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崩れた瓦礫の山。屋根だった部位は何故か消失してしまったかのように抉り取られている。

ばらばらになった家屋。中にはジェスターが集めていた書籍や研究道具などが、無残な姿を曝して散乱していた。

灰になった部位は風に乗ってさらさらと空を舞う。

先程まで住居として建っていたであろう建造物は、想像もしなかった姿をしていた。

王宮の人間が調査に来たのか、立入禁止という立て札までが添えられていた。

推測したところで何があったのかなどわかりはしない。

スフィアはその場に立ちすくんでいた。


「なに…これ…」


青ざめた顔。口元を手で覆いながら、精気の抜けた声を出す。

アシェスはそんなスフィアの背を押して、瓦礫の山に追いやった。


「どうだ?思い出したか?」


「…誰がこんなことを」


アシェスは冷たく言い放った。その口調に容赦はない。


「お前だよ、スフィア。お前がやったんだ」


「そんな…」


「だよな、わからねぇよな。なんせ記憶がねぇくらいだから」


アシェスの言葉に、どくりと脈打つ音が彼女の胸に響いた。

それは一瞬、跳ねて止まりそうな程の心音。


「記憶に残らねぇくらいの魔力集中。これは確かにすげぇ力だ。だがこれだけじゃない」


アシェスはおもむろに瓦礫を蹴飛ばす。

がらがらと音を立て、石の固まりは崩れていった。


「一歩間違えればな、俺もジェスターも…いや、この国すべてが塵と化していた。一瞬にして…だ」


「これを…私が…」


「確かに、お前にはこれだけの力が秘められてるのかもしれねぇ。だがな、初めてとはいえ、この有様だ。これは暴走ってんだよ」


アシェスは眉間に寄せた皺を戻してはいない。叱っているわけでもない、咎めているわけでもない。

だが、気遣いなど無用と言わんばかりに厳しい言葉を並べていく。


「今のお前に、これだけの力を制御出来る自信はあるのか?」


「……………」


スフィアは何も答えない。言葉を失ったように、その残骸を見つめるだけだった。


「誰もお前みたいな代行者という存在に、正しい制御法など教えることは出来ねぇ。それは無理な話だ。普通の魔導師とは感覚が違うらしいからな」


「……………」


「…気遣いとかそんなんじゃねぇ。やりたきゃ勝手にやればいいさ。だが、今の段階では無理なんだということを知れ」


アシェスはスフィアの肩に手を乗せた。

ただ軽く、促すように。


「何も知らないお前が、一気に物事を知ろうとするんじゃねぇ。許容を越えることまで気を回さなくて良いんだ。知らなくて幸せなことなんざ、世の中には腐るほどある」


それが何を指して言っているのかはわからない。

アシェスはスフィアを瓦礫の山から下ろしてやる。

その歩みは自分の足で歩いているのか、歩かされているのか定かではなかった。


「人を傷つける役なんざ、俺みてぇな奴らだけで十分だ。…お前までこちら側に来るな」


アシェスはジェスターのもとへとスフィアを押した。


「俺は先に戻ってる。あとは頼んだ」


「わかった」


スフィアをジェスターに託し、アシェスはその場を離れた。

彼は一度も振り返ることはなかった。

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