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住居区に向むけて足を運ぶ。

目的地はジェスターの家であった。

昨夜ジェスターはハースの魔法によって眠らされていたらしいのだ。

アシェスが家を訪ねると、拍子抜けするくらいあっさりと姿を現わした。

不可解な防壁魔法を住居にかけられ立往生しているところに、アシェスがシュヴァゼルトで扉を叩き斬って助け出したのだ。

それまでは何が起こったかすら分からなかったという。

ハースに魔法をかけられたことは覚えてなく、気付けば床に倒れていたらしい。

さすがはケタ違いの魔導師か、油断していたとはいえジェスターほどの熟練者を軽くあしらっていたのだ。


「あれ、扉が壊れてる」


「壊したんだよ、開かねぇから」


ドアノブが切り取られたようになくなっていた。

壊れたままにしておくなど不用心以外のなにものでもないが、取られるものはないもないと言ったジェスターの顔が浮かぶ。

アシェスは声をかけるよりも先に室内へと足を踏み入れた。


「おい、ジェスター!」


叫びながら中を覗くと、立ったまま本を読み耽っているジェスターの姿があった。

本棚の前で手に取りすぐ読み始めたかのように、微動だにせず静かにページだけを捲っている。


「おい、気付けよ!」


集中すると周りのことが見えなくなるのは昔から変わっていないのか、アシェスはすぐに本を取り上げた。


「うわ!」


「素っ頓狂な声を上げやがって…」


「アシェス、来てたのか」


一息呼吸を付きジェスターは体を向き直した。


「まったく、集中するのも良いがほどほどにしとけよ」


「ごめんごめん。で、例の話だったよね」


「ああ、スフィア!入ってこいよ」


遠慮をしていたのか、扉の向こうからちょこんと顔を覗かせる。

他人の家というものに上がるなど初めての経験だったのか、目の前の二人よりも家の内装が気になるようだ。

目線があちこちに泳いでいた。

それは緊張といったものではなく、単純に好奇心なのだろうか。


「初めまして…ですね。スフィア様」


「あ…はい!ええと…」


「こいつはジェスターっていうんだ。前に話したことある俺の親友だ。緊張する必要はない」


スフィアはアシェスの体に隠れるように立っている。

こんなにも遠慮がちだとは予想もしなかったのか、眉間に皺が寄った。


「アシェスの言うとおりですよ。それに僕は王宮にも勤めている者ですから、何も遠慮は要りません」


にこやかに笑うその顔は爽やかスマイルとでも言えばいいのだろうか。

柔らかな表情に彼女の緊張も和らいだのか、アシェスの袖を掴んだままだがすぐに笑顔で答えた。

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