第七話 新たな名前
森を抜け、街へ向かう道。
レイとリエルは並んで歩いていた。
昨日までなら、隣にいる存在は「奴隷」だった。
だが、今は違う。
レイには朝から考えていたことがあった。
【名前】
リエルは言った。
名も、エルフとしての誇りも。
全て失ったと。
「なぁ」
「はい」
リエルが振り返る。
「名前のことなんだけど」
その言葉を聞いた瞬間、リエルの表情が少し曇る。
「私には、もう必要ありません」
「奴隷になった時に失ったものですから」
レイは首を振った。
「違うだろ」
「名前ってのは、ただ呼ぶための記号じゃない」
「そこに願いや想いを込めるものだと思う」
リエルは黙って聞いていた。
レイは朝の宿で見た光を思い出す。
「朝、思ったんだ」
「光って不思議だよな」
「暗い場所でも、差し込むだけで景色が変わる」
「昨日までと同じ場所なのに、違って見える」
レイはエルフを見る。
「だから」
「お前の名前は――」
「リエル」
瞳が揺れる。
「……リエル」
初めて。
誰かに決められた名前ではなく。
自分のために贈られた名前を口にした。
冒険者ギルド。
二人は受付へ向かった。
「薬草の納品です」
集めた薬草を渡す。
続いて、ゴブリンから回収した魔石を提出した。
「討伐確認しました」
受付嬢が頷く。
「報酬をお渡しします」
レイは受け取る。
そして続けた。
「それと」
「冒険者登録を頼む」
リエルを見る。
彼女は少し驚いた。
奴隷としてではない。
一人の冒険者として登録される。
それはリエルにとって、新しい人生の最初の一歩だった。
「では、登録を行います」
手続きが終わると、受付嬢が一枚のカードを差し出した。
「こちらが冒険者ギルドの登録証です」
レイが見る。
そこにはリエルの名前が刻まれていた。
「冒険者ランクはG級からの開始となります」
「登録したばかりの冒険者は、基本的にG級から始まります」
リエルはギルドカードを見つめる。
奴隷紋とは違う。
これは誰かの所有物である証ではない。
自分自身の歩みを示す証だった。
「職業診断も受けますか?」
「お願いします」
リエルは水晶の前へ立つ。
ゆっくりと手を触れる。
淡い光が広がる。
受付嬢が水晶を確認し、目を見開いた。
「……双剣士」
その言葉に、周囲がざわつく。
「双剣士だって?」
「珍しいな」
受付嬢は説明する。
「双剣士は非常に希少な職業です」
「二本の剣を同時に扱うことに特化した才能を持っています」
「左右の手で別々の動きを行う技術や、独自の剣技に高い適性があります」
「ただし、武器との相性がはっきり出る職業でもあります」
「剣には高い才能を発揮しますが、弓や盾など剣以外の武器は扱いが難しくなる傾向があります」
レイはリエルを見る。
弓。
里で落ちこぼれと呼ばれていた理由。
「才能がなかったんじゃなくて……」
「向いてなかっただけか」
リエルは俯く。
否定され続けてきたものが。
初めて別の意味を持った。
「過去には、双剣士としてソロでS級冒険者まで登った方も存在します」
受付嬢の言葉。
リエルは水晶を見る。
双剣士。
初めて、自分を否定しなくていい理由を見つけた。
その瞬間。
周囲の冒険者たちが一斉に動いた。
「うちに来ないか?」
「こんな奴といるよりウチの方がいいぞ」
「待遇は保証する」
リエルは周囲を見渡す。
そして。
「申し訳ありません」
「お断りします」
はっきりと言った。
「私は、すでに組む相手を決めています。
それにご主人様を否定するのは辞めてください」
そう言って、レイを見る。
そこへ。
「そこまでにしろ」
声が響いた。
現れたのはギルドマスター、リカルドだった。
「ギルド内での強引な勧誘は禁止している」
「本人が断っている以上、これ以上は認めん」
冒険者たちは黙る。
リカルドに逆らえる者はいなかった。
宿へ戻る。
二人は返り血や汚れを落とすため、湯浴みの準備をする。
「レイ様」
リエルが声をかける。
「先にお体を拭かせていただきます」
レイは驚く。
「いや、いい」
「でも……」
「俺は主人だから、お前がやるべきって思ってるのか?」
リエルは言葉を止める。
「違うだろ」
「お前はもう、俺の道具じゃない」
「自分のことくらい、自分で大切にしろ」
リエルは黙る。
奴隷になってから。
命令されたことはあった。
だが、心配されたことはなかった。
「……分かりました」
レイは背を向ける。
「先に入ってこい」
「俺は後でいい」
「でも……」
「命令だ」
リエルは少しだけ笑った。
主人だからではない。
自分を気遣ってくれている。
そのことが嬉しかった。
湯浴みを終えた二人は、簡単な食事を取る。
しばらくして。
レイが口を開いた。
「なぁ」
「はい」
「さっきのこと」
「ありがとな」
リエルは首を傾げる。
「何がですか?」
「俺のために怒ってくれただろ」
リエルは静かに答える。
「当然です」
「あなたは私に名前をくれました」
「私を、物ではなく一人の存在として見てくれました」
「そのあなたを侮辱されることは、許せません」
レイは少し笑う。
失ったと思っていたもの。
仲間。
居場所。
未来。
それが少しずつ戻ってきている気がした。
新しい名前。
新しい力。
新しい仲間。
二人の冒険は、ここから本当の意味で始まる。
あとがき
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
少しずつですが、読んでくださる方が増えていて、とても嬉しく思っています。
この物語は、誰にも認められなかった二人が、それぞれの価値を見つけていく話です。
レイとリエルがこれからどんな関係になっていくのか。
言霊師とは本当は何なのか。
リエルの隠された才能はどう成長していくのか。
楽しみにしていただけたら嬉しいです。
もし「このキャラが好き」「この展開が気になる」など、少しでも感じたことがあれば、気軽にコメントで教えてください。
皆さんの感想が、続きを書く力になります。
これからも二人の冒険を見守っていただけると嬉しいです。
追伸
他の方の後書きを見て少し書き方を変えてみました。
黒ネギとしてはフランクに書いた方がいいかと思いましたが今後は丁寧に後書きをしていこうと思います




