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アシェスの態度に腹を立てたのか、男の口調が変わる。
「低能で野蛮な剣士でも、裏世界では怖れられてたんだってな。…だが落ちぶれたもんだな。ケケケ、いいザマだぜ」
自分が魔導師だからか、嫌味を惜しげもなく言い放つ。
それとも挑発のつもりなのか。檻の外からでは何を言ったところで安心という気持ちもあるのだろう。
男は遠慮なしに悪態をつきまくる。
無視を貫いていたアシェスだったが、やがてその口が開いた。
「てめぇは見張りなんて役回りで暇なんだろうがな。うるせぇから黙れ、そして俺の視界から消えろ」
手を頭の後ろに組み、床に寝そべる。
挑発を挑発で返すように一度だけ口元に笑みを浮かべながら。
端から魔力を持たない人間を凡人扱いする魔導師など、まともに相手にはしていられないのだが、喧しいことには我慢がならなかったらしい。
「フン…食えねぇ野郎だ。まあ一生ここからは出られないんだ、精々今の状況を楽しむこった」
最後まで悪態を吐いて男は去った。持ち場に戻ったのだろう。
共鳴するように鳴り響いていた足音はやがて聞こえなくなった。
(一生…ね)
くだらないとアシェスは一人笑った。
「あの…」
「あん?」
静けさの戻った牢獄内でどこからか女性の声が聞こえてきた。
あまりにも不意をつかれたため、アシェスは驚いたように飛び起きた。
「誰だ?」
「…申し訳ありません。私はあなたの隣の牢に居る者です」
ここは牢屋。他に犯罪者が収容されていたところで何らおかしくはなかった。
だが遠慮がちにながらもその丁寧な口調は、犯罪者らしからぬもの。
「何の用だ?」
「すみません、先程の会話が聞こえてしまったもので…」
「ああ、何だかよくわからんが俺は重罪人らしい」
寝起きの状態から即連行。思い出すだけで笑いが込み上げてくる。
アシェスは横になっていた体を起こしあぐらをかいた。
「第三の姫…と言ってましたが、あなたはスフィア様のことをご存じなのでしょうか?何かよからぬことが起こってしまったみたいな…」
「え…」
思わぬ人物の名前に驚きを隠せない。
彼女という存在をまるで詳しく知っているかのような口ぶり。
「あんた…何モンだ?」
「私はジェシカと言います。訳あって今はここに幽閉という形でいますが…」




