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「…御大が言っていただろう。こいつはまだ殺すな」
「ちぇ…つまらないな」
暇を持て余した子供のようにジェスターは天を仰ぐ。
「殺す…ね。そうだな、いい加減茶番は終わりにしようぜ?」
アシェスはジェスターに殺意の眼を向けた。
御大という存在は今は良い。今は目先の賊を排除するのが先決だ。
スフィアも無事らしいことは確認できた。
自分を利用しくだらないゲームとやらに、多くの人間を巻き込んでくれたのだ。
それは許しがたいこと。
「ひどいなぁ、アシェスは親友に剣を向ける気かい?」
「悪いが悪態は俺の存在意義みたいなもんでな。質問がてら付き合ってやったが、スフィアが無事と知れた今、もう茶番は終わりなんだよ」
「茶番だなんて…分かった。君は…この現実から逃げてしまったんだね?可哀想に」
「そろそろ飽きたんだっつってんだろ。…じゃあ訊くが、左手の火傷跡はどうした?」
その言葉に思わず目を見開く。
ジェスターの仮面をかぶった男の左手には包帯などなく、傷のない綺麗な肌を晒していた。
「どういう原理か知らねぇが、変装するんならもっと上手くやれよな。姿形を似せたところで、肝心の中身がそれじゃ変装になってねぇよ」
アシェスは戦うために構えを取った。
「ジェスターはどこだ」
「ふ…さすがだね、この完璧な偽装を見抜くなんてさ。観察力は鋭いね」
「当たり前だ、本物とは何年付き合ってきたと思ってんだよ。てめぇみてえな付け焼き刃なヘタクソ演技で騙せると思ってたのか?」
「この状況下でそこまで冷静を保てていたとはね。普通は焦りであっさり騙されるものなんだけどさ。けど友情ごっこ。君は噂ではかなりの腕を持った人間らしいけど、いかんせん甘く感じるよ」
ジェスターの偽者はクェルドに一つ相づちを打つ。
クェルドはレイドを解放するように床に投げ放すと背を向けた。
「あまり遊びすぎるなよ」
「わかってるって。あと殺すな…だろう?」
言いたいことはちゃんと理解していると確認が取れたのか、クェルドは謁見の間から立ち去ろうとする。
「逃げんのかよ、てめぇは?」
アシェスの挑発的な言葉に、歩み始めた足はぴたりと止まる。
クェルドは振り返りもせず言い放った。
「…自惚れるなよ。俺の出る幕ではない、貴様などハースだけで十分だ」




