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第一話  言霊師、金貨一枚



レイは一人、街の大通りを歩いていた。


数日前まで、隣には仲間がいた。


背中を預けられる存在がいた。


だが、今は違う。


腰に下げた革袋へ手を伸ばす。


中身は分かっている。


それでも確認せずにはいられなかった。


残っているのは――


金貨一枚。


武器の手入れ。


宿代。


食事。


依頼に必要な道具。


命を懸ける仕事を続けるには、余裕のある額ではなかった。


「……金を借りる相手もいないか」


レイは苦笑する。


昔の仲間に頼るなんて論外だ。


自分を追い出した相手に、今さら頭を下げる気にはなれない。


そもそも――


誰が自分に金を貸す。


29歳。


冒険者としては、もう若手とは呼ばれない。


この年齢で残っている者の多くは、高ランク冒険者か、何かしらの実績を持つ者だ。


何もない低ランク冒険者。


パーティを追放された言霊師。


それが今のレイだった。


「……一人でやるしかないか」


そう呟き、レイは冒険者ギルドへ向かった。






ギルドの扉を開ける。


中はいつも通りだった。


依頼を探す冒険者。


仲間を探す者。


酒場で盛り上がる者。


その光景を見て、レイは少しだけ目を細める。


少し前まで、自分もあの輪の中にいた。


「……ソロ向けの依頼」


気持ちを切り替え、掲示板へ向かう。


討伐依頼。


採取依頼。


護衛依頼。


一人でも受けられそうなものを探す。


だが、報酬はどれも低い。


「割に合わないな……」


思わず本音が漏れる。


以前なら、仲間に言霊を使って戦いを有利に進めることができた。


味方の能力を高める。


敵の能力を下げる。


それがレイの役割だった。


だが今は一人。


自分自身で戦える力が必要になる。


しかし、レイにはそれがない。


攻撃魔法を使えるわけでもない。


剣技に秀でているわけでもない。


できるのは、支援とデバフだけ。


そして、その力も――


魔術師が使う支援魔法や弱体化魔法より、少し劣る。


「……はぁ」


レイは別の依頼を探そうとした。


その時、併設された酒場から声が聞こえてきた。


「おい、あれ見ろよ」


「どれ?」


「あの言霊師、クビになったってよ」


レイの手が止まる。


「言霊師って、あの《紅蓮の牙》にいた奴か?」


「ああ」


「最初は期待されてたらしいぜ」


「珍しい職だからな。何かすごい力でもあるのかと思ったんだろ」


「でも、結局は支援とデバフだけ」


「それなら普通の魔術師でいいじゃん」


「魔術師なら攻撃魔法も使える。その上で支援もできる奴がいる」


「わざわざ言霊師を選ぶ理由なんてないよな」


笑い声が響く。


レイは掲示板を見つめたまま動かなかった。


怒りは湧かなかった。


言い返す気にもならなかった。


なぜなら、自分でも分かっていたからだ。


魔術師なら攻撃もできる。


敵を倒すこともできる。


でも自分は違う。


支援することしかできない。


しかも、その支援ですら魔術師より劣る。


「……」


レイは依頼書から手を離した。


そして、そのままギルドを出た。







扉を閉めた瞬間、レイは歩き出した。


最初はただ歩いていた。


だが、気づけば足は速くなっていた。


「……なんだよ」


誰に聞かせるでもなく、言葉が漏れる。


「なんだよ、言霊師って」


走る。


街の景色が流れていく。


「珍しいだけかよ」


自分が何者なのか分からなくなる。


職業名だけは立派。


でも、できることは支援とデバフ。


それだけ。


「俺は……何のために」


そこまで呟いて、レイは口を閉じた。


考えても答えは出ない。


ただ、今はこの場所にいたくなかった。






どれくらい走ったのか。


気づけば、周りには多くの人で賑わっていた。


そこで、街の人間が何かのチラシを眺めているのが目に入った。


「マルゼン、今日から新装開店だってよ」


「今回のイベント、すごいらしいぞ」


「ジャックポットの景品がエルフだって話だ」


「エルフ? 本物かよ」


そんな会話が聞こえる。


レイは足を止めた。


視線の先には、大きな建物。


派手な装飾。


大勢の人間が出入りしている。


看板には、こう書かれていた。


『新装開店――マルゼン』


「……賭場か」


レイは呟く。


腰の革袋に触れる。


金貨一枚。


今の自分が持つ、唯一の財産。


少しだけ迷う。


だが――


「……まあ」


レイは小さく笑った。


「失うものも、そんなにねぇか」


そして、レイはマルゼンを見上げた。


どうも黒ネギです。

もう読んでいただいた方がいるようでとても嬉しいです。


引き続き投稿しますのでどんな辛辣な言葉でも

いただけると励みになります。

指摘、誤字脱字等を教えていただけたり、

つまらないと叱咤してもらってもいいので

コメントください

ではまた


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