第四話 想定外の当選者
「JACKPOT」
その文字が表示された瞬間。
店内は、一瞬だけ静まり返った。
誰もが自分の目を疑う。
「……え?」
「ジャックポット?」
「本当に出たのか……?」
次の瞬間――
「うおおおおおおっ!!」
歓声が店内を揺らした。
「出たぞ!」
「本当に当たるんだ!」
「エルフだ!」
「嘘だろ!?」
興奮した客達が、一斉にレイの台へ押し寄せる。
一方で、外れた者たちは頭を抱えた。
「くそぉぉ!」
「あと一歩だったのに!」
「俺もまだ回す!」
熱狂と落胆。
真逆の感情が入り混じり、店内は騒然としていた。
だが、その中で。
店員たちだけは、誰一人として笑っていなかった。
「……店長を呼べ」
青ざめた店員が、慌てて店の奥へ走っていく。
しばらくして、奥の扉が勢いよく開いた。
現れたのは、いかにも神経質そうな男だった。
きっちり撫でつけた髪、鋭い目つき、無駄のない動き。
高級な制服を着ていることから、この店の責任者であることは一目で分かる。
「何の騒ぎだ」
低い声が店内に響いた。
「店長……ジャックポットが……」
「あぁ?」
男は面倒そうに歩み寄り、台の表示を一瞥した。
その瞬間、表情が固まる。
「……確認しろ」
店員たちは慌てて魔導機を調べ始める。
しばらくして、一人が震える声で報告した。
「異常ありません……正規のジャックポットです」
「……」
店長の額に、うっすらと汗が浮かぶ。
あり得ない。
今日ジャックポットを引くのは、あらかじめ仕込んでいた“サクラ”だけのはずだった。
景品のエルフも、そのための演出。
本物の当選者が出るなど、想定していない。
「……故障だ」
「この台は故障している。今回の当選は無効――」
「ふざけるな!」
一人の客が怒鳴った。
「今、異常はないって言ってただろ!」
「そうだ!」
「正規のジャックポットなんだろ!」
「景品を渡せ!」
怒号が次々と飛び交う。
店長は一瞬、言葉を失った。
さらに別の客が叫ぶ。
「まさか今までのジャックポットも全部仕込みだったんじゃねぇだろうな!」
その一言で、空気が一変する。
「だから毎回同じような奴しか当たらなかったのか!」
「最初から俺たちには当たらないようにしてたってことか!」
「騙しやがって!」
怒りは一気に膨れ上がり、今にも暴動が起きそうな勢いだった。
男は奥歯を噛み締める。
(まずい……)
景品のエルフは、市場価値だけでも金貨一万枚。
簡単に渡せる代物ではない。
だが、ここで拒めば。
「マルゼンは最初から当たりを操作していた」
そんな噂が広まれば、この店の信用は終わる。
それどころか――
上層部からどんな処分が下るか分からない。
目の前には怒り狂う客たち。
背後には失敗を許さない組織。
どちらを敵に回しても、自分の未来はない。
「……くそっ」
男は歯を食いしばり、叫んだ。
「景品を持ってこい!」
店員たちは目を見開く。
「し、しかし――!」
「いいから持ってこい!」
怒鳴り声に押され、店員たちは慌てて奥へ駆けていく。
しばらくして。
一人のエルフが連れてこられた。
長い金色の髪。
透き通るような白い肌。
そして首元には、黒い奴隷紋が刻まれている。
店内の視線が、一斉に彼女へ集まった。
店員はレイの前で立ち止まる。
「ジャックポットの景品です」
レイは、まだ状況を理解できずにいた。
店員は小さな箱を開ける。
中には一本の細い針が入っていた。
「契約には、お二人の血が必要となります」
店員はレイの指先を軽く刺す。
続いて、エルフの指先にも。
二人の血が、奴隷紋へと落ちた。
次の瞬間。
奴隷紋が淡く赤く輝く。
やがて光はゆっくりと消え、静かに奴隷紋に馴染んでいった。
「契約、完了いたしました」
店員は一歩下がる。
エルフはレイの前へ進み、静かに頭を下げた。
「……本日より、あなたに従います」
レイは少しだけ困ったように頭をかく。
「主人なんて呼ばれるのは慣れねぇな」
照れ隠しのように笑いながら、手を差し出す。
「……よろしく」
エルフはその手を見つめ、小さく頷いた。
そして、そっとその手を握る。
「……よろしくお願いいたします」
どーも作者の黒ネギです。
これで四話目になります。
まだ追い出されてタバコ吸って
スロットしただけですが、この後の展開に期待して頂けると幸いです。
ではまた




