四章・代行者の葛藤1
一夜明けたローウェンス王宮。
昨夜の凄まじい破壊の跡は建物の崩壊だけならず、城のすべての人間の心まで折るようなものだった。
復旧作業も高速で進んでいるが、住民たちの不安の声が時間を増すごとに降り積もる。
騎士隊たちが表へと出向き、不安を抑制するようなことを住民に説明し、安心ということを懸命に説明している。
勿論、適当に作り上げたでっちあげの理由ではあるが、この際仕方のないことだろう。
暴動などに発展するよりかは遥かにマシとの処置。
『城を乗っ取ろうなどと不届きな賊が再度侵入したが、王宮の警備隊により完全に戦滅した』
大方そんな説明だっただろう。
不安を更に和らげるように、騎士たちはいとも自分らが退治したなどと自慢げな態度でそれらを話す。
次第に不安がる住民たちはまんまと騙され、それらの話を噂話として他者に話す。
こうして嘘は噂として広がっていく。
正午過ぎにはもう王宮を訊ねにくる市民はいなくなった。
だが根本的な問題は何一つ解決などしてはいない。
これからどうするべきか。
それらを考えるため、アシェスはレイドの自室を訪れるところであった。
破壊し尽くされた謁見の間の玉座の奥にある階段を登り、突き当たりに見える巨大な扉の向こうがレイドの自室だった。
どこもかしこも痛々しい様子が見て取れ、壁や床などは魔法の力によりあちこちが削られている。
見張りとして立つ騎士に許可を取り、アシェスは重い扉を開けた。
「よう、大丈夫か?」
「アシェスか。ああ、左腕と肋骨が折れた程度だ、心配ない。よく来てくれた」
レイドは全身とも呼べる部分に包帯を巻かれた姿でベッドに横たわっていた。
さすがに肋骨の骨折となると、少しの動きで痛むのか顔をこちらに向けるだけだ。
魔法による治癒も成されたのだろうが、それでもすぐには完治とまではいかない。
老いた体ではすぐに癒せるような怪我でもない様子だった。
だが痛みは体ではなく心と言ったように、悲痛な眼差しを向け国王はアシェスを見た。
「すまぬ…今回の不祥事はすべて私の責任によるものだ…」
「いや、気にしないでくれ。あんたが謝る必要もねぇだろう」
うなだれるレイドの横にアシェスは静かに腰を掛けた。
足を組みどこか視線をさ迷わせたまま更に口を開く。
「今回の件…エルビスが首謀者だった」
「な…に?前に言っていた男か!」
さすがに驚いたのか、レイドは目を見開き声を荒げた。
「ああ、代行者であるスフィアを狙っているのもあるが、どうやら俺にも何やら私怨があるらしいな」
「私怨?」
「俺にはさっぱりわかんねぇが、賊がわざわざ俺の名を語ったのも、ジェスターの姿を真似てからかったのも、全部単なる茶番だ。全部遊んでやがんだよ…クソ野郎どもめ」




