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名前にピンと感じたものがあったのか、アシェスは軽く手を叩く。


「ああ、あんたがか。スフィアからは解雇されたと聞いていたが、まさか幽閉されてたとはな。ここまでしていたとは、国王も相当親な馬鹿だろう…」


「やはり、スフィア様をご存じなのですか?」


「まあ…な。色々あってまずいことになってるみてぇだ」


「そんな…やはり私が余計な真似をした所為で…」


うっかりと口を滑らせてしまったことにアシェスは顔をしかめた。

どんな人間かぐらいは事前に知っていたはずだった。

余計な心配など与える必要はなかったというのに。


「心配すんな、まだ大事にはなっていない。あいつのことを狙う侵入者があったらしいが、撃退しあいつも無事だ」


ジェシカはその言葉で多少落ち着きは取り戻した感があった。

安堵のため息が壁越しに漏れる。


「でも…やはり私が元凶なのでしょう。善かれと思ってやったのですが、それが引き金となったのは間違いないでしょうし」


「そんな自分を責めるなよ。あいつだってあんたがしてくれた行為には喜んでいたはずだ」


「そう…ですか。ありがとうございます」


消え入りそうな声でジェシカそう言った。

優しい人間というのは事前に知っていたが、この手の人間はアシェスにとって扱いづらくてしょうがないもの。

何年と王宮勤めをしていた使用人。

言葉遣いや振る舞いなど丁寧なのは当たり前だが仕方が、不意にディオという人間が脳裏に浮かぶ。


「しかし、スフィア様のことを知る貴方が、なぜこんなところに…。まさか私と同じように…」


「さっきも聞いたんだろう?俺は重罪人だとよ。スフィアの存在を賊に売った…ってな」


「そんな…ひどい…」


皮肉混じりに言ったつもりなのだが、やはり本気と捉えたジェシカ。

会話のもどかしさにアシェスは思わず頭を掻き毟った。


「ああ、言っとくけどな、俺はンなことしてねぇから!誰かが俺をハメようとしてやがるんだ」


「どういう…ことでしょう?」


「それが分かんねぇから悩んでるんだよ!」


「すっ…すみませんっ!」


怒鳴ったつもりではなかったが、ジェシカは思わず謝っていた。

顔は見えないけども、きっと泣きそうな表情をしているのだろう。

幸せの逃げそうなため息がまた一つ、彼から漏れた。


「はぁ…怒ったんじゃねぇから、頼むから謝らないでくれ」


「すみません…でもスフィア様のことが心配で心配で…」


「どうやら俺という存在が邪魔な奴がいるみてぇだ。そんな俺がまんまと捕まったと知れば、近々またスフィアをさらいに来るだろうよ」


ジェシカが何かを言い掛ける前にアシェスは言葉を続けた。


「だが、あいつが危険に遭いそうになったら俺が出ていくさ。それが国王との契約だからな」


アシェスの言葉に違和感を持ったのか、ジェシカは言葉をすぐには返さなかった。


「ここから…ですか?どうやって…」


「さあな、ま…どうとでもなるさ」


アシェスは鉄格子と壁を交互に見ながら、そんな独り言のような呟きを放った。

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