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「ねぇ、ジェスター…さん?」
アシェスが出ていってからというもの、ジェスターは本を物色しては読むの繰り返しだった。
一瞬勉強家と考えたりもしたのだが、どうやら違うらしい。
楽しそうに活字を読む姿は明らかに趣味の域。
椅子に腰掛けそれを眺めているわけなのだが、どうにも落ち着かない。
手持ち無沙汰なのか宙に浮いた足をばたつかせている。
「何かお話しない?」
要するに暇だった。
「ああ…すみません。退屈でした?」
「うん、ちょっと…ね。でも本当に本が好きなのね、ジェスターさんって」
「ええ…と言うより、本が好きなのではなく、魔法という神秘の力に興味があるんですよ」
ジェスターは包み隠す事無く、それを告げた。
「魔法…確かアシェスが言ってたけど、器ってものが個人差にあるのよね?」
「そうですね。素養がなければ魔導師にはなれません。スフィアさんは教わらなかったのですか?」
「私は…つい最近まで原理すら知らなかったから。だから…自分が使えるかどうかさえわからないの」
強大な魔力を操ることが出来る存在、代行者。
それがスフィアという小さな少女。
秘めてたものがあったにもかかわらず、微塵も扱ったことすらない力の素養。
縁がないものだと、欠片も記憶に残っていなかった魔法という言葉。
「使えますよスフィアさんなら。だって興味がありそうな顔してますから」
ジェスターは柔らかい物腰でそう言った。
代行者だから―――。そう彼は言葉にしなかった。
「習えば私にも使えるのかな?」
「勿論ですよ。基礎からでよければ教えましょうか?原理くらいは身体で覚えるのが一番ですし」
「良い…の?」
「え?僕に断る理由はないですけど」
ジェスターはそう言うなり立ち上がった。
ゆっくりと手を胸の辺りまで移動させ、握っていた指を一つ一つ広げていく。
開かれた手のひらからは小さな炎が上がっていた。
蝋燭に灯されたようなか細い炎。
だがそんなものが人の手で創り出されている。
スフィアは惚けたようにしてその生み出された炎に魅入っていた。
「すごい…」
「世界に混在する元素の力。それを感じられる人間だけが、こうして『魔法』という形で具現化できるのです」
ジェスターは炎の宿った右手を振り払うようにして力を消失させた。
「スフィアさんは風を感じたことは有りますよね?」
「え?うん、当然それくらいはあるよ」
当たり前のことを確認するようにしてジェスターは訊ねた。
そして部屋中の窓を閉じて回る。
カーテンは閉めず、部屋の中は光が射し込めたままだ。
「それと原理は似ています。風を肌で感じるように、魔力という元素の力を身体で感じなければなりません」




