第十九話 やっぱり危険な夜(色々危機一髪)
双尾の猫へ戻ってきた俺達。
アイリスに連れられて出迎えてくれた三人娘を見た瞬間、俺は「え”ーーーーーーっ」と裏返った声で叫んで飛び跳ねた。
なんと、アラベスクなイメージどおりの、薄布に包まれた扇情的な衣装を身に纏っていたのだ。
布を通して、地肌がかすかに見えるような……。
確かに、屋内で過ごすならこの格好のほうが涼しくていいだろうし、布地も覆いから冷え過ぎないだろう。
でも、へそ周りとか滅茶苦茶透けてるんですけど。
「ふっふっふ、どうですかセブン様!! 私は色っぽいでしょう!!」
「うう、恥ずかしいです」
「あうう、もうこんな姿みられたらあ」
アイナは恥じらいを覚えたほうがいいね!!
俺が三人娘を見つめながらニヤニヤしていると、ニナが憤然と挙手した。
「あたいも同じかっこうさせて!!」
女の矜持という奴であろうか。
女の子達がわいわいと奥に引っ込んでいくと、残ったアイリスが俺に微笑みかけた。
「セブン様は愛されていますね。どうやって、彼女達の気持ちを惹き付けたんですか?」
そう聞かれると、困ってしまうな。
確かに俺は実に冴えない外見をした三十男で、エドガーほど鍛えてもいなければ、ハディードのようなイケメンでもない。アイオンやジャスティーンのように背も高くなければ強くも無い。
むしろ何か事がある度に動揺して泣き叫んで漏らしているおじさんである。
「うーん……、吊り橋、効果?」
一緒に危機的状況に陥ると、生命の危機による鼓動のドキドキを恋によるものだと勘違いしてしまう、あれだ。あれしかないだろうな。
「なるほど……それはあるかもしれませんね……。有翼の兎でも、奇声をあげられたそうで」
「ははは……」
俺はもう消えてしまいたい気持ちで後頭部を掻いた。
まあ、俺の人生は黒歴史だらけだ。どこを思い出しても真夜中に頭を掻き毟りながら絶叫したくなる。
だが、ここでエドガーが思わぬ援軍を出してきた。
「恐らく、アイリスには分からんタイプの男だと思うよ、セブンは。だらしないところもみっともないところも全部見せた上で、しっかり結果を出す。おいらはセブンがそういう男だと思えるね。そうでなきゃ、あの封印からおいらを解放するなんてどう考えても無理だろう?」
複数の黒貴族による、多重結界とか言うのでエドガーは封印されたのだ。ちょこちょこググって、エドガーの状況を調べているからよく分かる。それだけに、そんな過酷な運命を生きて来た勇者が、コミュ障サラリーマンの俺を評価してくれるのがむずがゆい。
ところで、伝聞や資料などで俺の知識を深めるほど、ググッた時の情報精度が上がっていっている。
どうも、このスマホの機能やネットは、俺自身と連動しているようだ。
「アイリスは自分が出来る奴だから、出来ない奴の事が分からない。そう言うことさ」
「ひいお爺様はお厳しい……。私もまだまだ修行が足りないということなのですね。それは、さておき……セブン様、今夜はご期待なさいませ」
えっ、なにが!?
「双尾の猫の館は、男を悦ばせるための道具や設備もたっぷりと完備しているのですよ? 存分に楽しんでいかれませ」
ひい、期待半分だけど、むしろもう怖い!
