第三十八話 温泉郷勇者名所案内
二日目は飯を食ったらやる事も無くなったので、温泉郷の観光と洒落込む事になった。
ラプラスの魔錠の効果を確かめたかったが、こいつはどうにも難解なアプリらしい。ちょっとやそっとでは理解できそうになかった。
ありていに言えば、未来予知アプリのようなものなのだが、こいつがバッテリーを馬鹿みたいに消費するのだ。ラプラスの悪魔っていう思考実験を聞いた事があったが、俺が知ってるラプラスはラノベに出てきた奴なので多分色々間違ってる。
てな訳で、この問題は置いておく事にした。
まずは楽しい観光だ。
こういった温泉郷は、俺が元いた世界ではお年寄りや海外の観光客が大好きなものだった。
近年では隣国から大量の成金が押し寄せて、あちこちの観光地が凄まじい惨状になっているようだが、まあ外出しない俺には関係なかったし、人の不幸は蜜の味とも言うしな。
ところが、この世界の温泉郷は、選ばれた物しか訪れる事ができない憧れの観光地なのであった。
俺に続く、四人娘が目をキラキラさせている。
先導するのは、ニナに似た褐色の肌のお姉さんだ。
「えー、当、聖王国温泉郷は、かの有名な勇者カイルが、聖王女を伴って訪れたところ、荒地だったこの土地でロックドラゴンの一族と友誼を結び、その結果、彼らが利用していた温泉の使用権を譲り受けた事から始まっていると語り伝えられています」
なるほど、当時、温泉はロックドラゴンが独占していたのか。
この世界にもドラゴンはいて、彼らは人間が悪魔と争う姿に辟易し、あまりそれらと関わらない生活をしているらしい。
遥か古代には人間と争う事もあったようだが、もっぱら現在の人間達は、悪魔が宿敵である。
ドラゴンは話せば分かる者も多いので、良き隣人として付き合っている地域も多いようだ。
そうでないドラゴンは人里離れた場所へ隠遁し、まったり独自のコミュニティを作って暮らしているという。
「この土地が、勇者カイルが至高剣エンピレオを突きたてて温泉を作り出した、”始まりの泉”でございます!」
「絶倫の湯じゃねえか!!」
俺は思わず突っ込んだ。
そんな大事な温泉を、普通に観光客に入らせるなよ!?
コミュ障を忘れて叫んでしまった。お姉さんは慣れたものでニコニコ。
「始まりの泉は未だに、こんこんと尽きることなく湯が湧き出しております。この地下には魔力を持った鉱石が埋まっていて、それらの力が複雑に絡み合って今の効果をもたらしているとされているんですよ。こちらの温泉はとても貴重なもので、聖王女様ゆかりの大切なお客様か、大枚をはたいて下さった方にしかおすすめしておりません」
生臭いなあ。
この温泉郷、運営は聖王国政府なんだそうだ。
聖王国は王制に見えてその実、貴族による議会制。永年議長として聖王女を据えている。
聖王女はその実、王の血筋ですら無い場合も多いらしい。
それで、ここはそんな聖王国政府の直轄であり、大事な収入源ともなっているのだそうだ。
世界各国から、この温泉に入りに来るものが後を絶たないらしい。
そりゃあ、絶倫の湯のあの効果を目の当たりにするとなあ。
……なんだかクリスが視界の端で、お姉さんから許可をもらってお湯を汲んでいる。
嫌な予感がする。
「ほ、本当にいいんですかあ、アイナさん……!」
「うん、仕方ないですよ。これ、明らかに聖王女様の策略ですもん。だからもう、私は覚悟を決めました! クリスさんもこれでどーんとアタックしてください! 大人になっちゃいましょうよ!」
俺は何も聞いて無いぞ!
