第三十話 明日は結婚式……!?
登場したのは、巨大な左手のガントレットだった。
何だ、この大きさは? ヘタをすると、ニナが両足を収めてしまえそうな大きさの腕だ。
人間が装着できるものじゃない。
そいつはまるで意思があるかのように、拳を作っていた指先を開いて、また握って。
そして、ずるりと倉庫から這い出してきた。
……と思ったら、人差し指と中指を足のように使ってスック、と立ち上がったではないか。
「うわなんだこいつ、かわいい」
えっ、ニナ、お前の感覚おかしいぞ!
立ち上がると、ニナの胸までの大きさがある。おかしい。肘から下しか無いのに、この大きさ明らかにおかしい。
『コントロール・ゴーラムがインストールされました』
おっ!
こいつがゴーラムなのか? ツブヤキッターではこいつの(左手)とか書いてあった。全身のパーツがどこかにいるのかもしれないな。
コントロールアプリを展開してみる、
すると、その中には幾つかのコマンドがある。
”行け”
”パンチだ”
”がんばれ”
”砕け”
えっ。
これ、何か違いがあるんですかねえ……。
と、ともかくゴーラムは言うことを聞くようだ。言うことっていっても言うこともできないんだが、このコマンドじゃ……。
ゴーラムの左手はてくてく歩いてくると、ニナにペチッとぶつかった。
「おおー。かーわいいー」
ニナが手の甲をなでなですると。くねくねする。なんだこれ。
「なんか……可愛い気がしてきました」
「うちの地下に、この子がいたなんてえ」
女性陣がよってたかってゴーラムを撫で撫でしている。
うっ、なんか悔しい気がする。
「行くぞゴーラム」
ゴーラムはモノなので、緊張することもない。俺はごく自然に声を掛けると、ガントレットは頷くようにちょっとしゃがんで、俺の後をついてきた。
「賢い!」
「頭いいですね」
「かわいい……」
何故だ。
この日は、念の為に俺のセキュリティをもうちょっと下げ、アイナに注いでおく。
アイナの様子がどうなってるのか、こっちでは確認が出来ない。
だが、セキュリティ対象として選択できるということは、ひどいことにはなっていない……と思いたいが。
俺達は教会周りをチェックし、クリスを通じて聖王女とも接触を持った。
聖王女は多忙である。
俺達がほいほいと会うことは出来ない。
だが、クリスは聖王女の護衛という役割を持っているので、同じ護衛仲間を使えば聖王女と意思を疎通することも出来る。
分かった状況では、聖王女はアイナとダン公爵の結婚の件を知らないようだった。
それよりも、別方面で悪魔絡みの騒ぎが起こっており、こちらに執務のウェイトを割かざるをえないということだった。
問題は何を用意するか、ということだ。
悪魔ダンタリオンは、人々を洗脳する能力を持っている可能性が高い。
俺達が結婚式場に乗り込んだとしても、参加している人々に邪魔されてしまえば、それはダンタリオンの思う壺なのだ。
むむう、と考え込みながら、俺達はアイナ達がいる宿の近くで昼食を摂った。
お腹がいっぱいになると、非常事態なのだがなんだか眠くなってくる。
昨夜はベッドの大半をクリスに譲り、少々窮屈な姿勢で寝たせいか眠りが浅かったようだ。
「ご、ごめん、ちょっとだけ、寝る……」
我ながら情けないと思ったがそう伝えた。
「はいい、ちゃんと起こしますからあ」
クリスは笑顔である。
これは寝顔を覗かれそうだ。
俺は念のため、目覚ましアプリを使った。
ちょっと椅子に腰掛けて目を閉じる。
……と、時間設定を間違えていたらしく、いきなり目覚ましが鳴った。
耳障りな甲高い音がジリジリと響く。
「うぎゃあっ」
慌てて飛び起きた。
クリスもニナもセレーネも目を丸くしていて……そして、反応したのはもっと別の人々だった。
店の外を歩いていた人間が、目覚ましアプリの音を聞いた瞬間、ビクリとして立ち止まった。
