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工業区の裏通り。
それは城下町の南東に存在している。
鉱石や金属などを様々な日常品として加工する工場などが建ち並び、至る所から機械的な音が鳴り響く。
ローウェンスは農産物だけならず、日常品までをも自国で生産している。
その実、産業国家としてもその地位は高い。
それだけに他国からの輸入などが基本必要はないため、親交が稀薄だと民衆からも散々言われている。
しかし他国からの居住民を拒まないためか、外交はなくとも人種などは豊富である。
働き口を求め移住してくる者なども多いが、その全てが上手く行くはずもなく貧富の差も激しい。
アシェスは周囲に目を配りながら一角を歩く。
ポンプから流れる排水音と、排水の流れる水音が裏路地には響いていた。
そして注意深く気配を探ると、とある路地にへと入り場所で待ち人を捜した。
いつも影のように現われ、煙のように去っていく情報屋。
それがもう一人の会わなければならない人物だった。
「来ましたな」
「お…!毎度驚かせんなよ!普通に出てこられねぇのか?」
人の気配を感じるのには長けているアシェスであったが、この男にだけは毎度意表をつかれるのだ。
それほどまでに気配を消す事柄に対して秀逸な人物。
「商売柄、気配は消す。これが当たり前になっちゃってますからねぇ。まあご愛敬と言うことで」
頭に長い布を巻き顔は完全に隠している。
隙間から覗く細い目だけが男の唯一の特徴であり、体型は華奢な様子。
包帯ごしから少しだけ見える髪はアシェスと同じ黒髪である。
全身は目立たないような黒で染め上げられた軽装。
いつもとまったく変わらない容姿で、男はそこにいた。
路地裏の影から浮き出るような登場の仕方は毎度変わらない。
気配を殺すというのは熟練したものでも難しい。
暗殺者などになっていれば、この男は今頃恐れられた人物になっていたかもしれない。
若いのかそれとも相応の歳なのか、年齢に関しては顔が見えないため判別はつかない。
情報の漏洩を嫌うため、基本的にこの手の商売人は身分や弱みを決して依頼人に話すことが出来ないのだ。
顔を隠すのもその一環であり、特別おかしなことでもない。
情報屋ネクロ。
本名か偽名かは無論わからない。
だが情報の正確さと人柄により、アシェスとネクロはかなり長い付き合いだった。
滞在先ではいつも世話になっている。
裏社会や影のあるような話にも強く、いざというときは頼りになる男であった。
髪飾りのような形をした白銀の遺産。
『招聘の飾器』と呼ばれるこれは、いくつかの球体が添え付けられている。それらを相手に持たせておくと、近くに居る相手を呼び出すことが出来る。
あまりに距離が離れていると効果はないのだが、何の因果かこれを使うときネクロはいつも近くに滞在していた。
これは情報屋などに会うたには、非常に役立つ遺産の一つである。
過去にとある賊から手に入れたものだが、アシェスにとっては今はなくてはならないものの一つである。
アシェスは壁に持たれかかり軽く腕を組んだ。
「それでどうだ。動きはあったのか?」
「仲間に探らせて見たのですがね、不思議と静かなものみたいですよ。まだ噂はサルタナまでは伝わっていない感じですな」