ちょっと早足になった俺の横に、ゴーラムを抱っこしたニナが並んでくる。
「凄いんだなあ。ゴーラムもそうだし、カニもそうだったんだろ? 勇者カイルってあちこちに色々なものを残してるのなー!」
「そうだな、一部は、観光用の偽者、かもだけどな」
「えっ、そうなの?」
露骨にがっかりした顔をするニナに、観光案内のお姉さんはにっこり微笑んだ。
「この温泉郷のものは本物ですよ。だって、どれも実際に素晴らしい効果があるんですもの」
まあ、確かに。
そして今も、その強烈な効果によって色々なイベントが待ち受けていそうな俺である。
「実はですね、この土地を勇者カイルと初代聖王女様が訪れた時、まだエルベリアは聖王国ではなかったのです。ただのエルベリア王国だったのですよ。それが、勇者と聖王女を迎え入れる事で、劇的に国の形を変えたのです」
「はい、当時の国王が悪魔と契っていた事が明らかになり、勇者カイルによって討伐されたといわれていますね」
物知りなセレーネがやってきた。
お姉さんは嬉しそうに続ける。
「はい、よくご存知ですね。初代聖王女様は悪魔の力に抗うため、大いなる力をその身に宿していらっしゃいました。その力で、悪魔に魂を撃った国王は討たれ、その後に新しい王が立ったのです。勇者カイルは王となるように民達に請われましたが、これを断り、最後まで戦いの中に身を置いたと言われています」
そうだなあ。
カイルと聖王女の旅はかなり長大なものだったらしく、世界中に痕跡が記されているとか。
そんで、最後はずっと一緒だった聖王女を殺されて、憎きベルゼブブを倒すものの、最後っ屁で封印されるとか、波乱万丈過ぎるだろう。
というか俺達、この観光が終わったらそのベルゼブブに苦情言いに行くんだよな。
やべえ、死ぬんじゃね?
「あれっ、旦那、確かあたい達ってこの後ベルゼブブに」
「言うなよう」
なんか思いが通じ合ってる感じなんだが、あまりこういう事でそういうのを実感したくないなあ。
俺達はお姉さんに案内されて、ぐるりと温泉郷を巡る。
今度は、ロックドラゴンの近くまでやって来た。
こういう観光案内はいつもの事なのか、ドラゴンはのんびりと転がってあくびなんかしている。
こうやって、交代のドラゴンが来るまでは、七日間ばかりごろごろしているのだそうだ。
遠くから見たら岩山だったが、近づいてみると確かに生き物の肌だなあ。
保護色と言うやつだ。
「このように、ロックドラゴンは岩に大変よく似た模様の皮膚で、外敵の目を誤魔化すのでございます。かと言ってドラゴンの中では力に劣るわけではなく、土の力を持ったブレスによって戦う事もあります」
お姉さんが説明しながら、戦う、のあたりでしゅっしゅっとシャドーボクシングをする。
ノリノリだなあ。
「ドラゴンは一匹一匹が、悪魔兵士をも大きく上回る強さをしていますので、悪魔も彼らには手出ししないのです」
悪魔騎士クラスになるとドラゴンより強いんだな。
どんだけとんでもない奴と俺達はやり合ってきたんだよ。
ニナがドラゴンに向けて手を振ると、ドラゴンは眠そうな顔のまま、尻尾を振って返した。
おお、友好的だ。
子供には優しい怪獣みたいな生き物なのかもしれん。
気が付くと、俺とニナとセレーネの三人でお姉さんから解説を受けていた。
アイナとクリスがいなくて非常に嫌な予感がする。
多分この予感は的中するんだろうなあ、なんて思いながら、俺達は観光を終えて部屋に戻った。
昼食を終えて、外で遊びたがるニナに手を引かれてドラゴンの近くまで行き、ゴーラムと遊ぶニナをボーっと見ていると、夕方になった。
またまったりと温泉に……と思ったら、アイナとクリスに挟まれた。
「セブン様話があります!」
「な、なんですかね」
何となくどういう状況か分かるんだけど。
「せ、せ、セブン様!」
クリスの声が緊張のせいか裏返っている。
「わ、私と一緒にい、温泉に入ってくださぁいっ!」
「そそ、それは別に構わないけど……」
二人に連れられてやって来た、俺の目の前の温泉は案の定、始まりの泉……俗称絶倫の湯であった。
もう第四章で当座必要そうな性的なことはぜんぶやっちまいますぞ




