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夢幻の王と箱庭の国 〜病弱で一歩も動けない大商会の御曹司ですが、暇つぶしに「夢の世界」で街を作ったら、勇者も魔王も俺の常連客になっていた〜  作者: 天音天成
第1部:【第1章】最弱の御曹司と、深夜の秘密の喫茶店

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第4話「勇者の本音と、魔王の独白」

その夜は、珍しく客が少なかった。


女の子と男の子、二人だけ。


珍しいことに、男の子が先に「もう帰る」と言わずにいた。ラーメンを食べ終わって食後のコーヒーを飲みながら、ぼんやりと窓の外の星空を眺めている。


女の子の方も、デザートのプリンを食べ終わって、なんとなく席を立てないでいるようだった。


俺はカウンターを拭きながら、二人を交互に見た。


「なんか、今日は話したい気分?」


二人が同時に俺を見た。


「「……別に」」


ハモった。


二人がお互いを見て、微妙な空気が流れた。


俺は笑いを噛み殺しながら、カウンター席を指差した。「移動しなくていいけど——話したいなら聞くよ」


しばらく沈黙が続いて、先に口を開いたのは女の子だった。


「マスターは、この場所以外にいるんですか?」


「うん。現実にいるよ」


「お会いできますか?」


「難しいかな。現実では俺、ちょっと事情があって動けないから」


「動けない?」


「病気みたいなもの。体が弱くて、基本的にずっと寝てる」


女の子が、目を瞠った。


「そうなんですか」


「うん。だから夢の中だけがわりと自由な時間で、こうして店を作ったりしてる」


「……」


女の子は少し俯いて、指をテーブルの上でゆっくり動かした。


「私も、そういう場所が、欲しかったです」


「どういう場所が?」


「自分が誰なのか、関係ない場所。期待されない場所。ただ——いてもいい場所」


俺はカウンターに肘をついて、女の子を見た。


「ここ、そういう場所にしてるつもりだよ」


「わかっています。だから、毎晩来てしまうんだと思います」


女の子が少し苦笑した。「マスターに迷惑じゃないですか?」


「全然」


「でも——」


「俺、現実では書類仕事しかないから。夢の中でこうして店やってるのが一番楽しいんだ。客が来てくれると嬉しいし、美味しそうに食べてくれると最高に嬉しい。だから迷惑じゃなくて——むしろ来てもらうと助かる」


女の子は、しばらく俺の顔を見つめた後——ほっとしたように、柔らかく笑った。


「ありがとうございます」


「こっちこそ」


俺は視線を男の子の方に移した。


男の子は——窓の外を向いたまま、ずっと黙っていた。


「おまえは?」


「なんだ」


「何か話したいことはない?」


沈黙。


少し長い沈黙の後——男の子は、ゆっくりと口を開いた。


「おまえは、自分が決めたルールを、他人に押しつけられるか?」


「押しつけられるかって、どういう意味で?」


「……俺は、色々なことを決めなきゃならない立場にいる。自分が望まないことでも。俺が決めなければ、俺の周りが乱れるから」


「そうか」


「嫌だと思うことも、ある。でも、俺が弱音を吐けば、俺を頼っている奴らが不安になる。だから……」


男の子が言葉を切った。


俺は少し待った。


「ここでだけは、いいんだ」


男の子が続けた。声が、少しだけ低くなった。


「ここでは、俺が誰かを知らない奴がいる。俺が何かを決める必要がない。ただ飯を食って、コーヒーを飲んで、帰るだけでいい」


「うん」


「そういう場所は、今まで一度もなかった」


俺は頷いた。


「なら、ここはそういう場所にする。おまえが何者でも、ここではただの客だよ。飯を食って、飲んで、帰ってくれれば、それでいい」


男の子が、俺の方を向いた。


何かを確かめるような目だった。


俺は真顔でそれを受け止めた。


「なんで」


「なんで?」


「なんで、おまえはそんなに……」


「フラットに、ってこと?」


「ああ」


俺は少し考えてから、正直に答えた。


「前の仕事の名残、かな。俺、昔は色んな人間の遊び場を作る仕事をしてたんだ。強い人間も弱い人間も、金持ちも貧乏人も、みんなが同じように楽しめる場所を作るのが仕事だった。そこでは、現実の立場は関係ない。ゲームの中でだけ、みんな対等だった」


「ゲーム?」


「夢みたいなものだと思ってくれればいい。俺にとっては、ここはそれと同じなんだ。現実がどうであれ、夢の中だけは、みんなに等しく居場所がある」


男の子は、また窓の外を向いた。


でも、今度は、少し肩の位置が下がっていた。


「変な奴だな」


「よく言われる」


「でも」


小さな声で、男の子は言った。


「悪くない」


女の子がくすりと笑った。


俺も、笑った。


夢の星空が、ゆっくりと流れていった。

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