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名残惜しいのか生返事を返したスフィアを無視し、立ち上がろうとすると、フォーザが一つ思い出したように口を開いた。


「そういえば今年の収穫祭はどうなるんだろうな」


「あん?」


「確かに…こんな状況ではわからないかも。アシェスは知らないんだよね?」


「ああ…そういやそんなことがあるって言ってたな」


少し前にフォーザが言っていた収穫祭。かなり盛大に行なわれる行事の一つらしいが、この状況下では行なわれるかどうかはわからないだろう。

豊かな土地と恵みに感謝し、国民すべてが参加できる祭り。

国中を祭り上げて行なわれるため、とてつもない規模だとは聞かされていた。

大量の出店が立ち並び、パレードのような華やかさが全体で包まれる。ローウェンスが年に一度行なう最大の行事。


「スフィアは…悪い、お前はわからないだろうな」


「うん…私は小さい頃の記憶だけであんまり覚えてないけど…これはお父さまに聞いてみないとわからないかも」


「そうか。だが、その収穫祭ってのはそんなに大事なモンなのか?俺にはいまいちピンと来ないんだが…」


「そりゃあ大事さ。皆は一年に一度のその日を心待ちにしているんだぞ」


無理もないと言わんばかりにフォーザが大げさに語りだす。


「この国の収穫祭はただの祭りじゃない。誕生祭でもある。ローウェンスという国が創られた意味も含めてのな。だからこの国に生まれた人間にとってはなくてはならないんだ」


「それにね、繁栄をもたらした大気に宿る魔力に感謝を…って意味も込められてるんだ。だから魔導師たちにとっても重要なイベントでもある」


ジェスターは経験したことがあるらしく、フォーザとともに事の重要性を語った。


「ふぅん。ま、生憎俺にはどっちも無関係だから結局蚊帳の外だな。どうでも良いことだ」


端から興味がないのか、アシェスは冷たく言い放った。


「まったく…相変わらず素っ気ないなお前さんは…」


「しゃあねぇだろ。それに今回ばかりは正直、そんなことを行なうってのはお勧め出来ないね」


ハースが言ったゲームはこれから始まる、と。

その祭りの最中に攻めてこないとも言いきれない。

そんな国中の人間があふれた中で、魔法を使われると思うと正直背筋が凍るものだ。

くだらないことで王宮を半壊させ、人の命を軽んじて止まない。

それはもはや狂人と呼んでもおかしくはないだろう。

なにせ笑って殺戮の出来る連中。

収穫祭は中止して然るべきとアシェスは語る。


「確かに…僕も今年ばかりは中止したほうが良いと思う。けれど国民は決して納得しないだろうね」


ジェスターは苦い表情で首を振った。


「だったらやるってのか?」


「それは…」


「待て待て、結局は国王しだいだろう。ここで言い合いをしていても解決にはならんぞ」


会話に割り入るようにフォーザが止めに入る。


「確かにな。オヤジにしちゃ良い意見だ」


アシェスはぽんとフォーザの背を叩きながら、


「結局レイド王のもとに戻らなきゃならねぇんだな」


かったるそうに扉へと体を向けた。


「まあ、騒ぎも少しは落ち着いたろ。行くぞ、スフィア、ジェスター」


「あ…うん」


会話に参加できず静観するだけだったスフィアは、名前を呼ばれたことに意表を付かれたように返事を返した。

意識もまだはっきりと回復していない様子。

こちらに向かってくる足取りは重く、まだ体の調子が戻っていないのかよろめいている。

アシェスはそんなスフィアの腕を取り、引き寄せてやる。


「まだ本調子じゃねぇみてぇだな」


「ご…ごめんね、ありがとう」


照れ臭そうに笑みを浮かべてはいるが、覇気のない表情ははっきりと読み取ることが出来る。

アシェスは一度放しかけた右手を、結局そのままにすることにした。


「オヤジ、今日は悪かったな。助かったよ」


「ああ、事が片付いたらまた来てくれるんだろう?」


アシェスは一瞬戸惑った表情を見せながら、


「…そうだな、またツケで食いに来るさ」


ひらひらと左手を掲げながら振った。自然と口元を上向けながら。

アシェスに続くようにしてスフィアとジェスターも部屋を後にした。


一人部屋に残されたフォーザは窓を開き、見慣れた街並を眺めつつ呟いた。


「戦争…か。ほんと、何がどうなっちまってるんだ…」


これから起こるであろう事態に不安を抱きながら、禁煙していた煙草に火を点けた。

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