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声のトーンが上がっていることに、スフィア自身気付いていないのかもしれない。
道端で痴話喧嘩というレベルなら笑ってられるが、もはやそんな生易しいものではなかった。耳をつんざくような声。
その声量は興味本位な野次馬たちを再び集めかねないものだ。
騒ぎや目立つ行動は出来るだけ避けておきたいがために、フォーザの店に行ったはずなのだが、このままではそれも意味がない。
興奮しているスフィアをなだめるべく、ジェスターが堪らず仲裁に入った。
「スフィアさん!とりあえず落ち着きましょう」
「ジェスターさんは黙ってて!」
一瞥して怒鳴るだけで、またアシェスへと向き直る。
もはや何を言っても無駄なようだ。聞く耳を貸さない。
さすがにアシェスも苛立ちが募ってきたのか、口調に柔らかさがなくなる。
「何をいきなり怒ってやがる。まずはそれを説明しろ」
「私は…アシェスのこと、何も知らない」
「なに?」
「全部…嘘だったんだよね。私に話してくれたこと。生い立ちや現在に至る経緯まで…。それに、なんでフォーザさんの家にいたのか」
スフィアは哀しげな声色で言葉を発した。
急に肩から力が抜け、脱力したように俯いた。
「アシェスはお父さまと同じ…私にはわかる。気遣いは嬉しいけれど、私はもう子供じゃないの。やっぱりすべてを知りたいよ…有耶無耶なまま、終わりになんてしたくない」
「知ったところで何かが変わるわけでもねぇ。それは今朝言ったはずだろが」
「…違うの。魔法だってそう。ジェスターさんに習おうって思ったのは、私にだって何かが出来ると思ったから」
いつのまにか握り締めた拳には力が込められていた。
彼女自身『怒る』といった行動はほとんどなかったのか、溢れ出る感情を抑えきれず震えは全身にも出ていた。
「私にだって何か出来ることがあるはず。だって…代行者なんだから!」
「自惚れんなよ…」
スフィアがもたらした一言。それを聞くなりアシェスの目は瞬時に鋭いものへと変わっていた。
刺すような眼光。
本気で怒っている証。
スフィアは一瞬、その視線にたじろぐ。
「代行者だ?役に立つだ?どうやらお前は勘違いしてるみてぇだな。来い…そこまで言いやがるなら現実を見せてやるよ」
アシェスはスフィアの腕を鷲掴みにする。彼女はびくりと体を震わせたが、そんなことは関係ないと言わんばかりに、力任せに引きずるようにして歩き出した。
「ちょ…ちょっとアシェス!まさか君は…」
「黙ってろジェスター。そこまで言ってくれたんだ、こいつには現実を見てもらうさ」
止めに入ったジェスターを牽制し、アシェスは例の場所へと歩を進める。
「アシェス…どこに行くの…?」
「ジェスターの家だ」
「え…?」
その言葉を境に、アシェスは沈黙を貫いた。




