやつ、見事に殺されおったからな。わっはっは」
うわあー。
「して、お主を召喚したのはどいつだ? アリトンか? アマイモンか? それともペイモンか?」
「それがさっぱり分からず、今では聖王国の使いをしております」
「ふむう、不思議な事もあるものだなあ。我輩であれば、お主のような面白い男は放ってはおかんのだが。アスタロトではあるまいし、ベルゼブブでも無ければ、マゴトやアスモデウスでもあるまい」
今黒貴族全員名前出たね。
俺はスマホで名前を検索、それぞれのデータをブックマークしていく。
それどころか、さっき出たのは四大魔王の名前。流石にどれも、俺が知っている有名なやつだ。
「まあ、可能性が高いのはペイモンであろうな」
オリエンスはそう言うと、むしゃむしゃ肉を食うニナを見た。
ニナが顔を上げて、ん? と首を傾げる。
口に肉汁がついているので、クリスがナプキンで拭う。
「どうしたのさおっさん。あたいの顔になにかついてる?」
「いや、お主がよく食うなあと思っただけである」
「おう、あたいお肉大好きだからな!」
『ま”』
ニナと一緒に、横にいたゴーラムが答えた。
なんだ、今の意味ありげなやり取りは。
俺はペイモンの項目を呼び出す。
女の顔をした悪魔、とある。またの名を、アザゼル。
じっとニナを見る。
ニナもこっちを見返してきた。
……無いな。
「それで最近、聖王国はどうなのだ? 内部で権力争い等は無いのか?」
「せ、聖王国は現在、聖王女殿下が治めていらっしゃいますので……」
「おお、そう言えばまた聖王女の奴がいるのだったな! あやつがいると騒動が起きなくなってつまらぬな! わっはっは」
セレーネが引きつった笑顔である。
しかしオリエンス、口を開くたびに不穏な情報の欠片をぶちまけてくるな。
この人と会話するの超怖い。
「それで貴様ら、宿泊する宿は決まっておるのか? なんならば我輩の城を貸すぞ」
「い、いえ、ホテルはとっておりますので」
「そうか、残念である。まあベルゼブブに会えるまでは日にちもかかろう。我輩がラスベリアと言う街の遊び方を存分に教えてやるぞ!」
うわー、この悪魔本当に暇なんだなあ。
千年以上も生きていると、大抵の事はやり尽くしてしまうのかもしれない。
アスタロトはもっと忙しそうだったり、人間に対して余裕の姿を見せたりと、実にらしかったのだが、このオリエンスはいかん。
溢れ出す圧倒的な魔力や圧迫感が無ければ、気のいい近所のおっさんだぞ。
スマホで調べた伝承によると、このオリエンス、かつて狂気に陥ったドラゴンの王と戦う事になり、片手剣とベアナックルで一昼夜殴り合って、最後はそいつを殴り殺したらしい。
そのフィジカルな勇猛をもって、黒貴族として畏れられているのだ。
魔術は使えることは使えるようだが、肉体強化の類は一切使えないようだ。
つまり素の身体能力でドラゴンを圧倒するということになる。
結局、その辺りでみんなの食事も終わって、俺達はこの黒貴族に礼を言ってホテルに向かう事になった。
「明日も暇なようなら、闘技場に連れて行ってやろう! 弱き者どもが死力を尽くしてぶつかり合う姿は、なかなか血沸き肉踊るものぞ!」
遠慮しときます。
俺達はなんとか、ラスベリア中心地にほど近いハイルトンホテルに到着すると、早速チェックイン。
用意された部屋はそれなりに大きなスイートルームで、今日一日はここから出ない事を宣言すると、ニナ以外の全員がそれに賛同したのである。
「ええー! セブンの旦那もっと観光して回ろうよー! 結構ラスベリア面白そうなところじゃん! オリエンスのおっさんがいれば怖くないんでしょ!」
「そのオリエンスが一番怖いんだよ!」
ニナがぶーぶー言うので、一緒にホテル内のミニカジノに遊びに行く事にした。
セレーネとクリスは心労からダウン。
一緒にダウンしようとしてた正妻は、俺の通訳として絶対的に必要なので連れて行く。
「セブン様の外道ー!! 私が可愛くないんですかー!」
「いや、だってアイナがいないと色々不便じゃん」
紳士淑女が集まるような本格的カジノとは違い、ホテルに宿泊しているファミリーも楽しめる、優しいカジノである。
軍資金を使ってほどほどに楽しむ。
メダルを購入してスロットをやり、ポーカーにブラックジャックにルーレットと遊ぶと、それなりに軍資金が減ってきた。
やっぱりトータルでは胴元が勝つんだよな、カジノっていうのは。
そうでないと商売にならないのだけど。
最後に運試しとばかりに挑戦したバカラで、胴元側に賭けたらこれが当たった。
トータルでちょっとだけマイナスになり、俺達はお菓子類を買って部屋に戻ったのである。
そうそう、俺たちにとって享楽ってのは、これくらいの規模でいいんだよ、これくらいで。
現実世界でも、パチンコスロットを含め、一切の賭博をやらなかった俺である、スマホゲームのガチャもやらなかった。
こう、確率に全てを託して金を賭けるのは勇気がいるな。
「セブン様はお上手なのですね……!」
アイナが感心してくるがそれは違う。俺はチキンなので、絶対に調子に乗らないだけだ。
もし本格的なカジノに行く羽目になったら、アプリを使って慎重に行こう。
そうやって、ラスベリアでの一日目が終わった。




