第六話 知らなかった才能
朝。
レイは目を覚ました。
見慣れない天井。
安い宿の部屋。
だが、不思議と身体は軽かった。
昨日までとは違う。
仲間はいない。
金もない。
それでも。
隣には、誰かがいる。
レイはゆっくりと顔を向けた。
そこには、エルフが眠っていた。
昨日までの緊張した表情はない。
穏やかな寝顔。
「……」
レイはしばらく眺めていた。
奴隷としてではなく。
一人の女性として見る。
長い金色の髪。
整った顔立ち。
普段は意識していなかった身体の線。
「……」
思わず目を逸らす。
「何考えてんだ、俺は」
小さく呟く。
改めて見ると、やはり美しい。
景品として扱われていた存在。
それでも、目の前にいるのは確かに一人のエルフだった。
「また始められるのかもな」
レイは窓の外を見る。
冒険者として。
もう一度。
その時だった。
ふと。
ある名前が頭に浮かぶ。
「……」
レイは少しだけ笑った。
しばらくして。
エルフが目を覚ます。
「……!」
目を開けた瞬間。
先に起きていたレイに気づく。
「申し訳ありません」
突然、頭を下げた。
「……は?」
レイは困惑する。
「どうした?」
「主人より先に起きることができませんでした」
レイは少し黙る。
「別に謝ることじゃねぇよ」
「ですが――」
「いいから」
レイは立ち上がる。
「朝飯食いに行くぞ」
宿屋の一階。
簡単な朝食が並べられる。
焼いたパン。
薄いスープ。
少しの肉。
豪華ではない。
それでも、レイにとっては久しぶりのまともな食事だった。
エルフは料理を前にして、手をつけずにいる。
「食わないのか?」
「主人が先に――」
レイはため息を吐く。
「命令だ」
エルフが顔を上げる。
「食え」
少し間を置いて。
「……はい」
エルフはゆっくりと食べ始めた。
朝食を終え、二人は宿を出る。
向かう先は森。
昨日と同じ、薬草採取の依頼だ。
その前に、レイはエルフを見る。
何も持っていない。
当然だった。
奴隷として連れてこられたのだから。
「これ持っとけ」
レイは腰の短剣を外した。
「これは?」
「護身用だ」
エルフは短剣を見る。
「ですが、これは主人の――」
「森に入るのに丸腰は危ない」
レイは差し出す。
「持ってろ」
エルフはしばらく短剣を見つめた。
「ありがとうございます」
小さく頭を下げた。
森の中。
二人は薬草を探していた。
エルフの動きは昨日よりも明らかに良かった。
「こちらです」
「この辺りにもあります」
迷いがない。
まるで森そのものを理解しているようだった。
「本当に森のことは詳しいんだな」
「長く暮らしていたので森を見れば大体の生息地などは予想がつきます」
その返事は少し寂しそうだった。
やがて。
エルフが森の奥を見る。
「少し先に、質の良い薬草があります」
「昨日より多く採れると思います」
レイは少し考える。
「分かった」
「ただし、無理はするな」
「はい」
二人は奥へ進んだ。
森の奥。
エルフが足を止める。
「……」
「どうした?」
その瞬間。
茂みの奥から、低い唸り声が響いた。
「ゴブリンです」
二体のゴブリンが姿を現す。
「二体か……」
レイは盾を構える。
エルフは短剣を握った。
「下がってろ」
「ですが――」
「俺が受ける」
レイは前に出た。
一体のゴブリンが棍棒を振り下ろす。
エルフが横から受け止める。
だが、力では押し負ける。
「くっ!!」
その時。
もう一体が背後へ回る。
「危ない!」
レイが飛び込み、盾で受け止める。
衝撃が腕に響く。
「重いな」
レイは歯を食いしばり詠唱する。
「我が魔力よ」
「彼の者の身体に宿り、眠る力を引き出せ」
「その歩みを速め、その刃に力を与えよ」
支援魔法。
淡い光がエルフを包む。
「身体強化」
「敏捷強化」
「攻撃強化」
エルフの身体が軽くなる。
視界が広がる。
「行けるか?」
「……はい」
一歩。
踏み込む。
短剣が閃く。
一体目。
首元を正確に切り裂く。
続けて。
もう一体。
迷いのない動き。
二体のゴブリンは地面へ倒れた。
「……」
レイは驚いていた。
「お前」
「短剣、初めて使ったんだよな?」
「はい」
レイは笑う。
「すげぇな」
「才能あるじゃねぇか」
エルフの表情が止まる。
「……才能」
その言葉を噛みしめる。
今まで聞いたことのない言葉だった。
ゴブリンを解体し、魔石を取り出す。
レイは尋ねた。
「お前、職業は?」
「職業……ですか?」
エルフは首を傾げる。
「冒険者なら調べるだろ」
「それは知りません」
「里では、そのようなものはありませんでした」
「エルフはただ、弓で狩りをするだけでしたので」
「でも……」
エルフは視線を落とす。
「私は弓が苦手でした」
「全然当てられなくて」
「里では……落ちこぼれでした」
レイは黙る。
だが、短剣を使った時の動きを思い出す。
「一回、調べてみるか」
「お前に向いてるものが、他にあるかもしれねぇ」
二人は冒険者ギルドへ戻ることにした。




