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「そうか…ならいい。今の状況ではあいつらにしゃしゃり出てきてほしくねぇからな」


「しかし私は不思議に思うんですがね。もし本当に代行者という稀少な存在が見つかったのなら、他の情報屋がとっくに王都に売り付けていてもおかしくはないと思うんです」


ネクロは排水ポンプに腰を下ろした。

砂を被ったりと汚れてはいるが、そんなものは無関係といった感じである。

多くの小物が入った巾着袋から、煙草を取出し火を付ける。

納得がいかないのか首をかしげながら、


「沈黙を貫く王都サルタナ。私にゃ不気味以外のなにものでもない…と思います」


煙を吐きつつ、そんなことを呟いた。

王都の噂に関しては最近どれも良い話を聞かないが、現状では目立った動きがないというのが結論であった。

アシェスはネクロの意見に少しだけ呻く。


「んー…お前がそう言うのなら裏で事は進んでいるのかもしれねえな…。だが実情、動いていないのなら結果的には良い。今は…な」


アシェスもネクロに並ぶようにして隣のポンプに腰掛けた。


「煙草、要ります?」


そう言ったネクロの手には、いつ取り出したのかすでに煙草がアシェスに向けて添えられていた。


「俺が吸わねぇことは知ってるだろ」


「いえ、何やらアシェスさんも大変なことに巻き込まれてお顔が優れないようで。気晴らしにどうかなぁと」


やんわりとした口調でネクロはそう言った。

それはきっと彼なりの気遣いだったのだろう。

差し出された煙草をアシェスは丁重に押し退けた。


「ありがとな、ネクロ」


「いえいえ」


ネクロは煙草の煙を空に向かって吹き付ける。

その煙は円を描くように舞い、やがて溶けるようにして消えた。

会話の間、こうしてネクロはよく煙草を吹かす。

何度見た光景かアシェスにとって思い出すのもやぶさかだ。


「この件が片付いたら、お前と会うこともなくなっちまうかもな」


「ああ…捜していたエルビスという男。ようやく見つかったんですよね」


「まだ姿は見ていないがな」


「その件に関しては何年も前から探っていたのですが、私は何も助力になれなかったようで…」


「いや、感謝してるさ」


アシェスは知り合った数年前から、頻繁に依頼をしていた。

しかしそれでもエルビスの存在はつかめなかったのだ。まるで闇に溶け込んでしまったかのように。

存在自体が始めからなかったのでは?とまで考えてしまうほど、男の存在は世界から根絶していた。

だが無駄骨ばかりではない。ネクロの地味な情報集めによる結果が、こうしてローウェンスに辿り着いたことに繋がったのだ。

その事実を蔑ろには出来ない。


「それで私は引き続きサルタナの様子を探れば良いのですね?」


「ああ頼む。不穏な動きがあったら知らせてくれ。俺は昼間はしばらく王宮に居るだろうから、緊急な事態が起こった場合そこに頼む」


「王宮…ですか。心得ました」


頭巾のような布を押さえながら、ネクロは腰を上げた。

煙草を足で踏み消し、巾着を腰に下げる。


「では…うまく事が運ぶことを祈ってますよ」


「ああ」


「ご武運を」


光が照らさない路地裏の影に、ネクロは溶け込むようにして消えていった。


「さて…と」


アシェスはようやく重い腰をポンプから切り離した。

内に流れる用水が熱かったのか、尻を軽く擦りながら。


(王位継承の仮儀式まであと僅か…それまで何もなければ良いが)


スフィアの選んだ答えがどうなるかはわからない。

だが悩みの一つだった、王都による代行者の保護については、今のところ問題はなさそうである。

王都による調律。それは定められたルールの一つ。


(結局王都という存在もまた『力』で権威を振るう。世界の在り方は、俺が生まれた頃から現在に至るまで変化はない)


そんなことを思い浮べながら、アシェスは帰りを待っているであろう姫君のもとへと足を向けた。

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