「今日は色の毒を抜くだけで終わってしまいましたが、こちらに預けていただいている間、セブン様の奥様方にはきっちりと双尾の猫が磨いてきた技をお伝えし、満足行く夜の生活をお約束いたします」
なんでそんな自信ありげな顔をしているんだろう……。
つまりアイナ達がビッチ的なスキルを身につけて来ると言う事だろうか。それはそれでグッと来るものがあるが、俺としては寂しくもある。
『なあエドガー、ここは安全なんじゃなかったのか?』
「おうよ、安全だぜ。ここにいれば、あの三人は命の危険が少なくなる。王宮にいるよりはずうっと安全だあな。まあ……ちょっとアイリスが張り切りすぎているのかもしれないがなあ」
勇者と呼ばれていた曽祖父が突然帰還したのだ。テンションが上がる気持ちも分かる。
だが、テンション任せにうちのパーティーメンバーを変な方向に教育されるのは困るのだ。
『なんとか穏便にしてもらうように言ってもらえないかな……』
「ああ、まあセブンならそう言うだろうと思ったよ。短い付き合いだけどあんたのこと、結構分かるようになってきたしなあ」
話せる男、エドガー。
俺は彼に頼んで、うちの子たちに変な教育はしないよう、アイリスに言い含めてもらった。
一通りやり取りが終わったところで、ぺたぺたと走ってくる者がいる。
「セブンの旦那ー! どうだ! あたいはせくしーだろー!!」
おお、露出度の高いエキゾチックな衣装に身を包んだニナである。
うむ、健康的なおへそが丸出しで、かなり可愛いぞ。
「かわいい」
おれがほっこりしながら思わずニナの頭をなでなですると、ニナは腕を振り回して猛抗議した。
「せーくーくーしーいーって、言えー!!」
「おっほっほ、ニナにはまだ早いのじゃないかしら!!」
「アイナさんなんだか悪役っぽいですよ」
「アイナこんにゃろー! お前だってぺたのくせにー!!」
アイナがニナに飛び掛られて、もぎゃー!と悲鳴を上げた。
セレーネとクリスがおろおろしながら、もみ合う二人を遠巻きにしている。
じゃれ合いだな、あれは。
そして、みんなで夕食を摂った。
鋼の熊で食ったそれと比べれば、天地の差である。
同じ豆と魚の煮物のはずなのに、ビネガーと蜂蜜ベースっぽい、甘酸っぱい餡がとても美味しい。
ピタが山のように出たので、茹で豆や煮物を大量に挟んで食った。
次に風呂である。
広々とした、蒸気の風呂。
この国では水を張らず、蒸し風呂が一般的らしい。ゆっくりと楽しむために、女子達の乱入を許さずに、俺はエドガーと二人で入った。
スマホが無いから無言の風呂である。
その後に垢すりをしてもらいながら、果汁を絞った水をいただく。
なんか、垢すりの後でオイルを塗りこまれた。やたらいい匂いがする。
そう言えば、双尾の猫の館全体が、なんとなくふんわりとした香りに包まれている気がする。
垢すり担当のお姉さんにスマホゆっくりボイスで聞いてみると、ちょっと引きながら答えてくれた。
双尾の猫は、食欲、性欲、睡眠欲増進効果がある香を常に焚いているのだそうだ。
三代欲求だな。
さて、いよいよ就寝。
俺に割り当てられた部屋の前で待ち構えていた、双尾の猫所属高級娼婦のお姉さんをビビリながらお帰りいただく。
いきなり部屋の前にいるんだもん、すげえびっくりした。
男はみんな狼なのでは無いぞ。
俺はそもそも狼なる機会を得られなかったローンウルフなのだ。
個室に入って、仰向けに寝転ぶ。天蓋を眺めながら、ふと今までの軌跡を思い出した。
エドガーが俺を評価してくれたのが、何となく嬉しかったのだ。
女の子たちに評価されるのもいいが、やっぱり同じ男に評価されるのはまた別だ。
ちょっとテンションが上がってくる。
よし、明日もアイナたちのために頑張ろう、そんな風に思ってスマホを枕元に置いた。
次の瞬間、
ぶいーっ、ぶいーっ、ぶいーっ!
あの聞きなれた警報音がする。
な、なんだ!? またどこか崩落するのか!? 館か!?
俺は激しくびびって飛び起きた。
『崩落警報です。セブンの貞操が崩落します。早く脱出してください。崩落警報です。セブンの貞操が崩落します。早く脱出してください』
なん……だと……!?
俺は転げるようにベッドを降りる。
すると、さっきまで俺がいたはずの場所に、どこに隠れていたのかあられもない格好のアイナが……!
「大丈夫です、セブン様、私、昼間にここに務める方達の技を覗き見して覚えたんです! 怖くないから安心してください! 怖いのは私も一緒ですから!」
どっちだよ!?
「やめろアイナ、君は今正気ではない」
「私は割りとよく正気でなくなりますから大丈夫ですっ!」
「ほんとだ!! でも今はいかんぞ! 俺は逃げる!」
俺は扉を開けると脱兎の如く逃げ出した。
やはりここは、女の子達の教育上悪い!!
俺はこの日、エドガーの部屋で同じベッドで眠らせてもらった。




