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「今の…まま?」
「人を傷つける。それはとても悲しいこと。命を奪うことは更に深い悲しみを生む。それが君には出来るのかい?」
「…それは…やっぱり恐いし、だからってお父さまたちみたいに誰かが傷つくのも嫌。でも…」
「それでいいんだ」
ジェスターはその先を拒むように言った。その口調は彼らしくなく、有無を言わせない感じであった。
「君はまだ世界を知らなさすぎる。それに…そんなスフィアさんだからこそ、汚れちゃいけないんだ」
「どうして…なんだろう。なんでアシェスもジェスターさんも…」
「恐いんだよ、アシェスは…」
「アシェスが…恐い?」
畏れを知らぬような強気な男が恐い。
そんな姿しか想像しいえなかった答えを横に、スフィアは驚きのままジェスターを見上げた。
「スフィアさんみたいな無垢な人間が、力に溺れ、それを振るう姿が…ね」
「それは…私が代行者だから?あんな力を持っているから…!?」
感情的に成りかけるスフィアを諭すように、ジェスターは目を瞑り、静かに首を横に振った。
「違うよ、似ているんだ。アシェスの妹のエナに」
「え?私がその妹さんに?」
唐突な展開に話が理解できないのか、スフィアは不思議そうに首を傾げていた。
(たぶん、全部なんだろうね)
ジェスターはそんなスフィアを見つめ、気付かれないように笑みを浮かべていた。
「だからこそ、スフィアさんにはそういった戦いだの、血生臭いことには巻き込みたくないんだよ。さっきの話に戻るけど、君が傷ついたらアシェスが悲しまないとでも思うのかい?彼は不器用で上手く言えないから、スフィアさんに心配させちゃったんだろうけど」
「そう…なんだ」
心なしかスフィアの呟きは晴れた様子だった。
胸を撫で下ろし心なしか口元も緩んでいる。
「でもね、本当は誰よりもアシェス自身が傷つけ合うことを嫌ってるんだ。ここから先は僕の口からは言えないけれど、彼自身のことは自分から話すまでそっとしておいてあげてほしい」
ジェスターのその言葉は、願いとして言ったように彼女には聞こえた。
それはアシェスの願いでもあるのだろう。
「う…うん。ごめんなさい、私がまだまだ子供だったから、アシェスにまた迷惑かけちゃったね…」
「大丈夫、彼ならもう怒ってないはずだよ。だからスフィアさんはこのことを深く考えないで、自分にしか出来ないことをよく考えるんだ」
「私にしか出来ないこと…」
スフィアは考えを廻らせる。
無知で世間知らずな自分に一体何が出来るというのか。
自分は『代行者』という存在であり、唯一魔法を使うことが出来ることは知った。が、簡単に扱える代物ではないことはたった今、身を持って知った。
王都への道、王位を継ぐこと。そんなことは簡単に考えが決まることではない。この国には居たい、だが即位しなければ選択権はない。
しかし苦労の末、父親が自分のために皆無だった選択肢を増やしてくれたのだ。それは近いうちに答えを出さねばならないだろう。
こんな自分がこの国を繁栄に導くことなど可能なのだろうか?そもそも、こんな子供である自分に、皆が納得してくれるのだろうか。
堂々巡りのように、頭の中ではそれらの思考がループしていく。
延々とそれは繰り返されるだけで終わりがない。
(私にしか出来ないこと…)
一人その言葉を胸中で繰り返す。
すると一つだけ脳裏に閃くものがあった。
スフィアは座っていた腰を上げ立ち上がる。
力強くジェスターに向き直ったその瞳には、決意の色が宿っていた。
「ジェスターさん、お願いがあるの」




