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ディオは城内を一人歩いていた。
前を見据えながらも昨夜の襲撃を思い出していた。
かなりの力の持ち主。巧みな魔法を操り城内へと侵入。
敵はただ一人。
それでも王宮お抱えの魔導師たちが何人でかかろうとも蹴散らされた。
撃退したというよりも、ようやく撤退させたと言った感じだったであろう。
城内で放たれた魔法の力が産んだ残骸の跡。
ディオは立ち止まり瓦礫を見つめていた。
剛魔石で造られている壁はいとも容易く破壊されている。
何者かは一考に解らずじまい。
しかし何よりも歯痒かったのは何も出来なかった自分。
戦闘の中、的に近づくことすら出来なかったのだ。
剣士と魔導師の力の差。
その境界線は圧倒的に思えて仕方がなかった。
国王の大切なスフィア姫を付け狙う輩は、間違いなくまたやってくる。
アシェスならばどう戦っただろうか?そんなことを考えるも、彼は今牢の中。
彼は結局何も口にしなかったが、自分にはどうしてもあの男が裏で糸を引いていたとは思えないのだ。
確かに賊の男はアシェスは共謀者と言った。
だが侵入者に過ぎない賊が、わざわざそんなことを言う理由が見当たらない。
少し冷静になって考えればすぐに分かることだ。
アシェス・ウィントンは、あの男にとって厄介な人物だったから、利用されたのではないだろうか?
まんまと王宮によって彼は重罪人として捕らえられたのだから。
ただアシェスを知る人物ではないと、今回の騒動は理由がなくなる。
彼はもはや檻の中。賊の男が来るまで猶予はないような予感が脳裏を走る。
国王もスフィア姫のことで些か冷静さを失っているのだ。
自分には発言する権威はないが、国王にもう一度話をしなくてはいけない。
スフィア姫を護りたいならば、クズグズと思考を凝らしている時間はない。
ディオはきびすを返し、謁見の間へと再び向かった。
スフィアは王室の地下に居た。いざというときの隠し部屋と言える存在の場。
窓もなく陽の光さえ届かない隔離された場所。
別館に居た頃よりも虚しくそして寂しさに怯えていた。
蝋燭に灯された僅かな光だけが自分を照らす。
音もなく会話をする相手もなく、薄暗い空気だけが自分を取り巻く。
昨夜の騒動。
父は何も心配ないと言ってはいた。けれど自分に関係することだったということは分かった。
普段は厳しく会話すら交わす暇もないが、優しくなるときはいつだって嘘をついている。
その嘘の全ては自分に関係したことばかりだということも知っているのだ。
だからこうして自分はこんなところに居るのだから。
一体自分は何者なのだろうか?何年も考えてきた議題。
思考を終えたとき、いつも答えは出なかった。当たり前のことなのだが、いつも虚しい衝動に駆られる。
部屋の片隅で膝を抱え、永遠にこのままなのではないかという思いに捉われて止まない。
二人の姉。
会わなくなってどのくらい経つのだろうか?
きっともう自分のことすら忘れられているのかもしれない。
自分と違って二人は立派だった。振る舞いに気品、どれもが王女としての資格を持つ。
将来この国を背負うために、他国へと留学に出ているらしい。
こんな役にも立たない自分とは大違いの存在だった。
二人とも自分には優しくはなかったけれど、私は好きだった。
暗いところに居ると思考まで湿ってきてしまうのか、どうしてもそれを止められない。
苦しさと寂しさ、いつしか抑えられない感情が涙となって頬を伝って流れていった。
「アシェス…」
自然とそんな言葉が出た。
出会ったばかりの人間だというのにとても印象的だったのを思い出す。
自分の存在や扱いは何も変わらなかった。
不器用で乱暴な口調だったがどこか優しさが感じられた。
彼は今、
何をしているのだろう。
「…私は…どうしたらいいの?」
懇願に似た言葉は誰からも返される事無く、空気中に虚しく無散した。




