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「ジェスターさん」
道端、瓦礫と化したジェスターの家跡から、数歩離れた住居の壁を背にし、無言で座り込んでいたスフィアが重たい口を開いた。
消沈してしまった彼女はそこから動こうともせず、精気が抜け落ちてしまったように壁越しに崩れ落ちていた。
どれくらいそうしていたのだろうか。沈黙の間、ジェスターは自ら口を開くことはなく、並ぶようにしてそこに座っていた。
「少しは調子、戻りましたか?」
「…うん」
絞りだすようにしてその言葉を放つ。
悩みが多少吹っ切れたような顔。
先ほどまでの精気のない表情ではもうなかった。
「私はまだ子供なんだね」
「…そうですね、否定はしませんよ。僕もアシェスも」
ジェスターは労るような口調ではあったが、言葉に同情というものは含まれてはいない。
「スフィアさんは例えば国王…お父さんが亡くなったとしたら悲しいですか?」
「あ…当たり前だよ!そんなの…そんなの嫌に決まってる…悲しいに決まってるよ…」
「じゃあ逆に国王がスフィアさんを失ってしまったら?」
「…それは」
「答えは簡単。悲しいに決まってる…どちらも答えは同じはずです。誰も傷つかなければ、誰も悲しい思いはしない」
「誰も?」
「そう、けれど現実はそうはいかない。今も誰かが傷つき傷つけられている。それがこの世界の現状」
神秘な力にあふれ、夢を抱く一方では、力に支配され欲望に満ちた世界。
それがこのダスクヴェイル。
人にはない力が世界には存在し、それが心を惑わす。
魔力と呼ばれる元素の力。
遺産だけではない、そういった魔法という壁もある。
扱えるもの、扱えぬもの。同じ人間というものは存在しない。常に世界の在り方というのは、条理と不条理という天秤の上で成り立っている。
端的な言い方では善と悪のようなもの。
だからこそ力を持たぬものは時に嫉妬し、時に妬む。
そして同じあるいはそれ以上の力を求め、その殻を破ろうとする。
どうして世界はこんなにも悲しいのだ。
何故、人は他者より勝れようとするのだろう。
持て余された力は結果的に争いを生み傷つけ合うだけだと言うのに。
強大な力は人を狂わせる。
「アシェスはさ…スフィアさんには今のままで居てほしいんだよ。きっとね」




