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知人はやはり危険な目には遭わせたくないのが本音ではあるのだが、本当に正気でいられるかなどわからないのだ。
今では多少落ち着いてはいるが、当人を目の当たりにしていないからなのだろう。
それほどエルビスという男が憎いのだ。
抑えきれない感情は頭に浮かべるだけで血を沸き立たせる。
復讐は甘美などと言った輩がいるが、あながち間違いではないのだと言えるくらい、アシェス自身酔いしれているのかもしれない。
敵の狙いはスフィアではあるが、どんな手でさらいにくるのかは見当もつかない。
街中で戦闘にでもなれば死者は避けられないだろう。
だが、犠牲は早くも出てしまった。なんにせよ、ヒト一人ですべてが解決できるほどこの件は甘くはないだろう。
けれど巻き込む巻き込まれるで例えれば、間違いなく彼の立場は前者だ。
こんな状況になって初めてではあるが、少なからず責任は感じずにはいられないのか拳が握られていた。
アシェスは一人考え込み、そして一つ舌を打った。
「昨夜城で賊がどうたらっていうゴタゴタがあったろ?あれが敵の力だ。たった一人であの城を破壊し尽くした奴ら…危険なのはわかるだろう」
「あの王宮の件はたった一人の仕業だったってのか…?信じられんな…」
フォーザも城の様子を見たらしいが、半壊というに相応しいものだったと感想を述べた。
そんな強大な力を持った人間がまだ数人もいる。それは想像するだけで悪寒が走るもの。
実際に魔導師の力を目の当たりにしたことは数少ないが、そこまでの力を人間が扱うなど想像するだけで驚異を感じずにはいられないだろう。
「アシェス…お前さんの気遣いは有り難く貰っとくよ。けれどここは私の故郷だ。本当に危険になるまでは離れられんよ…」
フォーザは想いにふけるように、窓越しから見える景色を眺めた。
逃げろと言われたところで、生まれ故郷を離れて何処へ行けば良いのか。考えるだけ不毛なのだ。
フォーザには出身であるローウェンスしか身を寄せる場所がない。
今更選択肢はないということだった。
「故郷…か。一応忠告はしたからな、どうなっても俺は知らねぇぞ。あと、この件は誰にも話すなよ?」
「心配するな分かってる。けどお前さんならなんとかしてくれるさ。きっとな…」
「好き勝手言ってくれる」
フォーザなりの冗談だと言うことは重々承知していたが、呆れ過ぎたのかアシェスはかぶりを振った。
(故郷…ね)
「アシェス。スフィアさんが目を覚ましたよ」
ジェスターの声に思い浮べた景色は掻き消えた。
「やっとお目覚めか」
虚ろな目をしながらスフィアは状況がわからない様子で辺りを見渡す。
上半身だけを起き上がらせ、きょろきょろと辺りを伺う仕草は寝呆けているような具合だ。
「ここは…何処?」
「お前が脱走して最初に来た料亭だ」
「え…確か私…ジェスターさんの家に…」




