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―――どこで歯車が狂ったのか。
それは言うまでもなくあのときに他ならない。
幸せだった日々。
それは突如として崩壊した。
悲痛な叫びと断末魔、懇願と苦しむ呻き声。
村は一夜にして地獄と化した。
一面に広がる黒い液体。肉が腐敗したような腐臭。
それは近くにいるだけで、込み上げてくる胃液を逆流させた。
地を這い、蠢く影。
それは死を望む異業の者だ。
世界がまるで終わってしまったかのように村は変貌を遂げた。
そこに生はなく、死と闇だけが支配する絶望の空間。
住居は全てが破壊され炎が包む。村だった風貌はもはや欠けらも見当たらない。
厚い雲に覆われた空からうっすらと月が顔を覗かせる。
射し込めた月明かりは、死した村を残酷に映す無慈悲な光に見えた。
『漆黒』
ありとあらゆる生を司る細胞を腐敗させ、死へと導く。
揺らめく陽炎のように、ふらふらと覚束ない足取りで絶望の世界を一人歩く。
ふと空を見上げれば月が嗤っているように見えた。
ケタケタ…と節操なく。
すべてが、自分と死した村を嘲笑っているかのように思えた。
やがて雨が降り出す。
びしょぬれになった体は心をも湿らせた。
黒く濁った雨雫が全身を伝い流れてゆく。
自分らは実験台にされたのだ。
漆黒の力を試す、ただそれだけのために。
そして口封じの為に。
絶望の世界はどこまでも続いていた。
びちゃびちゃと粘着し、絡み付くように黒い液体は足に付着する。
吐き気を覚える悪臭と死臭は、いつまでも鼻孔の奥にこびり付いて離れない。
降りしきる雨が作り出す水溜まりは、どれもかしこも闇色に染まっていた。
いつしか空は月をも隠し、濁った雲のカーテンが空を覆う。
破壊され尽くした住居の残骸は雨に打たれ、雨の雫が生み出す旋律が不器味な音を奏でる。
どうして自分だけ助かったのか?
それは左手から流れる流血がすべてを物語っていた。




