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冷たい声を響かせ、クェルドは奥へと消えていった。
「まったく、急かさない急かさない。アシェスは気が短いんだから…」
光に包まれる体。
長身だった体型は尺度を縮めていく。
ハースと呼ばれた男は偽装を解き、ようやくこの場に本当の姿を現した。
年はまだ若く二十歳にも満たないであろう、少年のような面持ち。
銀色の法衣を纏い、その姿はやはり魔導師を想像させる。
アシェスが驚いたのは変装ではなかったという点。
魔法か何かの力で偽装をしていたのだ。
背丈は化けたジェスターとは程遠いほど小さかった。
「驚いたかい?これはね、侵入する際に使われたという変装するために作られた遺産の力さ。面白いよね、こんなものまで探せば見つかるのだから」
屈託のない笑顔を浮かべ、ハースは小さなガラス玉のようなものを指で挟んでいた。
「少しは楽しめると思ったんだけど、戦いの場ではこれ以上がっかりさせないでよね」
突如として凍り付く空間。
茶番は終わり、辺りは緊迫した空気の流れに急変した。
アシェスは目付きを更に鋭いものへと変貌させ、身を引き締めた。
見た目だけに騙されてはいけない。
王宮魔導師たちをいとも簡単にうちのめした実力がある。
強大な魔力を操るということは言わずとも分かっている。
「僕相手に剣を抜かないつもりかい?そんなふざけた真似をしていると…死ぬよ」
ハースが手のひらをかざす。一瞬煌めいたかと思うと無数の針のようなものが飛びかう。
「ちっ…」
アシェスは咄嗟に石柱の影に体を滑り込ませる。
背中越しに伝わる感触。それは柱が削り取られるような衝撃。
針のような魔法は、その一つ一つが槍の一突きに匹敵するほどの力だった。
直撃を受ければ一瞬にして全体を切り刻まれていたことだったろう。
軽く放っただけに見えたその一撃だけで相手の技量の高さが伺えた。
「あはは、逃げているだけかい?」
「うるせぇ…。クソ、タチの悪ぃガキだぜ」
笑い声がこだまする中、アシェスは打開策を考える。
相手は魔導師、それも間違いなく高位の。
魔法に抗うすべを持たないアシェスにとって、近づかなければ話にならない。
もともと魔導師に対して剣士などという存在は、圧倒的不利。
遠距離からの攻撃を可能とする魔法には、近づかなければ倒せない剣士が不利なのは当然のことだ。
だが、こんなところでくだばるわけにもいかない。
自分の倒さなければならない相手もまた、魔導師なのだから。
転がるようにして隣の石柱へと移動していく。
一つの柱の影に居ては、針の斬撃によって削り取られてしまう。
無数の柱が轟音と地響きを鳴らし崩れていく。
子供のようにはしゃぎ、狂ったように魔法を放つその姿はまさしく狂喜と呼ぶに相応しいものだった。
「おいおい、城を壊すつもりかよ?天井が崩れたらてめぇもペシャンコだぜ?」
「あはは、大丈夫だよ。僕はそんなことで傷を負ったりしないから」
ハースは針の斬撃を止めたかと思うと、光る指で宙に輪を描く。
すると光の輪が現れた。




