第12話「大挙して押し寄せる最強たちと、受付係の大混乱」
翌日の夜——夢幻都市に、客が殺到した。
「あの…ここは?」
「夢の中に、こんな場所が?」
「魔力の波長を辿ったら、ここに来てしまったのですが…」
入り口の広場に、続々と人々が現れた。
人間。エルフ。ドワーフ。獣人。翼人。
中には明らかに「かなり強い」雰囲気を持つ者が混じっていた。
俺は広場の中央に立ちながら、頭の中でカウントした。
「二十三人。多い」
「マスター」
シルが横に来た。「私、お手伝いします。受付みたいなことを…」
「助かる。じゃあ新規の客の案内を頼めるかな」
「はい!」
シルが小走りで入り口の方に向かった。
ゼルが無言で俺の横に立った。
「おまえは?」
「別に手伝う気はない」
「そう?」
「ただ」
ゼルが腕を組んで、入り口の方を向いた。「俺がいると、変な奴が暴れにくいだろ」
ゼルは今夜もアバター体なので、素性は誰にもわからない。でも、その佇まいには、普通でない「圧」があった。
「助かる」
「別に手伝ってるわけじゃない」
「わかった」
リラは精霊回廊の入り口付近に立って、新規の来訪者たちの様子を静かに観察していた。
「ようこそ。ここは夢幻都市です。ルールは一つ、この街での争いは禁止です。その他は自由にお楽しみください」
シルが来訪者の一人一人に説明していた。
「夢の中の、街?」
来訪者の一人「大柄な体に分厚い鎧を着た男」が、きょろきょろと街を見渡した。
「ああ。そこの喫茶店でコーヒーが飲めるし、市場では珍しいものが手に入る。宿屋もある。好きに使っていい」
シルの隣で、ゼルが補足するように言った。
大柄な男が、シルとゼルを交互に見た。
「あんたたちは、常連か?」
「そうだ。一ヶ月になる」
「…そうな気配がするな、あんた」
ゼルが男を見た。「おまえも強そうだな」
「ははは。そうか? 俺はロックという。聖騎士団の第七師団…」
「名前は聞いてない。飯を食いたいなら喫茶店に行け」
「——」
大柄な男がぽかんとした後、豪快に笑った。「直接な奴だな! 気に入った!」
聖騎士か、俺はそれを聞きながら、内心でちょっと驚いた。
聖騎士が夢の中に来ているということは——人間界の精鋭軍人が、俺の魔力波長を感知したということだ。
つまり——来ている「客」の質が、一気に上がっている。
「マスター」
リラが俺のそばに来た。
「わかってる。今夜の客、かなりのレベルが混じってるよな」
「はい。少なくとも三人は、通常では会うことのない「格」の者です」
「格?」
「一人は聖騎士の高位職者。一人は…」
リラが少し声を低くした。
「魔族の将軍クラスの魔力波長を持っています」
「魔族の将軍!?」
「アバター体なので見た目ではわかりませんが、魔力の質が、そう思えます」
俺は少し考えた。
聖騎士と魔族の将軍が、同じ夢の中にいる。
現実では、当然ながら、殺し合いをしている立場の者たちだ。
「争いは禁止、か…」
「この街のルールは絶対です。私はその点については心配していません。ただ…」
リラが静かに続けた。「互いの正体に気づいたときに、どうなるか、は少し気になります」
俺は少し考えて、笑った。
「まあ、なんとかなるよ。前世でもよく似たような状況があった」
「ゲームの中での、ですか?」
「うん。現実ではライバル企業の社員同士だったのに、ゲームの中では同じギルドに入って一緒にボスを倒すみたいなことが、普通に起きてた」
「その後、現実ではどうなりました?」
「大体は、仲良くなった」
リラが目を細めた。
「面白い世界ですね、あなたの前の世界は」
「そうだろ。今夜もそれに近いことが起きるかもしれない」
俺は広場を見渡した。
二十三人の新規来訪者が、おずおずと街の中に入り始めていた。
市場を覗く者。宿屋を確認する者。精霊回廊に吸い寄せられる者。
そして、喫茶店に向かう者が、一番多かった。
「よし、厨房に戻ろう」
俺は袖をまくった。
「今夜は大人数だ。気合いを入れないと」
その夜の喫茶店は、開業以来最大の賑わいになった。
テーブル席は全て埋まり、追加でテラス席も開放した。
俺は一人で厨房に立って、次々と料理を出し続けた。
前世のゲームマスター時代に、大規模イベントで何百人分もの仮想料理を同時に処理した経験が——ここで活きた。
「これが「ラーメン」か?」
「うまいな!」
「この肉、なんだ? こんな味は食ったことがないぞ」
「このコーヒー、体が温まる。なんか入ってるのか?」
「いい香りだ。エルフ族の薬草か? いや、もっと複雑な——」
わいわいと賑やかな声が飛び交う。
その中で…
「おまえ、さっきの聖騎士か?」
一人の客(後でわかったが魔族の将軍)が、隣の席の客(聖騎士の高位職者)に声をかけていた。
「ああ。おまえ、ここに来るのは初めてか?」
「そうだ。引き込まれてしまった。おまえは?」
「俺も初めてだ。……この料理、どれがおすすめだ?」
「うーん、全部うまいんだが、そこのラーメンが特に良かった」
「ラーメンか。俺もそれにしよう」
二人が、談笑している。
現実では、敵対していた二人が。
俺は厨房の奥から、その光景を見ながら静かに微笑んだ。
これだよ。
これが、ゲームマスターとして俺が見たかった光景だ。
深夜。
客が落ち着いてきた頃、シルが厨房に顔を出した。
「マスター、今夜は大変でしたね」
「楽しかったよ。これが本来の形だと思う」
「本来の?」
「たくさんの人が来て、賑やかで、みんながいい顔してる。それが、俺の作りたかった場所だから」
シルが、柔らかく微笑んだ。
「マスターの夢の国、好きです」
「ありがとう」
「もっと大きくなりますか?」
「なると思う。今日だけで二十三人来た。口コミ「この世界だと魔力波長の伝達、かな」でさらに広がるかもしれない」
「怖くないですか?」
「怖い?」
「知らない人がどんどん来て管理が大変になるとか」
俺は少し考えた。
「前の仕事でも同じことがあった。最初は百人のプレイヤーが、一年で一万人になった。管理は確かに大変になった。でも…」
「でも?」
「大変になるってことは、それだけ必要とされてるってことだから。大変さと嬉しさは、だいたい比例する」
シルが目を細めた。
「マスターらしい考え方ですね」
「そう?」
「はい。現実では動けないのに、夢の中では誰よりも動いている」
俺はそれを聞いて、少し黙った。
「そうだな」
「だから好きです」とシルは言った。「マスターのこの場所が」
厨房の窓から、賑やかな広場の光が見えた。
夢幻都市の最初の夜は、こうして静かに更けていった。