そして、唖然とした顔で周囲をきょろきょろ見回している。
「なんで、ここにいるんだ……」
そんな事を口にしながら。
店内にいる人々も、同じような状態に陥った。
ウェイトレスが、近くで食事をしていたカップルが、調理をしていたおじさんが、皆一様に跳ねるように身体を仰け反らせて、何度か瞬きをしてから周囲を見回す。
ざわめきが、俺のスマホを中心にして発生した。
「どうして」
「今まで何してたんだっけ」
「あれ? 今日っていつ。もう昼?」
眠気など吹き飛んでしまった。
これは、なんだ。
「セブン様、今使った術は一体なんなのですか?」
セレーネがすかさず聞いてきた。
「目を覚ます時に使う、音、とかするアプリで」
「なるほど……! それが、ダンタリオンによる魔術を覚醒させる力があるようです。いえ、恐らくは洗脳、催眠、暗示、そういったもので機能を鈍らせた脳の働きを活性化させるのかも……!」
「な、なるほど」
「セブンの旦那すげえ!」
目をキラキラさせて叫ぶニナ。
胸にはぎゅっと、ゴーラムを抱きしめている。そんなに気に入ったのか。
これなら行ける。
俺は、ツブヤキッターでジャスティーンにアポを取る。
この事を伝えると、
『本当か!! よし乗り込むぞ!!』
と返って来た。早い早い!!
今は、ラシムが、アイナが俺達を拒絶した理由を調べている。主にバレンタイン家方面の上方を、有翼の兎つながりで集めているのだ。代償として、聖王女とある程度つなぎを作ると言う約束だ。
そして、ラシム帰還までは俺達で、出来ることを探さねばならない。
まずは、ゴーラムの動きをチェック。
「よし、”行け、ゴーラム”」
『ま”っ』
何か不思議な声をあげて、巨大なガントレットが人差し指と中指で大地を疾走した。
はええ!!
そのまま、対面の灌木に体当たりをかまし、粉々に吹き散らした。かなりのパワーだ。
そして立ち止まり、くるっと振り向いて指示を待つ。
健気だ。
「ああん、ゴーラム超カワイイ!!」
ニナがくねくねしている。
「よし、戻ってこい」
てくてく戻ってくる。
ここで発見したのだが、命令中はゴーラムの視界を、スマホで共有できるようだ。
ゴーラム操作中は、常時起動させられるタイプのアプリしか使えないが、ゴーラムの視界を共有することで、偵察などが楽になるかもしれない。
こいつを教会に潜りこませられれば、面白いことになりそうだ。
ラシムも帰還したので情報をまとめ。
当日、警備はかなり厳重になるようだ。
正面突破するには、ジャスティーンが力押しで護衛たちを蹴散らす必要がある。
それは難しくは無いと思うが、問題は護衛がバレンタイン家の兵士達、つまりアイナの身内だということだろう。
目覚ましアプリを使って一人ひとり目を覚まさせる事はできるが、それでは時間がかかってしまう。
「な、にか、侵入経路は無いかな……」
「やはり、参加者に混じって侵入というのが本来は現実的でしょうね……」
「でもお、ダンタリオンは私達は参加させないってえ……」
カッとなって踏み込んでしまったからそうなったのか、最初からあいつは俺達を排除するつもりだったのか、今となっては分からない。
第一、アイナを狙った理由が俺に対する嫌がらせとか、そういう可能性すらあるんだ。
だとすると、アイナと結婚したりする姿を見せつけてくると思うんだけど……。
「セブンの旦那が神父様になる!」
俺そういう展開のアニメ知ってるわ! っていうかなんか今のシチュエーションが近い気がするんだけど!
「そ、それじゃあ、私が思いついたんですけどお……!」
クリスが挙手した。
彼女の作戦を聞いて、それが可能ならば一番確率が高いのではないかと思えた。
よし、そいつで行こう!
シティアドベンチャーは、なかなか話が進みませんね……!
次回でバシッと決める予定です。




